なんか外せない
「ふむふむ……」
宇宙使いの魔女はみずからの宇宙で作り上げたインカムで仲間たちと連絡をとっている。
「なるほど、東に広がる空の壁に新たな世界が出現したんですか。加えて、その世界の地面に近づくと重力方向も変更されると。壁の大地には仮面をつけたみなさんがいて、わたしたちと言葉は一緒……くだんの面食いもそこから流れてきているわけですね」
とりあえず「宇宙で作った仮面を食べさせて面食いに対処するのがいい」と伝え、魔女は通信を切った。
「コンポテさん、今から東の壁に向かいますよ」
「了解……」
こんしまちゃんと魔女はいったん客船から下りた。
宇宙を素材にしたボートを飛ばし、目的の場所に急ぐ。
* *
間もなく、大地の壁が見えてくる。
垂直に立った壁面に、緑の森や人家や地面が横向きに貼り付いていた。
近づくと、こんしまちゃんたちは真横に引き寄せられるように落下した。
今度は海や宇宙ダムのある場所が垂直に立っているように見える。
湿った森を進むと、狩人の息子に転生したときのことを思い出した。
「魔女さん……間違いありません。ここは面食いのいる世界です……みんな仮面をかぶっていて、素顔を見られたら死ぬ世界です……」
「確認ありがとうございます、コンポテさん」
そして村に行き当たる。
村人のみんなは驚いているようだ。
素顔をさらしているこんしまちゃんと魔女が普通に生きているからである。
仮面をつけた村長がやってきて、あいさつのあと2人にたずねる。
「あなたがたは仮面をつけていなくてだいじょうぶなんです?」
「問題ありません。わたしたちは別の世界の人間なので」
「別の世界……もしや新たに出現した壁のような湖からやってきたのですか」
「はい。そこを経由してここを訪れました。とはいえあなたたちが仮面をつけている理由も面食いのこともすでに知っています。ついては提案なのですが――」
魔女は単刀直入に切り出した。
「絶対にはげない仮面は要りませんか」
「つまり、面食いにもはげない仮面かい?」
「そうです。実現すれば面食いもみなさんを襲わなくなるでしょう」
「そんなことをするメリットがあなたがたにあるのですか」
「あります」
事前に回答を用意していたかのようにスラスラ返す。
「助ける手段を持ちながらわたしたちがみなさんを見捨てたとすれば反発を受けるのは必至です。結果、わたしたちの世界の安全も保障されなくなります」
「ではやってみなさい。村長のわたしが実験台になりましょう」
「ありがとうございます。成功をお約束します」
こうして村長と魔女による実演がおこなわれることになった。
村人たちやこんしまちゃんが遠巻きにそれを見守る。
両手で、村長の仮面のふちを持つ魔女。
外そうとしているのではと疑った村人たちはとめようとしたけれど、村長自身が彼らを制止した。
魔女の指先からキラキラとした宇宙が漏れる。
仮面のふちから村長の顔面へと宇宙が流入する。
「これであなたの仮面の下に、はげない仮面が貼り付けられました」
そのあと魔女はもとの仮面をそっと外した。
素顔を見ないように村人たちは一斉に目をそらした。こんしまちゃんもみんなに倣った。
しかし村長がみんなに声をかける。
「おお……もとの仮面がなくなっても死んでいないぞ。おまけに新しい仮面は完全に肌に貼り付いているようでまるで本物の顔のようだ。みんな見てくれ」
視線を戻すと、村長の新しい仮面が目に入った。
確かにその仮面は皮膚と一体となっており、どこからはがせばいいかも分からない。しかも鼻や口の穴もちゃんとあいている。
ただし――。
「村長。すごくはありますが、仮面の模様が」
「模様?」
「ご確認ください」
宇宙使いの魔女は手鏡を取り出し、村長に渡した。
村長はびっくりした。
仮面は、キラキラの星をちりばめた闇だった。
つまり宇宙仮面だった。
「この仮面は、絶対にはげません」
「やってみよう。……本当だっ」
宇宙をひっぺがそうとしても、本物の皮膚のように伸びるだけ。
「画期的な仮面です。これならどんな面食いもはげないでしょう」
「その自信はあります。ただ、まだ完全ではありません」
「なぜです」
「宇宙のような顔面は、自然界ではありえません。よってすぐに面食いもそれを仮面と看破します。たとえはげなくても襲われる可能性があるんです」
「確かに。ならば塗装してごまかしましょうか」
「いえ。塗装がはげればバレてしまいます。よって宇宙の色を取りのぞくのがよいかと」
魔女は焦らず、まわりのみんなにも視線をやった。
「今こそ切り札の出番です」
「もしかしてわたしの出番……!」
こんしまちゃんが前に出ようとした。
「がんばるよ……」
「いえ、コンポテさんは切り札じゃありません」
「しまった」
「すでに連絡は入れています。間もなく姿を現すでしょう」
言葉どおり、村に新しい訪問者がやってきた。
長いへその緒を腰に巻いている女の人だ。
「臍帯者のかたです」
戸惑っている村長たちに魔女が説明した。
「臍帯者は、自分のへその緒から栄養補給ができるんです。へそを接続した相手の栄養を分けてもらうんですね。まあわたしたちの栄養とは、おもに『宇宙』なんですけど」
