日野葵との出会い
「このかちゃんって言うの?とっても可愛い名前だね。」
初めて葵を見た時なんて可愛い子だろうかと思った。
暗くて人と関わるのが苦手なこのかにも優しく接してくれる。そんな葵のことが徐々に好きになっていった。
ずっと葵のことが好きで仕方なかった。
葵と初めて出会ったのは小学生の時だった。
このかは小さい頃はまだ人と関わるのが苦手で子供ながら家で一人で本を読むことが多かった。本を読んでるといろんなことを知れるし何より静かで落ち着く。
それにこのかは人と一緒にいたくなかった。
小学生の頃から頭が良くて運動神経も良くてその上誰からも好かれるこのかは時に人から妬まれることもあった。
クラスの女子からはよくいじめ紛いなことをされていた。
それに男子からも急に体を触られたり変な目で見られたりするのも嫌だった。
妬みも異性からの変な視線も全てが嫌で仕方なかった。水をかけられるのも体操服を隠されるのもうざかった。告白されても鬱陶しいだけだしストーカーだってやめて欲しい。
そんな日々が嫌でこれからもずっと一人でいたいと思っていた。
『ピンポーン』
いつもと変わらない日々を過ごしていると突然玄関から大きな音が響く。こんな時間にチャイムが鳴るなんて珍しいと思いつつもさほど興味はなかった。
しかしこのかが本を読んでいるとすぐにお母さんがやって来たこのかを呼ぶ。そのお母さんの表情はいつもより明るかった。
「このか、隣の家に新しい人が住んできたのよ。貴方と同じ年の女の子だから挨拶しなさい。」
「ええ、いいよ私は。どうせ話すことなんてないんだし。」
お母さんは喜んでいる様子だったがこのかにとってはただ鬱陶しいだけだった。どうせこのかを妬むかこのかに媚びへつらうかだ。
「ほら、いいから来なさい!とっても明るい子なんだから。」
このかは無理やりお母さんに掴まれて結局玄関に連れて行かれた。どうせこれ以上関わることもないし、適当に挨拶して終わろうと思っていた。
「ほら、この子が隣に引っ越して来た葵ちゃんよ。このかも、挨拶しなさい。」
「えっとこのかです。よろしく。」
玄関を開けるとそこには可愛らしい一人の女の子がいた。確かに明るくて元気そうな子だった。しかしそれでもこのかは興味もなく早く部屋に戻ろうとした。
「このかちゃんって言うの?とっても可愛い名前だね。私は葵だよ。よろしくね。」
葵はこのかの手を無理やり握って明るく笑った。なんて眩しく笑うのだろうと思った。今まで真っ暗だった視界が少し明るくなった気がした。
「ねえ、このかちゃんって普段何して遊ぶの?私と一緒に遊ばない?」
葵には嫌な感情は感じられず純粋にこのかと遊びたいようだった。それはこのかにとって初めてで少し新鮮だった。
「まあ、少しなら遊んでもいいよ。ただ外で遊ぶのは嫌だ。」
「うん、それなら私の部屋で遊ぼうよ!私ゲームとか得意だよ。」
葵はそう言ってこのかを無理やり部屋の中に連れていった。
葵となら一緒にいてもいいかなと思った。仮に葵と合わなくてもすぐ離れればいいとそう思っていた。
しかし、葵とこのかはあれからずっと一緒にいて気付けば親友になっていた。
学校でも放課後でもこのかはずっと葵の隣にいた。
今まで人と関わるのが嫌いだったこのかも葵のおかげで少しずつ柔らかくなっていった。人と話すのも前ほど苦痛じゃなくなったしいじめられることも少なくなった。
それだけ葵はこのかにとって大事な存在になっていった。
「ねえ、このちゃん。このちゃんは私のこと好き?」
「うん、葵のことは好きだよ。ほら、それより早く帰るよ。」
スキンシップの多い葵にこのかも優しく対応する。葵もこのかのことを好きと言ってくれる。それが嬉しくてたまらなかった。
ただその好きと言う感情は葵とこのかでは全く違うものだった。このかは葵のことが異性として好きだった。だから葵がこのかのことを好きだと言うたびに辛かった。
葵が異性と付き合ったら死ぬかもしれない。
「ねえ、葵は中学生になっても私と一緒にいてくれる?」
「もちろんだよ!私はずっとこのちゃんと一緒にいるよ。大人になっても。」
そう言って笑う葵が好きだった。ずっと自分にだけ笑って欲しい。自分以外の人と話して欲しくない。そんな渦巻く思いを胸に秘めながらこのかは葵の手をぎゅっと握った。
「好きです。付き合ってください。」
学校が終わり校舎裏に呼ばれた葵を見に行くとそこでは葵が男子生徒に告白されていた。
このかは中学生になってもずっと葵と一緒だった。しかし中学生になってから葵はよく告白されるようになっていた。
