第八話 夜と朝
「それで、トウヤがこの人の力をどうしてもという話になってましたが、どんな魔法を使えるんですか」
「どうしてもってのはこいつが、勝手に自分を主張したがってるだけだ。 回復魔法を主に使えるらしい。 この先かなり強い奴がいるらしいから、人数は多い方がいいと思ってな」
そう言うとシルクは立ち上がって、礼儀正しく頭を下げ、
「そういうことですか。 ではしばらくの間よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、そなたのパーティにお世話になる。 邪神に託されし我が暗黒の魔法を役立ててくれ」
こいつの使う魔法は本当に大丈夫なのだろうか。
回復どころか、間違って負傷したりしないんだろうな。
それと何故か、ミナキがシルクを見て妙にニヤニヤしている。
「た、頼りにしてますね」
それを見てシルクが苦笑して、ミナキになんとか対応している。
二つの意味で引いてるのだろう。
「なあ、なんでシルクのことを見てニヤニヤしてるんだよ」
するとミナキは顔をニヤつかせたままこちらを向き、
「いやあ、あの子凄く可愛いじゃないか。 私の好みだと思ってな。 ああ抱きしめたい」
「お前の趣味はよーくわかった。 けどこのパーティで唯一真面目な奴なんだから、困らせないであげてくれよ」
「ええー!」
パロマが驚いた顔で俺の言葉に反応した。
話がまとまった後にこの家の男は立ち上がり。
「――じゃ今日のところは、ここで休んでいったらどうだい? 外もかなり暗くなっている。夜の雪道は大変危険だよ」
言われて窓の外を見てみると、いつの間にか真っ暗になっていた。
きっと俺が倒れてしまっている時間が長かったのだろう。
「いいんですか? 助けてもらった上に泊めてまでもらっちゃって」
「構わないさ。 あの迷惑なのを退治してくれるなら僕の方も助かるし」
男は気前よく言ってくれた。
この人は本当に救世主だ・・・・・・・!
これから戦うことになる相手も夜行性だというし、今突っ込んで行くのも得策ではない。
疲れを取ることも含めて、今日のところはお世話になっておこうか。
「ではお言葉に甘えて、今日は泊めさせてもらうことにしますよ」
「おっけ! 冒険者じゃないから戦いに参戦することはできないけど、こう見えてトゥロリテの町で料理人やってるからね。 飯の方は任せて!」
俺達は旨い飯を食わせてもらい、ひとしきり作戦を練った後に横になった。
一部屋に何人かで寝るというのは、修学旅行みたいで何だか楽しい。
・・・・・・こいつが隣にいなければ。
「でね、私あの職業のキャラ、レベル72まで上げたのよ! 凄いと思わない?」
「わかったわかった! もう十分わかったから寝かせてくれよ」
ミナキは俺に聞こえるくらいの小さな声で楽しそうに喋るが、俺はいい加減寝たくてうんざりしていた。
隣にいて喋らないのも何なので、気を利かせて向こうの世界でやってたネトゲはないかと、聞いてみたらどうやら俺と同じネトゲをやっていたらしい。
話を振ったまではよかったのだが、こいつがそのネトゲの話を語り始めたら、止まらなくなってしまっていた。
「もう寝ようぜ? 明日は強敵と戦わなきゃいけないんだぞ。 寝不足の状態なんかで挑みたくはない」
「ええー。 この私が回復魔法をかけ続けて、トウヤ達がぽんぽん殴ってくれれば楽勝よ!」
こいつ・・・・・・!
適当なことを言うミナキに、イライラしていた俺は思わず声を荒げ、
「お前後衛で、安全に戦う為に回復と支援に振ってたのかよ! ふざけてんじゃねえぞ!? 前衛で戦う奴の身にもなってみろよ!」
俺が怒鳴るとミナキはビクっとして黙り込んでしまった。
「・・・・・・んんー。 トウヤ、何怒ってるの?」
パロマが起き上がって、眠そうに声をかけてくる。
「起こしちゃったか、ごめんな。 もう寝るから気にしなくていいよ」
「うん・・・・・・。 喧嘩しないでね」
そう言って再びパロマは横になった。
俺も少しイライラしながら、寝ようと横になる。
するとミナキは申し訳なさそうに小さな声で、
「ねえ、さっきはあんなこと言っちゃってごめんね。 別に後衛で楽したいからってああいう振り方をしてたわけじゃないの」
俺もこいつにイライラしていただけで、勝手に決めつけてしまっていただけかもしれないな。
少し反省すべきか。
「私達って向こうの世界で死んじゃって、この世界へとやって来たわけじゃない?」
「ああ、そうだな」
ミナキは少し声を明るくさせて続ける。
「私はせめて、自分の目の前では死んでしまう人が出てほしくないなって思ってね、回復や支援魔法に振っていたの」
・・・・・・こいつもこいつなりに、しっかりと考えているんだな。
俺はこの世界に来ても、ただ憧れの世界に来れたってだけで、そんなこと思ったことがなかった。
この世界に来ることを浅く考えていた俺は、結構小さい人間なのかもしれないな。
「そうか。 凄く良い考え方じゃないか? 俺もそんなことを知らずに怒鳴って悪かった」
「いいよいいよ。 私もちょっと自分の世界に入っちゃってたみたいだし。 私の話、聞いてくれてありがとね」
そう言うとミナキはカラコンを外した、純粋な黒い瞳を輝かせて微笑む。
