なぜこの体に選ばれた
背中の翼で飛び続け、こんしまちゃんは鍾乳洞を突き進む。
(ナビゲーターさんはわたしがコウモリに転生したと言ってた……)
ウェーブのかかったくせ毛をかき上げる。
(でもこの世界におけるわたしの役目はまだ分からない……。早く役目をハッキリさせてそれを果たして……ナビゲーターさんを追わないと)
役目を果たさなければこんしまちゃんも次なる世界に転生できない。
ともかく左右に視線を走らせる。
だれか人がいればこの世界での役目のヒントが得られるかもしれないと考えたのだ。
でも、とくになにも見つからない。
(わたし……違う世界に来て、初めて本当の意味で1人になっちゃったなあ……)
* *
結局いつまで飛んでもこんしまちゃんは洞窟から抜け出ることができなかった。
疲れたので、地面に腰を下ろして休む。
「しまった……後先考えずに飛ばしちゃった……」
肩で息をしながら洞窟の天井を見上げた。
鋭い鍾乳石がいくつも連なっている。
(そういえばコウモリ状態のナビゲーターさん……逆さまになって鍾乳石にとまってたっけ……)
見ていると、なぜかウズウズする。
自分も逆さまになってぶら下がりたいと思ってしまう。
「今のわたしがコウモリだから……?」
直後、声を反響させつつハッとする。
「もしかして……逆さまになるのが今回の役目なの……?」
思い出してみれば、これまでいろいろな異世界に転生したこんしまちゃんの役目はすべて転生した本人に関わることだった。
魔王に転生したときは勇者に倒されなければならなかった。
駅長に転生したときは最終電車にお客さんを乗せることを求められた。
いずれも転生した本人でなければ果たすことができない役目だった。
(その法則が今回も当てはまるなら……コウモリであるわたしにしかできないことが役目になっているはず)
しかし先ほどまでこんしまちゃんは飛んでいた。
その時点でコウモリとしての能力をきちんと発揮していると言える。
(与えられる役目は本人が果たせるものでなくちゃダメ……でもそれだけが役目の条件じゃない)
これまでのことを、もっと思い出す。
町娘さんのいる世界に初めて転生したとき、こんしまちゃんには自分の状況を理解して目的を定めるという役目が与えられていた。
それは転生のくりかえしに捕らわれたこんしまちゃんにとって、とてもありがたいことだった。
また、狩人の息子に転生したときは3日間生き延びる必要があった。
その世界には「面食い」と呼ばれる恐ろしい獣がいた。そんな厳しい世界に生きている人は、より強く「生き延びたい」と願うだろう。
(そっか、役目は……転生先の本人が願っていることでもあるんだ……)
立ち上がり、頭上の鍾乳石を見据える。
(現状……世界や自分に危機が迫っているわけじゃない……。ほかに仲間や敵も見当たらない。だとすれば願いは自分に関することでほぼ確定……)
コウモリといえば頭を下に向けた逆さまの姿勢だ。
自分自身がそれをやりたくてウズウズしているのなら、役目はほかに考えられない。
背中の羽を動かし、こんしまちゃんは再び飛翔する。
ついで宙で回転して逆立ちの体勢に切り替えようとした。
しかし足が頭よりも上がらない。
何度やっても逆さまになれない。
「しまった……」
この感覚には覚えがあった。
逆上がりができなかった小学生のころの記憶がよみがえる。
どうやら役目は、簡単に果たせるものじゃないらしい。
(宇宙使いの魔女に転生したときは宇宙ダムのショーを成功させることが役目だった……でも最初はコップ1杯の闇と星を浮かすことしかできなかった……)
背中にコブのある世界に転生したときもニセモノのコブをしょっていることをカミングアウトしようとしたけれど、クラスメイトらの雰囲気に押されてそれがなかなかできなかった。
以上のことからこんしまちゃんは、異世界転生時に与えられる自分の役目の特徴は以下の3つじゃないかと結論づけた。
①転生先の本人だからこそ実現できること。
②その本人が心の底から願うこと。
③精神的な理由などにより現状その本人にとって実現が困難であること。
「……きっとそうだ。バロメッツの世界でも墓かぶりの世界でもほかの異世界でも……わたしの役目はこの3つの特徴を満たしていたと思う……」
今はナビゲーターが消えてしまったけれど、それでもこんしまちゃんは自分のすべきことを自分で導き出すことができた。
