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巷のチマッタ

 つよつよ主人公になったこんしまちゃんの今回の役目は「世界を守る」という単純明快なものであったようで、勇者(ゆうしゃ)魔王(まおう)をぶっ飛ばしてその役目を果たしたこんしまちゃんの体が例のごとく(あわ)い光につつまれる。


 その前にこんしまちゃんは今週のしまったポイントを5消費して次の転生先(てんせいさき)を指定した。

 直後、かぶりを()る。


「しまった……これだけじゃダメ……あの世界はとっても広いからピンポイントで目当ての場所に転生(てんせい)するには――」


 追加で5ポイントを支払(しはら)い、次に転生する個体の特徴(とくちょう)も指定した。


 大きな火の玉3個と小さな火の玉6個が目の前に現れ、大きな玉1つが消滅(しょうめつ)する。

 こんしまちゃんは破壊(はかい)された玉座の()にて、アルベスと(やみ)のマンガ家に視線をやった。


「ちょっとシマッタさまのいる世界に()ってきます……」


「許す。()くがいい」

町娘(まちむすめ)さんを……ナビゲーターを追うんですね。がんばってください」


 すでにこんしまちゃんが転生をくり返していることを本人から教えてもらっている2人は、(こころよ)く見送ろうとしている。


 ここで玉座の間に、新たな人影(ひとかげ)が現れた。

 黒い(つばさ)としっぽ、ツノが生えている。


 魔王城の門番である。

 前にこんしまちゃんが門番に転生したとき、本体は勇者魔王にやられたけれど、分身(ぶんしん)はちゃんと生き残っていた。


 今回こんしまちゃんやアルベスがあっさり魔王城に(はい)れたのは、門番がみずから門をひらいたからでもある。

 玉座の間をうめつくす100以上の球状の墓石(はかいし)を見回したのち、こんしまちゃんたちに礼をする。


「ありがとうございます。勇者魔王とコウモリを(たお)してくれて」

「門番さん……」


 淡い光のなか、こんしまちゃんは申し訳なさそうな顔をした。


「だけどわたしはあなたに(あやま)りたいです……以前わたしは門番さんとして転生しましたが……そのとき(かる)はずみな行動で本体のいのちを犠牲(ぎせい)にしてしまいました……ごめんなさい」

「いいんですよ」


 こんしまちゃんの転生について門番は(くわ)しく知らないけれど、自分の身に起こったことはなんとなく察しているらしい。


「そもそもわたしは、みんなにマイナスレベルを強要する勇者魔王の在り方に疑問を覚えていました。マイナスレベルを追求するあまり、みんなの心はすさんでいく一方(いっぽう)でした。先代魔王が倒れた直後の勇者魔王は立派にその職責を果たそうとしていました。しかしコウモリにそそのかされてからすべてが(くる)い始めてしまったのです。思い出してみれば先代魔王がやられるときもそのコウモリがそばにいた記憶(きおく)があります……」

「……門番さん……勇者魔王はぶっ飛ばしましたが、(かれ)はまだ生きています。コウモリさんも別の世界に転生しました。まだまだ、終わっていません……」


 それだけを言い残し、こんしまちゃんは転生する。


* *


 こんしまちゃんは南極ステーションの駅長に再転生した。


 格好は紺色(こんいろ)の制服だ。

 ただし以前とは(こと)なり、駅長の帽子(ぼうし)がしゃべることはなかった。


 ガシャンゴションという(おと)を立てながら、駅のホームに1両編成の電車がやってくる。

 風がビュウビュウ()いている空間を雄々(おお)しく飛んで、こんしまちゃんの目の前にとまる。


 (とびら)がひらき、なかから乗客が数人(すうにん)出てきた。

 乗客たちが駅長のこんしまちゃんに質問する。


「駅長さん。このステーションの名前はなんですか」

「シマッ……」

「しま?」

「しばらくお待ちください……」


 以前(はじ)めてこの駅にやってきた男の子とのやりとりを思い出すこんしまちゃん。

 あのときこんしまちゃんは駅を「シマッタステーション」と命名した。


 でもナビゲーターが近くにいるかもしれない以上、そのまま答えていいものか……。


 こんしまちゃんにしてやられたあとナビゲーターはこんしまポイントの補給のために、シマッタ王の()べるこの()に来たはずだ。


 基本的しまった権が保障されている地域なので、「しまった」のおこぼれにあずかりやすいのだ。

 とはいえ現在のこんしまちゃんはナビゲーターの暴走を防がなければならないので、なるべく「しまった」を(あた)えたくないと思っている。


 そこでこんしまちゃんは、ある決断を(くだ)した。

 彼女(かのじょ)の決断とは……今だけこん()まちゃんになることであった。


「このステーションの名前は――()マッタステーションです……!」

「ちまった? どういう意味ですか」


「とある言葉の言い()えです……本来の呼び方はちょっと(ちが)うんですが、今は緊急事態なので『チマッタ』と言う必要があるんです」

「へえ~、そういえばこの星には独特のあいさつがあるって聞いたけど、それもまさか……」


「はい、一時的(いちじてき)なものですがここしばらくは『ちまった』こそがあいさつになると思ってください……そして、みなさんには……『あの言葉』じゃなくて『ちまった』を積極的に使わなきゃなんかヤバいかもしれないってウワサを広めてもらいたいんです。ちまった……」

「ちまったあ!」


 お客さんたちは元気にあいさつを返してホームを去った。

 以降も電車が来るたびに、こんしまちゃんは「ちまった」とあいさつし……同じお願いをくり返した。


(よし……これでナビゲーターさんの「しまった」にふれる機会を少しでも減らせれば……!)


