タベモノビッグバン
駅長に再転生したこんしまちゃんに、帽子姿のナビゲーターが挑発的な声を浴びせる。
「タベモノビッグバンとは、この世界に本来存在しなかった『タベモノ』を爆発的に拡散させる計画のことです。かつて訪れた銀色の立方体の星ではだ円形の小麦色のパンをみんなが食べるようになったわけですが……そのタベモノをこの世界の全宇宙に飛ばそうとしているヤツがいるんですわー」
「で、出任せじゃないの……?」
逃げられなくなったナビゲーターによる苦しまぎれの策ではないかとこんしまちゃんは疑ったのだ。
でも帽子はクラウン部分を上下させてこんしまちゃんの頭頂部をツンツンした。
「本当は伏せておくつもりだったんですけどね、このままではこのシマッタステーションにとどめ置かれること間違いなしだから仕方なく明かしたんです。ワタシもこんしまポイントを1消費して、いろんな世界の様子を見ていたんですよ。そのなかで偶然『タベモノビッグバン計画』を知るに至ったわけでして。基本的にあの星のみなさんは、ほかの星に対してタベモノを隠す方針なんですけれど……なかにはタベモノという素晴らしいものを全宇宙に広めたいとたくらむ善意の人間もいましてね~。なんとタベモノを複数のポッドに詰め込んで、それぞれをミサイルみたいに別の星々に撃ち込むという計画のようです」
「チマッタ……そんな……!」
もしナビゲーターが本当のことを言っているとしたら、ほうっておけるわけがない。
そのとき紺色の制服を着た部下の駅員さんがシマッタステーションに顔を見せたので、こんしまちゃんはその人にあとを任せて自分は電車に乗り込んだ。
もちろん帽子姿のナビゲーターも一緒である。
せっかくつかまえることができたのに、目を離した隙に逃がしたら目も当てられない。
* *
この世界の電車は星と星をつないでおり、しかも無料で利用できる。
そしてこんしまちゃんに、再就職した駅長の魂が語りかけてくる。銀色の星へのルートはすでに知っていると。
現在こんしまちゃんは帽子をひざに載せ、長椅子のはしっこに座っている。
車外の宇宙では、風がビュウビュウ吹いているようだ。
最終電車に乗せて1人の少女を銀色の星まで送り届けた記憶がよみがえる。
でも今のところ、タベモノという概念を獲得したあの星と別の星との交流は絶たれているはずだ。
目的の星に近づくことはできても、電車だけでは途中で限界が来る。
どうすればいいかは分からないけど、なぜタベモノビッグバンを自分はとめようとしているのか――これについて、こんしまちゃんはまとめておくことにした。
阻止すべき理由の1つは、この世界が混乱する可能性があるからだ。
今までタベモノが存在していなかったのに、いきなりタベモノという概念が侵入してきたら、みんな戸惑ってしまうだろう。
さらに阻止したい理由のもう1つは、銀色の星で受け入れられているタベモノがほかの星では有毒かもしれないからである。
こんしまちゃんは最初に駅長として転生したとき、不用意にタベモノを口にして死んでしまった。
あのときの駅長もこの世界の住人だったけれど、その体はタベモノを受け付けなかった。
つまり銀色の星に住まう人々にとっては素晴らしいものでも、別の星の人々にとってはヤバいものかもしれないのだ。
また、この世界がほかの異世界と合体してしまった時点でタベモノが拡散していれば、異世界の人々が知らずにそれを食べて死ぬ可能性がある。
「あ、しまった……!」
「はいシマッタいただきましたー」
喜ぶ帽子にハッとして、こんしまちゃんが口元を押さえる。
タベモノビッグバンの危険性についてシマッタ王に報告してからシマッタステーションを出ればよかったとこんしまちゃんはたった今思い至った。ゆえに口癖がぽろりと出てしまったのである。
ナビゲーターとの久しぶりの2人旅だというのに、気が休まらない。
でもまだリカバリーはできるはずだ。
新しい星のステーションに停車したところでこんしまちゃんは、そこにいる駅長にタベモノビッグバンについて説明した。
この世界における駅長の立ち位置がどういうものか実はよく分かっていないこんしまちゃんだけど、ここはほかの駅長に頼るのが正解だともとの体と魂が言っているのだ。
シマッタ王やほかの星のえらい人たちへの伝言を頼むと、相手の駅長は快く了承してくれた。
「駅長1人では無理ですが、みんなで力を合わせれば対処することはできるはずです」
