計画的に迎え撃つ
今週のしまったポイントを消費してナビゲーターが合体させたのは、勇者魔王の世界と背中にコブのある世界だった。
背中にコブのある世界は、闇のマンガ家のいた世界とすでに合体している。
今回、新しい世界を加えて都合3つの異世界が融合することになったわけだ。
そのままナビゲーターと勇者魔王は軍勢を侵攻させ、その世界を掌握するつもりだった。
悠長に異世界間同盟を結んでナビゲーターに対抗しようとしているこんしまちゃんたちがいかに愚かであるのか、分からせるためにも……。
でも難なく成功すると思われていた制圧作戦は失敗した。
いったいなにが起こっているのか?
うわごとをくり返し、取り乱す勇者魔王。
状況を確かめようとナビゲーターが玉座の間から出ようとしたとき、大きな音を立てて部屋の扉が崩れ落ちた。
銀色の十字の墓石帽子をかぶり、破れた灰色の布をまとったこんしまちゃんが右のはだしで扉を蹴り飛ばしたのだ。
コウモリのぬいぐるみでできた全身を震わせ、ナビゲーターが窓のそばで停止する。
「あなたは、こんしまちゃん……っ! また、この世界に転生した――というわけでもなさそうですね」
こんしまちゃんのいただく墓石を見つめ、ナビゲーターが顔をゆがめた。
「今のあなたは墓かぶりの世界のつよつよ主人公。でも勇者魔王さまの世界にも背中にコブのある世界にも闇のマンガ家の世界にも、墓をかぶったつよつよ主人公は存在しません。つまり、あなたは転生したのではなく――」
「そう、世界ごとやってきた……」
壊れた扉の残骸をまたいで、こんしまちゃんが玉座に近づく。
「こちらが異世界間同盟の情報を漏らせばそれに対応するためにあなたが世界の合体を急ぐのは分かっていたよ……。そして次の合体先に選ぶのは……ほかの異世界に比べて戦力の低い、背中にコブのある世界。同盟を進めさせないためにも勇者魔王の世界と合体させていち早く制圧し、自分たちの戦力強化を図るねらいだったんだよね……?」
「読みきられたというわけですか。というか、こんしまちゃん……」
ナビゲーターが翼をばたつかせながら続ける。
「あなたは進んでこんしまポイントを10消費し、墓かぶりの世界とこの世界を合体させましたね? キャラ崩壊はやめてくださいよー、萎えるなー。もとの世界に再転生する方法をワタシが教えてあげたとき、こんしまちゃんは『世界を合体させない』って明言してたじゃないですか。それぞれの世界に住む人の生活をめちゃくちゃにしたくないんでしょ? 部外者のあなたが世界の根幹を揺るがしちゃダメなんでしょ? にもかかわらずアルベスにそそのかされるまま世界合体をやっちゃうなんてブレッブレですね。あのときの気持ちはどこに行ったんですか~」
「もちろん世界合体はやらないつもりだったよ……。でもわたしがやらなくてもナビゲーターさんが合体させるわけだよね……? 責任を負うのが嫌だからといってわたしが逃げてばかりじゃ、遅かれ早かれ結局あなたは世界をすべて合体させて消滅させる……だからあなたの計画を阻止するためにも、あなたの嫌がるかたちで世界合体をおこなう必要があったの」
「合体させられた側は迷惑でしょうよ。ワタシのほうは最初から迷惑かけるつもりだから問題ないですけど」
「安心して……すでに許可はとっているよ」
こんしまちゃんが後ろを見ると、扉の残骸の向こうから2人が姿を現した。
1人はハチマキを巻いた闇のマンガ家である。
「話はすべて聞かせてもらいました。って、1回言ってみたかったんですよねー」
どうやら闇のマンガ家は玉座の間の手前に待機し、こんしまちゃんとナビゲーターの会話に耳をかたむけていたらしい。
「アルベスさまに世界合体の許可を求められたとき、私は連絡したんです。コブのある世界のなかでもっとも偉い人にね。それで、『いいよ』って返事をもらいました」
「軽すぎませんか!」
「いやいや、その人は私のマンガの大ファンなんです。作者の私の言うことくらい聞いてくれますよ」
ついこのあいだ闇のマンガ家はコブの世界に来たはずなのに、そのレベルのファンがすでにいるとは驚きである。
偉い人もノリが軽いような気がするけれど、ゆるっゆるの裁判を見ていたこんしまちゃんは「これがあの世界の常識なのかも」と勝手に納得していた。
「そんなことより、こんしまちゃんが教えてくれましたよ。コウモリの格好をしたあなたこそが、私のマンガに入ってくれた町娘さんなんですよね。よければ、また入りません?」
「……そんなことをしているヒマはないんですわあっ!」
ナビゲーターのさけびと共に、窓から魔王軍が入ってきた。
先ほど翼をばたつかせたときに呼んだのだろう。
翼やツノを持つ者が次から次へと姿を見せ、いつの間にかその数は百を超した。彼らにナビゲーターが指示を出す。
