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コウモリはコウモリ

 バロメッツの世界で役目を果たし、かつその世界で日本語っぽい言葉が使われているのを確かめたこんしまちゃんの体が(あわ)い光につつまれる。


 海上を泳ぐキツネ耳の女の子――あぐりの胴体(どうたい)につかまったまま、こんしまちゃんの意識が(うす)れていく。


* *


 次に起きたとき、こんしまちゃんは自分の背中に黒い(つばさ)が生えていることに気づいた。

 翼の形状はコウモリのものに似ている。


 着ている白いシャツの背中には2つの穴があいており、そこから羽を出している。

 ただし(むらさき)のマントの(した)(かく)された状態だ。


 長ズボンと(くつ)は黒い。

 ほかに、とくに変わったところはない。


 現在いるのは……天井(てんじょう)から鍾乳石(しょうにゅうせき)がぶら()がっている洞窟(どうくつ)だ。

 本来であれば暗闇(くらやみ)のはずなのに、今のこんしまちゃんの視界はクリアである。


 そして正面にコウモリのぬいぐるみが()いている。

 無音ではばたき、滞空している。


 コウモリがこんしまちゃんと目線の高さを合わせ、(くち)をひらく。

 洞窟内に声が反響(はんきょう)する。


「今回あなたはコウモリに転生(てんせい)しました」

「そうなの……?」


 こんしまちゃんはウェーブのかかったくせ()を右手でいじり、背中の翼をはためかせる。


「どっちかというと吸血鬼(きゅうけつき)とかコウモリ人間とかになったんじゃないのかな……だってコウモリが人の姿をしているのは変だし……」

「コウモリはコウモリ以外の何者でもありませんよ」


 まじめな調子でコウモリが言う。


「どんなかたちであっても、その『自分』は『自分』としてすでに完成しているんです」


 ついでこんしまちゃんをじっと見る。


「どうしたんです。こういうときこそ『しまった』と(くち)にするチャンスじゃありませんかね。軽はずみに『変』と言ってしまったことを反省してですねえ」

「……あ、そうだったね。コウモリさんの言葉に感心しちゃって忘れてた……『変』と言ったことは……ごめんなさい……」


 こんしまちゃんは真上(まうえ)の鍾乳石をちらりと目に()れて言葉を()ぐ。


「ここはまだ来たことのない異世界だよね……ここでも日本語に似た言葉が使われているんだろうけど……今回のわたしの役目は……なにかな……」

「バロメッツの世界でも日本語に近い言語が使用されていると分かったことですし、こんしまちゃんの転生先の異世界が限定的なことがほぼ確定したのは喜ばしいですね~。何回も転生を反復すれば、そのうちもとの日本語の世界にも帰れるってものですわー」


 コウモリはこんしまちゃんの質問に()()()()答えなかった。


「ねえ、こんしまちゃん……こんしまちゃんはこれまでワタシのそばでたくさんの『しまった』をごちそうしてくれましたよね」

「確かに……たくさん言った。(たましい)を反転させた『しまった』のエネルギーを食べ物とするコウモリさん……いやナビゲーターさんはワタシの『しまった』でお腹を満たしていたんだよね……」


「そのとおり。で、現在こんしまちゃんが保有している『今週のしまったポイント』は78ポイント」

「わたしはこれまで……」


 つい最近(おな)じようなことを聞いた記憶(きおく)があるが……こんしまちゃんはとくに疑問に思わず返した。


「異世界で78回も『しまった』と(くち)にしたんだね……」

「……いえいえ、これはあくまで今の()()()()()()ですよ」


 (ふく)みのある言い方をしてコウモリがふふっと笑う。


「消費したぶんを計算に()れるのを忘れていますよ。ワタシが町娘(まちむすめ)としてポイントの使い道を説明したあと、こんしまちゃんはその異世界に再転生するために5ポイントを消費しました」


 相手の言葉を待たず、淡々と確認する。


「次に面食(めんく)いのいる世界で役目を果たした直後、狩人(かりゅうど)の親子の様子を見るために1ポイント消費。さらに墓かぶりの世界に転生する前に『つよつよ主人公』を転生先として指定したため5ポイント消費。直近ではバロメッツの世界に人間として転生する(さい)に10ポイント消費」

「5たす1たす5たす10で計21ポイント消費していたんだね……」


 こんしまちゃんが両手の指を折り、感慨深(かんがいぶか)げにうなずいた。

 コウモリもこんしまちゃんの首肯(しゅこう)に合わせて首を縦に()る。


「まったく……あなたの『しまった』による今週のしまったポイントの(ちから)はすごいものですよね」

「……コウモリさん?」


「だからこそあなたの(となり)でおこぼれにあずかる意味もありました。本当に美味(びみ)な食べ物ですけど、むしろ『今週のしまったポイント』の真髄(しんずい)はさまざまな異世界に干渉(かんしょう)できるその(ちから)に存在すると思いません?」


 コウモリの眼球が、こんしまちゃんの目の前でギラギラと(ひか)った。


「とくに……忘れてはいないでしょうけど15ポイントを使えば『既知(きち)の世界1つを消滅(しょうめつ)させる』ことができる。これがもっとも魅力的(みりょくてき)ですね」

「わたしはそんなこと……しない……」


「まあ、()()()()やらないでしょう。でも()()()()()()()()()()()()()()


 そしてコウモリから、紫色(むらさきいろ)のまがまがしい光がほとばしり始めた。


「なに言葉を失っているんですか。あれですよ、『ついに本性(ほんしょう)を現した』ってヤツですよ~。最初からワタシは今週のしまったポイントを消費して世界を消滅させることをもくろんでいたわけですからねえ。とはいえあなたがストックする『今週のしまったポイント』の『おこぼれにあずかる』と言ったのもけっしてウソじゃあないですけど~」

「な……なんで」


 (くちびる)(ふる)わせながらあとずさり、こんしまちゃんは問う。


「なんで今、言うの……? そういう野望は隠していたほうがよかったんじゃないの……」

「そろそろキリのいいタイミングですからね」


 無音だった翼が、バサッバサッという(おと)を立て始めた。


「さっきあなたが言ったとおり、こんしまちゃんはこれまでに計21ポイント今週のしまったポイントを消費しました。そして現在あなたの保有する今週のしまったポイントが78ポイントだから、これまで積み重ねてきた実質的な累計(るいけい)ポイントは――78たす21で99ポイントなんですわ~」


「しまった」

「はい、今ので……」


 コウモリの両手が一瞬(いっしゅん)だけはばたきをやめ、こんしまちゃんをビシッと指す。


「100ポイント」


* *


☆今週のしまったポイント:1ポイント(合計79ポイント/累計100ポイント)

次回「ガイドの消失」に続く?

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