主導権を渡すな
勇者魔王に倒されたこんしまちゃんは、その世界での役目を終えることなく転生した。
世界をまとめて消滅させようとしているナビゲーター……。
そんな存在と手を組んだ勇者魔王の世界は、実質、敵対勢力になったに等しい。
ナビゲーターの野望を阻止するためには、新たな一手が必要になるだろう。
* *
「――どうした、女。オレの前でボーッとするとは不遜だな」
色あせた紫の大地にて、イスに座った墓かぶりの王がこんしまちゃんを見つめていた。
こんしまちゃんは前と同じ、つよつよ主人公として王の前に立っている。
もう頭にツノはなく、代わりに十字の墓石が載っている。
胸に杖が刺さっていないことを確認し、とりあえず深呼吸。
気を落ち着かせて、ぺこりと王に頭を下げた。
「しまった……これは失礼を、アルベス・ウォーグレイブさま……」
「ふん。そっちの人格か」
人払いを済ませ、アルベスが声のボリュームを下げる。
「なにか悩みがあるなら打ち明けるがいい」
「さすが偉大なアルベスさま」
さまざまな世界が巻き込まれている今、こんしまちゃんだけで問題をかかえ込んでいてもお話にならない。だから素直に話す。
「では申し上げます……実はわたし、途方に暮れていたんです……」
「例の、世界の危機に関することか」
「はい……アルベスさまが統べるこの世界以外にも異世界があるとすでに伝えましたが……その世界の1つ……勇者魔王の世界がナビゲーターさんの野望に加担してしまったのです……しかも勇者魔王はとっても強くなっていました」
「だから、どうしたんだ?」
アルベスは紫の髪の毛をかき上げ、鼻で笑った。
「勇者魔王とやらがどれだけ強かろうが、このオレには勝てねえさ」
「お言葉ですが、勇者魔王の力は相当なものです……」
「キサマの頭はハリボテか?」
言いつつ、自身のかぶった墓をたたく。
「戦いとは、単純なパワー比べではない。いや、ある意味では単純なパワー比べかもしれんがな」
「なにか考えがあるんですか……」
「異世界同盟を結ぶ」
どうやらアルベスは、ほかの世界のみんなと力を合わせて勇者魔王やナビゲーターに対抗する気のようだ。
「女。キサマには各世界を移動する以外にも力があるんじゃないか」
「……そのとおりです」
「オレが使ってやる。教えろ」
「別の世界の様子を見ること……次に移動する世界の指定……次に転生する個体の特徴の指定……世界の合体……世界の消滅……以上です」
「キサマにもナビゲーターと同じ権限があるわけだな。倫理の狂ったキサマらしく、世界消滅を望んだりしないのか」
「それだけは絶対に望みません……っ」
「ならば信用してやる。ひとまず各世界の様子をすべて見せろ」
アルベスの言葉に従い、こんしまちゃんが念じる。
大きな火の玉10個と小さな火の玉6個が出現し、その小さな火の玉すべてが消えた。
すると足もとの地面がウユニ塩湖みたいになった。
こんしまちゃんとアルベスのあいだに横たわる地面に各世界の様子が映し出される。音も流れる。
画面は2かける3の6分割だ。
「勇者魔王がいるファンタジー世界、シマッタ王がいる星の世界、闇のマンガ家さんがいる背中にコブのある世界、面食いと臍帯者がいる宇宙ダムの世界、かみしゃまがいるバロメッツの世界、そして決まっただれかがいない鍾乳洞の世界……」
なお、画面の向きはアルベスに合わせているためこんしまちゃん視点では逆さまになっている。
「アルベスさまがいるこの世界は除外しています……また、前にアルベスさまと話したあと宇宙ダムの世界に転生したのですが、その世界はすでにナビゲーターさんによって面食いの世界と合体させられていました」
「ご苦労」
イスに座したまま、まずアルベスは鍾乳洞の世界に目をやった。
