1
1
腹をこしらえてから僕とランはリベルテに連れられるまま、街の中心へと向かった。荷積みの馬車に街中の男達が大小様々な布袋を積んでは一人の少女に話しかけていた。
「レイナちゃん、うちは米が無くなってきたから米に交換してきてくれ」
馬車の中に、よいしょと荷物を積み込むとレイナが書面に文字で印をつけていく。
「はいはーい。それで袋の中身は?」
「我が家自慢の焼き物だよ。皿と湯飲み。割れやすいから気をつけてくれな」
袋の方にも印をつけると男は去って行って次の男がまた袋を差し出した。そうなって男達が長蛇の列を成して、馬車に思い思いの品を積んで、要求をしていく。
「これって、貿易の準備?」
ランがスッと唇に指を押し当てて、馬車の方に前のめりになっている。
「――でも一体誰と?」
要は物々交換をしようというのだが、人々が求めるモノは食料関連のもののみ。
「それはもちろん、隣国ですよ」
リベルテは僕らを案内すると品々の人だかりとは、別の列で武装する連中の集まりへと誘われた。
「レイド、今回の行き先はどこだ?」
一人の少年が書面を手にしていて、兵士達の前で立候補者を集めていた。
「今回は農業の国〈ルクール〉だよ。定員は残り五名だけど、どうする?」
今度は馬車の中に整頓された座席が用意されていて、少人数による部隊編成がされていた。
「あそこの乳牛は立派なもんだからな。俺はいくぞ」
「子供と遊ぶ約束したからな。今回はパスだ」
有志による小隊の結成には帝国の命令とは違う自主性と調和的な和みがあった。輸送用の馬車一台と兵団の馬車二台による三台の馬車が準備されていく。
「そっか。じゃあ、希望者は乗り込んでくれ」
レイドが次々と人を捌いていくと馬車の中は適度に兵士達で埋まっている。駄弁にあけくれて、妙な緊張感がないのは僕にはとても羨ましい。すると、一つため息をついたレイドに向かって、リベルテが小走りに向かっていった。
「レイドー! 私たちも乗るわ」
「あっ! 姫様? それに今日は兄ちゃん達も一緒なのか?」
あくび寸前、リベルテに呼び止められたレイドはそそくさと態度を改めて、書面を取り直した。そこには乗り込んだ兵士の名簿しか載っていないのだが、
「今日の兵士さん達はとても強いとは言い切れない。この国の屈指の兵士さんは昨日の帝国戦で疲弊しきっているし、今回はやめておこうよ」
レイドは最悪の事態を想定して、今回の見積もりから決断したのだろう。頭ごなしに断るような男には僕には見えない。だからこそ、本当は連れて行って上げたいのだろうし、リベルテの好奇心を“感受”した僕も助力したい気分でいっぱいだった。
「理由は兵力の不足かな?」
僕がレイドに一言発するとレイドは僅かに緊張感を持って、コクリと頷いた。
「リベルテとランは僕が護るよ。だから、三席埋めても良いかな?」
「うーん…………」
僕の強さは承知した上でまだ仲間としての実績が一つもないことに信頼が置けないのだろうか。レイドが眉を寄せて、じーっと考え込んだ。
「レイド、私からもお願い」
その思考を悩殺するようにリベルテはレイドの手を取って、ギュッと握りしめた。すると、ドキドキと若さ溢れる緊張感に甘酸っぱい空気が…………。
「レイドぉー! まだなの? 荷物積み終わったんだけどー」
レイナと御者がガタガタと大きな車輪を駆動させて、僕らの間に入り込んだ。
「レイナもうちょっと待ってくれよ。今、悩んでるの」
「手を握られてデレデレしてるだけでしょー?」
レイナの一言は茶化すというより、レイドをグサグサと追い込む双子ならではのそれだ。
「レイド、ダメなんですか?」
そこに追い打ちのリベルテにレイドの頭はもう沸騰したように弾けて、
「乗車を認めるっ! だけど、姫を護るのは俺だからな。覚えてろよっ!」
そうやって、レイドは僕に向かって大声をきった。そう言い切ると先に馬車に乗り込んで行くのだが……、
「レイドー。よういったな」
「あははっ! 可愛い奴だな」
馬車の中では大人達に話の肴にされる追い込まれた雑魚であった。
「じゃあ、私たちも乗りましょうか」
高低差のある馬車へ乗り込むにはリベルテのドレス裾が引っかかりそうになっていた。僕は即座にそれに手を伸ばそうと
「リベルテ、ひっか…………」
――そっ、と手を取ってリベルテへのエスコートをしたのはレイナだった。
「レイドのばかっ! ちゃんと男なら気遣いなさいよ」
「レイナ、ありがと」
リベルテとレイナは仕方なく笑いながら、馬車へと乗車していく。
すると残されたように静けさが街の風を示す。僕の身体を、感情をさす風が、ここはやぱり心地が良かった。
一つ深呼吸を整えると、
「ラン、僕たちも行こうか?」
「そうだね。私のこと護ってくれるんだよね?」
「あぁ、何度だって護ってみせるよ」
ランが差し出す手を取ると、僕らは一緒になって、馬車へと乗り込んだ。
馬車の中は場所は変わっても〈形無き国〉。人々が国を作っているからこそ、人が集うところには同じ“国風”が僕の心を気良く打つんだ。




