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「クリスマス特価だぜっ! 安いよー、安いよー」
僕が傭兵団の襲撃から逃れ…………、逃げられた? その辺りは定かではないがシガーンと供に大通りに無事にたどり着くと、商店街から客寄せの声が聞こえた。
「あはは……。シガーン、ここの人たちは変だね。雪も降ってないのにクリスマスだってさ」
「クリスマスは雪関係ねぇだろぅ…………」
「だって、サンタという謎のおじさんの伝説は厚着のコートを着てるっていうじゃないか……。こんな暖かい場所じゃ、汗だくになっちゃうよね」
僕が師匠から聞いたおとぎ話を覚えていた。こんなに人の賑わいがあって日光が天空から突き刺すこの上演中のストリートパフォーマンスに厚着は不要。かえって、白けてしまうだろう。
「アマト。残念だがクリスマスは冬の行事じゃないんだよなぁ」
「…………えっ。そーなの?」
「帝国近辺では今頃、雪化粧に色づいて厚着をしているだろうが、この辺の地域は異常気象で冬がないんだ」
四季が訪れない場所に来るのは初めてだ。天気の切り替わりはなくとも、“神林”では日射時間と日照量が一年で変わり、植生は変わっていったのだ。
「じゃあ、サンタのおじさんはいないのかなぁ?」
「――――“おじさん”はいないんだなぁ」
シガーンはそういうと商店街の人形屋の方へと歩いて行った。迷いのない足取りに僕もついていく。
「よう、兄ちゃん。幻の雪だるまさんだよ。…………羊毛だけどね。お一つ銀貨五枚。…………どうよ?」
銀貨五枚といえば、かなりの額なんじゃないかな。ランが言うには、銀貨を見るようになったのは僕の付き人を始めてからだと嘆いたし。すると、シガーンはポケットに手を突っ込むのではなく、僕の背中を押し出した。
「なんだい? 男は金にならないんだけどなぁ……」
近付くと豪快な筋肉が汗に光り、たくましい身体が僕の視界のほとんどを埋めた。
「コイツと腕相撲一本勝負。勝てば、無料。負ければ、二倍払ってやんよ」
シガーンが僕のかわりに店主を睨むと店主は僕を見定める。
「…………コイツと? 良いぜっ」
こんな可愛い雪だるまを可愛くない商談で取引するなんて。この店はかなりすいている理由が分かった気がする。子供も寄り付きたくないだろうな…………。
「いいよ。勝負だ」
僕は店主の腕を握ると、右手は店主の筋肉に埋もれた。手の大きさが違いすぎて僕も子供にみえただろう。腕相撲をやるのは初めてなのだが、たしか互いに肘を付けて…………、相手の手の甲を床に届かせた方が勝ちだった。
竜とは手の形が違いすぎて、基本的に同種族でしか出来ない遊びだからね…………。
僕が息をつきながら、肘を置いた瞬間、何の合図もなく店主が全身全霊で僕の右手を押しつぶそうとしてきた。
悪巧みの笑みの意図はこれか…………。
ルールも決めずに土俵に乗っかる僕の負け。交渉では全く歯が立たず相手を見れていなかった。――――だって。
――力比べの遊びなんて、闘争心がそそるだろ。
僕の甲が卓上につく寸前で、ぴったりと微塵も動かなくなった。店主は腕の力だけでは足らず、顔の網細胞を真っ赤にして体重でトドメを刺そうとする。
それを僕が面白そうに笑みを浮かべるとしまいには両手を使う、ルールすれすれ。
「ねぇ、シガーン。これをひっくり返したら良いんだよね?」
空間が停止したように腕の拮抗だけが留まって、僕は外にいるシガーンに顔を向けた。
「俺、銀貨十枚も持ってねぇから、絶対負けんなよ」
「りょーかい」
