もともと世界は1つじゃなかった
宇宙ダムのある世界にやってきたこんしまちゃんは、メーユという男の子に転生した。
かつて転生したことのある宇宙使いの魔女と屋内で向き合う。
背もたれのない灰色のイスに座り、こんしまちゃんと魔女は話を始める。
先に口をひらいたのは……魔女のほうだった。
「前にあなたとへその緒をつないだときも、こうしてわたしの家で対面しましたね」
「そうでしたね……」
「あっさり答えすぎですよ。今のあなたはメーユ。臍帯者じゃありません」
「しまった」
こんしまちゃんは慌ててイスをガタリと鳴らした。
「だけど魔女さん……まるで以前のわたしがその臍帯者だったみたいな言い方ですね……」
「そうじゃないんですか。あのとき、わたしのおへそから宇宙を吸ったあと臍帯者さんの体が淡く光りました。そのタイミングでもとの臍帯者さんを残し、あなたは別の世界へと転生したはずです」
「合っています……」
「やっぱり。そしてもう1つ正直に答えてくださいな」
帽子をひざに置き、魔女が真剣にこんしまちゃんを見つめる。
「あなたはわたし自身に転生したこともありますね? おそらくタイミングは、わたしが新しい管理者になって宇宙ダムのショーをおこなったときではないですか」
「はい……どうして分かったんです」
「あのときわたしは不安でいっぱいでした。失敗しちゃったらどうしようって。だけど、なぜかその気持ちに反してうまくやれたんですよ。ここにあなたの助けがあったのではないかと」
「……記憶は飛んだりしてますか」
「あなたに関することは覚えていません。けれどショーを成功させた当時の思い出はちゃんと残っています。もしかすればあなたは勝手にわたしの人生の一部を乗っ取ったんじゃないかと心配しているかもしれませんが、あれはれっきとしたわたし自身の人生でもあったわけです」
魔女はひと息つき、帽子のツノを両手でいじった。
「なんでわたしがあなたの転生のことを知っているか、聞きたいですか」
「聞かせてください……」
男の子の姿をしたこんしまちゃんが前のめりになる。
「世界の合体や今週のしまったポイントのこともご存じなんですよね……?」
「ええ。なにを隠そう、わたしの先祖こそがこんしまポイントの使い手だったんです」
いったん魔女は立ち上がり、壁際の棚に近寄った。
そこから1冊の黒い本を持ってくる。
ページをひらき、こんしまちゃんに見せる。
当然のようにそれは日本語で書かれていた。
「この本はわたしのご先祖さまが書きしるしたものです。ほら、ここに『今週のしまったポイント』という文言が見えるでしょう」
「ホントだ……!」
ご丁寧に「すでに転生した世界1つの様子を見る」「指定した2つの世界を合体させる」といったポイントの5つの使い道が箇条書きで示されている。
「……あれ? これ、まさか……」
前に町娘さんの姿をしたナビゲーターはポイントの使い道を説明するとき、こんしまちゃんに1枚の紙を渡したことがある。
そこに書かれていたことと、まったく同じことが魔女の本にも書かれていたのだ。
「しまった……ナビゲーターさんがどうして今週のしまったポイントについて詳しく知っているのかわたしは考えもしなかった。でも実はナビゲーターさんは魔女さんの世界でこの本を読んでいたんだ……だから知ってたんだ」
「ナビゲーター?」
「このあいだまでわたしと一緒に行動していた人……です。魔女さんの杖やアユっぽい魚の姿などに変身できます……ナビゲーターさんはこんしまポイントを使って世界を合体させ、そのあと一気に消滅させる気です……そのとき世界が口にする『しまった』を、ナビゲーターさんはしゃぶりつくすつもりなんです」
「その野望のせいで世界に危機が迫っているんですね」
ひざに置いた本のふちを魔女がなぞった。
「すでに合体した世界はありますか」
「今のところ、世界合体を2回発動させているのを確認しました……本当にすみません」
「あなたがやったことじゃないでしょう。それに、世界は合体してもいいとわたしは思いますけど」
