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僕が馬車に乗るのはこれで二度目になるだろうか。一度目は大きな襲撃を受けたわけだが…………、それを仕掛けたのが、――今、僕の目の前でバカ笑いする人々の仲間たちだと思うと不思議な気持ちになる。
的だったはずの“人間”と味方だったはずの“人間”。これまた同族争いを起こす人間ならではの“矛盾”だということを何度も自問自答したっけ。
「アマトー。すごいよっ! 帝国の外ってこんな風になってるんだぁ!」
ランが僕の肩をツンツンとして車窓におでこををぺったりとくっつけている。
「なんだい? そう、まじまじと。外の景色を見るのは初めてかい?」
そういうのは僕らの隣に座る中年の兵士。“兵士”とはいっても、英国的なジャケットスーツを正装として、剣を携えているだけ。特に緊張のない、いわば人当たりの柔らかそうな紳士。真摯な態度と小洒落た格好がコミカルだ。
僕はその紳士の人柄を好んだのだが、おでこ貼り付けのランは車内を向こうともせず…………、それでも返事を返してた。
「私、帝国を出るのが初めてでして……」
「外の世界はいーいぞ。こんな緑のガーデンだけじゃない。俺が今着てる“ジャケット”のような良い生地も手に入ったりする。十年分の稼ぎで買ったんだー。良いだろう?」
よほど、洋服については気に入っているのか、なんども襟元をたててはアピールしていた。僕には“褒めてくれ”とグサグサと視線が刺さる。
「やっぱり、男の人は外見より中身ですよ。何を着ても似合うと思いますよ」
ランの丁寧な言葉づかいと上手いお世辞。中年の兵士はそう言われるとピンと鼻高自慢顔がしょんぼりとへし折られて、幸い、何着ても似合うという褒め言葉に縋るだけだ。
「そっ………………そうだよね。わざわざ、高い服を…………ね。買わなくても…………ね。かみさんにも言われたよ…………っ……」
「“ソルド”! 大の男が泣くなってよ。お前は自分の欲しいものになるとすぐ目が眩むだろ。せっかく転売屋として良い目利きなのによ」
この馬車はど真ん中に通路を割って左右に二席ずつ設けてあった。その二席に僕とランが腰掛けていてランが景観を見ている以上、僕が通路席になっている。その反対側の窓に座る男が立派なジャケットに着せられた男をトントンと肩をさすって、慰めはじめた。
「転売屋?」
僕が気になったその業種。商業家がなぜ前線で戦っているのか。
「そうだ。良い物を仕入れるには自分の目で見るしかないって心情らしいよ」
仲の良さが色濃い二人の親しい間がらが見える。
「たしかにソルドさんの体格からは、戦士のような肉付きは感じられないです」
うなだれるソルドさんのそのバランスを見つめながら、改めて、洋服が似合うと思う。下手な武装をするよりも気前が良い。
「じゃあ、もしソルドじゃなくて、俺と対立することになったらどれくらいで俺を倒せる?」
男は腕に力こぶをつくって見せると僕の方を見て笑うものだから、
「倒される前提なんですね?」
「まぁ、“リーク”も兵士では無く、医者だからな」
ソルドがなれ合ってツッコミを入れると二人だけの間で笑い合った。僕もそんな二人が微笑ましくなって、
「リークさんもソルドさんもすごく気さくですね」
「まぁー。俺たちサポート役は戦場に行ってもお荷物だからな。後ろで応援しているだけさ」
「それにしても、兄ちゃんは何の武器を使ってんだ? 俺は武器の仕入れもしててね」
僕が手持ちもなく、腰掛けている様子からとんでもない切り札が飛び出すのではないかと思われるが、
「僕は武器を扱わないです」
「――へ?」
素っ頓狂な声をだされることは帝国時代に学んだのだ。英雄とは自らの武器とセット名を馳せる。僕はその点でも世の中ずれている。とはいえ、それで安心感を植え付けて安堵の表情を浮かべるのを見ると、全然、悪い気はしない。
「――よーし。そろそろ目的地だ」
すると、レイドの若頭の声が馬車を反響させた。緑が続くの平原のど真ん中にある街は緑の国であることに違いない。暖かい温暖な気候と水分の豊富な湿度環境は到着を前から僕を魅了していた。
「兄ちゃん、村に着けば自由行動だ。道中、獣が出なくて良かったな」
「ソルド。安心するのは俺らだろ。アマトくんは夜道の人食い狼を蹴散らしてきたらしいぞ」
「いえいえ、遭遇前に避けてきましたから」
「あの化け狼の脚力から逃げられるってのもすげーな!」
結局、馬車の中、二人の大人達と交流を深めて僕らは馬車を降りることとなった。
「――なんて広い土地なんだ」
僕が降りたその瞬間、この街の自由がままの理由を目の当たりにしてしまった。
国土として帝国を優に超える大農園。ここを支配しようにもあまりの広さに人権が足りないであろう広大な土地で良質な土が耕されて、肉厚のよい作物がたくさんとなっている。
「すっごいっ!」
ランもそれには驚いたようで目を輝かせてどうにか先を見ようと背伸びをしながら、目を凝らしている。
「アマト。どのくらい広いかわかる?」
もちろん、果ては見えるのだがそれは――良質な緑だ。
山も斜面にも多種多様な作物があるため、透視が出来なければこの国土をいっぱいに見渡すことは出来ないだろう。
「全貌してみたい?」
「うんっ! うんっ!」
ランが力強く頷いたのを確認して、僕はレイド達に確認を取りにいくと
「姫様っ! どこ回りますか?」
レイドが降りてそうそう元気と勢いよくリベルテの元へと仕えている。
「そうですね………………どうしましょう?」
勢いの良さにお世辞にも貢献を出来てるとは言えない。正直、引いているリベルテにレイナがパッと辺りを見渡して、
「それなら…………、あの畑から回ってみる?」
「それは名案ですわね」
リベルテがその助け船に乗っかっていた。その様子をみるとレイド達もこの広大な土地を把握し切れていないようだ。僕がそのまま様子をうかがいながら、近付いていくと三人は僕との話し合いに応じてくれた。
要点は一点だけだ。日没までに戻るようにということだ。
それは迷子にならないようにとも取れるだろう。
「じゃあ、ラン僕たちも行こうか!」
透視が出来ない僕たちがこの国土を見渡す方法は一つだ。鳥になること。
正確には天に昇ることになるかな。
僕は踵をふと上げて、全身に力を蓄えると地面にその竜脚を突き立てた。
「ラン、落ちないようにね。さあ、出発だ」
一つ地面に震動を突き立てるとそれはなんども地中を重ねがけて一つの大きなエネルギーへと変わる。
――【土竜の猛り】
それは大きな大地の塔を突き立てて、天と繋ぐ橋渡しへと変動していた。
「きゃああああああああ! こんなのきいてなーーーーーい!!」
突き上がると同時にランは僕の腕にしがみついて胸の中へとうずくまった。青い空から遮蔽物のない日光の恵みと大地の富。地形にあった作物の繁殖。それによって完成した大農地の姿。それは帝国でも支配できない一つの在り方なのだろう。
大農園〈ルクール〉。それを今、僕らは太陽と同じ角度から見ている。




