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熟知した乙女ゲームに類似した異世界に転生して、可愛い悪役令嬢の妹のためにヒロインの逆ハ-フラグを全力で叩き潰していますが、なにか?

作者:剣伎 竜星
 連載の更新停めているのに新作投稿……当作品のプロットの原型は実は一昨年から存在しておりまして、積もり積もった創作意欲からのストレスを少々無理矢理、いやかなり強引に発散するために短編として連載用プロットを再編して組み上げ直し、少ない合間時間を使ってツギハギ執筆したものです。

 そんな作品ですが、楽しんでいただけましたら作家冥利に尽きまする。よろしければお楽しみください。では後書きでノシ

※2017/01/18 19:50 誤字などを確認したため改稿しました。
「クリスティア・アルジェント、俺はお前との婚約を破棄する! そして、新たにこの、ジャンヌ・オルレアと俺は婚約する!!」

剣呑な感情を乗せたイケメンボイス、この国の王子の声が今生の別れを惜しむ卒業記念パーティー会場の講堂に響き渡り、パーティー参加者の耳目を集めた。

 声のした方向では制服ではなく、その瞳の色よりも淡い薄緑色のドレスを纏った一人の美しい銀髪の女生徒ががっしりした体格の男子生徒に地面に取り押さえられていた。

 先ほどの声の主であるこの国の王子は1人の可愛らしい金髪の青いドレスを着た女生徒に寄り添われて取り押さえられている銀髪の女生徒を見下ろして睨みつけている。
 王子に寄り添う女生徒は怯えたように王子の影に隠れている。しかし、その口許が王子の宣言の後、一瞬だが笑みが浮かんだのを俺は見逃さなかった。

 そして、その王子と女生徒2人の周りにはこの国の次代を担うと期待されている王子の取り巻きの男子生徒3人が揃って、取り押さえられている女生徒に侮蔑の視線を向けていた。

 そんな彼等を遠巻きに眺めるパーティーの参加者達、先ほどの式で卒業したばかりのこの学園の卒業生達と在校生、彼等の父兄といった聴衆の7割は爵位に差はあれどこの国の貴族達がこの突然の事態に興味と困惑を抱いているのは一目瞭然だ。

 取り押さえられている女生徒はこの国の宰相を務めている公爵家の令嬢。彼女は次期王妃と目されている才色兼備の才媛である。その少女は現国王唯一の実子で次期国王と目されている第一王子の婚約者と噂されていた周囲の評価も高い人物である。


 平民や貴族といった身分を問わず国外からも多くの留学生が在籍しているこの王立学園の伝統の行事である卒業記念パーティーで、王子が一方的に評判の良い公爵令嬢との婚約破棄を宣言したから大問題だ。

 聴衆と化している人々とは対照的に困惑していない人々、取り押さえられているクリスティア・アルジェント嬢と親しい生徒や常識のある生徒達とその父兄は冷ややかな視線を王子達に向け、その中には怒りに震えている者も少なくない。

 俺は皿に盛っていた料理をきれいに平らげて、歓談していた地味な服装ながら気品(・・)感じさせる(・・・・・)相手に丁重に断りを入れ、その渦中に向かうことにした。

 おっと、自己紹介が遅れて申し訳ない。俺の名はラファール・アルジェント。あそこで一般常識を母親の胎内に忘れてきた非常識なゴリラに取り押さえられている銀髪碧眼の美少女、クリスティア・アルジェントの兄にして、アルジェント公爵家の長男だ。

 先ほどからの語りから、懸命な方々は察しているだろうが、このテンプレ展開は正しく乙女ゲームの婚約破棄イベントのそれだ。

 俺は乙女ゲーム『永久(とわ)なる(とき)のなかで~聖剣のラ・ピュセル~』に酷似した魔法がある中世ヨーロッパファンタジー風のこの世界に現代日本から転生した転生者だ。

 最も、転生したと言っても4歳の時に可愛い妹をかばって屋敷の庭にある池に落ちて溺れ、生死の境を彷徨(さまよ)ったのがきっかけとなって転生したことに俺は気がついた。それがなければ俺は依然として貴族の坊やとして甘やかされて育てられて落ちこぼれ、公爵家から追い出されていただろう。

 今でこそ俺はラファール・アルジェントとして、折り合いをつけてこの世界に順応して生きている。しかし、記憶が戻ってゲームの世界の登場人物となったと思った当初、俺は当惑して、非常に混乱した。正しくはゲーム世界ではなく、それに類似(・・)した世界だった訳だが……。

 この世界が俺の知っている乙女ゲームの世界に類似していると気づくきっかけとなったのは『永久なる刻のなかで~聖剣のラ・ピュセル~』(以下、永久刻(とわとき))の悪役令嬢の家名であるアルジェントを記憶が戻って、最初に耳にした瞬間だった。

 前世で腐女子で乙女ゲーム儲け(しんじゃ)だった実妹から『永久刻』を半ば強制的にコンプリートさせられた末に、キャラデザとキャラボイスが完全に腐女子を意識した実力派による完全な豪華布陣。しかし、その意外なゲームの完成度の高さにハマってやりこんでいなければ、この世界が永久刻の世界に酷似していることに気づかなかっただろう。
 おそらく魔法のあるファンタジー世界に転生したという認識で、前世知識を使ってのチート無双を試みて、公爵領を繁栄させて片手団扇のまったり異世界ライフを送って今生を終えていたと思う。

 さて、『永久刻』というゲームでクリスティア・アルジェント嬢の役割は所謂(いわゆる)、典型的な悪役令嬢である。高い魔力と文武に優れ、銀髪碧眼に端正な美貌と理想的な女性のボディラインをもつ才媛。しかし、その一方で性格は酷く我儘で傲慢なクリスティアは性格にこそ難はあるものの、その能力は次期王妃と評され、周囲から注目されていた。

 また、彼女はヒロインの「ジャンヌ・オルレアン」男爵令嬢の攻略対象の1人であり、攻略ルートがグランドエンド、所謂、逆ハーレムルートと攻略ルートが重複しているこの国のイケメン王子、「アラン・ファルス」の婚約者とクリスティアはなっている。ゲーム開始当初では。

 公式設定では王家の一粒種のアラン王子と人を惹き付ける笑顔が魅力だったクリスティア公爵令嬢は幼少のときに王命で婚約する。2人の仲は家族の期待を背負う者同士であることを知り、お互いに共感し合い、良好だった。クリスティアは次期王妃として、アラン王子に相応しい才女であろうと周囲にバレバレだが必死に努力する姿を隠そうとし、結果を出して順風満帆な人生を送っていた。
 しかし、学園に入学してから彼女の人生が狂い始め、悪役令嬢の道を歩むことになる。

 爵位の低い男爵家の令嬢ではあるが、爵位の高い貴族に劣らない魔力をもつ『永久刻』のヒロイン、ジャンヌ・オルレアが婚約者であるアラン王子と急接近し、恋愛関係になった。傲慢な貴族らしい貴族であるクリスティアをアラン王子は次第に嫌悪するようになり、素朴ながら陽だまりの様なジャンヌに惹かれるようになったからである。王子が自分には向けなくなった笑顔を向ける格下貴族の娘のジャンヌにクリスティアは激しく嫉妬をして、王子が主催するパーティ会場での叱責など嫌がらせをするようになる。

 『永久刻』で定期的に発生する各種イベントで悪役令嬢のクリスティアは邪魔者として登場し、王子とジャンヌの仲を裂こうとしてくる。
 ゲームでは出現する選択肢と日々の学園の授業で鍛えるステータスの数値が個々の選択肢の出現時の規定値を上回ることと、ミニゲームの成功でイベントの成否が分かれる。

 全てのイベントの成功と他の攻略キャラのクリア条件を満たしていればグランドエンドルートに繋がる卒業記念パーティーでの〔婚約破棄〕イベントが発生する。ただ、王子の重要必須イベントのみ成功できれば王子の個別エンドに、重要必須イベントを1つでも失敗していた場合や誤った選択をしていればバッドエンドになる仕様だ。

 ちなみにどの攻略者のルートでも”クリスティア”を待ち受ける結末は悲惨であった。グランドエンドルートでは婚約破棄後に公爵領の屋敷で謹慎させられるが、『永久刻』の後半戦といえるRPGパートで敵役として再登場し、ジャンヌ達に正々堂々、単身で4人に(・・・・・・)挑み、敗れて体が塩になって崩れ落ち、跡形(あとかた)も残らない運命だ。

 アラン王子の個別ルートでは婚約破棄されたことを父母から叱責された上、辺境の特に戒律の厳しい女性専用の修道院に送られる。エンディングの後日談で、アラン王子とヒロイン、ジャンヌの結婚式の当日に”クリスティア”は修道院の自室で首を吊っている。

 バッドエンドルートではヒロインのジャンヌをアラン王子毒殺の容疑者に仕立てあげるのに成功した上で、”クリスティア”はジャンヌを自殺に見せかけてアラン王子と同じ毒で殺すのに成功する。しかし、事件の真相に辿り着いて物証を押さえた王宮近衛騎士団に悪役令嬢の”クリスティア”は捕らえられて、公開処刑される。



 アラン王子が所謂、俺様系な性格なのに対し、クリスティアの弟、フィリップは沈着冷静でクールな後輩キャラ。年下ながら王子を諌めることができる王子の目付け役という珍しいポジションのキャラだ。彼のルートでも悪役令嬢の”クリスティア”は事ある毎に邪魔をしてくる悪役として登場し、奔放なヒロインであるジャンヌのその振る舞いは公爵家に相応しくないと”クリスティア”はフィリップとの交際の妨害をする。

 フィリップの個別エンドでは、それまでの悪事が露見した悪役令嬢の”クリスティア”はアラン王子との婚約を破棄された上、公爵領の屋敷で隔離されて、失意のなか、心の病にかかって、家族に看取られずにその人生を終える。

 フィリップのバッドエンドはアラン王子にジャンヌに対する態度を責められ、婚約を破棄されて精神的に追い詰められた悪役令嬢の”クリスティア”は婚約破棄の原因となる密告をしたジャンヌが1人のときに襲い掛かり、ナイフで滅多刺しにして殺す。しかし、その後にジャンヌの死に怒り狂った弟のフィリップに長剣で斬り殺されることになる。