ナビゲーターがこんしまちゃんに本性を見せた因縁の世界でもあるけれど、この世界の画面には生き物らしき姿が映っていない。
次にアルベスが視線をそそいだのは勇者魔王。
現在ナビゲーターは勇者魔王のそばから離れているようだが、玉座にふんぞり返る彼をじっと見てアルベスは冷静に言葉を漏らした。
「くだんの人物はこいつか。なるほど、これは強いな」
アルベスは勇者魔王のレベルを正確に読み取ったらしい。
瞳に真剣な色を浮かべ、ほかの画面を見渡す。
「残り4つの世界もおもしろそうだ。今ここに映し出されているヤツらはそれなりに力を持っていると見える。なかでも……もっとも話の分かりそうなこのシマッタと会話がしたい」
「できるでしょうか……そうだ」
こんしまちゃんはさらに1ポイント消費し、この世界の画面を足もとに追加した。
画面には、アルベスとこんしまちゃんがくっきりと映っている。
「この画面をシマッタ王のもとに飛ばしましょう……」
実際のこんしまちゃんの口と画面の彼女の両方から同じ声が二重に聞こえる。
「アルベスさまは墓石に沈められたみんなをまとめて復活させることさえできる王です……だからこの画面をほうむることも可能なはずです……」
「確かにそれを殺すことも可能だ。その画面の頭上にさえ、オレにはお墓が見えている」
「そうしていただく直前に、この画面が次に転生する世界をわたしが指定します……この画面はわたしの今週のしまったポイントによって具現化したもの……いわばわたしの体の一部……だからわたしと同じようにほかの世界に転生する可能性を持っているはずです……」
宇宙使いの魔女に見せてもらったご先祖さまの記録をも思い出しながら考えを述べる。
「それに、ポイントの使い道として『次に転生する世界を既知の世界から指定する』という項目はありますが……この言葉に明確な主語はみとめられません……」
「ほう。であるからこそ、画面にキサマの力を行使することも可能かもしれんというわけか」
「今から、この世界を映す画面の転生先を指定してみますので……そのあとアルベスさまに画面をほうむっていただければと存じます」
こんしまちゃんは画面がシマッタ王の前に転生する光景を思い浮かべ、念じた。
大きな火の玉が1つ消滅した。
「しまった……同じ画面として転生させなきゃいけないから……特徴の指定も加わって合計10ポイント消費することになるんだ……」
「できたか。では葬送に移る」
髪の毛を1本抜くアルベス。
それは画面の上に飛び、ふくらんだ。
たちまち直方体の墓石をかたちづくり、地面の画面に落下する。
お墓につぶされたため、その画面は見えなくなった。
こんしまちゃんたちはシマッタ王に注目する。
すると、玉座の間にいるシマッタ王の足もとのゆかに、アルベスを映す画面が出現した。
画面そのものを転生させるというこんしまちゃんのもくろみは成功したらしい。
シマッタ王が慌てた声を出す。
『なんだ、これは……?』
「オレはアルベス・ウォーグレイブ。偉大なる墓かぶりの王だ」
アングルが調整され、画面越しに互いの目が合う。
警戒しながらも落ち着きを取り戻したシマッタ王は、戸惑う大臣たちを制止して応答する。
『わたしは第48代目ヤラカシター家当主シマッタ・ヤラカシターだ。何用か、アルベスどの』
「どの……ね。まあ初対面ということで不敬は許す」
足を組み、アルベスが胸を張る。
「キサマもすでに聞いているであろう、シマッタ。オレは異世界の王。世界消滅の危機を打破すべく、キサマと同盟を結びたい」
『率直だな。いきなり言われて首肯すると思っているのか』
シマッタ王が、逆向きに映るこんしまちゃんに目をやる。
『もしや……そこにいるのはこんしまちゃんか。大臣とも駅長帽子の娘とも違う姿だが……どうも雰囲気が似ている。あなたがアルベスどのに世界の現状を話したのだな』
