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どんよりとした曇り空に僅かばかり、鋭利な陽射しが突き刺さっていた。まるで白い刃に見えるその光は戦禍の予兆をさしているようだ。活気付いた大商国にも、今日は緊張感が窺える。
「帝国の奴らが来たぞー」
一人の門兵が大きな声を上げると商店街の人々の面持ちは緊張に結ばれる。耳を澄ませば、大量の足音。それも金属を打つような打音が何度も聞こえると、軍隊が武装していることは想像できた。
「彼らは友好的じゃなさそうだな」
僕が弱音を吐くようにぼやくと、シガーンは苦笑いをした。そして、大商国の周辺地図を広げて、敵軍の進路を予測し始めた。シガーンの帝国内での持ち場は、城壁の監視役だったのだ。防衛戦は得意分野に入り、その経験値と誇りは戦場で大きな士気に繋がる。
「まぁ、問題は数より“英雄”だな」
「この都市の人間なら、ただの一般兵など蹴散らせるだろう。だが、英雄クラスになってくると、到底、歯が立たない。私たち、朱のライオンが力を合わせて、やっと一人足止め出来るかどうかだと思う」
ゼルフィムが唸ると、朱のライオンのメンバーは悔しそうに机を小突く。朱のライオンの連携の動きは確かに僕とシガーンを誘導するには完璧な策略だった。しかし、どう転がったとしても、僕らが朱のライオンに首を捕られることはなかっただろう。それは僕らが言わなくとも、彼女は自覚している。だからこその悔しさで有り、僕の強さへの嫉妬を多少なり感受する。
「わりぃが、俺も接近されたら、英雄クラスには及ばないと思う。だから、仕掛けるとしたら、帝国の外だ。ただの兵隊は無視して、英雄とやり合う」
「いや、狙いが私たちの首とは限らない。帝国に仇なすシガーンたちを追っているのでしょうけど、しらばっくれる手もあるはず……。きっと、シガーンたちがこの国に来ていることに確信は持っていないはず。いつも通りに振る舞えば帰ってくれる可能性だってある」
「でも子供が襲われるのは、もう見たくないっすよ」
朱のマントを身に包むジーシャンは、敵軍の殲滅をあくまで目的としている。帝国の軍隊が大商国に訪れる度に公益という名目で、金品をことごとく持って行かれるのだ。すると、貧困の子供達にしわ寄せがいってしまうのは、もう懲り懲りなんだ。軍隊は着実に近付いてくる中で歓迎か、撃退かを未だに決めあぐねる。
「ここで戦うことを選べば、戦い続けることになる。」
僕は注目を集めることを承知で、口を挟む。未だに人の目が恐かったりするが、それでも命を懸けることに生半可な判断は出来ないのだ。一度、帝国を撃退すれば、今度はより大きな戦力を投下してくるだろう。そうなれば、いつかはこの大商国は消滅する。それが今回か、次回か、次々回か。
帝国にいい顔を見せることでしか、国として生き残る道はないのだ。
民主主義のこの国には、王の存在がない。それはすなわち考えを纏めるという手段がないということだ。国民の総意で決めようにも、襲撃の方が早いだろう。
攻めか、守りか。
「決めるのは、俺たちよそ者じゃない……」
シガーンがゼルフィムに目を配ると、彼女は目を見開いて、眉をへの字にする。僕もその意見には賛成だ。この国の将来性は国民こそが決めるべき。そして、その判断に手を貸すか、逃亡するかは僕らの自由だ。
「もし……、そんな強大な相手と戦うっていう大馬鹿がいたら、ジレーンはそいつを助けるか?」
「さぁな……。多分、助けないと思う。だが、俺にも例外がある。その大馬鹿者が例えば……ゼルフィムだっていうなら、俺は手を貸す」
お互いに照れ隠しなのか、一切視線を合わそうとはしなかった。だけど、二人の考えることは、最初から同じで、答えは見つかっていたのだ。この国は国民で成り立つ。国の存続など関係のないことだ。国民の希望こそが、民意である。
帝国が嫌いなら、頭を下げることはしない。それが例え、身を滅ぼすことになってもだ。
◇
重厚な鎧に身を纏い、兵士達は列を成して、進行している。王都からの命令であれば、ため息一つ許されない。恐怖から現れる敬意は崇拝というより、洗脳に近い。
すると、視察兵として前方を走ってきた騎馬が一騎、唯一、豪華な馬車につか付いていく。中から並みの人間を凌駕する英気が溢れていて、自然と敬語が漏れた。
「リリーナ様、そろそろ大商国に到着いたします」
馬車で、烈火の二刀磨ぎながら小さく頷いた。剣士の勘がいうのだ、私はこの遠征で剣を抜くことになるだろうと。
「おいおい、大商国にいくんだぞ。戦うって決まってないのに、新人英雄さんは気が早いねぇ」
「きっと戦いになりますよ。くれぐれも自分の命は自分で守って下さいね」
帝国の刺客。二人の英雄がぴりついただけで、視察兵の背からは冷や汗が吹きだした。音をだしてはいけないのに、甲冑がかたかたとなってしまい、身体の痙攣が止まらないのだ。
「視察おつかれー。君、カタカタウルサイね。刺殺されたい?」
すると、陽気な英雄は朗らかに笑って、視察兵に近付いた。抵抗するどころか、身体は恐怖で動かなかった。
「すぐに静かにしますっ! 命だけはお助けをっ」
「ジョークだよ。だ・じゃ・れ」
ダークブルーの短髪で片方を刈り上げた甘いマスクの英雄は、もっていた短刀で視察兵の肩を叩いた。なだめるように叩くのだが、短刀の身も凍るような藍色の輝きに落ち着くことは出来なかった。
「味方を殺して、どうするのですか? 殺すなら王に仇なす者。それが兵士の役目です」
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その時、僕の感受がとても大きな殺気をもらい受けた。
軍隊も戦うことを、予定している。そんな不穏の前触れだった。




