第22話 名前をつけるということ
灰色の生き物は、俺の近くで過ごすことが少しずつ増えていた。
いつもそばにいるわけではない。
気ままに歩き回ることもあるし、茂みの向こうへ姿を消すこともある。
それでも、以前のように、俺の姿を見ただけですぐに距離を取ることは少なくなった。
俺は、その変化を不思議に思っていた。
何か特別なことをした覚えはない。
無理に捕まえたわけでも、餌を与え続けたわけでもない。
ただ、近くにいても危害を加えないようにしてきただけだ。
「お前、どうして俺のところに来るんだ?」
灰色の生き物は、長い耳を動かした。
当然、答えは返ってこない。
俺は苦笑した。
名前がないと、呼びかけるときにも不便だ。
ずっと「灰色の生き物」と呼び続けるわけにもいかないだろう。
毛並みは灰色。
長い耳と、長い尻尾。
その姿を見ているうちに、ひとつの名前が浮かんだ。
「……グレイ、でいいか」
俺は試しに呼んでみた。
「グレイ」
生き物がこちらを向いた。
名前に反応したのか、声に反応しただけなのかは分からない。
もう一度呼ぶ。
「グレイ」
今度も、こちらを見た。
それだけで、名前を理解したと決めつけることはできない。
それでも、俺はその名前が気に入った。
「よし。お前は今日からグレイだ」
そう言った瞬間、胸の奥に、またあの不思議な感覚が走った。
以前にも似たものを感じたことがある。
しかし、何が起きているのかは分からなかった。
グレイの姿を見つめる。
見た目に明確な変化はない。
だが、ほんの一瞬、存在そのものが変化したような気がした。
「……気のせいか?」
俺は首をかしげた。
名前をつけただけで何かが起きるなど、物語ではよくある話だ。
だが、ここは物語ではない。
俺は、目の前で起きたことと、自分の想像を区別する必要がある。
今は、名前をつけたことと、不思議な感覚があったこと。
確認できたのは、それだけだった。




