第六話 旅立ち
俺がこの世界に来て、そろそろ一か月が経とうとしていた。
「――じゃ、行ってきますね」
「辛い道のりでしょうけど、頑張ってねトウヤさん。 パロマとシルクもね」
この世界や、戦闘に手慣れてきた俺達は、クエストを一日に二つ、三つ受けたりとかなりの数を熟してきた。
パロマとシルクも俺のクエストに毎日同行するようになっており、レベルも俺が七、パロマが十、シルクが九になっていた。
「母さん! 俺強くなってくるよ!」
「行ってきます。 お母さんが不安にならないよう、旅の合間はお手紙を送りますね」
そう言って、笑顔で手を振るパロマとシルク。
ピスカも手を振って俺達を見送る。
そう、今日はこのトゥロリテの町から旅立つ日である。
この町にきて、この世界の基本は大体理解できた。
施設が整っているだけに、この町を去るのは少々名残惜しいが、この世界を見て回ると決めた以上、いつまでもこの町に留まっていても仕方がない。
レベルも十分上がったし、何より今の俺には、俺よりレベルの高いこいつらもいる。
次の町までならきっと余裕だろう。
入念に準備は済ませたし、いざ出発だ。
荷物はというと、宿屋にあった転送屋へと預けてある。
宿屋は冒険者なら、カードを提示して荷物を預けることもできる。
そして各町の宿屋には、必ず転移魔法に重点的にポイントを振った中位の魔法使いが雇われており、頼めば短時間でその町へ行き、宿屋に預けた荷物を持ってきてくれるそうだ。
流石にただ預ける時と違って、多少なりとお金はかかるのだが、余分な荷物を持ち歩かず町を移動できるのは便利だ。
それとは別に、俺はモンスターの本や、必要になりそうな道具を入れたお手製のナップサックを背負っていた。
こう見えて中学の時は裁縫だけは大の得意で、ネトゲ廃人になる前は、母親に手袋なんかを作ったりしたものだ。
・・・・・・母さん元気にしてっかな。
俺、今から旅に出るよ。
俺達は町を出て、北東へ向かって歩いていく。
そういえば、ふと疑問に思ったのだが、
「・・・・・・なんでお前ら、そんなにレベル上がるのが速いんだ? 俺の方が多くクエスト行ってると思うんだけど。 経験値が上がる薬か何か使ってるのか?」
「そういった物は使ってないですよ。 私も何故二人が、トウヤのレベルを抜いてしまったのか不思議です」
「そっか、ちょっと悔しいな。 パロマなんて一つクラス上がってるし」
「へへ。 トウヤ以上に活躍するよ」
パロマは、戦士という一般クラスから、ナイトという下級クラスにランクアップしていた。
剣の特技と熟練度向上に、バランスよくポイントを振っているらしい。
特技に重点的に振るとソルジャー、盾に重点的にを振るとガードマンなどの、振り方により様々なクラスが開かれるらしい。
ランクアップするとステータスが大幅に伸びたり、専用の特技を覚えたりと特典があるそうだ。
イレギュラーという大層な名の職の俺には、逆にそういったクラスや特典はないので、羨ましい限りである。
シルクもクラスはそのままなものの、様々な攻撃魔法を取得しているようだ。
回復魔法を取らないのかと聞いたら、魔法攻撃に特化したメンバーも、この先きっと必要になるので攻撃魔法に振らせてください、と言われてしまった。
確かに俺も回復魔法を使えるには使えるが、剣の方へスキルを振っているので、そこまでメインを張れるほどの回復量でも回数使えるわけでもないし、不安なところである。
トゥロリテの町で、回復魔法を使える魔法使いを募集したこともあったが、その手の魔法使いはもうパーティを組んでしまったのか、全然見つからなかった。
声をかけてくれる人はいたにはいたのだが、世界を周ると言ったら荷が重いと言われたり、パロマとシルクの年齢を教えたら、もっと歳の近いパーティがいいと言われたりと、条件の合わない連中ばかりだった。
