未知同士
もともといた世界に再転生するため――そして異世界同士を合体させて最終的に消滅させようとたくらむナビゲーターの野望をとめるため、こんしまちゃんは転生する。
その先の世界で炎人種になったこんしまちゃんはミズキと再会した。
(前に転生したときはミズキちゃんと名前を探し求めたっけ……)
でもミズキによると、この世界に巨大な獣が出現したらしい。
「とりあえずこんしまちゃん、ウチと一緒に南に逃げっぞ」
こんしまちゃんの炎の服とは異なり、ミズキは水の服で全身をおおっている。
自分のわき腹の水をもいだミズキはそれを後ろに投げ、炎でできた家をシュウシュウ消した。
ミズキが右手でこんしまちゃんの左手をつかんで引っ張る。
「とはいえ特別に必要なとき以外、走りはしねえ。無計画に激しく動いてバテちまったら詰むかもしんねえからな」
「分かった、ミズキちゃん……」
こんしまちゃんはすぐに首を縦に振り、ミズキの右隣を歩く。
(ミズキちゃんは炎のおうちから出てきた……獣たちから逃げる途中で、体力を回復させるために休んでいたんだ……ミズキちゃんを見習ってわたしも無理をしないようにしなきゃ)
荒野を進みながら、こんしまちゃんがミズキに問う。
「北方に現れたっていう獣は、どんなヤツなの……?」
「それが分かんねえんだわ」
悔しそうにミズキが顔をゆがめる。
「クリでけえ鼻を持つ四つ足のピンクの動物でウチも遠くからそれを見たんだが、あんな生物にはお目にかかったことがねえ」
「大きいお鼻に……四つ足……ピンク」
こんしまちゃんには心当たりがあった。
「もしかしてブタ……?」
「てめえ……知ってんのか」
「バロメッツの世界で巨大なブタさ……ブタに食べられそうになったし、たぶんそれと同じ種類かも」
「あ? なんだそのバロメなんたらってのは。ブタとかいうのも初耳だ」
「しまった……」
反射的にこんしまちゃんは口を閉じた。
でも直後、考えなおす。自分の知っていることをわざわざ秘密にする意味はあるのかと。
これまでこんしまちゃんはいくつもの異世界のあいだを何度も行き来してきた。
とはいえ転生や異世界についてナビゲーター以外に話したことはない。
それぞれの世界に生きている人たちにとって、こんしまちゃんの転生も異世界の存在も関係のないことだったからだ。
(だけど……巨大なブタさんのいるバロメッツの世界がミズキちゃんの世界とすでに合体していたとしたら……もう無関係じゃない。ナビゲーターさんは前の世界で今週のしまったポイントを消費して2つの世界を合体させたみたいだった……きっとそのせいで、ミズキちゃんのいる世界にブタさんが現れたんだ)
今まで離れていた異世界同士がくっついてそれでミズキたちが困っているのなら、むしろ事情を話すべきとこんしまちゃんは結論づけた。
「バロメッツというのは羊と呼ばれる動物を生やす植物のこと……実はこの世にはミズキちゃんのいる世界以外にも世界があって、そこにバロメッツや巨大ブタが生きているの……」
「いきなり、なにほざいてやがんだよ」
戸惑いながらもミズキがにらむ。
「適当こいてんならてめえの炎、全部消火すっぞクリッ!」
「……わたしの魂はいろんな世界を渡り歩いているんだ」
ひるまずにこんしまちゃんが言葉を継ぐ。
「だからミズキちゃんのいる世界だけじゃなくて巨大ブタのいる世界も知ってる……」
「信じられるかっての。……仮にウチらの知らない世界があるとして、なんで今のタイミングでいきなりブタとかいうのが出てくんだよ」
「覚えてるかな……前にわたしはミズキちゃんと名前を探しているときに炎をまとったハムスターを連れていたよね……わたしはその子をナビゲーターさんとも呼んでいるんだけど、そのナビゲーターさんがミズキちゃんの世界と巨大ブタの世界を合体させちゃったみたいなんだ……」
「意味……分かんねえわ」
額に右手を当て、大きく息をつくミズキ。
「でも思い出してみれば、かみしゃまはてめえのハムスターに対して『この世界の生き物じゃない』って言ってやがったな」
以前こんしまちゃんとミズキがこの世界で炎の竜を撃破したあと、チョウの姿のかみしゃまはナビゲーターに乗っかられていた。そのときの言葉である。
「あのクリ野郎、まるでほかにも世界があるかのような口ぶりだった。そして最初からハムスターとこんしまちゃんは一緒にいた。ってことは、こんしまちゃん自身も別世界の人間だったわけか?」
「実は、そうだったの……黙っていて、ごめんなさい……」
「別にいいっつーの。前会ったときに同じことを言われてもウチは絶対に信じなかったし」
右手を額から離し、軽く振る。
「ともかく突然現れた獣どもにかみしゃまの意味深な発言――これらを説明するにはウチらの知らない世界があるって仮定しねーとだめなんだろうな。ま、当然100パーは信じちゃいないが、3パーくらいは信じてやるよ」