僕が右腕を動かそうと思うと意に沿って、右腕は動き始めた。全体重を乗っけた店主の身体が僕の腕一本で軽々と浮いた。店主は仰山な見開きで僕を見ると、ぽかんと口を開けた。店主の力は抜けたのに押し掛かる力は変わらなかった。最初から体重分の力しか発揮できてないなんて、力の使い方が下手だなぁ。
身体は柔軟なバネで出来ている。それを上手く使うことで自分にある質力以上の、パワーを生み出せるわけだ。腕相撲で使うは腕から背にかけた広背筋までの一連の筋繊維。
翼はなくとも、身体は浮いたように軽く思うままに力を発揮する。
「よっこらしょ」
僕が腕を切り返すと店主の身体は横に投げられた。全身が浮いて宙ぶらりんの状態、僕が握った握力で逃げられずと、躱しようの無い状態で容赦なく申し訳ないことをしたなぁと痛感。
木製の椅子などを巻きこんで、実際の相撲のように店主の背中が付いた。
「細いのに………………どういう、身体をしてやがる」
「このぬいぐるみは貰ってくぜ。小細工は通用する奴だけに仕掛けろよっ」
シガーンは再び、僕を抜きに商談を進め、雪だるまを持っていた。――勝ったのは僕なんだけどなぁ。僕は手に残ったカミソリの刃をぐちゃぐちゃに握り潰し、辺りの砂粒と同じにした。
「にしても、シガーン可愛い趣味だね……」
「――俺の趣味じゃねぇよ」
次に確かな足取りで石畳をならす先には住居しかなかった。それもコンクリートの真四角ハウスだ。住人も布を広げて軽い商売をしているが、どうにも賑わいのないこの場所では売れ行きが良くないだろう。
「ほら、ラルぅ。これがプレゼントだぞっ」
すると、目の前にはラルという少年にプレゼントをする赤の姿があった。子供は一人どころではなく、たくさんいる。そこに三人の赤姿――――赤マントの傭兵がプレゼントを配っていたのだ。
「あの人達はさっきの――――っ?」
「お前はっ!?」
僕の視線と傭兵の視線がぶつかるのは同時だった。傭兵は圧倒する一息で、子供達を庇うように陣取った。物騒な武器は持っていないがマントの中に仕込んだ腕と殺気。
間違いなく僕らを襲った傭兵だ。
「ちょっと待った。僕らは何もしない」
僕はすぐに両手を上げて、シガーンの片腕も上げさせた。その手には可愛い雪だるまだ。 和ますにはちょうどいいスマイル。とはいえ、笑ってくれるのは子供達だけだった。
「また――――。お前らはァ、また子供達を傷つけるのか!?」
「お前らは帝国からの戦士だろっ?」
二人の声が赤のマスクから漏れた。僕が感受したのは憎悪と憤怒の感傷。嫌な思い出に僕らを重ねているようなそんな嫌な感じ。
「――ちげぇよ。ゼルフィム。お前なら分かってんだろ?」
すると口を閉ざした線の細い一人の赤に、シガーンは声を掛けた。僕と赤の二人は同時に驚嘆。どうやら、僕の知らない事は向こう連中もしらないらしい。
「リーダー。どういうことですか?」
赤の一人がゼルフィムという傭兵に声を掛けると、それを無視して………………、フードを取った。
「――――シガーン。やっぱり、貴方だったの?」
頬に火傷を負いはしているが、絹のようにきめ細かい白肌の素顔が露わになった。マントに突っ込んだ手を抜くと中からは鎖が垂れる。そのまま、鎖を地に落とすとそんなのお構いなし、シガーンに向かって走り出した。感動の再会をじゃましないように僕は二人の間を躱すと………………。
「――今までぇっ。何をしてたのよぉっ!!」
ゼルフィムの拳がシガーンの鼻っ柱を捉えて、シガーンが打ち上がった。僕はますます女心が分からなくなる経験を積んだのだ。




