二人で行く旅
「えへへ、またこのちゃんと会えるなんて思ってもいなかったよ。それにしてもなんでこのちゃんが出雲にいるの?」
葵との感動の再会を果たしたこのかはとりあえずゾンビの少ないショッピングモールの外に移動した。それでも周りに少しゾンビがいるが外の方が幾分かマシだった。
このかは葵の至る所を確認したが特に目立った怪我はなく安心する。これだけゾンビがいる中で傷ひとつないなんて葵は運がいい。
葵とは色々と話したいことがあるがとりあえず今の状況を説明することにした。
「私は葵に会いにここまで来たんだよ。もちろん、鏡花達にも会いに行くよ。」
葵は驚いたような表情をしていたがすぐに納得したような笑みを溢す。
「あはは、やっぱりこのちゃんは凄いね。ゾンビが出てからずっと怖くて辛かったからこのちゃんがいてくれて嬉しいよ。」
相変わらず葵は可愛くて興奮してしまう。やっと葵に会えたことが嬉しくてたまらない。葵に会えたことだし早く出雲を出たかった。
「ねえ、私はみんなと会いに北海道まで行くんだけど葵も着いてきてくれる?」
「行く行く!私もみんなと会いたいし何よりこのちゃんともっと一緒にいたいもん!ただ一ついいかな?」
このかの勧誘を葵は快く承諾するがその後に少しの沈黙が響く。葵の表情はさっきまでと違い、曇っていた。
「どうしたの?悩み事があるならなんでも聞くよ。」
「それが実はまだお母さんが見つかってなくて。絶対にこの町にまだいるはずなのに。だからお母さんを見つけるまではまだこの町は離れられないの。」
そう口にする葵を見てると心苦しくなる。昨日から帰って来てないとなると死んでてもおかしくない。それでも葵のお願いなら聞くしかない。
「それなら私も探すのを手伝うよ。私結構強いし。」
「ありがとうこのちゃん。このちゃんはいつも頼りになるね。」
葵のためならなんでもする。とりあえず急いで葵のお母さんを探すことにした。
このかと葵はお互いの手を繋いでたくさんのゾンビが彷徨う町を歩いていく。
「それにしても葵って一人暮らしだよね?なんでお母さんやお兄さんが出雲にいるの?」
「二人とも私を心配してここまで来てくれたんだ。だからこそ、お母さんを放って置けないよ。」
このか達は葵のお母さんを探しながら二人で雑談をしていた。なんだか葵と出会ってからゾンビと遭遇する回数も増えている気がするが気のせいだろうか?
「そうだなあ、一体どこを探せばいいんだろう。とりあえず、あそこのスーパーにでも寄ってみる?」
このかはそう言って最近できたばかりのスーパーに指を指す。当てのないこのか達は食料のありそうな建物をひたすら回ることにした。
大きな看板にミナミツと書かれたスーパーに入り、このかは周りを見渡した。
スーパーの中に入るとものすごい腐臭と共にたくさんのゾンビがいた。
「うわっ、これはひどい。とりあえず全部倒すから葵は下がってて。それと目も瞑っておいて。」
「う、うん。このちゃんも気をつけてね!」
このかはバールを構えて葵を守るようにしてゾンビの前に立った。さっきからたくさんのゾンビがいるが結局このかの前では何体いようが変わらない。
『ヴァァァァ』
「葵には近づかせない。」
ビシャビシャと血が撒き散るがこのかは気にせずにゾンビを潰しまくる。ゾンビはこのかの敵じゃないが一つ問題があるとすれば服が汚れるということだ。出来ればあとでどこかの服屋に寄りたい。
このかはすぐに全てのゾンビを倒して葵の元に駆け寄った。
「ほら、ここにいるゾンビは全て倒したよ。奥の方に行こう。」
「す、凄いよこのちゃん。これ全部このちゃんがやったの?」
葵は驚いたような表情でこのかを見つめる。普通の女の子がゾンビを全て倒したのだから驚くのも無理はない。
ただこのゾンビも入り口付近にいるほんの一部でしかなく、まだまだゾンビはたくさんいた。いくらこのかでもこの数を相手にするのは難しい。
「うーん、何かいい方法があればいいんだけど。ってあそこのゾンビだけ倒れてない?」
このかがどうしようか考えていると何故かゾンビが倒れているところがあった。そしてそこには一人の女性が呻き声を発していた。それはこのかもよく知る人物だった。
「助・・・けて。」
「お母さん!お母さん、まだ生きてるよね?」
葵は大きな声でお母さんと呼んだ。まさかこんなに早く葵のお母さんに会えるとは思ってもいなかった。葵のお母さんは怪我こそしていたがまだ息があった。
「なるほど、全部繋がったよ。」
葵の家族の周りに異様にゾンビがいるのも葵や葵のお母さんが無事だったのもおそらく特異体質なのだろう。
このかはお姉さんのようにゾンビに詳しくはないが流石にこれは特異体質と見てよさそうだ。
『グァァァァ』
葵が大声を出したことで一気にここにいる全てのゾンビが襲いかかってくる。いくらこのかでもこの数は相手にしたことがない。
「きゃあ、助けてこのちゃん。」
「下がって葵。私が守るから。」
このかは再びバールを振り回してゾンビの頭を潰しまくる。血がばら撒かれて服が汚れるがお構いなしにただゾンビを殴殺した。
ゾンビも元は人間で一人一人に大切な家庭や家族がある。そう思うと心苦しいがそれでも葵には近づかせない。このかの旅を邪魔させる訳にはいかなかった。
『グァァァァ』