こうなるのもフラットの町の、トンネルの手前にいる例の奴で、人の流れが止まってしまっている所為だろう。
俺がこの世界に来てまだ日が浅い頃、かなり強い黒い猿がフラットへ続くトンネルの前に現れると聞いた。
その猿が未だにその場所で目撃されるらしい。
夜行性なのだが、とても匂いに敏感らしく、余程上手くやり過ごさない限りは、見つかって襲われてしまう為、相変わらず町の行き来が困難な状態だそうだ。
転送屋の魔法で、俺達を次の町まで飛ばしてもらったりとか、邪魔な猿をどこかへ飛ばしてもったりというのも考えたが、中位の転移魔法では自分自身以外を転移させるとなると制限がかかり、一般の人間くらいとなってくると、移動させることができないらしい。
その為に、荷物が多い客は小分けにして、転移回数が多くなるので結構苦労するんだとか。
「冒険かー。 どんな敵と戦えるのか楽しみだな!」
「私も長い間あの街で過ごしていたので、いざ冒険となるとワクワクしますね」
パロマとシルクが楽しそうに語る。
まだ子供だが、ステータスなら俺より高いので、俺がそこまで心配することもないだろう。
ピスカにも頼まれたし、無事に目的の国まで届けてやらなきゃな。
確かパロマとシルクは、その国のことを憶えてるはずだから、そこへ到着すればわかるって言ってたな。
行くのに3年はかかると言っていたから、こいつらとは結構長い間一緒にいることになりそうだが。
正直、俺も冒険が楽しみで仕方がなかった。
夢見ていた異世界の地を、やっと旅することができる。
仲間と協力して強敵を倒し、お金も稼いだりして遊んだりもする自由な生活。
時には厄介なことに巻き込まれ、苦労することもあったりだとか。
危険に陥っている国を助け、その国の美しい王女様と結ばれたり・・・・・・!
「フガッ!?」
「ちょっ、トウヤ何してんの?」
「冒険の前の一発芸ですか?」
妄想に耽っていた俺は木に顔をぶつけ、しばらくパロマとシルクにクスクス笑われながら、道を進んでいった。
道はある程度整理されており、途中までは特に敵も現れず難なく進めた。
しかし、いきなり自然その物の道となると共に、次第に辺りの景色は真っ白へと変わり、空気もガラッと変わってきていた。
「さ、さささ、寒いよトウヤヤヤヤヤヤ。 お、俺こんな寒いの初めてだよ・・・・・・」
「素直に厚着してくるべきだったか。 うう、さっみいいいいい!」
「・・・・・・」
そう、辺り一面雪景色になっていた。
情報誌にも書いてあったのだが、フラットは初心者の町の次の町にして、いきなり雪原地域だった。
マイナス温度を下回ることが中々無く、雪も滅多に降らない地域に住んでた俺にとっては、この雪の降る恐ろしく冷え込んだ温度はかなり辛い。
寒さなんて戦ってれば気にならないと思ったのだが、ヒョイヒョイとモンスターが姿を見せるわけでもなかった。
シルクは喋りこそしないものの。杖を抱えて震えながら歩いている。
俺らは厚着の意味でも鎧を着てきたのだが、こいつはいつもの薄そうなローブ姿なのだが、大丈夫なのだろうか。
俺とパロマの鎧は鉄製だ。
前に行った洞窟に再度鉄鉱石を取りに行き、鍛冶屋のおっちゃんに作ってもらった。
少し重いのが気になるが、木や革の鎧よりは丈夫なので、装備していると安心感がある。
こういう普段操作しているキャラにしかできないことを、簡単に体験できてしまうというのがまた新鮮で気持ちがいい。
俺の数少ない友達に自慢してやりたいところだ。
震えながらしばらく歩くと、白くて球体に近い、ぷるぷるしたモンスター達が近づいてきた。
草原や森では中々モンスターが見れなかったが、ようやくお出ましか。
ようやく戦闘で体が動かせると俺はそのモンスターに襲い掛かる!