可愛くて明るくて誰にでも優しくしてくれる葵がモテるのは当然だが葵が告白されてるところを見ると胸が引き裂かれそうになる。
「なんで、葵を。誰も葵のこと少ししか知らないくせに。」
このかは一人ぼやきながら葵の返事を待っていた。
このかはずっと葵のことが好きだが告白なんて出来るわけもなくこの思いを秘めることしかできなかった。
それでも葵のことを独占したいという気持ちだけは日に日に増していった。葵が男と楽しそうに話しているとイライラして仕方がない。
「えっと、私は今誰とも付き合う気はないんだ。だからごめんね?」
葵がそう言って告白を断るとこのかは嬉しくて堪らなかった。葵が誰かと付き合ってるところなんて見たくない。
このかにも中学生になって友達は出来たがやはり一番の親友は葵だった。毎日一緒にいる日々は幸せそのものだった。
毎日一緒に帰ってよく家に来て遊んで二人の間に秘密なんてない。そんな幸せもいつか無くなるかもしれないという恐怖が毎日襲ってくる。
今だって葵が告白を断わって嬉しくてたまらない。こんなことが葵に知られたら嫌われてしまうかもしれない。
「あっ、このちゃんだ!もしかしてさっきの告白見てた?」
こちらに気づいた葵はこのかに優しく笑いかけてくれる。中学生になって背が伸びた葵は可愛くて今にも抱きしめたい。
「偶々通りかかったら見ちゃった。葵ってば誰とも付き合わないんだ?」
「あはは、今は恋愛とか興味ないんだ。このちゃんや瀬奈ちゃんがいるし今はとても楽しいから。」
そう言って笑う葵が好きだ。手をぎゅっと握って家に向かう時、優越感に浸れる。他の男子が出来ないことを自分は出来る。それが嬉しかった。
「そっか、私も葵や瀬名といると楽しいよ。」
このかがそう笑うと逆に葵がもじもじとする。
「えっと、逆にこのちゃんは好きな人とかいないの?ほら、このちゃんもよく告白されてるじゃん。」
その言葉にこのかは大きなため息を吐く。確かにこのかもよく男女問わず告白されるが全部断っていた。
「もう、私が男嫌いなのは知ってるでしょ。今は誰とも付き合う気はないよ。」
このかはため息混じりでそう答えた。葵以外と付き合うなんて死んでも嫌だ。
このかは男が嫌いで仕方がなかった。小学生の頃から嫌いだったが中学生になると生理的に無理になった。
一緒にいるだけで気持ち悪くなる。視線が気持ち悪くて下心が丸見えで嫌だった。
何より葵に近づく男を見ると怒りが湧き上がる。
「えへへ、このちゃんも付き合う気はないんだ。なんだか嬉しいな。」
嬉しそうな葵を見てこのかはズキズキとする。もしかしたら葵も自分のことが好きなのかもしれないと思うことがある。
でも葵は誰にでも優しいから特別な感情はないのかもしれない。実際瀬奈にもこんな感じだし特別だと思ってるのは自分だけかもしれない。そう思うと告白なんて出来なかった。
「私は葵や瀬奈がいたらそれ以上は望まないから。だから葵もずっと私と一緒にいてよ?」
「もちろんだよ。これからもよろしくねこのちゃん。」
二人はお互いに笑いながら手をぎゅっと握り締めた。その暖かさは今でも覚えている。
その約束もちゃんと果たされてこのかと葵と瀬奈は同じ学校へと進んだ。高校に入ってもこの気持ちが揺るぐことはなかった。
そこでこのかはみんなと出会いそして今のこのかへと成長していった。
今のこのかになれたのは優しくて元気な葵がいてくれたおかげだ。
「そっか、葵ももういなくなるんだ。なんだか寂しくなるよ。」
このかは葵の引っ越しの準備を手伝いながらそう口にする。
高校を卒業したこのか達はそれぞれ別の道へと進むことになったが葵とも離れることになるとは思わなかった。葵とはずっと一緒だと思っていた。
「うん、私ももっとみんなと一緒にいたかったな。でも、このちゃんとはこれからもまた会えるね。」
その笑顔がずっと愛しくてただ辛くもあった。なんでわざわざ出雲に行くのか分からなかった。大人になっても一緒にいると約束したのに。
「うん、またすぐに会いに行くよ。だから待ってて。」
「うん、私もまたこのちゃんと会える時を楽しみに待ってるね。」
このかと葵はいつものようにゆびきりげんまんをした。このかは葵に彼氏が出来ないことを心の底から望んだ。
このかは結局葵にこの気持ちを伝えることなく別れてしまった。だから次会った時はこの気持ちを伝えたいと思っていた。
そしてその後に世界が終わることになるなんて思いもしなかった。
だからこそ葵と再会できた今、いつか葵に告白したかった。今はまだそんな勇気はないが旅の途中でこの気持ちを伝えたかった。
ずっと大好きだったよと。