「いろいろ違いに驚かされますね。しかし栄養補給と仮面の宇宙の色を取りのぞくことになんの関係が」
「他者の栄養――宇宙を分けてもらうことができるということは、あなたの顔に貼り付いた宇宙を吸うこともできるということです。あなたの体には宇宙が含まれていないため、臍帯者の力を使えばほかの部分の栄養を無視してダイレクトに宇宙を抜くことが可能なはずです。仮面という概念そのものを吸うことはありませんので表面の宇宙だけが脱色し、あとには人の素顔を参照した肌の色だけが残されるという話です」
「理屈はよく分からんが、やってください」
村長は服をたくし上げ、おへそを見せた。
やってきた臍帯者はあいさつを交わしたあと、へその緒の先端を村長のおへそにあてがった。
初めての体験に村長があえぐ。
「お、おおお~……」
「終わりました」
「え、もう」
「仮面の宇宙色を抜くだけですからね。さあ、手鏡をご覧なさい」
魔女の勧めに応じて村長が鏡面をのぞき込むと、そこには――。
宇宙のキラキラも闇もない、ただの人の素顔があった。正確には、素顔と区別がつかない仮面があった。
「な、なんと……これじゃ本当に仮面を外したみたいだ」
村長は目をパチクリさせながら村のみんな1人1人と目を合わせた。
「しかも死なないということは、仮面もちゃんとつけているということ」
両手で顔面のすみずみをさわり、引っ張る。
「まさに、はげない仮面。受け取りました。ありがとうございました」
ついで村長は、へその緒を外す臍帯者にもお礼を述べた。
みんなの歓声が上がる。
「すごい! これなら面食いも怖くないし仮面がはがれるのを恐れずに済む!」
村長の成功を皮切りに、みんなが魔女に同じように処置してくれと頼んでくる。
それからほかの宇宙使いの魔女や臍帯者も姿を見せ、やり方を共有したうえで「はげない仮面」をみんなの顔面に取り付けていく。
こんしまちゃんは、素顔みたいな仮面を手に入れて笑顔になるみんなの様子を観察していた――。
――のではなく、村の周囲を警戒していた。
そして敵影を捉える。
「あ、面食いが1匹だけ来ました!」
「安心してください。対処します」
もともとこんしまちゃんと行動を共にしていた宇宙使いの魔女が宇宙仮面を装備し、面食いの前に立ちはだかった。
すぐに面食いは宇宙仮面をはがして食べた。
直後、満足そうに動きをとめて寝転んだ。
「この個体にも宇宙仮面は通用するようですね。仲間たちの情報でも面食いは同じ反応を見せているようですし、ここまでくれば面食いという種全体に宇宙仮面が有効と考えていいでしょう。人を襲う可能性があるので、捕らえた面食いは檻のなかに入れて……定期的に宇宙仮面を与えるのが最善のはずです」
「それなら平和だね……さすが魔女さん」
「ここまでスムーズにいったのはコンポテさんが面食いの世界の情報を提供してくれたからです。むしろわたしはコンポテさんにお礼を言います。ありがとうございました」
宇宙檻のなかに面食いを拘束し、魔女が笑う。
「死者も出ていないようです。わたしのご先祖も、安全に世界が合体したということでホッとしていることでしょう」
* *
ただ、こんしまちゃんは村に帰ったときに意外な光景を見た。
すでに村人みんなは素顔と区別のつかない新たな仮面を獲得していたけれど、結局みんなもとの仮面をもう一度かぶりなおしていたのだ。
こんしまちゃんは村長に聞いた。村長ももとの仮面をつけなおしているからだ。
「どうしてなんでしょう……? 素顔と変わらない仮面が顔に貼り付いていのちの危険がなくなった今、もとの仮面をつけるのはなぜなんです……」
「習慣ですかね」
仮面をなで、村長が答える。
「必要性がなくなったといっても、わたしたちはずっと仮面らしい仮面と共に生きてきたんです。だからいきなりもとの仮面なしで生活を始めるのは……慣れないんですよ。なんか外せないってわけです。もちろんあなたがたには感謝していますし、面食いに襲われないよう非常時には仮面を外すつもりです」
「そうですか……」
無意識のうちに、こんしまちゃんは笑みを見せていた。
* *
そして淡い光につつまれながら、宇宙使いの魔女に報告する。
「これから再転生します……メーユくんも、もとに戻るはずです……」
「分かりました。しかしどうしてコンポテさんはメーユに転生したんでしょうね」
「きっとメーユくんの……魔女さんの役に立ちたいという気持ちがわたしを呼んだんだと思います……」
「そうなんでしょうか。ともあれこの世界はわたしたちに任せてください」
「また会うと思いますのでそのときもよろしくお願いします……」
さらにこんしまちゃんは次の転生先を指定する。
「ファンタジー世界の……魔王や勇者がいた世界に行く」
それはこんしまちゃんが最初に転生し、1回目以降1度も転生することがなかった異世界である。
もちろん転生先の指定に伴い、今週のしまったポイントが5消費された。
* *
☆今週のしまったポイント:-4ポイント(合計100ポイント)
次回「マイナスレベルの絶対値」に続く!?