「はっはっはー! こ、ここで俺に見つかったのが運の尽きだな! お、おお、お前らで雪の中の準備体操じゃああああああああああ!!!」
飢えた狼の様に、俺はモンスター達を斬りまくる。
それを見守るかの様に、一歩離れて見ているパロマとシルク。
このモンスターを全滅た頃には、大分温かくなるだろう。
そんなことを考えていたのだが、足元にそのモンスターがくっ付いてきた。
そして・・・・・・、
「? 何だそんなに狩られたいのか。 よしよし今剣を・・・・・・ !? つめってえええええええええええ!!! ヤバい! これマジでヤバい!!!」
他の奴らも、動けない俺の腕や腹部にくっ付いてきていた。
それと同時に、体感したことのない寒さが体中に襲い掛かってくる!
「ひいいいやあああああああああああああ!!! このままだと死んじゃう! 俺凍え死んじゃう! 助けてええええええええええ!!!」
「対策も無しに突っ込んでいってしまうとは、仕方ないですね。 『フレアボール』!『フレアボール』!」
シルクが呪文を唱えると共に、サッカーボール程の大きさの火の玉が、俺にとりついているモンスターに器用に当てていく。
それに当たったモンスター達は、ポトッと雪の上に落ちると、次第に姿が小さくなり消滅していった。
「た、たたた助かったぜぜぜぜぜぜシルクうううううう・・・・・・」
「あれはスノースライム。 普段は体を液体のままで維持していますが、生物にくっ付くと一気に体を冷やし、固体化させて襲ってくるモンスターですよ。 本にも書いてあったはずなのですが」
そういえばそんな奴だったな。
折角色んなモンスターの情報を見たのにうっかりしていた。
「か、体を温めたくてあまり考えずに突っ込んじまった。 助かったよ」
「俺がゴブリンに突っ込んで行った時も怒鳴ってたけど、トウヤも人のこと言えないね」
パロマに指摘されて悔しいが、言い返すことができない。
「そういえば、さっきシルクが使ってた魔法って下位の魔法か?」
俺も火属性魔法が使えるには使えるが、見たことがなかったので聞いてみた。
前に俺が使っていた魔法よりも、見たところ実に戦闘向きだ。
「そうですよ。 最近覚えた、ファイアの一つ上のフレアボールです。 一般魔法と違って攻撃にもそこそこ使える様ですね。 前にも見せましたが氷と電気の下位魔法も使えますよ」
「へえ。 色々と使えていいなあ」
下位魔法か・・・・・・。
俺が今、剣に7、火属性と雷属性魔法に1ずつ、回復魔法に3振ってあるのだが、俺が同じ魔法を覚えるのなら、火属性魔法に7振らないといけない。
対する魔法使いは、5振るだけで下位魔法を取得できる。
下位ならまだいいのだが、中位や上位となると、魔法使いとは大きく差が開いてくる。
それほど本職との差は大きいのだ。
一応、レベルが上がるごとに貰えるポイントは増えていくようなので、余裕ができたら振ってみてもいいかもしれないが。
既に振ってしまったポイントを、また振り直すことができるようにしてくれる人もどこかにいるらしい。
いずれにせよ、実用性のあるスキルを目的にして、ポイントは慎重に振っていくことにしよう。
温まるどころか冷えてしまった俺は、身を震わせながら道を進んで行く。
こういう時、日本だったらどこかしらに自販機でも置いてあって、缶コーヒーか何かで温まることができるのだろう。
だが、大概の生活が魔法で支えられているこの自然な世界では、車も無ければ信号なんて物もないし、自販機なんて物も存在しない。
そんなところが、ちょっぴり不便だなんて思ってしまう俺は、我儘であり贅沢者でもあるのだろう。
慣れろ、慣れろ、この環境に慣れるんだ、俺。
そんなことを考えながらしばらく歩いていくと、雪原の微妙に盛り上がっている高台に、ぽつんを佇む一軒家ぐらいの大きさの小屋が見えてきた。