 他のキャラのエンドではフレバーテキストではあったが、”クリスティア”はアラン王子と結ばれるも、王子との子供はできなかった。好色なアラン王子は多くの側室を娶り、その側室の中の1人が生んだ子が王位を継ぐことになる。正室にも関わらず、”クリスティア”の扱いは側室以下になる。晩年、王となったアラン王子と顔を合わせることは全くなくなって、”クリスティア”は後宮で寂しく病死したとされている。以上のようにどのルートに入っても悪役令嬢の”クリスティア”の末路は死であったり、終身刑であったりと報われない。

 俺は『永久刻』をプレイしていたときも幸せな思考回路をしている脳みそお花畑なヒロイン達よりも悪役令嬢の”クリスティア”に同情し、共感していた。
 婚約者がいて、長年培った信頼もあるはずなのに平然と別の異性に乗り換えるのはどうだろうか。自分の婚約者に言い寄る同性に害意を持たない人間がいるだろうか。

 確かにゲームの”クリスティア”がしたことは悪事である。しかし、その過程は十分同情できるものであると俺は思った。そして、彼女の悪事に比して受ける報いはあまりに重いのではないだろうか。

 そう思っていたからか、俺は彼女の兄という立場のモブキャラに転生してしまったのだろう。ちなみに、前世の最期は終わったものである上、気持ちのいいものではないので割愛させていただく。



 閑話休題、前世の記憶とこの世界が『永久刻』の世界に類似していることに気づいてから、今日までただ手をこまねいて、俺は何もしてこなかった訳ではない。
 実はゲームでは冷えきっているはずの両親の仲がこの世界では正反対のおしどり夫婦(・・・・・・)だったりと微妙に異なっているのだ。

 故に、この世界であれば悪役令嬢の”クリスティア・アルジェント”にも幸せな人生を送れるのではないかと俺は考えるようになった。俺は覚醒してから精力的に様々な情報を収集・分析しつつ、考えられる可能性をできうる限り想定し、全てに対応できるように進めて、クリスティア・アルジェント、俺の可愛い妹である彼女があの様な不幸な最期を迎えないためにあらゆる手を尽くしてきた。

 シスコンと呼びたければ呼ぶがいい。今もそうだが、美幼女のクリスティアはマジ天使であった。映像記録を残す、俺が発明したこの世界初の魔導具『映像水晶(メモリー・クリスタル)』の試作品で俺は愛らしいクリスティアの眩しい笑顔を保存しており、それを観賞用、保存用、配布用、家宝用と複製している。

 俺の周囲のクリスティアと親しい者達はクリスティアの愛称をクリスとしているが、俺はティアと彼等とは違う愛称で彼女を呼んでいる。我儘で傲慢な性格にならないようにそれとなく教育もした。
 美幼女から美少女に成長した今、母に似て将来、美女間違いなしの素直で可愛いく、優しいティアの笑顔と幸せのためであれば、俺はティアの不幸の元凶で宿敵たる『永久刻』のヒロイン、ジャンヌの建てるフラグを全力で叩き潰してくれる!

 俺の辞書には『可愛い妹の敵は見敵必殺サーチ・アンド・デストロイ! 見敵必殺サーチ・アンド・デストロイ!!』と刻まれているのだ。



 話しは変わるが、ラファール・アルジェントという人物の容姿は残念ながら、イケメンであるアラン王子やクールな弟のフィリップ・アルジェントなどの『永久刻』の攻略対象キャラたちよりも格段に劣る。否、むしろ明後日方向の誰得なブサメンであり、のほほんとした雰囲気を漂わせる人畜無害な糸目な豚メンである。

 『永久刻』ではイケメンで万事そつなくこなす有能な好青年のフィリップにどうして公爵家の継承権を譲ってたのかは不明で、なぜかどのルートでもラファールはまともに物語りの表舞台に登場しないままで、いつのまにかフェードアウトしていた。

 『永久刻』でのラファールはヒロインであるジャンヌ達と同学年で入学し、学園の成績は中の中。意外なことに”クリスティア”が登場する全てのスチルの端に見事に見切れているが、その巨体の一部がわずかに確認できる。その製作スタッフの遊び心からの珍事があることから一部のファンからはそのスチル群を{ラファールを探せ!}とネタにされている始末だ。

 このようにラファールはゲーム上の役割は完全な脇役(モブ)であった。しかし、その当人になった俺自身は精力的に動き、覚醒してから起こりうるだろうティアの婚約破棄騒動からティアを守る同志を増やし、いざというときためにジョギングをはじめ、計画的に筋トレなどの自己鍛錬、魔術の訓練も早い内に始め、今も継続している。
 なぜか、今ではティア自身も「自分の身を守れる様になるため」という名目で両親の了解を得て、乗馬を始めとした鍛錬を俺と一緒にしている。

 最近ではかなりハードなトレーニングメニューもラファールの潜在ポテンシャルが高かったこともあって、肉体が耐えれる様になった。本来であれば、肉体が引き締まっていてもおかしくはないのだが、しかし、ラファール自身が抱えている厄介な事情(・・・・・)の所為でこの肥満な容姿は変わらない。けれども、俺は鍛錬を続けている。全てはティアの明るい未来のために。

 無論、この世界の勉学も頑張っている。前世知識とこの世界の学力水準が低いおかげで、入学当初は王国の歴史以外はほぼ楽勝だった。その後の頑張りもあって、最終的に俺は学園を首席で卒業することができた。当然、次席はティアだ。ジャンヌとアラン王子は10位外。フィリップは2年生の首席だ。

 また、俺は前世知識を活かしてこの世界になかった石鹸やシャンプーなどの衛生用品の製造を試行錯誤して商売を始め、公爵領の特産物にし、ファルス王国国内での独占商品化に成功した。

 他にも色々な料理を公爵領の特産物にして多大な利益を上げ、公爵である父に自治に関する献策もして、その成果をあげている。もちろん、弟のフィリップへの配慮と教育のフォローも怠ってはいない。

 諸々の事情(・・・・・)でラファールが父の宰相の地位とアルジェント家の家督を継ぐことができないことを俺は知った。そのため、弟のフィリップが継ぐことになっているから、俺は最悪、商人となって作った商会を運営して、影ながら父とフィリップの宰相の仕事に協力して、ティアの幸せを見届けていくことも俺の将来の1つとして視野に入れている。できれば国外にも商売の手を広げてこの王国になく、向こうの世界にあった食品作物を入手したい。外国に米はあれども、輸入しないとこの世界にはないのだ。

 堅苦しい宮仕えは勘弁だし、俺はこの世界のあのアラン王子のもとで働かされるのは真っ平御免だ。公爵領に引籠もることも考えてはいる。しかし、既に優秀な代官がいる。両親とティア、フィリップに俺の所為で余計な負担をかけたくないから、俺の公爵領での代官生活の実現性は低い。



 さて、俺自身のことを含め、いろいろと思い返しているうちに騒動の中心地に到着してしまった。これまでのことを含めて振り返っていたのは別に落ち着いていたからではない。

 それをしないと頭を駆け巡る怒りという表現では手緩いこの憤怒(・・)のあまり、伝統あるこの学園の講堂を廃墟にして、火の海に沈めかねないほど俺は今、目の前の光景が頭にきている。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「失礼致します殿下。先ほどのお言葉は真でございますか? 我が公爵家には陛下より、婚約破棄のお話は伺っておりません。
 また、先ほどから次期王妃と目されている私の妹を取り押さえている妹よりも身分の低い男を咎めないのは何故でしょうか?」

人ごみを掻き分けて辿り着いた俺は体内を駆け巡る激情を少ない理性で抑えて、公爵家の1人として、落ち着いて得意満面のアラン王子に問いかける。

「ふん、豚のラファールか。クリスとの婚約破棄は先ほど言った様に事実だ。父上にはまだ申し上げていないが、俺のジャンヌと添い遂げたいという願いは必ずや聞き届けてくださるだろう。
 ライルがクリスを取り押さえているのはライルが自発的にやったことだ。ジャンヌを不当に貶めたことを許せないのだろう。俺も同感だから咎めだてはせん!」

俺への悪口を混ぜつつ、言い放って返してきた王子に俺は怒りを通り越した呆れが生じてきた。

な に を 言 っ て い る ん だ 。 こ の 大 馬 鹿 阿 呆 は !

 王族との婚約は即ち国の最高権力者である王の命令によって行われる。
王の子である王子とて、王命による婚約の拒否権は認められない(・・・・・・)。これはこの国のみならず、この世界の貴族では常識で、学ぶべきマナーとしてお子様の時分に第一に叩きこまれることだ。

 王命に抗う(・・)にはこの世界に存在するらしい神の命令、神託、神命以外にはないとされているが、今の所そんなものが下されたことは1度も確認されていない。

 それから、未婚の貴族の女性に触れてよいのは同性または家族だけだ。暗黙の了解として、本人に接触を許された恋人・婚約者、拘束する様に王命を受けた騎士は例外となっている。
 それ以外の異性、釣り合いのとれない身分の者が未婚の貴族の女性へ勝手に触れることは禁じられている。また、未婚の女性の犯罪者を騎士が拘束する際も同等以上の出自の者と決められている。これはこの王国の騎士の常識でもある。

「ライル・エティエンヌ殿、2度は言わない。私の妹のクリスティアを放したまえ」

「……ふんっ」

「痛っ」

ライルは俺の言葉を無視して、鼻で笑い、俺への当てつけのつもりかティアを取り押さえる力を更に強めやがった……いいだろう、家ごと叩き潰される覚悟はできているのだろうな?

そ の 喧 嘩 高 値 で 買 っ て や ろ う ! ! 

 パチンと俺は指を鳴らす。次の瞬間、俺の目の前にライルに取り押さえられていたティアが仰向けになった状態で俺の目の前の空中に転移してきた。
 俺はティアをお姫様だっこで優しく抱きとめる。そして、ティアを抱きとめる前に再度指を鳴らしておくのを忘れない。

「ぐがっ!」

指が静まり返った講堂内に再び鳴り響いた直後、俺がティアを両手に受け止めると同時に、ライルの巨体が地面に沈み、脳筋男が地面に押し潰されてうめき声を上げた。

 親しい人間以外には隠しているが俺は実際は無詠唱で魔術行使ができる。指を鳴らしているのはその動作で短詠唱を行ったと見せ掛けるフェイク(・・・・)だ。
俺は手始めに【転移魔術】でライルが拘束しているティアを助け出し、【重力操作魔術】でライルに掛かる重力をとりあえず3倍にしたのである。

「お兄様……!?」

「大丈夫かい、ティア?」

先ほどまで気丈に振舞っていたが、大の男に地面に取り押さえられていたティアは俺に抱きつき、恐怖からか震えだした。

 俺は安心させるため、ティアの背中を撫でさする。ティアが抱きつく力を強めてきたので、彼女のたわわに(・・・・)育った部分を服越しに強く意識させられた。嗚呼、役得の至福の一時である。

 その一方で、聴衆の中の野郎共とティアをお姉様と慕う女生徒達から羨望の視線が俺に突き刺さる。しかし、

(うらや) む 位 な ら 行 動 し ろ よ 。 チ キ ン ども ! 俺 は 豚 だ が な !!