 ところが50人以上のお客さんにお願いしたところで、こんしまちゃんはビックリした。

 かぶっている帽子のクラウン部分がぷく~っと(ふく)らんだからだ。


「ああッ! もう我慢(がまん)なりません! (たの)むからワタシに『しまった』を!」

「ナビゲーターさん……やっぱりそこにいたんだね……」


 帽子を両手でかかえ、胸の前に持ってくるこんしまちゃん。


「あなたは転生の際に5ポイントしか消費しなかった……転生先の世界を指定しても、転生する個体の特徴の指定まではしなかったということ……だから不本意でも……わたしの近くに転生している可能性も充分(じゅうぶん)にあると思ってたよ」

「お、おのれえ~。ここならたくさんの『しまった』にありつけると思ったのに……なんてことをしてくれたんですかこんしまちゃんッ! 『しまった』と『ちまった』じゃ全然(ぜんぜん)味が違うんですよ!」


「ナビゲーターさんの思いどおりにはさせない……この星の南半球のみんなも最近までは『しまっ』……『ちまった』となかなか言えなかったわけだからね……すぐにこの状況(じょうきょう)に対応してくれるはず」

「しかし南半球のステーションが1個しかなく、こんしまちゃん駅長の影響力(えいきょうりょく)もなかなか強いとはいえ……あなた1人が奮闘(ふんとう)したところでみんなの『しまった』を(ふう)じることはできませんよ!」

「し、し……しま」


 こんしまちゃんが鼻をムズムズさせる。

 駅長帽子はクラウン部分を左右に()った。


「そうです! くしゃみのように出しなさいっ」

「ちまったー……」

「別のが出てるじゃないですか!」

「なんにせよ……あなたはもう『ちまった』を食べることができない……自分で(くち)に出すしかない……でも無理に出した『ちまった』は不良品同然……」

「く……っ、そうやって時間を(かせ)いでいるあいだに異世界間同盟(どうめい)盤石(ばんじゃく)にするつもりですね」


 ここでホームにアナウンスが流れる。


()マッタ王よりお知らせです。これよりしばらくのあいだ、わたしたちの住む南半球にも「ちまった箝口令(かんこうれい)」が()かれます。これはみなさんを守るためのものです。なんでも「ちまった」を集めて悪いことをしようとしているヤカラがいるみたいです。こんなときだからこそ、みなさんの「ちまった」への愛が問われています。「ちまった」を愛するからこそ、「ちまった」をけっして悪用させてはいけないのです! みなさまのご理解とご協力とちまったへの愛をお願い申し上げます』


()マッタさまにもすでにわたしは状況を伝えてる……ナビゲーターさんのことも教えてるよ。だからチマッタさまはわたしの動きをつかんだ瞬間(しゅんかん)に事態を察知し……適切な対処(たいしょ)をしてくださると思ってた……」

「よりによって『しまった箝口令』を発動するとは……っ」


 帽子がシュンとしおれる。


「どうしてっ。シマッタ王たちは闘争(とうそう)(すえ)にせっかく『基本的しまった権』を手に()れたというのに」

「基本的ちまった権は、いたずらに『ちまった』を乱発する権利じゃない……きちんとした節度をもって『ちまった』と付き合っていくことなんだと思う……」


 しまったと言う権利が保障されるのは、その言葉を適切に使う義務を果たしているからだ。

 それに気づいたのか、帽子姿のナビゲーターがハッとした。


「シマッタ……ワタシはみんなのことをあなどっていたんですね」

「そうだよ、あ……言わせちゃった」

「こうなったら『しまった』の自給自足に(つと)めるしかありませんか」

「でも『ちまった自給率』を100パーセントにすることはできないよ……」

「……むむっ」


 しばらくにらみ合ってから、帽子が小さくジャンプした。

 落ちそうになったそれを(あわ)ててつかんだこんしまちゃん。


 ……だったけれど、すかさず言葉の追撃(ついげき)()びせられる。


「食料自給率を思わせるその言葉で思い出しましたが……こんしまちゃん、こんなところでノンビリ駅長やってていいんですかー」

「どういうこと……?」

「親切心で教えてあげますけどねえ、もうすぐ起こりますよ。タベモノビッグバンが!」


* *


☆今週のしまったポイント:-9ポイント(合計26ポイント)

次回「タベモノビッグバン」に続く!?

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