「逆さまになることは……コウモリだからこそできること。今のわたしは逆さまになって鍾乳石にぶら下がりたいとも思ってる……しかも当の逆立ちがうまくいかない……3つの特徴に当てはまる」
ここで逆さになって役目を果たし、転生に成功すれば自分の仮説があっていることの証拠にもなる。
* *
こんしまちゃんは成功するまで何回も何回も体を宙で逆さまにしようと試みた。
100回を超えたあたりから、足を宙に上げた回数を数えるのをやめた。
諦めることもできる。
だけどこんしまちゃんは気になっていた。
(わたしはどうしてこの体の持ち主として転生したんだろう……)
なぜこの体は自分の魂を選んだのか。
魂を逆転させた言葉――すなわち生まれ変わりを示す「しまった」を乱発した結果こんしまちゃんは転生をくりかえしている。
とはいえ日本語に似た言語を使用する世界にしか転生しないことからも分かるとおり、こんしまちゃんの転生は完全にランダムなものじゃない。
あるいは、その転生先の人物さえも適当に選ばれているわけじゃないのかもしれない。
やりたいことがあって……でもそれをなかなかできなかった人が現状をなんとかしたくてこんしまちゃんの魂を呼び寄せたのではないか。
ただし転生したこんしまちゃんはその転生先の人物として存在することになる。
だからこんしまちゃんの魂が別の体に憑依したわけでもない。こんしまちゃんの「認識」だけが転移していると言うべきか。今の魂の本体にしても、もとのこんしまちゃんとは違う。
(この世界に転生した自分はその自分として……願いをかなえなくちゃいけない)
だから諦めたくない。
再転生するために役目を果たさないといけない――という事情を抜きにしても。
* *
そしてついに――。
こんしまちゃんの両足が頭よりも上に来た。
そのまま鍾乳石のゴツゴツした箇所に足を引っかける。
「やったあ……っ!」
頭を真下に向け、逆さになった。
まとっていたマントが重力方向に垂れ下がる。
でもコウモリだからなのか、頭に血がのぼったりすることはない。
ついで淡い光がこんしまちゃんの体をつつむ。おなじみの、次の転生の合図だ。
ここでこんしまちゃんが逆さまの体勢で「あ」と声を漏らした。
「しまった……逆上がりみたいに足を上げなくても……最初から鍾乳石にしがみついた状態でそこに足を引っかけて……体を逆さに垂らせばラクだったんじゃ……」
でもすぐに笑う。
「でも……がんばって実際に逆さまになれたんだから、いっか……」
魂の奥底が喜んでいるのが分かる。
「よかったね……わたし」
* *
そうして自力で役目を果たしたこんしまちゃんは、淡い光と共に再転生に成功した。
時間帯は昼。
目の前に、荒野にたたずむ家がある。
ただしその家は壁も屋根も炎でできている。
内側からドアがあき、10歳くらいの女の子が姿を見せた。
水でできた服をまとった女の子だ。
彼女がこんしまちゃんに気づいて甲高い声を出す。
「お、てめえ……こんしまちゃんじゃねえか!」
「ミズキちゃん……! 会えてうれしい、久しぶり……!」
どうやらここは、精霊の血を引く生き物で満ちあふれた世界のようだ。
前に転生したときのように、こんしまちゃんも胴体に赤い炎を着ている。
(今のわたしは前と同じ炎人種みたい……でも、この体の持ち主はなんでまたわたしの魂を宿すことを選んだんだろ……あ、ナビゲーターさんも捜さなきゃ……)
そんなふうに考えるこんしまちゃんに、女の子――ミズキが深刻そうな視線を向ける。
「ウ……ウチも再会できてうれしくねえわけじゃねーけど」
小声でそう言ったあと、付け加える。
「てめえも困ってるクチだろ。世界がクリやべえことになってっから」
「やべえこと……?」
ク○をクリと言い換えるミズキに安心しながらも、こんしまちゃんが首をかしげる。
対するミズキは頭をかかえた。
「知らねえのかよ。あ~、クリッ!」
髪をわしゃわしゃしながら説明する。
「なんか北方で突然巨大な獣どもが発生してみんなを襲ってるってウワサになってんだろ」
水をまとった服が、沸騰したようにゴボゴボ鳴った。
「死者も出てる。どいつの仕業かは知らねえが、マジでムナクリわりい話だわ」
* *
☆今週のしまったポイント:3ポイント(合計84ポイント)
次回「未知同士」に続く?