俺は彼らに向けた視線で自虐しながら、そう訴え、毒づく。

 ちなみに、ジャンヌ嬢のスタイルはティアと比べて、いや、ティアと比べるのはティアに対して失礼だ。同年代の女性と比較しても凹凸がほとんどない。大変慎ましやかな、素敵な洗濯板もしくは嘆きの絶壁かべとも言える。あっ、洗濯板と壁に失礼だった。

「ライル・エティエンヌ殿。先ほどの貴公の私の妹への、振舞い、我が公爵家への無礼はエティエンヌ男爵家の我がアルジェント家への敵対意思と看做させていただく。覚悟しておくのだな」

俺は地面につくばる阿呆にそう告げる。

「お…れ…は…がはっ!」

「反論は不要だ。先ほどの貴公の行動が全てを物語っているし、ここにいる卒業記念パーティーの参加者の方々が貴公の蛮行の証人になる。後程、このことは貴公のお父上、私の父は勿論、陛下にも報告させていただく」

反論しようとしたライルのアホに掛かる重力を俺は5倍にして反論を封じる。ライルは3倍の重力に抗って、なんとか起き上がろうとして、地面に強かに顔面をぶつけて打ち所が悪く気絶したようだ。下手に暴れられると危険だから、拘束するためにも警備兵が到着する(おむかえがくる)まで【重力操作魔術】は解くつもりは俺にはない。重力に潰されているがいい。

 落ち着いたティアを残念だが、俺はお姫様だっこから解放した。

 下位貴族にあたる男爵の子息が公爵令嬢に触れることは許されない。この常識と俺の警告を無視したライルに同情する者は聴衆の中には皆無であった。寧ろ、女性を中心に非難する視線をライルへ向ける者がほとんどだ。

 そんなライルの父、エティエンヌ男爵は実力で爵位を得て、功績で蒼騎士団長に登りつめた誠実かつ清廉な武人で、王国の武人の鑑といわれ尊敬されている。俺も何度か言葉を交わす機会があって、その人格を尊敬している。先の北の帝国との局地戦闘での武勲からようやく地位に見合う伯爵位を来月陛下から賜ることになっていたのだが……。ライルの母も良妻賢母と社交界で大変評判のいい人で母の話によると、男爵とは政略結婚だったが、それを超えて愛し合っているとか……ご馳走様でした。

 なんでそんな評判のいい両親から脳筋(こんなのが)が生まれたのやら。
まぁ、ライルの弟は兄を反面教師に頑張っているからいいか。

「ライル! ラファール、貴様、短詠唱だと!?」

ティアとフィリップ、俺と親しい付き合いのある人々を除いて皆、俺が詠唱の代わりに指を鳴らすことで魔術行使できる短詠唱が可能なことにやや遅れて気づき、驚愕している人が大半である。

「私の瑣末(さまつ)なことよりも殿下、妹のクリスティアがそこのジャンヌ嬢を貶めたという根拠をお教えいただけないでしょうか?」

俺は冷めた口調でアラン王子に問いかける。

「うっ、ジャンヌがクリスから俺に近づくなと言われ、先日、階段から突き落とされた。また先月、魔術で学園の制服を切り裂かれたとジャンヌ本人から申告があったのだ」

俺の雰囲気に気圧されたのか、王子は素直にそう答えたが……おい、それだけか?

苦々しく言い放つ王子の幸せな思考回路ぶりに俺は頭が、こめかみが痛くなってきた。

「私はそのようなアルジェント家の名に泥を塗るような恥知らずな好意は行っておりません!」

落ち着きを取り戻したティアがアラン王子の言い分に反論する。

「黙れ! 嫉妬に狂った貴様の言など信じられるものか!!」

ティア本人の否定も恋に盲目となったアラン王子には届かない。

恋 に 狂 っ た お 前 が 言 う な ! 

取り巻き連中のなかで冷めた視線を王子に送っているフィリップを除いて、取り巻き共は王子に賛同するように頷いている。アラン王子の横にいるジャンヌはといえば、おどおどしているように見えるが、王子の発言直後にほくそ笑んでいた。

 その一方で、俺たちの周囲の野次馬と化している聴衆たちは王子達の態度を冷ややかに見つめている。

「ティア、ここは私に任せくれないか?」

「……はい、お兄様にお任せいたします。

俺がティアに向かってそう告げると、ティアは俺の何かに気づいたのか、俺の頼みを承諾してくれた。

 そして、俺は聴衆の態度に気づかない彼等に心の中でもため息をつくと同時におつむのつくりが残念過ぎるジャンヌ達へ俺の辞書の一頁に従い、計画通り(・・・・)、攻撃を開始することにした。

「殿下、僭越ながら、女性貴族同士の諍いに男性貴族が干渉するのはご法度です。社交上の衝突である以上、当事者間で責任を以って決着をつけるのは社交界でのルールです。
 仮に公爵令嬢である妹のクリスティアが男爵令嬢であるジャンヌ嬢に殿下が仰るようなことをしたのであれば、彼女は第3者として、ご友人の力を借りて然るべき手続きの下、妹の罪を審らかにしなければなりません。これは貴族としても常識です」

「知った風な口をきくな! ジャンヌは俺が、俺達が守る!!」

「殿下!」

まるで悲恋ものの演劇で主役の恋人同士による再会の最高潮場面(クライマックスシーン)の様にひしっと抱き合うアラン王子とジャンヌ。

……ええっと、周囲を薄暗くして、スポットライト、いる?……ではなくて、

何 を や っ て い る ん だ ! こ の バ カ ッ プ ル は … …。

辺りに漂う空気から、この場にいるジャンヌとジャンヌの愉快な仲間達以外の心の声は1つになった気がした。

ティアの彼等を見据える視線も冷ややかな中に呆れと蔑みが混じっている。
普段は癒し系な優しい表情が多い愛しの我が妹だが、今見せているキツイ蔑む様な表情もなかなかイイな……オホンッ。

「では仮の話ですが、殿下が国王にお成りになり、更に仮にもジャンヌ嬢が王妃となった後に彼女が臣下の奥方達に招待される社交の場に殿下が逐一御同行されると仰せなのですか? 一々王命で罰しますか?
 それとも、婚姻後にそこにいる殿下以外の男性、彼女に想いを寄せている彼等を彼女の傍に侍らせるのおつもりですか?」

「それは……」

アラン王子は言いよどむ。当然である。国の華にも例えられ、参加することでその招待者に箔がつく王妃の招待されるパーティの数はとてつもなく多い。国政を行う国王がその全てに同席することはまず不可能。更に社交の場であるそれらのパーティはある意味、女性が主役の情報交換の場であり、戦場だ。

 また、アラン王子の取り巻きをしている彼等もまた皆、ジャンヌに恋慕の情を持っているのは周知の事実で、常にお互いに他を、この国の王子でさえも出し抜こうとしている……1人を除いては。

 億が一、ジャンヌが王妃になった後も今の様な付き合いを続けることはアラン王(仮)への不貞を疑う要因になるので絶対に不可能。それがこの世界の現実であり、貴族社会であるこのファルス王国で男爵令嬢(・・・・)であるジャンヌ(・・・・)が『永久刻』のグランドエンドの様な逆ハーレムエンドは実現は不可能(・・・・・・)だ。男尊女卑という問題ではなく、王族ではない(・・・・・・)王妃から生まれてくる子供の種が国王の物ではないということが問題を生むからだ。
 逆に、一夫多妻制は他国でも認められている。まぁ、生物学的にもそっちの方が合理的といえば合理的で、地球(むこう)の世界でもそれが認められている国がある位だ。ファルス王国も条件付きで一夫多妻は認められている。

「これまで同性の友人、人脈を作らなかったのであれば、それはジャンヌ嬢の責任でしょう。なんのために学園入学前にデビュタントが設けられているんですか」

「貴様、ジャンヌを愚弄するのか」

再三漏らすことになるため息とともに俺のこの世界の常識を説く言に激高するアラン王子。

 駄目だ。コイツ早くなんとかしな……いや、ここまでティアをコケにしたコイツをなんとかする必要は微塵もないな。うん。

 アラン王子と各々婚約者がいるその取り巻きたちの尻を追いかけ回すことにジャンヌが入学当初から執心していたことは有名。この場にいる情報収集能力がないとやっていけない貴族とその大切さを理解している平民で構成される聴衆達のアラン王子達への反応は極寒地の大気よりも冷ややかになった。

 また、幾ら王位継承権第1位の王子と有力貴族の子息達と実質的な親しい関係であるとはいえ、ジャンヌ自身は爵位が低い男爵令嬢。
 イケメンである彼らを独占することにジャンヌは終始注力しており、アラン王子ではなく、実家のために取り巻きの貴族令息と少しでも親しくしようとした女生徒のみならず、授業などで客観的にも話しかけざるを得ない状況の女生徒にもジャンヌは牽制していたため、彼女と交友関係を持とうとする貴族令嬢はいつしか皆無になった。

 言うまでもなく、貴族令嬢の味方を作らなかったのは完全にジャンヌの自業自得。万全を期してきたが、ここまで付け入る隙があり過ぎると、本当に相手をするのが馬鹿馬鹿しくなってくるな。

「では殿下、クリスティアが犯したという罪について検証させていただきます。まずクリスティアがジャンヌ嬢に殿下に近づくなと言ったとの件ですが、これは男爵令嬢である彼女が自身の身分を弁えずに殿下へ過度に接触したことから、クリスティアが公爵令嬢という立場上、周囲の不満を配慮して不躾な格下のジャンヌ嬢を警告するのは当然です。王族と婚姻できるのは最低でも伯爵位から。これは王国法で決められていますし、殿下もご存知でしょう?」