「どうしてです……」
「もちろん消滅はよくないですよ。けれど合体自体はそこまでネガティブなものでしょうか。異なる世界同士であったとしても、この世に存在している以上いつか2つの世界は出会いうる。遅かれ早かれ2つの世界は互いを見つけ、合体する。大切なのは合体をさけることではなく、合体したときにどう痛みを軽減し、どう今後の発展につなげていくか考えることではないでしょうか」
知らない考えにふれてフリーズするこんしまちゃんに視線をやって、魔女は本の別のページをひらく。
「そもそも宇宙ダムのあるこの世界も、もともと1つの世界じゃなかったんです。2つの世界が合体してできたんです」
「もしかして空に青い海があるのは……」
「はい。世界合体の名残です。わたしのご先祖はこんしまポイントを使用し、宇宙ダムのある世界と臍帯者のいる世界とを合体させたんです。天の海はもともと、臍帯者たちのいる世界の海だったんです」
確かに本には、そのときの記録がつづられているようだ。
本の文章を目で追うこんしまちゃんに魔女は続ける。
「前にこの世界に転生したときに思いませんでしたか。宇宙をダムとしてたたえた世界観と、へその緒をずっと持ち続ける臍帯者のいる世界観――この関連のなさそうな2つの世界観が混ざり合っているのは変じゃないかと」
「しまった……気づきませんでした」
「けれど本来は関連のなかった世界同士だとしても、いったん混ざり合えば案外うまくいって調和するものです。世界だけじゃない。人と人の出会いだってそうです。本来はメーユではないあなたがメーユの体を借りて存在しているのも1つの合体ですが……必ずしもそれは悪いことなんでしょうか」
「……考えてみます」
うつむき、本をじっと見るこんしまちゃん。
「あの、ページをめくっても……?」
「どうぞ」
「ありがとうございます……」
ページをめくった先に、こんな言葉がつづられていた。
『わたしは今週のしまったポイントを使用してよその世界を見た。転生した。世界を合体させた。そして、1つの世界を消滅させてしまった……』
こんしまポイントの使い道として世界消滅も示されていたのは、実際に試した者がいたからだったのだとこんしまちゃんは気づいた。
『世界を消滅させたことをわたしは悔いている。とても「しまった」という言葉で許される罪ではない。よってそのときの反省をこの本にとりまとめたうえ、わたしの子孫に受け継いでもらうことにする。今週のしまったポイントの使い手は血によって発生するものではない。だがいつか「しまった」を愛し「しまった」に愛された者がこんしまポイントの使い手となってわが子孫のもとに現れるだろう。そのときはこの本も見せ、力になってあげてほしい。よからぬことを考えているなら、その野望をとめてほしい』
魔女はこんしまちゃんがその文章に目を通したことを確認し、静かに言葉をかぶせる。
「こんしまポイントの使い手さん、わたしはあなたに協力します」
「本当に心強いです……感謝します……」
ナビゲーターの裏切りに遭ってから、こんしまちゃんは1人になっていた。
でもいろんな世界を渡り歩いて、頼れる仲間を少しずつ増やしつつある。
まだ不安は消えないけれど、状況はけっして最悪じゃないと再認識するこんしまちゃん。
「とりあえず、まだ世界消滅の危機を知らない世界に状況を知らせなきゃいけません……わたしはこれからそれらの世界に向かうつもり――」
しかし言葉が途切れた。
家の出入り口からにぶい音が聞こえたからだ。
魔女が杖をつかんで立ち、そちらのほうをにらむ。
そこには化け物がいた。
トラの模様に似た毛皮がクマのような巨体をつつんでいる。
頭はサルっぽく、顔には仮面がはめられている。
「面食い……っ!」
狩人の息子に転生したときに会った化け物と再会し、こんしまちゃんは面食らった。
右腕を伸ばした面食いの手の平が、宇宙使いの魔女の顔面に襲いかかる――。
* *
☆今週のしまったポイント:3ポイント(合計102ポイント)
次回「はげない仮面」に続く!?




