知ってもらう
闇のマンガ家が無罪を勝ち取ったあと、こんしまちゃんの体が淡い光につつまれていく。
その世界での役目を終えて次の転生に入っているわけだけど、ここでこんしまちゃんは一考する。
(いろんな世界をまとめて消滅させようとしているナビゲーターさんの野望をとめるためにも……各世界のえらい人に今の状況を知らせたほうがいいかもしれない)
当のナビゲーターは闇のマンガ家のいる世界と背中にコブのある世界とを合体させたあと、すでに別の世界に逃げていると思われる。
次にナビゲーターがねらう世界が分からない以上、すでに行ったことのある各世界に直接働きかけたほうがいいとこんしまちゃんは判断した。
(さっそく今週のしまったポイントを5ポイント支払って次の転生先を指定する……? いや貴重なポイントの無駄撃ちはやっちゃダメ……ランダムで転生をくりかえしたあと、それでも転生先として選ばれなかった世界に対してだけポイントを使うほうが効率的……っ)
* *
さてポイントを消費しなかったこんしまちゃんの転生先は――。
荘厳に飾られた玉座の間だった。
「こ、ここは……」
「どうした大臣」
紺色の玉座にだれかが座っている。
金髪の女性だ。彼女が話しかけてきたのだ。
「よもや眠りこけていたのではあるまいな」
「しまった……すみませんでした」
大臣に転生したっぽいこんしまちゃんがとっさに謝る。
対する女性はラバースーツにモフモフの銀の外套を身にまとっている。
「恐れることはないぞ。あなたにも『基本的しまった権』はみとめられている」
「その物言い……まさか」
こんしまちゃんは玉座の女性をあらためて目に入れた。
「シマッタ・ヤラカシターさまではありませんか……っ!」
玉座にいるのは第48代目ヤラカシター家当主シマッタ・ヤラカシター王で間違いなかった。なおシマッタ王とこんしまちゃん以外、玉座の間にはだれもいない。
「シマッタさま……お元気そうでなによりです。北半球の人たちとはうまくやれていますか……?」
「確かに最近は民主派のみんなも譲歩してくれることが多くなったが」
シマッタ王が背筋をゆるめ、指摘する。
「それはあなたもすでに知っていることだろう大臣」
「し、しまった」
「先ほどから会話が不審だな。まさか民主派に遣わされた偽者だったりして」
「わわわ……っ、しまった」
「が、違うようだな。もし民主派であれば『しまった』という言葉をそこまで連発するはずがない。あなたは――だれだ」
厳しい目つきでシマッタ王がこんしまちゃんを射すくめる。
こんしまちゃんはこうべを垂れ、ひざを折った。
「真実を申し上げます。わたしはこんしまちゃんです」
無言で見つめてくるシマッタ王へと言葉を続ける。
「以前は『駅長帽子の娘』の体に転生して『しまったの行進』に参加しました。今は彼女の体から抜け出し、シマッタさまの大臣の体を借りているところです……」
「わたしがそんな話を信じるとでも? 証拠は提示できるのか」
「牢屋にぶち込まれていたわたしをシマッタさまが助けてくださったとき、わたしはシマッタさまを『陛下』とお呼びしたほうがいいかとたずねました……しかしシマッタさまは自分の名前で呼ばれるのが好きと答えてくださいました」
「確かにそれは南極ステーションの駅長となったあの娘しか知らない出来事だ」
すっくとシマッタ王が立ち上がった。
「だが本人に聞き込み調査をすればその情報を入手するのも難しくない」
「……しまった」
「とはいえあなたが実際の大臣であるかは別にして『しまった』を大事にしているのは本当のようだ。誇り高きヤラカシター家の当主シマッタ・ヤラカシターとして話を聞いてやろうではないか!」
「は……! ありがとうございます」
うやうやしく礼をし、こんしまちゃんが本題に移る。
「シマッタ王。この世界にも危機が迫っています……」
「……も? 別の星の話か」
「いえ……実は星と星を電車でつなぐこの世界のほかにも別の世界が複数存在しているのです……あるいは別の宇宙と表現したほうが適切かもしれませんが……世界を渡り歩くことができるある者が各世界を合体させてそれらをまとめて消滅させようともくろんでいるのです」
「ほとんど信じられん話だが、仮にそれが本当だとしてわたしになにをしてほしいのだ。大臣……いや、こんしまちゃん」
ゆっくりとこんしまちゃんに近づき、シマッタ王がしゃがむ。
ひざをついたままこんしまちゃんが答える。
「備えてほしいんです……ほかの世界と合体しても『しまった』と言わないように。相手は『しまった』を養分にして力を行使しますので……」
それからいろんな姿に化けられるナビゲーターの特徴や、これまで自分の見てきた異世界すべての詳細を伝えた。
「――このように各世界はすべて同じ言語を用いています。だからこそわたしもナビゲーターさんも魂の反転である『しまった』の恩恵によって各世界を移動できるのだと思います……」
「あなたの言いたいことは分かった。ただしタベモノ……? とかいうのがほかの世界にはあふれているらしいが、それについてはイメージできない」
シマッタ王が再び立ち上がり、きびすを返す。
「ともかく今の話だけでこの星の民やほかの星の人々を説得できるわけがない」
「……はい」
「なによりこんしまちゃん。あなたがわたしたちの敵でないという保証もどこにもないのだ」
「おっしゃるとおりです……」
「だが……対策は立てておこう」
玉座にそっと腰を下ろした。
「そのまま話したところで意味はないだろうが、たとえば自然災害の避難訓練をおこなうという名目でみんなの危機意識を高めることは可能だ。未知の星が見つかったかもしれないとアナウンスし、心の準備をさせておくこともできる」