一々明言する必要がないはずの学園の初等(・・)教育で習った内容だ。しかし、幸せな思考回路をしている面々にも分かるように説明するために俺は挙げる。

「また、クリスティアのみならず、他の貴族令嬢や学園の教師からも注意されているのは周知の事実。私もクリスティア以外の貴族令嬢と教師にジャンヌ嬢が咎められているその現場を目撃しております。罪に問うのであれば全員にもこの罪を問うのが筋でしょう。寧ろ、親同士が決めた婚約者がいる相手にそれを知りつつ、言い寄るのはこの国を支える貴族として品性を疑われる問題です。忠告されたのに改めなかったジャンヌ嬢の方に問題があるのは明らかですよ」

俺はさっさと王子達が公にしたティアの罪状が冤罪であるのを証明するため、犯行と挙げられた事柄への反証を挙げていく。

「学園の生徒は皆平等でしょ! なんであたしが同じ学生であるアラン様達と付き合うことを咎められなければならないのよ!!」

俺の言葉に反応して、これまで黙っていた元凶がアラン王子達の前で被っていた巨大な化け猫を脱いで口を開いた。

「確かに、学園は平民にも平等に学ぶ場として門戸を開いています。しかし、そもそもこの学園の設立目的は有能な人材を育成すること。優秀な人材をこの国の国政に携わらせるのを狙って人材の育成を学園がしているのは新入生も知っている周知の事実ですよ? まさか、知らなかったのですか?
 また、学園は社会の縮図なのは言わずともお分かりになるでしょうに。家名に泥を塗らない相応の振る舞いを身につけて、それをするのは貴族として当然のことです。貴女は学園の掲げる”平等(・・)”を履き違えていませんか、ジャンヌ・オルレア男爵令嬢?」

「ぐっ……モブの豚の分際で生意気な!!」

俺の反論に暴言で返すヒロイン(笑)。確かに俺は豚だが、公爵家の人間であるから十分不敬罪だぞ、男爵令嬢。当然、今の会話も魔導具で記録しているから、この後が楽しみだなぁ(棒)。

「殿下が問題にされたクリスティアの苦言は身分制度を弁えないジャンヌ嬢への忠告です。ジャンヌ嬢の行為の対象である殿下達ご自身が彼女を許されていましたので、男爵令嬢自身が罪に問われることはありませんでした。しかし、彼女の振る舞いは不敬罪に十分該当しています。殿下達の外聞と周囲へ配慮してクリスティアは彼女の行為を咎めたのですから、この件でクリスティアが罪に問われる言われはありません。ただ、私は実際にクリスティアの忠告を耳にした訳ではありませんので、ジャンヌ嬢への言葉がキツイものになっていたのかもしれませんが……」

危険なことをしている子供を良識ある大人がキツク叱ったり、躾けるのは当然でしょうと付け加えると、聴衆達は一様に賛同して頷いていた。

「では次に、クリスティアが先月、魔術でジャンヌ嬢の制服を切り裂いた件に関してですが、より具体的な日付を教えてもらえませんか、ジャンヌ嬢?」

「人馬宮の月の11日よ」

問われた本人は問うた俺に憮然と返答してきた。

「ありがとうございます。……セバス」

「ここに。こちらが人馬宮の月の11日の学園に記録されている魔術行使の記録になります」

俺が自分の専属執事のセバスチャンの愛称を告げると、音もなく執事服に身を包んだ屈強な肉体のカイゼル髭をもつ初老の男性が現れ、魅惑のバリトンボイスで説明し、件の書類を俺に渡して、再び風景に溶け込むように消えていった。流石セバス、仕事が早い。

「さて、私の手元にあるこの書類は被害者であると証言されているジャンヌ嬢、彼女の証言があった事件当日に学園で使用された魔術の行使の記録です。
 この場にいる皆さんはご承知の通り、学園では授業外や認可された課外活動以外で正当な理由なく、無闇に魔術を行使することは禁止(・・)されてます。
 そのため、何時、何処で、誰が、何(誰)を対象に、どんな魔術を使ったかということが学園の各所に設置された魔導具によって全て記録(・・)され、厳重に管理されています」

【回復魔術】に関しても、校則でその行使後に必ず(・・)事後報告(・・)は義務付けられている。当然、俺が先ほどティアに使った【転移魔術】とライルに使った【重力操作魔術】も記録されているはずだ。

「こちらの書類は原本の写しですが、改変や偽造防止のため専用用紙を使用し、承認者として御覧のように学園長の認可の証明として、署名と認証の押印をいただいています」

そう言って、俺は周囲に学園長の署名と押印が見えるように周囲に記録書の写しを掲げる。

「この書類の肝心の内容ですが、授業を含め、この日に魔術が行使されたのは1件だけ(・・・・)です。ここに妹の、クリスティアの名前はありません。あるのはそこにいる王宮魔術師長であるレイ侯爵のご子息、ジル殿のお名前と講後の15時に事前事後共に魔術使用の申告がなく(・・)、旧校舎の屋上でジャンヌ嬢を対象に風属性の初級魔術、『風刃』が使われたとの記録あります」

俺の言葉に聴衆とアラン、ジルを除いたその取り巻き達の視線が自作自演を行ったジャンヌとその共犯者であるジルに集中する。ジャンヌの表情は見事に引き攣っていて、ジルに至っては激しく体中から汗をかいていて、両目が忙しなく動いていた。

「さて、なにか釈明はありますか? ジャンヌ嬢、ジル殿?」

「そ、の、その女が悪いんだ! ジャンヌ様は正しい! 間違っていない! ジャンヌ様こそがこの国の王妃にふさわしいのだ! お前等など灰になれ!『火「うざっ(パチン)」…ぐっぶふぉっ」

俺の立証に突然激高したジルが【火属性魔術】のなにかを行使しようとしたのだが、詠唱の完成を大人しく無詠唱行使できる俺がそれを待つはずもなく、俺は気だるく指を鳴らした。

 ジルの体が浮き上がるほどの威力の衝撃波を彼の鳩尾付近に直撃させ、詠唱を失敗(ファンブル)させたのだ。【火属性魔術】の詠唱失敗は小規模爆発が発生する。ジルはライルに続いて気絶して地面に沈黙した。しかも、小規模爆発の余波でジルのイケメンフェイスは煤で汚れ、手入れが行き届いていた髪は見事なアフロになったが無問題。

 レイ侯爵さん家のジル君には準王族であるアルジェント公爵家への冤罪のみならず、殺害未遂容疑が追加されました。

 ようやく到着した学園の警備員の内、数名が気絶しているライルとジルを連行していく。捕らえられる2人の姿をジャンヌはただ眺めているだけでなにも言わずに見送ったが、なにやら様子がおかしい。

「この書類と今の彼の行動からも『クリスティアがジャンヌ嬢に魔術行使をして制服を切り刻んだ』ことがジル殿による冤罪であったことが判明しました。この件に関して、後は後日法廷で当家とレイ侯爵家で争わせていただきます。最後に『先日、ジャンヌ嬢がクリスティアに階段の上から突き落とした』という件ですが……殿下、それはいつのことでしょうか?」

自称被害者の自演乙なジャンヌはどうも心ここにあらずといった状態で放心していて、返事が期待できそうになかったので、俺はもう1人の元凶であるアラン王子に問いかけた。

「ああ、4日前に新校舎の3階の階段で突き落とされたと……」

気を取り直したのか王子はそう返してきた。

「本人の証言ですか? 他に証人となる方はいらっしゃいますか?
4日前に階段から突き落とされたにしてはジャンヌ嬢は全く負傷されていないみたいですが?」

「証人は偶々、授業の帰りで近くを通ったそこにいるジャン・デュノワだ。知っているだろうが、ジャンは神官長の息子で回復魔術の使い手だ。ジャンヌがクリスに階段上から突き飛ばされたのをジャンは目撃し、転落して目の前に大怪我をして倒れたジャンヌをジャンはその場で回復魔術を使って治療したと聞いている」

アラン王子は告げられたことをただ、そのまま鵜呑みにして信じて口にしているのはその様子から一目瞭然。その横でジャンヌを救ったことをなぜかジャンは誇らしげに頷いている。当のジャンヌはといえば、ようやくフリーズ状態から回復したようだった。

 国教の神官長であるデュノワ伯爵の息子、ジャン・デュノワ。ややこしいことだが、政教分離がされているファルス王国では教会での地位が高い場合は王国での爵位は相対して低いのが一般である。ジャンはフィリップと同学年で俺達より1つ歳下の男子生徒だ。その成績は下から数えた方が早い。

 『永久刻』ではクールなフィリップとは対照的な所謂、ワンコ系のショタ担当キャラ。無邪気な言動が目立つがそれの大半は演技であり、その実は腹黒でジル同様、ジャンヌをジャンヌ様と慕っている。

 神官長の息子だから回復魔術が使えるとのことだが……。

「それはありえませんから」

「なに?」「「……っ!?」」『!?』

順に、アラン王子、ジャンヌとジャン、その他聴衆の俺のティアの犯行を否定する言葉に対する反応である。

「馬鹿なことを言うな! なにがありえないことなんだ!!」

アラン王子が怒りで声を荒げる。

「根拠は3つあります。1つは先ほども挙げました学園の魔術行使の記録ですが……事件当日の手元のこの記録にジャン・デュノワ殿が魔術を行使した際にあるべきはずの彼の名前の記載がここにはありません」

俺は書類の中から証言のあった当日の記録書を取り出して、日付の部分を指で示して掲げた。

「次に、ジャン殿には【回復魔術】の技能はありません」

「僕がお前より歳下で魔術の才と爵位が低いからって馬鹿にするのか! いくら公爵の一族だからって言って良いとと悪いことがあるだろう!!」

俺の言葉に鼻息荒くジャンが反論する。おうおう、伯爵子息にお前呼ばわりされる謂れはないのだが、君の今の言葉も不敬罪で後で報告させてもらうぞ。くっくっく……。

「ではその右手の指に嵌めている『回復の魔術が籠められた(・・・・・)魔導具(・・・)』はなんなんですか? 貴公が【回復魔術】の技能を持っているのであれば、その魔導具は必要ないでしょう?

