第七話 救済所望の中二病
「ああー生き返るわー・・・・・・。 凍え死ぬかと思ったよ」
「こんなところに小屋があって助かったねトウヤ」
「本当に助かりました。トウヤがどうなってしまうのかと心配しました」
俺達は道中にあった和風な小屋の中の広間で、お茶を貰い座っていた。
一口啜るだけで、この冷え切った身体が、芯から温まっていくのかよくわかる。
ここが天国なのですね。わかります。
「どうだい?少しは温まることができたかい?」
廊下から一人の若い茶髪の男が歩いてきた。
雪の中で凍えている俺達を救ってくれ、お茶まで出してくれた神様の様なお方だ。
このお方がいなかったら、今頃はどうなっていたかと思うと感謝してもしきれない。
「いや、本当に助かりましたよ神様。お茶まで頂いてしまって。あなたの様な方にお会いできて俺は幸せ者だ・・・・・・!」
「そんな大げさな・・・・・・。や、やめてくれ。俺は通りすがりの旅人を助けただけさ、当然のことをしたまでだよ」
俺がお茶を置き土下座をすると、男はちょっと引き気味に言った。
小屋を見つけたところまではよかったのだが、スノースライムとの戦闘で体を冷やされてしまったのが、相当きてしまったらしく、雪の中で俺は倒れてしまった。
パロマとシルクが何とか俺を小屋に運んでくれたらしく、目が覚めたらここにいたというわけだ。
旅に出たらいきなり凍死しました。なんてことにならなくてよかった。
向こうの世界では思いもよらない、変な死に方をしてしまったが、こっちの世界では死ぬなら仲間を庇ってやられてしまったとか、どうせならまともな死に方をしたい。
いや死なないのが一番だが。
「ようやく目が覚めたか、木村冬也」
すると突然、聞き慣れない男、ではなくわざとらしく低くした、重々しい感じの女性の声が廊下の方から聞こえてきた。
誰だろう、俺はこんな声の女とは面識がない。
足音が近づいてくると、その女性は部屋の前に立った。
茶色いコートの下に白い服を着ており、下は黒いスカートに黒タイツ姿の、スラっとした今時の女子高生の様な美少女だ。
その女は右足を一歩踏み出し、左手で左目を強調する様に顔を覆い、右手で俺を指差すと、
「我と同じ使命を持つ者、木村冬也! 我の名前は山田三奈木よ!! さあ魔王を討伐するべく・・・・・・むぐぅ!?」
変なポージングをし妙なことを口走る、三奈木と言った女の口を手で塞ぎ込み、俺はそいつを廊下の壁へと押しやった。
「おい、いきなり何言ってんだあんた! 少し落ち着け!」
「お、落ち着くのはお前の方だ! は、放せ! わかったから私の口からその手を離してくれ!」
必死に抵抗してくるその女から、俺は手を離す。
パロマとシルクと男は呆然と俺達の方を見ていた。
「ちょっとこいつと話をしてくる。 待っててな」
「こ、こいつとは何だ! 私の名前は山田三奈木だ!!」
俺はこのうるさい女を、廊下の奥へと引っ張っていった。
「出会い頭にいきなり壁ドンとは、レベルが高いじゃないか?」
「壁ドンって言うな。別にやりたくてやったわけじゃねーよ。おい、山田三奈木とか言ったな? いきなり魔王討伐だとか一体何なんだ?」
今までに会ったことのない、変わった雰囲気の女の子に問い詰める。
壁ドンって言われると少し恥ずかしくなるが。
「何だも何も。あの子供達に聞いたが、木村冬也というその名前、私と同じく使者に導かれて来た者だろう? それと、私も子供達と一緒にお前をここへ運んでやったんだ。感謝するがよい」
「はあ、そりゃどうも。 私と同じくって、あんたも日本から来たのか」
「そうだ。学校帰りに、居眠り運転手のトラックの直撃をくらってしまって、この世界に甦らせてもらった」
俺と同じくこっちの世界へとやってきた人なのか。
確かに姿は日本人らしく、腰の辺りまで伸びているロングな黒い髪に、黒い瞳・・・・・・ではなく、片方が赤色で片方は青色だ。
小声で俺は尋ねる。
「・・・・・・カラコンか?」
「カラコンだが、どうした」
「歳はいくつなんだ?」
「十七だ」
・・・・・・この人はそういうタイプの人だったか。
日本でも話題に上がることはよくあるし、俺も眼帯を付けて学校に行ったことがあるが、クラスの全員には笑い者にされた上、一週間は学校中で噂になって、二度とそういう類のことはやらないと心に誓ったものだ。
さっきのポーシングやらカラコンやら、こうして間近で見てしまうと確かに凄く痛々しい。
「あれか? いい歳して中二病引きずっちゃってる系女子なの? 恥ずかしくないの?」
するとミナキは頬を紅潮させ、顔を俯かせてか細い声で。
「い、いいじゃないの。 この世界だったら違和感ないかもって思ってやってみたのよ」
まあ日本でそれをやるよりはマシだとは思うが。
しかし山田三奈木って名前、確かあの二人の母親のピスカが言ってた気がするな。
大分前に町を出たって聞いた気がする。
