〜彼女side〜
君が私にとってどんな存在だったか、君は多分、わかってないと思う。君と過ごした日々は私の大切な宝物。今でもそれは変わってないよ。私に笑顔を思い出させてくれたのも君。涙を教えてくれたのも君。今考えると、全部君だったね。私も好きだった。あの時、気持ちを伝えてくれて、ありがとう。ごめんね。
「なんで、いつも無表情なの?誰にでもヤらせるの?」
君は私にそう言った。正直、とてもビックリした。私のことに興味もってくれる人は、君が初めてだったから。
君に理由を話した時、君は驚いてた。
あの時はごめんね。ビックリしたよね。
そう、君に伝えたい。今となっては無理なことだけど。
それから君はなぜか、私の近くにいるようになった。最初は不思議で仕方がなかった。でも、そのうち、君と一緒に過ごすのが当たり前になった。それでも、学校外では、カラダを使って援交をしていた。お金に困っていた訳では無いが、刺激が欲しかった。その刺激で強姦された事実を上書きしたかった。
そしてある日。君は私に初めて怒った。原因は
「話し相手になってくれてるお礼に、ご奉仕してあげる。」
この私の発言にあると思う。そしたら、君は言った。
「自分を大事にしろよ!」って。気が楽になった。君のこの言葉一つで。私はその時、久しぶりに人前で泣いた。自分でも信じられないほど、声を上げて泣いた。君は抱き締めてくれた。そっと。その手が温かくて、涙を抑えることなんて出来なかった。
男はみんな私のカラダにだけ興味を持っていると思ってたから。
だからかもしれない。私はその時、両親にも言っていない秘密を言おうと思ったのは。心のどこかで、嬉しいという感情があったから。すべてを話し終わってから、私は久々に笑った。心の底から笑顔で。その時、援交とかは、もう辞めようと、心に誓った。
私の中で君は特別な存在になっていった。
それは、よりにもよって私が君の前からいなくなる、一ヶ月前のことだった。
その日、帰ると両親は向かい合って静かに座っていた。
いつもは喧嘩しかしないふたりが、珍しい光景だった。私は母親の隣に座り、様子を見ていた。しばらくして2人から告げられたのは、離婚するということ。それともう一つ。
一ヶ月後に引っ越すということ。それは、転校を意味していた。
その日から、学校を休むことが多くなった。転校先への挨拶。引越しの荷造り。母親と暮らす物件探し。
「学校来ないで何してるの?」
「サボりかな。」
君に初めて嘘をついた。転校する事は、言いたくなかった。君は気を使うだろうし、最後まで楽しい時間を過ごしたかったから。
先生と2人で話しているのを見て君は心配してくれた。
私が初めて好きになった人が、こんなに優しい人で良かった。
と、心から思った。
最後の一週間。タイムリミットが迫る中、できることは限られていた。私は君との思い出を作りたくて、形に残したくて、学校でも、放課後でも写真をたくさん撮った。
今見ても、どれもとてもいい写真。
引越し当日。この日は学校には行かなかった。行くつもりだったけど、母親に止められた。だから、君とはお別れできないと思った。連絡先をお互い知らないことは分かっていた。でも、その方が君のためだと思った。
だから、君が来てくれた時、凄く嬉しくて、泣きそうになった。
「好きだ。ずっと好きだった。」
君はそう言ってくれた。嬉しかったよ。本当に。でも、君にはもっとふさわしい人がきっといる。だから、最後に嘘をついた。精一杯の演技で。君の気持ち自体をなかったことにした。
だけど、私は最後に悪いことをした。キスをした。
私も、そして多分君も、ファーストキスだったと思う。
君は泣いてたね。私のために涙を流してくれた。それだけで充分だった。そして、私も背中を向けて泣いた。お互いサヨナラは最後まで言わなかった。
私は今、弁護士になった。とても多忙な毎日だが、充実している。夫がいて、現在妊娠中。きっと、君と出会っていなければ、私は弁護士にもこんなに優しい夫にも出会っていなかった。前に出張で、地方に行った時、とてもあの時の君に似ている人を見た。妻らしき人と子供と一緒に歩いていて、幸せそうだった。
君は今、何をしていますか?幸せですか?
あの時、私が君にキスをしたのは、君のことが本気で好きだったから。そう、あの短い時間は私にとって、
それは確かに恋だった。
読んでいただきありがとうございました。