 それから、魔導具の使用に関しても魔術と同じく、魔力の移動が行われる関係で魔術と扱いは同じになるので、学園に行使の記録は使ったならば残ります。しかし、証言のあった当日には構内でどの学年も魔術の実習講義は確認しましたが、ありませんでした。また、この通り、誰1人も魔術も魔導具を使った記録がありません(・・・・・・・・)よ? ジャン殿?」

「うっ……」

俺の反論と嫌味の混じった申告漏れというルール違反の提示にジャンは自身の指に嵌められた指輪型の魔導具を逆の手で隠して、言葉を詰まらせる。

 ジャンが使っている魔導具は俺が俺がスカウトした愉快な仲間達と共同開発して作り上げた代物であり、俺が立ち上げた商会で販売している商品の1つだ。割りと良い値段がするけれども、魔力を補充することで繰り返し固定登録されている魔術を行使できる優れものだ。

 繰り返し使える特殊な魔導具なので、攻撃魔術は登録していない。俺達に向けられるのを防ぐ意図もある。登録魔術を変更しようとしたり、改造や分解をしようとすると店で保管している魔導具に使っている魔石と対になっている魔石が砕け、魔導具自体が自壊して使えなくなる細工をしている。

 魔石が砕けた客は商会のブラックリスト入りして以後、2度と如何なる取引しないようにしている。今回の件でデュノワ家はめでたくブラックリスト入り確定だ。俺達の商会は国内だけでなく、国外にも多くの商人たちと付き合いがあるから、デュノワ家は今後大変なことになるだろうね。

「そして、4日前と言う話ですが、生憎、私とクリスティアは国王陛下からの勅命で外交のために陛下と両親に連れられて2週間前に母の母国の隣国へ赴いていまして、帰国(・・)したのは(・・・・)2日前(・・・)なのですよ」

俺の言葉にジャンの顔から血の気が引いていき、ジャンヌとアラン王子の顔は青ざめている。『永久刻』ではジャンは腹黒設定であったが、この世界ではとてつもなく詰めが甘いな。その設定どこ行った? 旅に出たのか?

「隣国への訪問に関しては王国の出入国管理局に問い合わせれば確実に分かります。ちなみに私達が隣国に赴くことはクリスティアが殿下にも手紙でお伝えしているはずですが、お読みになられていないのですか?」

「……」

アラン王子は沈黙している。ティアは諫言を聞かない王子に時折、手紙で以って注意を促していたのだが、最近では読みもせずに破り捨てているという。

「あら折角、貴方達の出国と入国の証明書を準備したのに無駄足かしら?」

そこにティアのアリバイを証明する俺達の出国と入国書類を手に持った金髪碧眼の令嬢が声を上げた。

「いいや、わざわざ用意してくれて、ありがとうフローラ」

「いえいえ、どういたしまして。大丈夫、クリス?」

「ええ、大丈夫ですわ。ローラお姉さま」

俺が礼を述べると彼女、フローラは朗らかな笑みを返して、ティアを心配して声をかけてくれた。それに答えるティア。

 彼女の名はフローラ・ジブリルス。フローラの『永久刻』での立ち位置はクリスティアの幼馴染である。彼女の実家、ジブリルス侯爵家は代々王家の諜報と近衛を務めている”黒騎士”であり、彼女も公にしていないが、高い魔力と並の男を遥かに上回る剣技を修めて、既に黒騎士の1人として活動している。

 彼女達、ジブリルス侯爵家には知る人ぞ知る隠された役割の1つに選王候というものがある。次代の王と王妃となるべき者の護衛と身辺素行調査を秘かに行い、現国王に逐一報告して、その資質を見極めるというものだ。
ちなみにフローラは俺の、ラファール・アルジェントの婚約者ということになっている。『永久刻』では婚約者については言及されていなかった。

 当初、フローラは俺の護衛兼身辺素行調査が目的であったのだが、初めて出会った4歳のとき、早々にフローラの真の仕事をそのとき既に覚醒していた俺がうっかり(・・・・)見破ってしまった。

 フローラの直接の上司である祖父による謝罪込みで、詳しい婚約の裏事情など諸々を説明され、俺はフローラの祖父と交渉し、ティアの不幸回避の協力してもらうことに成功した。それからフローラは王妃候補になっているティアの護衛と監視を担当している。

「以上で、私の妹の無実をお分かりいただけたでしょうか?」

「うう……」

言いだしっぺのアラン王子は唸り、ジャンヌは射殺さんばかりに俺とティアを睨んでいる。では、これから本命の(・・・)反撃に移らせていただこうか。

「ところで、殿下。殿下は何処からジャンヌ嬢との交際費を捻出されているのでしょうか?」

「ん? 何を言っている? 父上から頂いている王太子妃候補との交際費に決まっているではないか?」

はい、アウト。

言 質 と っ た り ぃ !

「殿下、殿下が陛下から賜ったお金は国家予算から出ているもので、国家予算は税金によって賄われています。税金は国民の血税であり、それをどのように使うかは陛下がお決めになられているのはご存知でしょう?」

「ああ、勿論だ」

諭す様に告げる俺の言をアラン王子は素直に認める。自分で自分の退路を断っていると気づかずに。

「この国の王族は所領を与えられない限り、私的な金銭を持つことはありません。殿下はその条件に該当していません。先ほど殿下は陛下から王太子妃候補との交際費をジャンヌ嬢との交際費に充てたと仰いましたが、ジャンヌ嬢は陛下に認められた王太子妃候補ですか?」

「! なにを……馬鹿なことを。父上はジャンヌのことを王太子妃候補に、いや、俺の伴侶に認めてくださるに決まっているだろう!」

俺の言葉を王子は精一杯否定するが、その声に説得力はない。

「あら、その御様子ではやはりまだ陛下の御了解を得られていらっしゃらないのですね」

「殿下……貴方様がなさったことは立派に国家予算の横領。王国法によって、反逆罪にあたりますわ」

アラン王子のその様子を見て、見事な造りの扇子で冷笑を浮かべた口許を隠したフローラが追い討ちをかけ、それに続いてティアが失望した声で現実を告げる。

「馬鹿な……俺は横領などしていない!」

声を荒げるアラン王子。だが、ティアを陥れようとした輩を俺が許すはずなし。

マイ 敵 、 滅 ぶ べ し !  慈 悲 は な い !!

まことに残念ですが、殿下が装飾品をジャンヌ嬢宛に贈った領収書と商会の売買記録が残っています。殿下はジャンヌ嬢との交際にお忙しくて、政務を疎かにされておりましたので、本件が発覚したのですよ」

「その通りだ。全く、私もここまでお前がどうしようもなく愚かだったとは思わなかったぞ、アラン……」

「これは陛下!」

アラン王子を咎める威厳ある声とともに、この国の現国王、エドワード・ファルス国王陛下その人が姿を現した。

 突然の国王の登場に呆然としているアラン王子とジャンヌ、ジャンは立ち尽くしている。彼等を除き、その場にいた俺を含めた全員が臣下の礼を一斉にとり、跪いているのにも関わらずだ。

「よい、皆の者、此度は忍びの御幸(みゆき)故、らくにせよ」

陛下は臣下の礼をとらぬ集団を失望の色を強めた視線で一瞥し、そう仰られた。許しを得たので俺達は元の姿勢に戻った。

 本来であれば、陛下は政務で王城にいるはずなのだ。しかし、俺のアラン王子がやらかす計画があるという確かな情報を提供したところ、お忍びでこの卒業パーティーに学園のOBとして参加されて、俺がここに来る前にバイキング形式の料理を食べながら、談笑していたのである。

「アランよ。確たる証拠を揃えず、準王族たるアルジェント公爵家の令嬢を衆目に晒して辱めたのに加えて、根拠のない奸臣達の言を信じ、その上、無闇に権力を振りかざすとは情けない。また、私が用途を定めて与えた資金を己の欲望のままに女に貢ぎおって! 更に王たる私に伺いも立てずに勝手に王族の婚姻を解消しようとしただけでなく、自分で勝手に決めようとしたお前には失望した!!」

「父上、待ってください。俺は!」「お待ちください、陛下!」

失望を滲ませた陛下の怒り心頭のお言葉の続きをさえぎってアラン王子とジャンヌが発言した。お前等、仲良く実にフリーダムだな……。

「……お前達は一体学園でなにを学んできたのだ? 私はお前達に発言を許した覚えはないぞ?」

陛下の更も強まった怒気を含んだお言葉に2人は震えた。
陛下がいらっしゃったから、この喜劇も最終幕に突入か。

「陛下、発言させていただいてよろしいでしょうか?」

「うむ、構わんぞ。ラファール・アルジェントよ」

「ありがとうございます。フィリップ、そろそろ幕だ。戻って来い。それとも、そいつ等と心中するか?」

俺は陛下に発言許可を得て、陛下の突然の登場に茫然自失のジャンの横にいる弟に声をかける。

「あ、そろそろですか兄上。分かりました。彼等と心中するのは僕は御免なので戻りますね」

それまで沈黙していたのとは打って変わって軽い調子でフィリップは返事をした。

「え? え?」「おい、フィリップどういうことだ!?」

フィリップの態度に状況が飲み込めず、ジャンヌは困惑し、アラン王子は俺達の傍、ティアを庇う斜め前に移動したフィリップ本人に怒りを滲ませ詰め寄る。

「いやいや、どういうこともなにも僕は殿下達の味方(・・)になった覚えはありませんよ。最初から僕は兄上と姉上の味方に決まっているじゃないですか。ジャンヌ嬢のことを調べるために貴女方に近寄っただけですよ」

アラン王子の剣幕を当のフィリップはしれっと受け流す。

「なんだと!?」「あたしを騙したの!?」

「騙したなんて人聞きの悪い。勝手に貴女方が勘違いしただけでしょう?
現に僕は貴女達の悪企みに加担していませんし、この場で姉上を貶める発言は一切していません。ライルの糞野ろ…失礼、彼の蛮行を止めることができなかった自分自身を僕は許せないほど後悔しています。僕は貴女達の発言を傍で聞いていただけ、ただそれだけですよ」

