表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/40

マイナスレベルの絶対値

 こんしまちゃんは1度転生(てんせい)したことのある「ファンタジー世界」に再転生した。

 前は魔王(まおう)になって勇者(ゆうしゃ)(たお)されたけど、今回のこんしまちゃんは――。


 背中に(つばさ)を持っていた。

 しっぽもツノもある。それらの部位はいずれも黒い。


 現在、巨大(きょだい)な門の前に立っている。

 門の後ろには黒い西洋風のお城が()える。


(確か魔王を倒した勇者が新しい魔王になって世界を統治しているはず……)


 おそらく自分は魔王城の門番に転生したのだ。

 一人(ひとり)で門を固めている以上、それなりに強いと思われる。


「しまった。冷静に分析(ぶんせき)している場合じゃない……まずは魔王になった勇者に世界の危機を知らせないと……」


 翼を()ばたかせて宙に()き、門を()えようとする。

 しかし途中(とちゅう)でかぶりを()った。


「……しまった。門番としての仕事を放棄(ほうき)するのはよくないね……」


 空中でとまったこんしまちゃんだったが、どうすればいいのか本能的に分かってしまった。


 もとの(たましい)が教えてくれている。

 こういうときは、分身(ぶんしん)すればいいのだと。


 念じると、視界がぶれたときみたいに自分の体がもう1つ生じた。

 その分身に門番の仕事を命じ、こんしまちゃんは玉座の()に急ぐ。


 正々堂々正面から(とびら)をあけると、玉座にふんぞり返っている勇者がいた。

 ほかに護衛はいないようだ。


「勇者……突然(とつぜん)すみません……お耳に()れておきたいことがあります」

「無礼じゃないか、門番」


 今の勇者は最強の攻撃力(こうげきりょく)を持つ(つえ)と最強の防御力(ぼうぎょりょく)を持つマントを装備している。


(われ)はすでに魔王だぞ。勇者だったころとは(ちが)う」

「しまった……これは失礼しました」

「まあいい。しょせんおまえのレベルは10万。門番を任せられるレベルではあるが……我にとってはザコ同然。そんなザコの言葉にいちいちプンプンしていても仕方(しかた)がないからね」

寛大(かんだい)なお心に感謝します……」


 こんしまちゃんは心のなかで首をかしげた。


(……この世界にはレベルの概念(がいねん)がある。でも勇者のレベルは9999でカンストしたんじゃなかったっけ……レベル9999から見れば、10万レベルでもかなり高いはずだけど……?)


 まあ分からないのはしょうがない。

 気を落ち着けて、本題に(うつ)る。


「魔王……危機が(せま)っています。このままでは世界が消滅(しょうめつ)するかもしれません……いきなりこんな話をされても信じられないとは(ぞん)じますが(くわ)しく申し上げますと――」

「あー、あー、話さなくていいぞ」


 勇者魔王は足を組み、あきれたようにため息をついた。


()()()

「しまった」


 どうやら相手は、こんしまちゃんが以前魔王に転生したことを知っているようだ。


「……なぜそれを」

「教えてくれたヤツがいたんだ。だれかが突然(とつぜん)『しまった』と(くち)にし始めたらそいつこそ我に倒された元魔王に(ちが)いないってな」

「まさか……ナビゲーターさんが……っ!」


「気づきましたか。もう(かく)れる必要もなさそうですね、こんしまちゃん」


 玉座のかげからコウモリのぬいぐるみが姿を現した。


「あちこちの異世界に転生して根回しをしているようですが、当然ワタシだって同じことを考えますよ」

「しまっ……」


 口癖(くちぐせ)途中(とちゅう)で、こんしまちゃんは(あわ)てて(くち)をふさぐ。

 それを見たコウモリが残念そうにする。


「あらら~、またおこぼれにあずかろうと思ったのに『しまったキャンセル』とはやりますね」

「……あなたは(やみ)のマンガ()さんの拘束(こうそく)からも脱出(だっしゅつ)し……面食(めんく)いの世界と宇宙ダムの世界まで新しく合体させたみたいだけど……それだけじゃなく、この世界でも先に手を()っていたんだね……」