「ありがとうございます……」
「礼には及ばん。分かっているとは思うがわたしはあなたの話を信じていない。対策にしても、わたしたちの直面しうるほかの問題に対応できるものしか実行しない。すべては……みんなが『しまった』と笑顔で言うことができる世界のためなのだ。分かってくれるか」
「もちろんです……シマッタさま」
前に会ったときと比べてシマッタ王の見た目は変わっていないけれど、どこか威厳と落ち着きがにじみ出ている。
自分だけではなく、みんなの「しまった」のためにがんばろうとしているシマッタ王の努力と意思を――こんしまちゃんは垣間見た。
「それでは……わたしの話にお付き合いくださりありがとうございました……大臣はじきに正気に戻るでしょう……」
このタイミングでこんしまちゃんの体が淡く光りだす。
どうやらもとの大臣は世界の危機をなんとなく予感して……シマッタ王にそのことを伝えたかったようだ。
大臣のやりたいことこそが、今回のこんしまちゃんの役目だった。
それを果たしたから、こんしまちゃんは再転生する。
「シマッタさま……わたしも『しまった』を愛する者の1人としてがんばります」
* *
そしてシマッタ王のいる世界の次に転生した異世界では、色あせた紫の大地が広がっていた。
近くの湖をのぞき込むと、銀色の十字の墓石を帽子にしてかぶっている自分の姿が映った。
「つよつよ主人公に……また転生したんだ」
すぐに、この世界で一番えらい人に会いに行く。
そのへんを歩いている墓石の帽子をかぶった人たちにたずねながら、目的の人物のもとに向かう。
はだしで進み続け、大地にあいた大きなくぼみの前に来た。
「グレイブ・キャップとグレイブ・ハットを統べる墓かぶりの王――アルベス・ウォーグレイブさまに会わせてください……!」
「だれかと思えばキサマか、女」
直方体の灰色の墓石をかぶったアルベスが、部下たちを下がらせてこんしまちゃんと対面した。
「なんの用だ。偉大な王であるオレと雑談でもしたいのかな」
「確かにあなたはどえらい王さまですが……わたしは無駄話をしに来たのではありません。世界の危機をお伝えしたいのです……」
そうしてこんしまちゃんは、シマッタ王に知らせたこととほぼ同じ内容をくりかえした。
困惑する部下たちのそばでアルベスはうなずきながら話を聞き、自身の紫の髪をくしけずった。
「相変わらず常識のない女だ。いきなりそんな話を聞かされてオレが信じると思うのか?」
「しまった……そうですよね」
「まあ信じるけどな!」
「そうで……え?」
こんしまちゃんだけでなく、アルベスの部下たちも驚きの声を上げた。
当のアルベスはかぶった墓石を豪快にゆらして高笑いする。
「オレは何者よりも偉くて優れた王アルベス・ウォーグレイブ! ゆえにそこらの凡愚とは頭の造りが違うのだよ、キサマの話が充分に本当でありうるとオレが断言してやろう! はははは、ははははッ!」
「きょ、協力してくれるんですか……っ」
「だれがキサマなんぞに協力するか。ただ、オレはみなの王だ。そしてオレはアルベス・ウォーグレイブとして……みなに課している『殺しなき殺人』のかたちを何者にも邪魔させん。アリゲーターだろうがキサマだろうが、わが王道に立ちはだかるなら容赦しない」
「アルベスさま……ナビゲーターです」
お礼を述べながらこんしまちゃんは、アルベスとシマッタ王が会ったらどんな感じになるのかなとちょっと想像してしまった。
そして高笑いを耳にしながら、また転生する。
* *
さらに今度の転生先では……。
宇宙をたたえたダムの灰色の堤体にこんしまちゃんは寝転がっていた。
しかも現在のこんしまちゃんは10歳すぎくらいの男の子だ。
粗い麻の上下を着たその姿には見覚えしかなかった。
(ここは宇宙ダムの世界……天上に青い海がある。それだけじゃなく別の場所に臍帯者もいるはず……)
このとき――。
「メーユ、そろそろ宇宙スープをいただかない?」
そばの家から、ヤギのツノのような帽子をかぶった魔女が顔を見せた。
「どうしたのボーッとして」
「すみません……実は今のわたしはメーユじゃないんです……」
男の子の体でしゃべったこんしまちゃん。
そんな彼女を、魔女が鋭く目で捉える。
「もしかしてメーユの体を借りているあなたは、今週のしまったポイントの使い手さんですか」
「はい、そう――」
答えかけたところで、こんしまちゃんは目を丸くした。
「……へ? どうして知っているんですか……? わあっ」
あまりにも驚きすぎたため足を踏み外し、堤体のてっぺんから宇宙ダムに落ちそうになった。
「しまった」
「慌てないでください」
魔女が、右手に持っている縫い針みたいな杖を振る。
するとダムにたまっていた宇宙が巨大な手のかたちを作り、こんしまちゃんを受けとめた。
さすがは宇宙使いの魔女である。
宇宙によってできた手はこんしまちゃんを家のそばに下ろし、そのままダムのなかに帰った。
「助かりました……魔女さん」
「わたしはメーユを助けたんです」
家の玄関に足をかけ、魔女はこんしまちゃんを手招きする。
「ともあれさっきの慌てようからして、あなたは『本物』ですね。もしかして2つの世界が合体しようとしているとか……そういう話でもしに来ましたか?」
どうして魔女がそのことを知っているのか分からないこんしまちゃんは口をあんぐりあけた。
しかし魔女は天をあおぎ、空に広がる逆さまの海をじっと見た。
「なんでこの世界の空に海があるのか、あなたはご存じですか。こんしまポイントの使い手さん?」
* *
☆今週のしまったポイント:6ポイント(合計99ポイント)
次回「もともと世界は1つじゃなかった」に続く!?