驚愕して非難する2人に対し、フィリップは笑顔を浮かべて淡々と返答するが、その目は笑っていない。

「フィリップ、お前の怒りは最もだ。だが、今は御前だからその辺にしておけ。それよりも仕事。陛下に報告だ」

「そうでした。すいません、兄上。陛下、報告させていただきます」

「うむ」

なだめる俺の言を聞き入れ、フィリップは陛下の前に進み出て、片膝をついて再度、臣下の礼をとり、俺が指示した調査内容の報告を始めた。

かねてより評判であったジャンヌ・オルレア男爵令嬢の保有魔力についてですが、亡き母の形見と称して普段から身につけているネックレス型の魔導具による不正(・・)が確認できました。続きまして、その亡くなった(・・・・・)というジャンヌ嬢の母に関してですが、オルレア男爵領の寒村で生存(・・)を確認し、アルジェント公爵領に保護しました」

「男爵とジャンヌ嬢の間に血縁関係は全くなく(・・・・)、元々ジャンヌ嬢は男爵領の寒村生まれの平民(・・)で、保有魔力は平民の中では高い方ですが、魔導具(・・・)作成(・・)に才能があり、それを偶々視察に来た男爵に見出され、その才が男爵の野心を刺激し、唯一の肉親である実の母親を捨てて、養女として迎えられたようです」

「……続けよ」

「男爵に引き取られたジャンヌ嬢は未来を予言するかの言動を行い、男爵の関心を更に引き、予言を的中させてから常々将来自分はファルス王国の王妃になると屋敷では公言してはばからなかったと使用人たちがそろって証言しておりまして……大変自由奔放に振舞っていたようです。また、使用人達の間では時折、『イベントが……』や『現実だと並行してのフラグ管理はやっぱり面倒ね』など訳の分からないことを呟いて気味悪がられていました」

イベントやフラグという単語に馴染みのない人からすれば確かに意味不明だよなと俺は使用人達に同情した。フィリップはオブラートに包んだ表現をしたが、その表情からジャンヌは相当我儘放題に振舞っていたのが伺い知れる。

「男爵の過保護とジャンヌ嬢自身の意向で彼女が社交の場にでることは学園に入るまではありませんでした。入学後はご承知の通り、わが国の貴族制度を無視した不躾な振る舞いをし、王子と婚約者がいる貴族の子息との親交を積極的に深める一方で、彼等の婚約者には全く配慮していませんでした。また、学生の本分たる勉学についてはまともに授業を受けていないにも関わらず、ある程度の成績を修めていましたが、最終的には中の下でした」

「恋愛は自由なのだから、あたしが誰と付き合おうと勝手でしょう!!」

心底呆れている感情を乗せたフィリップの報告に空気が読めない自称被害者が抗議するが、陛下は視線でフィリップに先を促し、フィリップは無味な抗議を無視して報告を続けた。

「ジャンヌ嬢がアラン王子にエスコートされて参加したパーティで彼女が問題を起こさなかったことはありません。パーティ後に姉上……クリスティア・アルジェント公爵令嬢に嫌味を言われて紅茶をかけられただの、足を引っ掛けられただのと噂を流そうとしておりましたが……」

「そうよ! 爵位を盾にあたしは酷い目にあったの!!」

またしてもフィリップの報告を感情的な声をあげて妨げるジャンヌ。その行動はフィリップの眉を顰め、陛下の静かな怒りを助長しているが、当のジャンヌは気づいていない。

「陛下、弁明させていただきますが、よろしいでしょうか?」

「よかろう、許す」

「私はジャンヌ様が毎回パーティーで不必要にカップいっぱい(・・・・・・・)紅茶を注いでいた(・・・・・・・・)ので『そんなに溢れそうなほど紅茶をカップに淹れてはこぼしてしまいますよ』と見かける都度、注意していただけです。それに、人に足を引っ掛けるだのという淑女としてあるまじきはしたない真似を私はいたしませんわ」

ティアの発言を受け、エドワード陛下は頷く、

「そうであろうな。フィリップよ、残りの報告は城で頼む。アラン第一王子、ジャンヌ・オルレア男爵令嬢とそこまで2人が添い遂げる覚悟(・・)があるのならば、2人の婚姻を私は認めよう」

「父上!」「陛下!」

陛下の身分を超えた恋を認める言葉に歓喜の声を上げるアラン王子とジャンヌ。

「では、王国法に則って、現時刻を以ってアラン第一王子は王位継承権を剥奪の上、廃嫡。王籍から外し、平民とする。王城に戻ることも許さぬ。そして、その子、子孫にも王族を名乗ることは未来永劫許さぬ! 別件で不正が明るみになったオルレア男爵からは領地没収の上、貴族位を剥奪し、同じく平民とする」

「そんな! なぜですか、父上!?」「陛下!?」

続いた陛下の言葉に天国から地獄に落とされた2人は困惑の声をあげる。

「お前達の王族にいや、民を導く貴族としてこの上もなくふさわしくないこれまでの行動は黒騎士達からも報告を私は受けている。アランには言っていたであろう? 我が国の法(・・・・・)王族(・・)不釣合いな婚姻(・・・・・・・)をする場合は王族が身分を棄て(・・・・・・・・)なければならない(・・・・・・・)のだ。
 それよりもこのような衆目が集まる場で確かな証拠もなく、準王族である公爵家の令嬢を弾劾しようという非常識極きわまりない行動に私の忍耐は既に限度を超えている!」

「でも、父上には俺以外に子供はいないはず! だれが父上の跡を、この国の王になるというのですか!?」

「それは最早、王族でも、私の息子でもなくなったお前が心配する必要のないことだ……」

一瞬、悲しみを灯した瞳で告げられた陛下の淡々とした言葉にアラン元王子は項垂(うなだ)れ、なぜか言い終わった陛下の視線が一瞬、俺を捉えた(・・・・・)。そして、陛下の断罪はまだ続く。

「ジル・レイ侯爵子息には無期限の魔力封印の上、あらゆる研究行為の禁止と廃嫡、侯爵領での永蟄居。ジャン・デュノワ伯爵子息には魔導具没収の後、辺境のドゥバーラ修道院での終生の奉仕活動。ライル・エティエンヌ男爵子息は利き腕を潰した上で焼印を入れ、実家で永蟄居だ」

「父上、ジルとライルに対する罰が重過ぎます! ご再考ください! 特にあいつは、ライルは蒼騎士団に入るのが夢でこれまで頑張ってきたんです!!」

アランは叫ぶようにそう告げてジルとライル、特にライルを擁護しようとする。

「今だけはお前の不敬罪を大目に見るが、お前はどこまで私を失望させれば気が済むのだ……ライル・エティエンヌ男爵子息の行動はそれだけ重い罪だということだ。騎士であれば守るべき罪なきか弱き未婚の婦女子、しかも身分が高い公爵令嬢へ強引に触れて地面に押さえ込むなど、心あるこの国を守る騎士の行動ではない! 守るべき者に勝手に牙を剥く愚か者にこの国の護りを任せられる訳なかろうが!!」

陛下は不敬罪を歯牙にもかけないアランに失望と怒りの色を強め、声を荒げた。その言葉尻で僅かな者にしか聞き取れない悔しげな小声で

あいつの努力の足を引っ張りおって……

と問題を起こした男爵令息を非難するように呟いてた。

「アランの横領罪は追って、精査して明らかにする。それから、私は王族であったときのアランとクリスティア・アルジェント公爵令嬢との婚約を認めた覚えはない。私はアランを次期国王候補(・・)とし、王を支える王妃候補(・・)としてアルジェント公爵令嬢と幾人かの高位の貴族令嬢に王妃教育を受けさせていた。故に、此度のアランの婚約破棄宣言はアランの勘違いであり、クリスティア・アルジェント公爵令嬢の名誉を毀損しようとする言い掛かりである。クリスティア・アルジェント公爵令嬢に一片の瑕疵がないことをここに宣言する!」

エドワード陛下のお言葉でクリスティアの名誉は守られた。この世界のクリスティア・アルジェント公爵令嬢の『永久刻』の死亡フラグ回避に俺は完全に成功した瞬間だ。俺は長年の苦労が報われた安堵からたまった息を吐き出した。

「ありがとうございました。お兄様」

ことが終わって、冤罪が晴れ、喜びのあまり俺に抱きついてきて、輝かしい満面の笑みを浮かべる可愛い妹のこの日の笑顔を俺は脳内のハードディスクに永久保存し、バックアップのため、『映像水晶』にも保存した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 さて、あれから1月が経った。その後、どうなったかというと、ジャンヌとアランの愉快な仲間達はスパイをしていたフィリップを除いて全員が学園の卒業を取り消しの上、退学処分になった。

 アラン・ファルス元第一王子は騒動の翌日、正式に王籍を剥奪されて、廃嫡となり、晴れて平民となった。そのままジャンヌと結ばれたかというと、そうではない。あの騒ぎの後、騒ぎたてて暴れたため、独房に入れられて3日後、市井に放り出された。愛しのジャンヌの迎えはなく、彼の行方は分からなくなった。更に2日後、アランのボロボロになった死体が貧民街で見つかった。

 彼の母親である王妃がアランを釈放後、すぐに探し出して王族として呼び戻そうと足掻いた。しかし、彼女の実家と取り巻きの貴族が先王夫妻の暗殺を実行していたことが発覚。王妃は王族の罪人が収容される辺境の離宮に護送されてから、しばらくして、病死と発表され、彼女の実家は取り潰しになる。計画に加担した貴族を含め、王妃の実家の一族郎党、全員が処刑された。

 ライル・エティエンヌ男爵令息は拘束されて、手荒く牢獄に入れられた後に父であるエティエンヌ男爵と面会。肉体言語できつく説教されて一旦、自宅に護送される。そして、2週間後、利き腕をハンマーで破壊され、焼印を押されて男爵領に監視つきで蟄居している。爵位は彼の弟が継ぐことに決まった。

 エティエンヌ男爵は現場叩き上げの蒼騎士団長であり、先王が学園時代に平民から見出した逸材である。直近の帝国の侵攻を防ぐ防衛戦で挙げた戦果から伯爵に陞爵することが決まっていた。しかし、今回の息子の失態を受け、陞爵を辞退。更に蒼騎士団長の地位と爵位を返上して1騎士として王国に仕えると言い出す。
 しかし、これには副団長以下、彼の部下が猛反発し、陛下とエティエンヌ男爵夫人の説得で思い止まらせることに辛うじて成功した。

 ジル・レイ侯爵令息はエドワード陛下の宣告通り、魔力を封印されて侯爵領に永蟄居となったが、オルレア元男爵令嬢への狂気じみた思慕が軟禁されている屋敷の使用人達に恐怖を巻き起こした。それからしばらくしてレイ侯爵からジルは病死したと公表された。