ゾンビは断末魔と共にどんどん倒れていく。因みにこのバールは特別製でゾンビを倒すのに特化している。普通のバールと何が違うかはこのかにも分からないが。
「よーし、これでとりあえずはいいかな?あの、大丈夫ですか?」
「お母さん!大丈夫だった。死んでないよね?」
周りにいるゾンビを全て潰し終わり、このかと葵は葵のお母さんに優しく声をかけた。
既に意識はなかったが心臓の音はしているし息もちゃんとあった。
「お母さんが無事で良かったよ。ってそんな顔してどうしたの?」
安心している葵と違い、このかは深刻な顔をしていた。
「・・・言いづらいんだけど葵のお母さんはもう助からないかも。」
確かに葵のお母さんは生きていたが既に傷があった。ゾンビに噛まれた者はゾンビになる。ゾンビに直接噛まれなくても切り口からウイルスが入り、ゾンビになる可能性があった。
「そんな、嘘だよ!お母さんは助かるよね?」
そんなの信じられないと言わんばかりに激昂する葵にこのかは何も言えなくなる。こんな時にお姉さんがいてくれたら。
「・・・分からない。ただ今は葵のお母さんを連れてここを出よう。避難所ならまだ安全かもだから。」
「・・・分かった、でも私は諦めない。お母さんは絶対に死なないから。」
そう言って必死にお母さんを抱きしめる葵はとてもかっこよかった。これが葵の強さなんだなとこのかはひしひしと感じていた。
「ったく、母さんも葵も心配かけやがってよ。とりあえず二人が無事でよかったよ。」
「本当にどうお礼を言ったらいいか。私と葵を助けていただきありがとうございます。」
葵のお母さんは優しい笑みを浮かべながらこのかに頭を下げる。葵のお母さんが無事でこのかは安心する。それにしても葵のお母さんは葵と違って大人しくていつ見てもびっくりする。おそらく葵の性格は父親譲りなのだろう。
あれから一度避難所に戻り二時間ほど経つと葵のお母さんが目を覚ました。特にゾンビになる気配ななく特におかしい様子もなかった。
「えへへ、お母さんが無事でよかったよ。本当にこのちゃんのおかげだね。」
そう言って笑う葵を見るとこのかまで嬉しくなる。よく分からないが葵のお母さんが無事だったのも特異体質のおかげなのだろうか?
「とりあえずみんなが無事で良かったよ。それじゃあ、もうちょっとしたら旅に出るよ。」
「うん、そういことだからお母さんもお兄ちゃんもありがとうね。私はこのちゃんと旅に出るから。」
葵は少し寂しそうに口にする。彰さんも葵のお母さんも寂しそうにしていたがそれでもどこか嬉しそうにもしていた。
「ああ、気をつけて旅に出ろよ。危ないことだけはするんじゃねえぞ。」
「ふふっ、葵は本当に元気ね。このかさんもいるし安心ではあるけどしっかりとね。」
「うん、このちゃんもいるし大丈夫だよ。ね、このちゃん?」
葵が元気そうで何よりだ。それにこれで次の場所へと向かうことができる。次は広島県に行かないといけなかった。
「うん、それじゃあそろそろ行かないとね。ちょっと車の調整をしてくるよ。」
ここから先はかなり長い旅になる。これからもずっと中村さんの車を使うため壊れてないところがないか点検しないといけなかった。
「そういえばこんなに食料を貰って良かったのかよ。なんか申し訳ないな。」
「本当ね。このかさんにはずっと迷惑をかけてばかりだわ。」
このか達はスーパーの食料を回収したがゾンビにほとんどダメにされていた。そのため結局わずかな食料しか手に入らなかった。
「いいんですよ。余分に持って来ましたから。」
このかはそう言って車からたくさんの食料を取り出した。この食料があればここの避難所の人達もしばらくは生活出来るだろう。
これも全て中村さんのおかげだ。それに残った食料は少ないが旅の途中にいくらでも手に入るからそこまで問題ではなかった。
「わあ、これがこのちゃんの車なんだ。このちゃんって車の免許持ってたんだね。」
「いや、ないけど?」
「えっと、嘘でしょ?」
このかがそう言うと葵達は少し青ざめていた。今の世界なら車の免許がないなど些細なことでしかないと思うが。
「はあ、それにしてもなんだか寂しいや。葵は私の隣の席に座って。」
「う、うん。安全運転でお願いね?」
心配そうな葵を見ながらこのかは辺りを見渡した。ずっと島根にいたからかここを離れるのは少し寂しかった。
このかだって島根にはたくさんの思い出があり、もう島根に戻れない可能性があると思うとやっぱり辛くなる。
ただそれでもこのかは旅に出てみんなと会いたかった。この気持ちを止めることはできない。
「よし、早速行くよ。それではまた。」
「お兄ちゃんとお母さんもまたね。気をつけて行くから!」
「ええ、それじゃあまたね。元気でね葵。」
「ああ、二人とも頑張れよ。」
このかと葵は二人に挨拶をしてからこの避難所を後にした。ここから遂に二人での旅が始まる。
「えへへ、快適な旅が始まるね。このちゃんと一緒ならどこにでも行けそうだよ!」
「うん、どこにでも行くよ。そしてみんなで思い出を作ろう。」
このかと葵は小指を結んで約束した。みんなと会うまではこの旅が終わることは決してない。
このかはテンション爆上げでものすごい速度でスピードを上げた。とりあえず早く次の目的地である広島まで行きたかった。
このかの中学時代からの友達であり、よく一緒にゲームをしていた若月瀬奈のところへ。




