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「で、シガーン。何を今さら帰ってきたの?」
子供達におもちゃを配って、集いを解くと僕たち大人は隠れ家的、ログハウスに腰を掛けた。赤の傭兵は今は三人で他の連中は今も見回りに精を出しているのだという。この三人小隊のリーダーがシガーンになじみのあるゼルフィムだった。
「なんとなくの成り行きでな…………」
シガーンはゼルフィムと不思議と顔を合わせようとしなかった。野蛮なところを見てしまったもののそれを補填するだけのことはある美女さんだ。照れ隠しの一つ二つしょうが無いところ………………、そういう雰囲気では無かった。
「あなたは……五年前に英雄として召喚されたのよ。それがどういうことか分かってるの?」
「――帝国の騎士はこの国の敵だから、出てけってことか?」
「…………っ…………。そうは言ってないでしょ」
穏やかじゃないことだけが、僕の胸に伝わってきた。何かを訴えようとするゼルフィムの握りこぶしと自嘲してそっぽ向くシガーンの頬杖が何処までも行き違うのは良くないと思える。
「僕にも、分かるように順番に話してもらえませんか?」
「私たちは大商国の周辺国に生まれた幼馴染みだった。毎日の様に商店街の大人に挑んでは勝って負けてで充実した日々を送ってた。だけど…………一年に数回、帝国の奴らが来る時があるの」
「――帝国の奴らは商店街の片っ端から商品を買い占めて、俺たちの富を奪っていく。それが――いわば、日課だった」
「だけど、あるとき。シガーンが不思議な弓を拾ったの…………」
そうすると、シガーンの携える大弓に自然と視線が集まった。形は量産されている弓より歪でくねった癖のある弓は使い手を選ぶようなものだ。
「この弓で俺は帝国兵を射抜いた。それはちょうど、五年前のことだ」
「それで帝国からの怒りを買った?」
「ううん。その逆で、シガーンは帝国から認められて召還されることとなった。…………拒めば、早い内に戦力は摘むと脅されてね」
他に戦力を与えないための政治が若すぎる一人の青年を惑わせて国を狂わせたというのなら、シガーンに同情もしたくなる。
「国は総出でシガーンを売った。その資金で国はこんなにも大きくなったの…………。でも、あなたが帰ってきたら…………」
「国が襲われるってか?」
「――――もう襲われたっすわ」
口を開いたのは、いち早く子供の盾になろうとした赤の男であった。訛りある口調で“ジーシャン”と名乗ったマイペースな男だ。武器を一番早く手放し、戦意はすでに皆無。それでも、敵意は持っていた。
「…………ジーシャン。シガーンも被害者なの」
ゼルフィムはすぐに仲裁して咎めるのを辞めさせた。視線で刺し、視線でいなす。僕はその輪から遠く離れた人間だ。だから、上手く持ち合わせの言葉を持ってない。
「でも、コイツは大人だしょー。子供が襲われるよりマシでっせ」
「…………コウノーシャが死んだんだ」
シガーンはやっと不機嫌な態度を辞めて、にらみ返すと思いきや…………、うなだれた。それは、ゼルフィムに謝るかのように頭を下げたのだ。
「――――っ!?」
僕以外には顔が冷めた。僕でさえコウノーシャが亡くなるとは思わぬ、出で立ちだった。出陣は勝利を約束するような大の男に及んだ、大きな機械の騎士が弔いになったと痛感する。どんな言葉でも彼の死は覆ることもないし、それを汚すべきではないのは知っている。
「…………コウノーシャが死んだのか?」
「……そうだ」
「――だったら、しょうが無いな」
シガーンの潤んだ瞳とゼルフィムの和やかな瞳がようやく合わさって、想いが言葉を超えた……………………のだと思う。それは二人の間でしかしれない僕に分からない空気だ。
「…………もう帝国にいい顔をする義理はないってことね」
「帝国に仇なすために帰ってきた。次の奴らの遠征が楽しみだな…………」
――――どうやら、その時は近いらしい。