 ジャン・デュノワ伯爵子息は拘束されて陛下の宣告の後すぐに魔導具を取り上げられて馬車でドゥバーラ修道院へ護送される。
 ドゥバーラ修道院は王国の最北端の辺境にある。その戒律の厳しさは『永久刻』の”クリスティア”が入る可能性があるもう1つの辺境にある国内で最も厳しいとされる女性専用のディオストゥス修道院に勝るとも劣らないと言われている。
 ジャンは何度か修道院からの脱走を試みては失敗し、繰り返し独房に入れられているらしい。実は彼が真面目に奉仕活動を行っていれば放免されて修道院から出てこれる余地は充分にあったのだが、脱走という彼自身の愚行でその未来は永久に潰えた。

 そのジャンの父であり、神官長であった(・・・)デュノワ伯爵は先日、寄付金の横領を内部告発され失脚。その罪はデュノワ伯爵の祖父の代から続いていることが判明し、総額があまりに大きかったため、国家反逆罪で家の取り潰しが決定。デュノワ伯は毒杯を頂くことが決まった。

 最後に、 転生者であり、『永久刻』でヒロイン役だったジャンヌ・オルレア男爵令嬢は「婚約破棄騒動」後、馬車で王都内の男爵の屋敷に戻らされた。翌日に爵位を剥奪する文書が届いた男爵とジャンヌは口論になり、そこへジャンヌの予言が外れたために大損をした貴族と商人達が押しかけ、オルレア男爵は大勢に捕まり私刑にあって、死亡。ジャンヌは彼等の損失補填のために平民から更に奴隷に落とされて、裏オークションでアルジェント公爵領と正反対の国境の僅かな土地与えられている当代貴族の狒々(ひひ)爺の騎士爵に競り落とされた。即日、彼の領地に連れ帰れてその屋敷に入ったのを最後に、その姿を見たものはいないという。



 俺達は学園を無事卒業し、それぞれの道を歩き始めることになった。

 まず、弟のフィリップは宰相補佐の職に就き、順調に父の後継として実務を積み、周囲にも認められるようになった。

 アルジェント公爵領に関しては現代官の黒髪ポニテの真面目そうな娘が後継として問題なく成長していて、彼女とフィリップの婚約が先日成立した。代官自体の爵位が伯爵であることから家格にも問題がなく、俺も学園の長期休暇の時に何度も2人に会ったが、十二分に信頼できる人たちだ。フィリップと彼女に任せればアルジェント公爵領は安泰だ。

 次に、俺の婚約者であるフローラ・ジブリルスは学園卒業後、選王候の役目から本来の黒騎士の役割に戻った。今は王城で騎士団長である祖父に鍛えられているそうだ。そして、これからもティアの親友でい続けてくれることは決まっている。本当の姉妹みたいに仲のいい2人だから、この先も2人は仲よくやっていけるだろう。

 なぜかお役御免となったはずの俺との婚約が解消されていないが、それもどの道、近いうちに正式に解消されることだろう。フローラほどの気が利く美女は俺の様な男にはもったいないからな。

 それから、我が最愛の妹であるクリスティア・アルジェントは現在、王都に居を構えているアルジェント公爵家の屋敷で母達と穏やかな時間を過ごしていた。幼少期から続いているエドワード陛下のお母上であらせられる王太后様の厳しい王妃教育も先日終わり、王太后様に気に入られたようだ。

 エドワード陛下は1児の父とはいえ、まだ若い。ティアも陛下を慕っている。既にティアは学園を卒業して、成人しているから輿入れには問題はない。また、アランの母である前王妃が病気で亡くなった今となっては王太子妃ではなく、すぐにでも新たな王妃として輿入れは可能だ。ここ2、3日は連日、王城に呼ばれているようだし、そう言えば最近はティアと俺はまともな会話してないな……。

 父上、アルジェント公爵に関しては一時期は父上にとって義兄である先王を失った時に先王の実弟であるエドワード陛下を警戒して距離を置いていたようだ。しかし、暗殺の黒幕であるアランの母の実家の貴族とその取り巻きを粛清した今はそのわだかまりもなく、父上と陛下は以前と変わりない良好な仲に戻っている。

 だから、ティアが望めば父上は陛下への輿入れに反対はしないだろう。その問題となるのは兄である俺な訳だが……。



 今生の大目標である婚約破棄によるティアのBADENDを回避を達成した俺は悩んでいた。ぶっちゃけ目標を見失ってしまったのである。

 生活環境改善も既にある程度達成し、パンの改良、食パンの製造、稲作による米の収穫などの食糧事情も粗方終了。『永久刻』のRPGパートで発生するイベント関係も学園の長期休暇などを利用して既に全て回収済み。

 徹底してジャンヌのイベントフラグ、ティアの不幸フラグを全力で叩き潰してきたので、後はティアに女性の幸せを掴んで貰えばいいと俺は思っている。前世記憶のある俺の考えでは恋愛結婚→出産→円満な家庭という流れが考えられる幸せのモデルケースだ。
 しかし、ここに至って俺という存在がティアの幸せの障害となっていることに気づいてしまった。俺という鉄壁があるが故にティアは歳相応の恋愛ができなかったのだ。

 前世の記憶が覚醒してから今まで常日頃、ティアのためにいろいろ頑張ってきたのだが、それらを振り返ってティアの立場で考えて見れば、今更ながら常に傍にいた自分が如何にウザい存在だったか自覚が……or2。

 だから、学園を無事卒業して全てが終わったから、俺はもうお払い箱だ。正義の味方も悪い奴がいなかったら、助けられてた人々にとっては余計な邪魔な存在であるのと似たようなものだ。ティアと最近はまともな会話がなくなってしまったのも多分、そういうことだろう。俺がうざかったから。もう必要ないから……あかん、軽く氏ねる。



 夕食後、自室に戻って一頻(ひとしき)り苦悩したらすっかり夜になっていた。しばらくするとフローラが王城から馬車で使者として書簡を届けてきて、今夜はそのままうちの屋敷のティアの部屋で一泊するらしい。全く以って仲がよろしいようで。

 それから考え抜いた末、俺はアルジェント公爵家から出奔することに決めた。家督はフィリップが継ぐことで磐石。公爵領の経営もフィリップの嫁のおかげで憂いなし。フローラも爵位だけの豚メンとの婚約は相手が消えて解消し、彼女に相応しい甲斐性のあるイケメン貴族と添い遂げた方が幸せであろう。ティアも思慕する陛下と結ばれるのが…幸せ…だろう……うつだしのう。

 とにかく、すぐに旅立つには準備が足りないので明日買出しに出ることに俺は決めた。

 不意にドアをノックされ誰何したところ、先ほどまで思い悩んだ相手であるティアだった。成長した彼女が俺の部屋を訪ねて来ることは珍しく、用件が気になったので俺はドアを開けた。

「夜分遅くにすいません、お兄様。フローラ姉様が陛下から明日、王城に来るようにとの召喚状をお届けになりました」

「……ああ、分かった。明日だね……ティア、家族とはいえ、俺は男だ。異性の前で淑女がその恰好を見せるのはよくない……はい、これ。じゃあ…お休み」

ドアの前に立っていたティアの大人っぽい黒のブラとショーツが透けて見えるシースルーのネグリジェの艶姿に俺は一瞬目を奪われ、疑った。しかし、用件から明日、陛下とティアの婚約の話になるのだと俺は察し、何とか気落ちした表情を見せずに無表情を努め、俺は手近にあったローブコートを可愛らしく首を傾けているティアに着せた。いかん、会話が続かん。

「ありがとうございます……おやすみなさいませ。お兄様」

そう礼を言って、用件が終わったため、ティアは俺のローブコートを纏って部屋に戻っていった。ティアが去った後、王命故の逃亡不可避の陛下のティアとの婚約宣言を拝聴するという複雑な思いのする事態に俺は内心で血涙を流し、さっさと寝ることにした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そして、翌朝。コンディションは最悪である。結果的に俺は一睡もできなかったからだ。しかし、その成果として、自分ではティアを幸せにすることはできないという諦観の域に俺は到達できたので、ベッドサイドテーブルに用意していた器材で淹れた、淹れたてのコーヒーをカフェオレにして飲んで、俺は眠気を吹き飛ばし、目に目薬をさした。



「……」「……」「……」

俺が乗る王城を目指す馬車の中は無言空間であった。
同乗者がティアとフローラの美少女2人なので、世間一般の男子ならば両手に花だと喜ぶべき所なのだろう。しかし、彼女達と釣り合いのとれない冴えない豚メンである俺にとってはこの空間は地獄だ。

 これから向かう先で起こるであろう不可避イベントを考えてやはり胃が痛くなる。いつもなら、ティアもフローラも2人で仲良くお喋りをするのだが、今は2人とも無言だ。しかも、どういう訳か2人とも俺を挟んで座っている。

 俺が無駄に横幅があるために、両サイドの2人と過剰に密着することになってしまっている。

「あの、俺やっぱり目の前の席に移動するよ」

「その必要はありませんよ、お兄様」「ラファール、別に私は狭苦しくないわよ?」

「あ、はい……」

うう、服越しに腕に感じる2人のたわわに実った果実の感触は普段であれば嬉しいのだが、今の剣呑な雰囲気の所為で全然嬉しくない。


 ちなみにフィリップと父上は先に別の馬車で出発し、王城で合流することになっている。できれば俺も父上と弟と行きたかったのだが、ティアとフローラに捕まって同じ馬車に乗せられた。今、俺の頭の中では前世の記憶であるドナドナがエンドレスリピートで流れている。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「久しいな、ラファールよ。あの騒動から一月ぶりか? よくぞ参った」

「はっ、ご下命により、ラファール・アルジェント参上致しました」

謁見の間で俺はエドワード陛下とアランの婚約破棄騒動以来の再会をした。
俺の一歩後ろにティアとフローラが並んでいる。

「皆、らくにしてよい。面をあげよ」

エドワード陛下の許可の下、片膝ついている態勢から直立態勢に変えた。

 他に謁見の間にいるのは宰相である父とその補佐官であるフィリップ。それから、フローラの祖父の黒騎士団長。また、陛下が深く信頼しているエティエンヌ蒼騎士団長。そして、品のある豪華な衣装を身に纏った見慣れない高齢の女性が陛下の傍にいた。その面影にはどことなく目の前のエドワード陛下に通じるものがある。

「ふむふむ、なるほど。その子がテオドールの息子なのね。エドワード?」

「はい。母上」

陛下のお言葉に俺の中で警鐘が鳴り響く。目の前にいる女性が陛下の母親で、ティアに直々に王妃教育を施した人物、未だ陛下に次ぐ強い権力を持っている王太后その人であることに気づいたからだ。しかも、2人とも俺がこれまで周囲にひた隠しにしてきた正体に気づいている。さて、どうしたものか。

「あの人が使っていた【偽装魔術】を部分的に改変している魔術式を使っているようね。でも、解呪条件は術式の基礎部分だから変更できなかったみたいね」

王太后様のお言葉に俺は更に戦慄した。最高位魔術師しかできない『術式が見えている』……だと!?
謁見の間にいる他の面子も驚愕していた。

「あら、ごめんなさい」

「……母上、その癖治りませんね」

「仕方ないじゃないの、ここまで綺麗な魔術式を見たのは久しぶりなのだもの」

普段よりもフランクな陛下が初めて見せるジト目で王太后様を見るのに対して、王太后様は苦笑いを返していた。

「とはいえ、困ったわね。後ろの2人のうちどちらかなのでしょうけど……」

「その心配はございませんよ。2人は既に決めていると先日確認しているので」

なにやら王太后様と陛下が話しているが俺は要領が掴めない。なんのことだ?