「そうです、わたしはこんしまちゃんです……ご明察のとおり、アルベスさまにも情報は明かしています……異世界同士の通信にはちょっと工夫が必要でしたが」
『やはりか。ではアルベスどの……あなたが真に異世界の王だとして、わたしと同盟を結んでなにをするつもりなのだ。情報共有くらいしかわたしには思い付かない』
「キサマには許可をもらいたい」
『許可だと』
「オレのいる世界とキサマのいる世界を合体させる許可だ」
『なにを言っている』
こんしまちゃんも同じ気持ちだったけれど、今はシマッタ王の言葉を聞く。
『ナビゲーターとやらは世界を合体させたのちに、まとめて消滅させようとしているのだろう。こちらから合体させれば、敵の計画を手助けしてやっているのと同じではないか』
「慎重すぎれば後手に回る」
アルベスはひるまず自説を展開する。
「次にナビゲーターが世界を合体させるのはいつだ。分からないだろう。タイミングが不明なまま世界がいきなり合体したら、対応が遅れる。ゆえにこちらから進んで合体させたほうがいいとオレは思う。もちろんほかの世界も一気に合体させるという愚行は犯さない」
黙考を始めるシマッタ王に、言葉をかぶせる。
「敵に主導権を渡すな。オレたちは先手を打たねばならない。この世界合体には、異世界のことを信じていない大衆に、その存在を信じさせる役割もある。しかしオレも無許可でやるつもりはない。勝手に実行すれば、大衆の心が王から離れてしまうからな」
『……だがわたしは1個の星の半球の王にすぎない。世界のすべてを納得させる権力はない』
「ならキサマの世界でもっとも偉い者を紹介しろ。オレが説得する」
『いや、異界のあなたにそこまでやってもらうわけにはいかない。わたしがなんとかしようと思う。最高権力者と顔を合わせることは可能だからな』
「同盟の件はそれまで保留ってわけか。だが感謝する、シマッタ」
ここで画面が乱れ、薄くなってきた。ほかの5つの画面も同じである。
どうやらポイントの効力が切れかかっているらしい。
「またな」
『ああ、アルベスどの。こんしまちゃんのこともよろしく頼む』
画面が完全に途切れた。
アルベスは息をつき、ややうつむき気味のこんしまちゃんを見つめる。
「キサマは世界を合体させることに反対か」
「最初はそう思っていました……けれど、それだけじゃナビゲーターさんをとめられない……」
宇宙ダムの世界で魔女が言っていたことも想起する。
(けれど合体自体はそこまでネガティブなものでしょうか)
世界同士の合意があれば、その合体も許容されるものかもしれない。
「合体は絶対悪だと決めつけたままだと……ナビゲーターさんの行動を待つばかりになる……世界を合体させるという行為をナビゲーターさんだけに押し付けたら……タイミングが不明瞭なまま合体がおこなわれて……世界同士は混乱する。バロメッツとかみしゃまの世界が急に合体したときみたいに……。どのみち合体を防げないのなら、タイミングを事前に通知して納得を得たうえで合体させたほうがいいのかも……」
「凡愚ゆえに簡単には割り切れんか」
組んでいた足をほどき、アルベスが首を左右に倒す。
「まあキサマが悩むことはない。力があるのはキサマだが、命令するのはオレだ。責任は王たるオレにある。それを理解せず自分だけの問題として悩み苦しむのはオレへの冒涜だと思え」
「アルベスさま……」
「感激しているいとまはないぞ。コブ、宇宙ダム、バロメッツの3世界の画面をもう1度ひらけ。シマッタの次は、とくにかみしゃまと話してみたい」
自信たっぷりに命令してから、名前を呼ぶ。
「早くしろ、女。……いや、こんしまちゃん」
* *
☆今週のしまったポイント:-15ポイント(合計90ポイント)
次回「異世界間リモート会議……のついでに宣戦布告」に続く!?