「これも世界をすべて合体させ、最後にまとめて消滅させるためです」

「勇者魔王……あなたは、それでいいんですか……っ」


 玉座にもたれかかっている(かれ)にこんしまちゃんは声をかけた。


「あなたが救い、治めている世界まで消えちゃうんですよ……あなたはみんなが住みやすい世界を作っていくんじゃなかったんですか……?」

「心配することはないさ。コウモリくんからは素晴(すば)らしいことを教えてもらったからね」

「なにを()()まれたんです……」

「レベル上限の撤廃(てっぱい)方法だ」


 杖を左手でクルクル回す勇者魔王。


「聞いたところによると、元魔王はレベル1億だったそうじゃないか。なぜ魔王はそこまで強くなれたのか――その秘密はレベルアップの方向にある」

「方向……? レベルは1からどんどん()がっていくだけじゃないんですか……」

「俺もかつてはそう考えていた。しかし絶対値を増やしたいならプラスにこだわる必要はない。マイナスに振り切るのも1つの手だ」


 組んでいた足をほどき、前傾(ぜんけい)姿勢になる。


「そしてプラス方向にレベルアップしようとするとすぐにカンストしてしまう一方(いっぽう)、マイナス方向にレベルアップしようとすればなかなか上限が来ないんだ。プラスのレベルアップには(ちから)を身につけることへの警戒心(けいかいしん)(ともな)うが、マイナスのほうにはそれがない――というのが理由らしい」


「ま、そういうことですわー。この世界のみんなは新たにマイナス方向へとレベルアップすることで強くなったのです。世界が消滅しても生きていられるくらいにね……! 生き延びられる公算があるなら、異世界という脅威(きょうい)になりうる存在には消えてもらったほうがいいでしょう?」


 コウモリ姿のナビゲーターがバサバサと音を立てた。


「いやあ、こんしまちゃんにはあらためてお礼を言わなきゃいけませんね。元魔王を滅ぼしてくれたから。こんしまちゃんが転生したあの魔王ったら『自分は世界のためにならない』と考え、みずから消え去ろうとしていました。しかし強すぎたためなかなか消えることもできなかったんですよ。しかもあの魔王……人々がマイナスのほうにレベルアップするのを許さない方針であり、かつ、そのような人々を一方的(いっぽうてき)に統治すべきという政治思想を持っていました。そのため、あの強すぎ魔王はワタシの世界消滅を絶対に許さなかった。非常に厄介(やっかい)だったんです」


「だから転生して()もないわたしを()かして……魔王を勇者に倒させたんだね……」

「そうですよー、まるでRTAのように演出してね。ほら、この世界ってゲームっぽいじゃないですか。そういうゲーム的世界観を意識させればあなただってゲーム感覚で都合よく動いてくれるでしょ? 心の成長に(ともな)わないスピードで勇者を急激にレベルアップさせるよう誘導(ゆうどう)したのも、勇者の心を不安定にさせるための戦略(せんりゃく)です」


 人形のように(だま)っている勇者魔王のそばで、ナビゲーターが続ける。


「そうなれば勇者をワタシのコントロール()に置きやすくなる。勇者と魔王のレベル差を意識させれてやればあなたも(かれ)のレベル上げのために尽力(じんりょく)してくれると思っていましたよ」

「し……」

「おや、また『しまったキャンセル』ですか」


 両手で(くち)()さえるこんしまちゃんを一瞥(いちべつ)し、ナビゲーターが勇者魔王を見る。


「で、どうします魔王さま。門番はこんしまちゃんに乗っ取られている状況(じょうきょう)ですが――」

「決まっている」


 玉座からおもむろに立ち()がる勇者魔王。


「世界に混乱をもたらす者には死んでもらう」

「な……っ」


 にじりよる勇者魔王に、こんしまちゃんはツノを向ける。


「わたしのレベルは10万なんですよね……最強の杖とマントを持っていても、あなたのレベルが9999でカンストしている以上勝負になりません……っ!」

「話を聞いていなかったのか?」


 勇者魔王は杖を投げた。


「現在、我のレベルの絶対値は1000万だ。ただしマイナス方向のレベルだがな」

「……しまった」


 杖はこんしまちゃんの胸に()()さり、一瞬(いっしゅん)でいのちを(うば)った。


 ナビゲーターが、コウモリの目をギラつかせる。


「もう必死になるのは()()()()? どうせあなたは生き返るんですよ、ゲームみたいに」


* *


☆今週のしまったポイント:5ポイント(合計105ポイント)

次回「主導権を渡すな」に続く!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