「ラファール」

「はっ!」

陛下の呼びかけに即座に俺は返事をする。

「そのまま後ろを向け」

「はっ!……は?」

陛下の不可解な命令に思わず、俺は疑問を返してしまった。

「いいから! そのまま後ろを向くように。そうそう、後ろを向いたら片膝立ちをせよ」

「はい。畏まりました(?)」

なぜかにやにや笑っている陛下とその後ろで同じ笑みを浮かべている王太后様。釈然としない不可解な命令に俺は従って、後ろを向いて片膝立ちになった。

「失礼します。お兄様……」

「 へ ? 」

不意にティアが短く告げて俺の両頬を両掌で包んできたので、俺は予想外の出来事に間抜けな返事を返してしまう。そして、

ちゅっ

「んんぅ!?」

次の瞬間、目の前に両目を閉じて、頬を可憐に朱に染めたティアのアップと自分の唇に柔らかい感触……更に口を閉じている歯に触れるものの感触。思わず歯を開けてしまった所で、歯に触れていたものが口内に侵入して俺の舌に絡み付いてきた。

「!?」

自分に起こっている事態にようやく理解が追いついた所で、ティアが俺の体から離れ、俺の体は白い光に包まれて、変化した。否、本来の姿(・・・・)戻った(・・・)

 銀髪(・・)だった髪は白金(・・)に変色し、瞳の色はティアと同じから深い海と同じ蒼色(・・)へ、蔑まれる原因であった樽腹は贅肉が落ちて引き締まり、綺麗に腹筋が割れたものに変わる。身長も僅かだが伸び、手足は細すぎず太すぎない引き締まった筋肉を纏ったものに変貌する。顔も頬と顎の余分な贅肉が落ち、引き締まったものになっていく。

「テ……テオドール兄上!?」「テオ……」「義兄上!?」
「おおお、……在りし日の、テオドール様じゃ……う…うう」
「…テオ…ドール……様……」

陛下と王太后、宰相である父上、黒騎士団長の偽装魔術が解けた俺の姿を見ての言葉だ。黒騎士団長と蒼騎士団長2名に至っては号泣している。

 ちなみにテオドール様とは王権を狙うアランの母親である元王妃の実家の貴族とその取り巻きに暗殺された今は亡き先王陛下のことだ。俺の本当の父親でもあり、俺はその父に瓜二つの容姿なのだそうだ。最も、俺の瞳の色は母譲りの蒼で父の瞳の青よりもわずかに色が深く、よく見れば違いが分かるとは先王様のお母上であらせられる王太后様の弁。

 そして、解呪と同時にZ裸(ぜんら)になった俺はナニを手で隠しつつ、隣室で先王様の遺品であるお召し物を下賜され、それに着替えた。

 その後、王城に呼ばれた理由を説明された訳だが、正式に俺を、ルシファールを王族に戻し、ラファールは病死として、王命にて俺を王太子として立太子させ、ティアを王太子妃にし、フローラは俺の側室として結婚させるという話であった。

 予想していたティアの陛下への輿入れ話ではなく、俺自身の結婚話ということで俺は当惑した。しかし、陛下のお墨付きでティアとフローラ、2人と結婚できるという事実に酷く安心している自分に気がついて、同時に他の男に2人を渡したくないという強い気持ちがあったことを思い知った。

「ティア」

「? なんですか、お兄様?」

「王太子妃に、王妃になれてよかったのか?」

「ええ、お兄様と結婚できて私は嬉しいですよ」

屈託のない純粋な喜びを表す笑みと好意を嘗て大切な妹と思い込もうとしていた愛する女性から向けられ、俺はこの笑顔をこれからもこの命が続く限り守っていくことを心に誓った。

 この数年後、周囲の国々との戦争を終結させたエドワード国王から譲位されたルシファール・ファルス王太子は数々の行政改革を始めとした数多の改革を行い、ファルス王国は著しい発展をする。彼の傍にはファルスの双珠と呼ばれた2人の美女と隣国から迎えた美姫達が侍り、子宝に恵まれて彼の治めるファルス王国は永きに渡る黄金期を迎え、後世の世にその名を残すことになる。だが、それはまた別の話。
ご一読ありがとうございました。

 前書きにも書いてますが、元々この作品のプロットは一昨年に勢いで大まかな形だけできていた連載版用プロットを短編用に組み直して、私の中の病的な『考えた物語を形にしたい』という執念によって隙間時間や色々な合間を縫った末に形になったものです。短編向けに強引な内容圧縮を行った反動で、展開がかなり歪で、その自覚があります。ええ。主人公の反証もかなり強引ですし。

 乙女ゲーム×悪役令嬢×ヒロインざまぁを読み漁って、それらをテーマに自分なりに痛快な物語を書こうとしたら、何故か主人公が悪役令嬢ではなく、豚メンでシスコンな兄になってこんな話になったという不思議。

まこと、小説家とは業の深い職業でありますなぁ( -ω-)y─━ =3

 しかも、他者様の既存の連載作品で主人公の設定が一部見事に被っている物がありますね(*´д`)

少しだけネタバレですが連載版の本編では主人公が死にそうになって、前世の記憶を覚醒させて状況確認後、奔走し出す所からスタートする流れです。学園パートも3年間まったり描写ではなく、イベントをピンポイント描写していって、エンディングに向けてハードボイルドに主人公がヒロインが汗水垂らして構築したフラグ、構築しようとしたフラグをときに先回りして、叩き潰していきます。短編の本作ではメタな尺の都合上、最初からテンプレ展開のクライマックススタートで、登場人物も主人公陣営は大幅に削ってます。

需要があれば連載版企画が始動するかもしれません……。

更新停まっている作品も更新再開に向けて調整中ですので、申し訳ありませんがお待ちください。

2017/01/18 19:50 ブックマーク、レビューありがとうございます<(_ _)>

2017/01/21 11:00 御一読いただいた皆様、評価・ブクマしてくださった皆様、レビューを書き込んでいただきましたキャトルミューティレート様のお蔭様で異世界転生/転移 日間ランキング1位、週間ランキング2位に入賞しました。

皆様、ありがとうございます<(_ _)>

 御感想もありがとうございました。連載版を投稿する機会があれば参考にさせていただきたいと思います。

 いくつか気になるご感想を拝見したので、この場で解説という言い訳をさせていただきます(苦笑)
ネタバレも含まれるので、注意してください。念のため、下の方に置いておきます。
















 まず、本編の結末でヒロインが逆ハー狙って失敗したのに主人公はハーレムエンドに成功して……と思うかもしれません。

 これは世界をあくまでゲームとして考えて自分の幸せのために動いていたヒロインと世界を現実の世界として認識して愛する人(クリスティア)のために動いていた主人公という対比です。

 また、主人公自身が狙ってハーレムエンドになった訳ではありません。ファルス王国の他国との都合など、政略結婚としてクリスティアとフローラの了承の下、結果として他国のお姫様たちを娶ることになりました。

 主人公のクリスティア命はブレてません。フローラには長年の付き合いで培った好意があったのと、クリスティアの後押しがあったから、側室にしています。フローラが正室になる話やクリスティアだけと結婚という話もあったのですが、生家の爵位などの理由でこの形に落ち着きました。

 他に嫁が増える話があがった当初、主人公は激しく抵抗しました。それはもうクリスティアとフローラを連れて国を出るのも辞さないレベルで。この辺に関しては尺の都合でカットしてます。また、嫁を増やさないifエンドも考えてました。それを本編にしなかったのは前述したヒロインと主人公の対比を描くためです。

 もともと3万字以内で予想読了時間1時間以内で終える予定で、それ以上になると読むのに躊躇するのではと考えてカットした部分は結構あります。

 投稿前のエピソードの取捨選択、プロットの段階でとても悩まされましたが、かなりの場面を泣く泣くカットしました。投稿時は読み返したのに後になって比較的致命的なミスに気づいて改稿し、足が出てしまいましたが……ora

 短編用にアレンジ前の連載版プロットでは出奔を決意して、翌早朝に屋敷を出た後に国を出て、しばらくしてクリスティアに捕獲されるifエンドなども投稿する構想がありましたo(`・ω・´)o

 あと、”この世界”のクリスティアはアランに対して好意は抱いていません。寧ろマイナスという裏設定があります。これも短編で出す上で大幅にカットせざるを得なかった部分で、苦肉の策としていろいろ伏線という形に置き換えました。

 クリスティアは王妃候補という立場上、次期王妃になるつもりは全くないけれども、次期国王として相応しくない態度をとり続けるアランに態度を改めるようにうるさくない程度に諫言はしています。蛇足ですが、話を聞かないから手紙を出していた云々がその関連描写です。

 クリスティア以外にも王妃候補はちゃんと存在しています。彼女等はクリスティアが王太子妃に決まった後はそれぞれ婚姻が決まり、クリスティアに協力して国を支えてます。

2017/01/28 0:10追記

( ´・ω・`)つ http://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/1626745/

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