マイナスレベルの絶対値
こんしまちゃんは1度転生したことのある「ファンタジー世界」に再転生した。
前は魔王になって勇者に倒されたけど、今回のこんしまちゃんは――。
背中に翼を持っていた。
しっぽもツノもある。それらの部位はいずれも黒い。
現在、巨大な門の前に立っている。
門の後ろには黒い西洋風のお城が見える。
(確か魔王を倒した勇者が新しい魔王になって世界を統治しているはず……)
おそらく自分は魔王城の門番に転生したのだ。
一人で門を固めている以上、それなりに強いと思われる。
「しまった。冷静に分析している場合じゃない……まずは魔王になった勇者に世界の危機を知らせないと……」
翼を羽ばたかせて宙に浮き、門を越えようとする。
しかし途中でかぶりを振った。
「……しまった。門番としての仕事を放棄するのはよくないね……」
空中でとまったこんしまちゃんだったが、どうすればいいのか本能的に分かってしまった。
もとの魂が教えてくれている。
こういうときは、分身すればいいのだと。
念じると、視界がぶれたときみたいに自分の体がもう1つ生じた。
その分身に門番の仕事を命じ、こんしまちゃんは玉座の間に急ぐ。
正々堂々正面から扉をあけると、玉座にふんぞり返っている勇者がいた。
ほかに護衛はいないようだ。
「勇者……突然すみません……お耳に入れておきたいことがあります」
「無礼じゃないか、門番」
今の勇者は最強の攻撃力を持つ杖と最強の防御力を持つマントを装備している。
「我はすでに魔王だぞ。勇者だったころとは違う」
「しまった……これは失礼しました」
「まあいい。しょせんおまえのレベルは10万。門番を任せられるレベルではあるが……我にとってはザコ同然。そんなザコの言葉にいちいちプンプンしていても仕方がないからね」
「寛大なお心に感謝します……」
こんしまちゃんは心のなかで首をかしげた。
(……この世界にはレベルの概念がある。でも勇者のレベルは9999でカンストしたんじゃなかったっけ……レベル9999から見れば、10万レベルでもかなり高いはずだけど……?)
まあ分からないのはしょうがない。
気を落ち着けて、本題に移る。
「魔王……危機が迫っています。このままでは世界が消滅するかもしれません……いきなりこんな話をされても信じられないとは存じますが詳しく申し上げますと――」
「あー、あー、話さなくていいぞ」
勇者魔王は足を組み、あきれたようにため息をついた。
「元魔王」
「しまった」
どうやら相手は、こんしまちゃんが以前魔王に転生したことを知っているようだ。
「……なぜそれを」
「教えてくれたヤツがいたんだ。だれかが突然『しまった』と口にし始めたらそいつこそ我に倒された元魔王に違いないってな」
「まさか……ナビゲーターさんが……っ!」
「気づきましたか。もう隠れる必要もなさそうですね、こんしまちゃん」
玉座のかげからコウモリのぬいぐるみが姿を現した。
「あちこちの異世界に転生して根回しをしているようですが、当然ワタシだって同じことを考えますよ」
「しまっ……」
口癖の途中で、こんしまちゃんは慌てて口をふさぐ。
それを見たコウモリが残念そうにする。
「あらら~、またおこぼれにあずかろうと思ったのに『しまったキャンセル』とはやりますね」
「……あなたは闇のマンガ家さんの拘束からも脱出し……面食いの世界と宇宙ダムの世界まで新しく合体させたみたいだけど……それだけじゃなく、この世界でも先に手を打っていたんだね……」
「これも世界をすべて合体させ、最後にまとめて消滅させるためです」
「勇者魔王……あなたは、それでいいんですか……っ」
玉座にもたれかかっている彼にこんしまちゃんは声をかけた。
「あなたが救い、治めている世界まで消えちゃうんですよ……あなたはみんなが住みやすい世界を作っていくんじゃなかったんですか……?」
