第16話 森で見つけた小さな命
森での生活にも、少しずつ慣れてきた。
もちろん、安心して暮らせるほどではない。水場はまだ十分に確認できていないし、食料も安定していない。夜になれば、いつ何が現れるか分からないという不安が残る。
それでも、最初の日のように、何も分からず歩き回るだけではなくなっていた。
俺は目印を頼りに移動し、使えそうな枝や葉を見つければ、必要に応じて収納魔法にしまう。
その日も、寝床の改善に使えそうな材料を探していた。
ふと、近くの茂みが揺れた。
俺はすぐに足を止めた。
また魔物だろうか。
あの草原で遭遇した、巨大な狼のような獣の姿が頭をよぎる。
俺は周囲を警戒しながら、茂みを見つめた。
しばらくすると、そこから小さな生き物が姿を現した。
灰色の毛に覆われた体。
長い耳と、体に比べて目立つ長い尻尾。
大きさはそれほどでもなく、少なくとも、あの狼のような魔物とは比べものにならない。
「……なんだ、お前?」
生き物は俺を見つめていた。
逃げる様子はない。
だからといって、近づいてくるわけでもなかった。
俺は刺激しないように、その場で動かずにいた。
見た目は小さくても、危険がないとは限らない。毒を持っているかもしれないし、突然襲いかかってくる可能性だってある。
俺は距離を保ったまま、様子を観察した。
灰色の生き物は、しばらくすると地面の匂いを確かめるように鼻先を動かし、茂みの近くへ戻っていった。
その動きには、少なくとも今すぐ俺を襲おうという様子はなかった。
「敵意がないのか、それとも、ただ警戒しているだけなのか……」
まだ分からない。
だが、この森で初めて出会った、自分から逃げずに姿を見せた生き物だった。
俺は、その小さな姿をしばらく目で追っていた。