「ありがとうございます……」
こんしまちゃんは帽子を外した状態で深く礼をした。
「しかしどうして信じてくれるんですか……」
「信じたわけではありません。あなたの言っていることが絶対に起こるとも思っていません。でも可能性としては充分に考えられることです。そのタベモノとかいうのを見たことはありませんが、未知の危険物をポッドで送りつける人たちが存在しているのは事実です。必要であれば撃ち落とすことになるでしょう」
「そうですか……でもわたしのほうでも、なんとかタベモノの打ち上げを阻止したいと思います」
「なにかお考えが? 現在その銀色の星に向かう電車はありませんよ」
「いえ、今になって気づきましたが1つだけ直行便があるはずです……」
* *
「ポッドを購入できるお店はこの星にありますか……? つまり宇宙を移動できる小型艇みたいなものがほしいんです……」
こんしまちゃんは目的の星にもっとも近いステーションで下車し、ポッドを売っている店を探した。
確か銀色の星に送り届けた例の少女もその母親も「脱出ポッド」について言及していたはずだ。
きっとこの世界ではポッドによる移動はそんなにめずらしいことじゃないのだ。
聞き込みをして、ようやく店を見つけた。
それは大きなたまごのかたちをした建物だった。
しかし店主は「売れない」と言う。
「確かに駅長であるアンタなら問題なく操作できるんだろうが、けっこう高いんだよ、ポッドって……」
そりゃそうだ……個人の小型艇をだれでも買えるのであれば星と星をつなぐ無料の電車なんて必要ない。シマッタ王のいる星で住民たちが無理にその星に居ついたまま基本的しまった権をめぐる争いをくり広げていた意味も薄くなる。
とはいえ、ここでグズグズしているひまもない。手段を選んでいる場合じゃない。
「ではシマッタ王に代金を請求してもらえませんか……?」
言いつつ、罪悪感で胸がちくちく痛んだ。
しかし店主はかぶりを振る。
「いやシマッタ王は知ってるが、あの王もそこまで金持ちじゃないだろう」
「しまったあ……っ」
そういえば前にこんしまちゃんが再就職を望んだとき、シマッタ王は「そんなに予算があるわけじゃない」と言っていた。
一方、帽子が愉快に笑う。
「ありゃりゃ~。これは万策尽きましたね~」
「まずい……」
「おや? アンタその帽子はなんなんだ。しゃべっているのか」
店主が興味深そうに駅長帽子を見つめる。
こんしまちゃんが両手で帽子を持って答える。
「はい……特別な帽子なんです……」
「ふーん」
のどを鳴らし、店主がニヤリとする。
「それをくれるんなら、ポッドをあげてもいいよ。物々交換だな」
「え……っ」
普通なら駅長の帽子をだれかにあげるのはダメだろう。
ナビゲーターを手放すのも、あまりよろしくない。
けれどタベモノビッグバンをとめるには、これ以外にない。
「分かりました……お譲りします」
これで再失職したかもしれないけれど、もとの魂が拒絶しているようにも感じられない。
* *
円筒形のポッドに乗り込み、こんしまちゃんは内部から操作する。
この体の持ち主にはポッドを操作した経験があるようで、今のところスムーズに航行できている。
風がビュウビュウ吹き荒れる宇宙を飛んで銀色の立方体の星を目指す。
じきに目的の星が見えてきた。
(えっと……そういえば星の玄関口は塔だったっけ)
そのてっぺんにポッドを着陸させる。
降りたところ、見覚えのある黒のトレンチコートを着た少女と目が合った。
まわりには小型ポッドが複数設置されている。
それぞれのポッドの窓から、小麦色のタベモノがのぞいている。
こんしまちゃんは少女に話しかけた。あくまで初対面というかたちで。
「すみません。なにをしているんですか……」
「もうかぎつけられたんですね」
少女はとくに慌てることもなく、こんしまちゃんに向きなおる。
「なにを隠そう、あたしはタベモノビッグバンを起こそうとしてるんです」
「どうして……?」
「……それは」
ここで、こんしまちゃんの紺色の制服をじっと見た。
「帽子はないようですが、あなたも駅長さんですか」
「はい……」
「だったら知っています?」
タベモノを蓄えたポッドの窓をそっとなでる。
「――この星で、とても親切な駅長さんが死んでしまったことを」
* *
☆今週のしまったポイント:2ポイント(合計28ポイント)
次回「おいしいとしか思えない」に続く!?