「やってしまいなさい!」
「――王を前にして恐れ知らずな者どもだな」
闇のマンガ家と共に姿を現したもう1人が鼻で笑った。
墓かぶりの王・アルベスである。
直方体の立派な墓石をかぶったアルベスが両手をパーにしてそれらをゆかに向かって振り下ろすと、どこからともなく球体状の墓石の雨が降ってきて100以上の敵を一瞬で押しつぶした。
「グレイブ・ハットでもグレイブ・キャップでもない新たな墓石の帽子を贈呈してやった」
「アルベスッ!」
ナビゲーターが空中でじだんだを踏む。
「敵とはいえ容赦なくつぶすとは、あなた本当に人の上に立つ王ですかッ」
「もちろんあとでよみがえらせるさ。オレにはそれができるからな、ははははッ!」
「コブのある世界に攻撃を仕掛けた魔王軍は、ことごとくお墓の下にうまっているよ……」
墓石のあいだを縫い、ナビゲーターと勇者魔王にさらに近づくこんしまちゃん。
「首都を攻めた精鋭部隊もわたしが1人で返り討ちにした……しかもアルベスさまの力によって、墓かぶりになったみんなはいつでも復活できる……」
「ま、待ったこんしまちゃん。いくらあなたがつよつよ主人公だからって、マイナスレベル1000万の勇者魔王さまに勝てるとでも……っ?」
「前に墓かぶりの世界に転生したとき、ナビゲーターさん言ってたよね……? みんなを力で屈服させて王として君臨するという手もあったって……。アルベスさまたちがいるからわたしは王にはならないけれど……みんなを傷つけようとするあなたたちをとめるためなら、強キャラ主人公という立場を生かさない理由はないよ……」
「なにをっ! こっちは最強の杖とマントを持った最強魔王ですよっ!」
「でもわたしが最初に転生した魔王よりは弱いよね……? そして、今のつよつよ主人公に転生したわたしはどのくらいのレベルなの……?」
「しょせん100万ですっ!」
「なら確かめてみる……」
こんしまちゃんは力強く踏み込み、玉座の勇者魔王の懐に飛び込んだ。
勇者魔王はハッとして応戦する。
「食らうがいいッ、魔王アタック!」
どこか懐かしいセリフ。彼のネーミングセンスは成長していないようだ。
杖が斜めに振り上げられたものの、こんしまちゃんは少し身を揺らしてよけた。
体勢を崩さずにカウンターを撃ち込む。
十字のグレイブ・キャップをツノのようにぶん回したのち、正面からこんしまちゃんは勇者魔王に突きを入れた。
刹那、玉座も後ろの壁も音を立てて崩れ去った。
墓に突かれた勇者魔王は目を見ひらいたまま空の向こうに飛んでいき、小さくなって消えた。
「しまった……飛ばしちゃった」
とはいえ勇者魔王のレベルは1000万だし、最強の防御力を誇るマントを身につけているので絶命してはいないだろう。
ガタガタ震えているナビゲーターに視線を移すこんしまちゃん。
「どうやらつよつよ主人公のレベルは1000万を優に超えていたみたいだね……」
「他人の力でイキるなんてダサいですよ、こんしまちゃん……っ」
「そのとおりだよ……でもこれは転移でも憑依でもない……。ほかならないこの人として転生しているからこそ、もともとの魂と一緒に『この世界を守りたい』ってさけぶことができるんだ……」
「ぐ……ッ! こんしまポイントのおこぼれにあずかるのに最適な人間かと思いきや、ワタシの思いどおりには動きませんかシマッタ」
「……今のであなたのポイントはどのくらいになったの? さっきわたしがうっかり口走ったぶんと合わせて10に届いた……? だけどわたしは、今からあなたを取り押さえるよ……たとえ世界を合体させたとしてもナビゲーターさんは逃げられない」
「やむを得ませんね……っ!」
ナビゲーターがコウモリの身をひるがえしてこんしまちゃんに突進してくる。
それからこんしまちゃんのかぶる十字の墓石に激突したのち、煙となって消えた。
その際、紫の小さな火の玉5つが煙のなかに出現し、同時に消滅した。
瞬間、こんしまちゃんはナビゲーターを逃がしてしまったことに気づいた。
「しまった……! 自分から転生するなんて」
しかもナビゲーターはこんしまポイントを5消費して次の転生先を指定した可能性が高い。
(次に逃げるとしたらどこ……? いや、転生しなくてもナビゲーターさんは姿を変えながら違う世界を行き来できるはず……。じゃないとずっとわたしの転生先にナビゲーターとして現れていたことに説明がつかない……だから闇雲に追ってもダメ……。とにかく今のナビゲーターさんはこんしまポイントを回復させたいって思ってるだろうから……これから向かうとしたら、あそこしかない……!)
* *
☆今週のしまったポイント:-8ポイント(合計35ポイント)
次回「巷のチマッタ」に続く!?