常にこんな優しそうで落ち着いた感じでいれば普通の美人だし、こいつかなりモテそうな気がするんだがなあ。
向こうの世界の俺の学校にも、こんなに整った女の子は中々いなかったと思う。
あれ、そんなことを考えてたらちょっとドキドキしてきた。
俺には彼女なんていなくて、女の子ともあまり縁がなかったから、こういうシチュエーションは慣れていない。
俺が思わずミナキの顔を直視していると、ミナキは不思議そうな顔をして、
「? 私の顔に何かついてる?」
「何でもない! お、おやすみ!」
俺は少し赤くなった顔を隠すように、慌ててミナキに背を向けた。
「うん、おやすみ」
そのミナキの声は安心したかのような、優し気な声だった。
悔しいけど、可愛いじゃないか。
「起きよおおおおっ!! 神に選ばれし至高の勇者よ! 異世界の夜明けぜよっ!!!」
「ぐあっ!? うるせえし痛えな! もっとマシな起こし方できないのかよ!!」
横になっている俺の腰を蹴り、目覚まし時計にも負けない声量で、馬鹿なことを叫び勢いよく起こしてきたのは、勿論ミナキだった。
俺は腰を擦りながら立ち上がって、ミナキの胸倉に掴みかかる。
「やめろ! 貴様、私と出会って一日も経ってないのに扱いが酷いぞ!」
「どこがだよ! 酷いのはお前の方だろ! 初日から蹴って起こしてくる女がいるか!!」
ミナキは俺から手を引き剥がし、警戒態勢を取る。
「しかし貴様以外全員もう起きておるぞ。 寝坊助には当然の仕打ちだろう」
あいつらより起きるのが遅くなったのは、夜にお前と話してたせいだろと言ってやりたい。
俺は右手で頭を抱え、
「はあ。 昨日のお前はどこへ行っちゃったんだよ」
「人は常に変わっていく物。 過去のことなど忘れるがいい」
俺が呆れたように言うと、そんなことをミナキは堂々と言ってきた。
俺もコイツなんかに、ドキドキしていた自分を忘れたいです。
「トウヤ、準備はできましたか?」
シルクは杖を持ち、いつでも外へ出られる状態だ。
「おう、俺も準備万端だぜ! ・・・・・・シルクは本当に真面目でいいなあ。 癒されるよ」
「・・・・・・昨夜、変な食べ物でも混じっていたんですか?」
シルクに冷たい目で見られる。
違う、違うんだ。 同じ女のはずのあいつの影響で、シルクが輝いて見えるんだ。
「貴様、何私のシルクに手を出そうとしている! シルクは私の物だ。 手は出させない!」
「お前はうるさいから黙ってろ! シルクはお前の物でもない。 後俺のことを貴様って呼び方するのはいい加減やめろ!」
「トウヤ達は朝から騒がしいね」
同じく準備を終えたパロマに、飽きれたようにつっこまれる。
俺が騒がしくしたくてやってるわけじゃないのに。
外は雲一つない快晴だった。
俺達のことを見守ってくれているかの様だ。
雪原の真ん中なので寒いのには変わりないが、日差しが強いおかげで昨日よりは大分マシだ。
「モンスター退治頑張ってこいよー!」
小屋の男は笑顔で見送ってくれる。
「お世話になりました! またいつかどこかで!」
俺達もそれぞれ男に礼をし、フラットの町方面へと歩き出した。
人数が四人に増え、俺とパロマが先頭を歩いて、シルクが後ろを歩くという立ち位置から、俺とミナキが先頭で、パロマとシルクが後ろをついてくる形になっている。
ミナキがシルクと並んで後ろになると、シルクのことを性的にでも見ているかのような、こいつが何をするかわからないので監視している。
それにこいつのレベルは、俺達よりも頭一つ抜けている。
ステータスも高いはずなので、前に置いてあっても大丈夫だろう。
「それでトウヤ、我は本当に回復に徹しているだけでいいのだな?」
「ああ、攻撃は乏しいんだろ? 俺達で何とかするから支援を頼むよ」
俺達は昨日考えた作戦の話をしていた。
「今までよりもずっと強い奴かー、楽しみだな!」
パロマは今にも戦いたくてうずうずしているようだ。
「でも相手はかなり素早いらしいですよ。それに平原と違って気温も低いですし、上手くいくでしょうか?」
シルクが杖を抱えて、不安そうに俺に語り掛ける。
正直俺も、一か月程放置されている難敵を倒せるかは不安ではある。
だが倒すと決めた以上は、引き下がりたくはない。
「きっといけるさ。 あれがあれば大丈夫だろう」
そう、モンスターの本に載ってた、秘策となる弱点アイテムをナップサックの中へと所持してきている。
死角はないはずだ。
でも弱点がありながら、何故あのモンスターを狩れる奴はいなかったんだろう。
そこだけがすこし不安になるところではある。
道中のスノースライムを、シルクに焼き払ってもらいながら歩いていると、トンネルの近くの木の上にいる例のモンスターが見えてきた。
黒い猿、ナイトシャドーモンキーだ。
漆黒の黒い毛皮に覆われており、目は赤く、おぞましい印象を与えてくる。
流石に匂いに敏感と言われるだけはあって、ある程度近づいたらこちらへと振り向き、木から降りてきた。
「キッキキ・・・・・・。 ウキャー!!」
猿は少し様子を見るとすぐさまこちらへ走って襲い掛かってきた!
「―――やってやるぞお前らあああ!!!」
強敵との戦闘開始だ!!