「あの街の知り合いに聞いたんだけどさ、お前ってかなり前にトゥロリテの町を出たんじゃなかったの?」
その俺の問いに、ミナキは尚も恥ずかしそうに、
「その・・・・・・。 一人でフラットの町まで行こうとしたのはいいけど、ちょっと厄介なモンスターがいてね。 結局引き返してあの街にいたの」
厄介なことっていうのは、きっとトンネルの前に出没する例のモンスターのことだろう。
確かに周辺のモンスターとは格が違うと言われてるし、恐らく逃げ帰ってきたと見ていいだろう。
「それでね、そのモンスターを何とか倒そうとして、パーティメンバーを募集してみたんだけど誰も来なくて・・・・・・。 それでフラットの方面へ向かうあなたたちを偶然見つけて、こっそり後をつけてたのよ」
「そうかそうか。痛い子の上にストーカーなのか」
中二病ストーカーってのも聞いたことがある。
闇の力を感じる一人の人物をしつこく追いかけ回すとかなんとか。
迷惑な話である。
「い、痛い子じゃないし!? それにこれは計画的な尾行よ!」
ミナキは少し声を張って言い返す。
痛い子は免れないと思うが、計画というのは気になるな。
「と言うと?」
「私達で手を組んで、その厄介者を倒しちゃおうって作戦よ! どう? いいと思わない?」
そんな提案をフフンと得意げに勧めてくる。
何か上手く話を進められそうになっている気がする。
それにこんなやつと一緒だと、逆に足を引っ張られそうで不安になるのだが。
「一応聞いておくが、ポイント振りはどんな感じにしているんだ? 俺は剣に多めに振っている」
するとミナキは俺にカードを突き付け、先程の様に顔に手を当て、不敵に笑い自慢げに、
「我は今レベル十五で、回復・補助魔法に多めにポイントを振っている。 攻撃魔法はその・・・・・・、乏しいが、トウヤ達の戦いを見る限りは、回復と補助魔法を使える枠は空いてると見て取れる! そのパーティでなら十分に活躍できるはずだ!」
俺達よりも幾分かレベルの高い回復系魔法使いか。
本職のプリーストには及ばないとしても、レベルがレベルなだけに使える呪文には期待できそうだ。
何より、こいつの言う通り俺の回復魔法だけでは、強敵と戦う時は必ず厳しくなる。
というより道中の戦いも見てきてたんだな。
そこまで真面目に倒そうと考慮しているのなら仕方がない。
フラットに行くまではこいつと一緒に行動するか。
俺はため息を吐き、
「わかったわかった。お前の言う通りパーティに入れてやるよ」
「やった! 役立てるようにしっかりサポートするからね!」
仕方なく提案に乗ると、ミナキは嬉しそうにガッツポーズをして返してくる。
というか女の子したり中二病になったり、こいつのキャラ忙しいな・・・・・・。
「ああ後さ、俺とお前の正体だとか、魔王討伐とかって話をするのをやめてほしいんだ。あいつらそんなこと信じないと思うし、話がややこしくなるのも嫌だから言わないでくれよ? そもそも俺らが無事に倒せるかが決まったわけでもないんだ」
確かに異世界へ行くのは望みだったが、できればこの世界の住人という設定過ごしたい。
それに魔王は魔物の王。
即ちそこらのモンスターとは言うまでもなく格が違うのだ。
今の俺達じゃ魔王を倒すなんて無謀もいいとこだ。
「ええー! 『異界の地から召喚されし勇者、魔王を打ち取る為、いざ旅へ出向かん』って感じでかっこいいじゃない?」
「俺が話しても面倒なことになりそうなのに、お前が話すと百倍は面倒なことになりそうだからやめてくれ」
ひとしきり話終え、とりあえず意見が一致した俺達は、三人が待つ部屋へと戻る。
しかし変わった性格の、しかも女の子ってなると話すのはかなり疲れるな・・・・・・。
後は厄介な行動をしないでくれればいいが。
「話は終わりましたか?トウヤ」
お茶を啜りながらシルクはこちらを向いて話しかけてくる。
「ああ、少しの間だがこいつと一緒にパーティを組むことになったよ」
するとミナキは俺より一歩前に出て、
「トウヤが私の力をどうしても欲するので、しばらく行動を共にすることとなった。というかいっそ魔王を倒すまで一緒にあいだっ!? ちょっと、何するのよ!」
余計なことを言おうとするミナキを俺は引っ叩く。
つい先程注意をしたばかりなのに、何堂々と言おうとしてるんだこの女は!
「? トウヤ、この人魔王倒しに行くの?」
ほらパロマが早速話に食いついてきちゃってるじゃないか!
「ま、魔王を倒そうと夢見ている可哀想な子なんだよ! こんな奴が魔王を倒しに行くなんて無理に決まってる! ハハハ。 ・・・・・・おい、さっきそういう類のことは言うなって忠告したばかりだろうが」
パロマに誤魔化しつつもミナキに囁くが、ミナキはそっぽを向いてしまう。
おいおい、こんなやつで本当に大丈夫なんだろうな・・・・・・。
「魔王かあ。 俺も強くなったら戦ってみたいなー」
パロマは夜空に願うように、顔を天井に向けながらそんなことを呟いた。