「ありがとう、ミズキちゃん……」
ついでこんしまちゃんはなにかを探すかのようにミズキの周囲に視線を走らせた。
「ところでミズキちゃん……かみしゃまは?」
「それがあのクリ野郎、しばらくはウチと一緒にいたんだけどさあ、巨大な獣が北方に発生したと聞いて自分だけで様子を見に行きやがったんだ。ウチには避難するように言ってな。やることがつくづくクリだわ」
「そうなんだ……まあ、かみしゃまだったらだいじょうぶなんだろうけど……あ」
ここでこんしまちゃんは前方に小麦畑を見つけた。
水の粒でできた穂の一部がシャボン玉のように浮いて割れる。
その小麦畑がゆれ、キツネに似た三角形の茶色の耳がなかからのぞいた。
「なんだ……? でけえ獣じゃねえようだが」
「行ってみよう……」
ミズキとこんしまちゃんは駆け足になって小麦畑に入る。なお、こんしまちゃんのまとう炎によって小麦が燃えることはなかった。
キツネ耳が小麦のあいだを縫って近づいてくる。
耳の下には女の子の顔があった。
彼女は黄色い上下を着ているようだ。
こんしまちゃんはキツネ耳の女の子と目を合わせて驚く。
「あぐりちゃんもここにいたんだ……っ!」
「ま、待ってください。どうしてあなたがあたしの名前を……?」
女の子――あぐりが目をぱちくりさせる。
こんしまちゃんは確かにバロメッツの世界であぐりと会ったけれど現在は炎人種に転生しているから、あぐりにとっては初対面も同然だ。
それに気づき、こんしまちゃんがあとずさる。
「しまった」
宇宙ダムの世界でも同様のやらかしをした記憶がある。
「いきなりごめんね……」
「い、いえ」
続いてあぐりがミズキに視線を向ける。
とくにミズキのまとっている水の服が気になるようだ。
「あなたたちは、いったい」
「……てめえら、知り合いじゃねんだな。ともかくウチらは避難してんだよ」
キツネ耳にはふれず、ミズキが小麦のあいだをかき分ける。
「北にでっけえ獣どもが発生したからな」
すでにこんしまちゃんに伝えたことをくりかえした。
「てめえもウチらと逃げよう。……こんしまちゃんも、こいつと一緒でいいよな?」
「こんしまちゃん……お姉さん?」
瞬間、あぐりがその名前に反応した。
こんしまちゃんのウェーブのかかったくせ毛を見る。
「……あれ? 本当にこんしまちゃんお姉さんなんですか。雰囲気、変えました?」
「やっぱてめえら知り合いかよ」
ミズキがあぐりとこんしまちゃんに交互に視線を送った。
「もしかして……てめえ、バロメなんたらって知ってっか」
「バロメッツのこと? 知ってるもなにも、常識じゃないですか」
あぐりは首をひねりながら答えた。
対するミズキが質問を重ねる。
「じゃ、かみしゃまは?」
「なんですかその抜けた響きの言葉は」
「マジか……かみしゃまが分からないってことは、この世界の人間じゃねえな」
それからミズキはあぐりのそばを過ぎ、南にどんどん歩いていく。
「ともかく急ごう。ウチはミズキ」
振り返り、あぐりのキツネ耳を見つめる。
「てめえみてえなヤツとは会ったことねえが、せいぜいクリアマじゃないことを祈るわ」
「あたしはあぐりです」
少しほおを膨らませつつ、あぐりが耳をピクピクさせる。
「こっちもあなたみたいな『水を着た人』を見るのは初めてですが、あなたが――ミズキが生きようとしているのだけは分かります」
あぐりがあたりのシャボン玉を割りながらミズキについていく。
こんしまちゃんも2人に続こうとした。
だがこのとき、灰色の影が左の地平線で動いた。
とっさにこんしまちゃんがあぐりとミズキに声をかける。
「あれには見覚えがある……! 巨大オオカミだよ……みんな、身を伏せて……」
「……あんなのもいるのかよ。しかも東からだと、クリっ」
ミズキはオオカミと聞いてもピンと来ていないようだったが、こんしまちゃんの声に合わせて小麦畑のなかにしゃがんだ。
あぐりもこんしまちゃんも身を低くしてゆっくりと小麦のあいだを移動する。
しかし次の瞬間、大地が震動した。
灰色のオオカミが駆けてきたのだ。
その姿はみるみるうちに大きくなった。
10メートル以上の幅を持つ口をひらき、口蓋と舌に生えそろった10列の牙をのぞかせる。
そうして水の粒をつけた小麦の束ごと、こんしまちゃんとミズキとあぐりはオオカミの口に飲み込まれた。
しかも、まずいことに今のこんしまちゃんは不味くなかった。
オオカミは口先を天に向けて気持ちよさそうに遠吠えを響かせたのち、小麦畑を踏み荒らした。
シャボン玉の割れる音と共に、巨大オオカミが西へと向かう。
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☆今週のしまったポイント:2ポイント(合計86ポイント)
次回「羊と勇気が湧いてくる」に続く?




