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プロローグ 新地と認知


 プロローグ 新地と認知



 僕がランを抱きしめて帝国を飛び出してから数時間。〈形無き国〉へとエスコートの結果、夜は明けてしまっていた。


 空が赤く焼けてから、青空が広がる。皮膚に温かみを感じて安心を与えてくれる水平線が表す地表の輝き。その先にあるのは、いくら僕の目が良くても見ることの適わない世界。


 僕の見てきた世界がほんの一部であるならば、僕はまだ知らない世の中を指標として走り続ける。



 ――その第一歩こそが〈形無き国〉なのだ。



 誰かの言うがままに従うのなら、生物に個性は要らなかった。それは人間に関わらず、僕の“感受”が“生き物”と共存をしているのだと教授する。



 僕はこうして、新地で初めての太陽を迎えた。


 すると、ソファに寝る柔らかな身体が起きあがった。


「はぁぁああー。アマト、もう朝?」


 メイド服は着崩れていてシワが寄ったり、たるんだり。いつも完璧でいようとする分、その弱気な仕草を垣間見るとドキッと胸が弾む。

 “ラン”には気を楽にしてもらいたい。そんなランの“柔らかい気”が僕は好きだから。


「おはよう、ラン。寝床が無かったから、とりあえずここに運んだんだ」


「それは別に……。……でもっ、ここって?」


 ランがまだかすむ目をこすって、光景を理解しようとする前に…………、



 ――ぐぅーっ



 と、一つ腹を鳴らした。それも仕方が無い。僕らは今、とある定食屋にお泊まりさせてもらったのだから。

 朝の仕込みの音がする。

 香りがする。


 そして、店主の気前の良い笑顔がオープンキッチンの向こうから覗いた。それは僕にとって、数時間後の再会であっても…………、ランにとっては――。



「――お父さんっ! ――…………ほんとうにお父さんなんだよね……?」


 失ったはずの再会であった。


「ほら、朝飯食べなっ……」


 店主は何も言わず、ただ深い笑顔のまま、テーブルに料理を出す。それはランの料理と酷似した美味の皿。


「腹……減ってんだろ」


 仰仰しい会話は不要だったんだ。平常心を装っていて、本心を照れくさそうに隠している。これが家族の形であるのならば、僕はその中睦まじい姿を微笑ましく見守るだけだ。


「いただきます」


 ランは冷めないうちに料理を口に運びはじめた。すると、店主は何も言わず、もう一人前、ランの横に皿を並べた。それはお誘いの念。


「僕も良いんですか?」


 僕はランの横に座って、箸を取ると、


「兄ちゃん、ランをありがとなっ」


 店主は渋い声で僕に返答した。


「アマト、連れてきてくれてありがとっ」


 ランからも僕宛のメッセージ。でもそれは……僕を挟んだ親子のやりとり。

 お互いにスマートじゃないからこそ、僕は家族愛に板挟み。自然と笑顔がこぼれれば、料理はより美味しく感じられた。



「やっぱり、おいしいなぁ……」


 僕はこの素材の味も料理も大好きになった。“胃袋を掴まれた”ってこのことをいうのかもしれない。でも…………


「発展途上のこの国で、どうやって食べ物を仕入れているのですか?」



 ――カランカラン。

 ちょうど、その時、軽快なベルの音が綺麗に奏でられる。それは一番のお客さん。



「――みなさん、おはようございます」



 外からさっと現れたのは、清楚でいながらかわいさを持つ、この国の象徴“リベルテ”であった。


「お嬢様、いらっしゃい」


「えぇ、フラサブールさん。今回の仕入れはどう致しましょうか?」


 それは僕の聞きたかった答えになっていたのかもしれない。一体、どこから食料を得ているのか?


「――ラン、“買い出し”頼めるか?」


 すると店主はランに仕入れを一任するように、ようやくランと顔を合わせた。


「えっと、フラサブールさんの指示はないのですか?」


 それを不安そうにリベルテが呟くのだが……、


「俺の自慢の娘だからな。足の悪い俺の代わりに直接、素材の声を聞ける子だ」


「そうですか…………。分かりました。人数が増えるとなると…………護衛も増やしたいところ………………ですね?」


 リベルテはなんのためらいもなく初対面のランの同行を認めた。そして、最後には僕の方を見て、笑顔を強いている。


 ――こうして、僕は新地での新たな生活を認知していくこととなる。









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