「心配することはないさ。コウモリくんからは素晴らしいことを教えてもらったからね」
「なにを吹き込まれたんです……」
「レベル上限の撤廃方法だ」
杖を左手でクルクル回す勇者魔王。
「聞いたところによると、元魔王はレベル1億だったそうじゃないか。なぜ魔王はそこまで強くなれたのか――その秘密はレベルアップの方向にある」
「方向……? レベルは1からどんどん上がっていくだけじゃないんですか……」
「俺もかつてはそう考えていた。しかし絶対値を増やしたいならプラスにこだわる必要はない。マイナスに振り切るのも1つの手だ」
組んでいた足をほどき、前傾姿勢になる。
「そしてプラス方向にレベルアップしようとするとすぐにカンストしてしまう一方、マイナス方向にレベルアップしようとすればなかなか上限が来ないんだ。プラスのレベルアップには力を身につけることへの警戒心が伴うが、マイナスのほうにはそれがない――というのが理由らしい」
「ま、そういうことですわー。この世界のみんなは新たにマイナス方向へとレベルアップすることで強くなったのです。世界が消滅しても生きていられるくらいにね……! 生き延びられる公算があるなら、異世界という脅威になりうる存在には消えてもらったほうがいいでしょう?」
コウモリ姿のナビゲーターがバサバサと音を立てた。
「いやあ、こんしまちゃんにはあらためてお礼を言わなきゃいけませんね。元魔王を滅ぼしてくれたから。こんしまちゃんが転生したあの魔王ったら『自分は世界のためにならない』と考え、みずから消え去ろうとしていました。しかし強すぎたためなかなか消えることもできなかったんですよ。しかもあの魔王……人々がマイナスのほうにレベルアップするのを許さない方針であり、かつ、そのような人々を一方的に統治すべきという政治思想を持っていました。そのため、あの強すぎ魔王はワタシの世界消滅を絶対に許さなかった。非常に厄介だったんです」
「だから転生して間もないわたしを急かして……魔王を勇者に倒させたんだね……」
「そうですよー、まるでRTAのように演出してね。ほら、この世界ってゲームっぽいじゃないですか。そういうゲーム的世界観を意識させればあなただってゲーム感覚で都合よく動いてくれるでしょ? 心の成長に伴わないスピードで勇者を急激にレベルアップさせるよう誘導したのも、勇者の心を不安定にさせるための戦略です」
人形のように黙っている勇者魔王のそばで、ナビゲーターが続ける。
「そうなれば勇者をワタシのコントロール下に置きやすくなる。勇者と魔王のレベル差を意識させれてやればあなたも彼のレベル上げのために尽力してくれると思っていましたよ」
「し……」
「おや、また『しまったキャンセル』ですか」
両手で口を押さえるこんしまちゃんを一瞥し、ナビゲーターが勇者魔王を見る。
「で、どうします魔王さま。門番はこんしまちゃんに乗っ取られている状況ですが――」
「決まっている」
玉座からおもむろに立ち上がる勇者魔王。
「世界に混乱をもたらす者には死んでもらう」
「な……っ」
にじりよる勇者魔王に、こんしまちゃんはツノを向ける。
「わたしのレベルは10万なんですよね……最強の杖とマントを持っていても、あなたのレベルが9999でカンストしている以上勝負になりません……っ!」
「話を聞いていなかったのか?」
勇者魔王は杖を投げた。
「現在、我のレベルの絶対値は1000万だ。ただしマイナス方向のレベルだがな」
「……しまった」
杖はこんしまちゃんの胸に突き刺さり、一瞬でいのちを奪った。
ナビゲーターが、コウモリの目をギラつかせる。
「もう必死になるのはやめたら? どうせあなたは生き返るんですよ、ゲームみたいに」
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☆今週のしまったポイント:5ポイント(合計105ポイント)
次回「主導権を渡すな」に続く!?




