第四十二話 一ポイントの良い事 二ポイントの悪い事
「すっげー。本当に明るくなったよ!」
「中々面白いですね。私もこういった、冒険向きの道具を使用するのを見るのは初めてです。家では飴玉を作る奴しか無かったですから」
パロマが目の前の出来事に興奮し、シルクも安心した様に微笑みを浮かべる。
ってその飴玉製造機みたいな物の方が凄くないか・・・・・・?
「俺も驚きだな。・・・・・・で、その飴玉作る奴っていうのを詳しく知りたい」
「数年前に母さんが試しにと買ってきたんです。ちょっと奇抜な形をしていて、中に砂糖を入れて魔力を注いで作ります。込める魔力の量で大きさ、属性で味を自由に変えられます。母さんが使った時は、私と同じくらいの大きさの飴玉ができて大変なことになったので、弱い私の魔力なら丁度良いとよく使わせてもらっていました。値はかなり張る品だったらしいですが」
「そんなこともあったね。大きすぎてドアから出すこともできないから、俺の剣で砕いて三人で欠片を一つ残らず集めたりして大変だったなあ。・・・・・・ん?トウヤどうしたの?」
「い、いや何でもない!」
二人の思い出話を聞いて、俺は思わず顔を引きつらせる。
いや凄い道具だというのは十分伝わってくるのだが、こうも笑い話じゃない程の事を平然と話されると反応に困る。
シルクと同じ大きさの飴玉ってなんだよ・・・・・・。
母親の魔力桁違い過ぎだろ!
しかし家庭用の道具も侮れないな。
まだまだ未知なる物が道具屋には沢山眠っていそうだ。
とにかくこれだけ明るければある程度先は見えるので、無いのと比べれば大分安全に進めるだろう。
こればかりはミナキに感謝せねば。
「ありがとな!凄く助かるぜ」
「う、うん。・・・・・・そうね!私に感謝しなさい!」
素直に礼を言っただけなのだが、顔を合わせ辛い様で違う方向を向いたりして、反応が少しぎこちないのが気になる。
でも今の俺は気分がいいことだし、気にはしないでおいてやるか。
どうせこれは○万かかってー、みたいな話なのだが言い出せないのだろう。
「私の出番は終わりの様ですね。では、またトウヤさんの中に入っておきます」
そう言ってアカリは俺に向かって飛び込み、姿を消した。
『折角任せた仕事を取っちゃって悪いな』
『いえいえこの方が確実だと思いますし、私は気にしてないですよ!それよりも早く私にも冒険を体験させてください!!』
へこむどころか、むしろ前向きに考えてくれている。
アカリがそう言うのなら気に留めない様にしておこう。
急ぐ、というわけでもないのだがいつ魔物に襲われるかもわからないので、問題が解決したからには立ち止まっていないで進むか。
光の放つ球を手の平に乗せながら、俺を先頭にして進んで行く。
明るくなったといえ、ある程度の距離までであり、やはり不安は残る。
自分の周りだけは明るいが、周囲は相変わらずの暗闇。
この状態では不気味さが程良いぐらいにまで抑えられ、逆に怖さが以前よりも増している。
ホラーゲームとかでもありそうな、定番のシチュエーションだ。
暗ければ見えなかったはずの物も見えてしまうわけで・・・・・・、場合によってはまだ真っ暗の方が良かったりもする。
そんなことを考えていたらゾクゾクしてきた。
い、いきなり異形の生物が目の前に出てきたり、後ろから追われたりとかしないだろうな・・・・・・?
どうかその様なことがありませんように!!!
「そういえば、さっきミナキが歌っていたのは何て歌なの?聞いたことが無いけど」
不安がどんどん募っていく俺は、突然のパロマの言葉に驚き思わずビクッとしてしまう。
しかしそんな俺の様子を三人は見ていないのか、構わずに話を続ける。
「あれはね、もりのへびさんって歌よ。小さい頃によく歌ったのだけれど、歩いているだけで暇だし今の場所が丁度森だったし歌ってみたの」
ミナキは得意そうに言う。
待て待て、さっき怖いから歌っていたと言わなかったか?
本当に調子のいい奴だな。
それにどれだけ小さな子が歌う物だと思っているんだ。
「ちょっと子供っぽい名前だね」
パロマが苦笑しながら言うと、ミナキは言葉に詰まったのかすぐには何も言えず、無言のままでいた。
チラッと後ろを見ると、ミナキが恥ずかしそうに下を向いて歩いている。
そうだ、もっと言ってやれ。
自分がどれだけ恥ずかしい事をしていたのか思い知らせてやってくれ!
暗い道を歩きながら、ひっそりと心の中でパロマを応援していた。
しばらくするとミナキが再び口を開く。
「た、確かに子供っぽいけどね?でもこの歌にはしっかりと物語があるのよ。二人の男の子が森へカードを持ち込んで、切り株の上で遊んでいたの。そこにへびさんも遊びに加わりたいって近づいてきたのだけれど、蛇ってパロマ達も知っていると思うけど危険な生き物でしょ?だから二人はその場へカードを残して、へびさんから全力で逃げたの。そう、後ろを振り向かず、蛇に負われる恐怖に脅えながらね・・・・・・」
ミナキが良い具合に雰囲気を作りながら話す中、パロマとシルクはその話に興味を持ったのか真剣に聞いていた。
こういった姿を見ていると、この三人もすっかり仲良くなっているというのが見て取れる。
仲が良いというのは決して悪い事ではないし、むしろ相性が良くなることによって、戦闘でも連携とかが期待できる。
少し偉そうな言い方になってしまうのだが、自分の仲間達の関係が深まるというのは嬉しいものだ。
「二人の男の子は何とか森から抜け出してきたのだけれど、逃げることに夢中で自分達のカードを置いてきてしまった事を思い出したの。それで森へと戻ろうとすると、なんとさっきまで追いかけて来ていたへびさんが入口まで来ていたの!とても執念深いへびさんだと思うじゃない?一人の男の子はそれを見て当然逃げようとしたわ。でもね、もう一人の男の子がへびさんが何かを咥えているのに気が付いたの。それは・・・・・・、二人が置き去りにしてしまったあのカードの束だった。優しいへびさんを見た男の子達は、お礼にへびさんも一緒に遊ぼうって事になって、みんな仲良くめでたしめでたしってわけよ」
「ふーん。いいお話になるんだね」
何故蛇が喋るのだろうとか、そこまで知能が発達しているのだろうとか、そもそも蛇から身の危険を感じて逃げてきたのだから、普通は森へと戻ろうだなんて思わないと、つっこみの箇所が多いのがこの話の特徴だ。
しかしこういう童謡に現実味のあることで口を挟むのはタブーである。
言わずもがな、子供の平和で清らかな世界を崩しかねないからだ。
ついでにもう一つ理由がある。
「でもおかしいですね。へびさんから逃げてカードを置いてきた、つまりお話の中では元々へびさんは悪の存在であるのに、男の子達はへびさんカードを持って来てくれただけで何故心を許したのでしょうか?お礼に遊ぼうということになったのでしょうか?理解できないです」
「え、えっと・・・・・・」
流石シルク、子供らしからぬ面を存分に発揮して、疑問に思った部分を次々と挙げていく。
シルクの正論にミナキは何も言い出せずにいる。
その理由とは、もし物語の内容のことで問い詰められても、当然自分が作詞したわけではないので返答に困ってしまうからだ。
何事にも触れてはいけない領域という物がある。
勝手ながらもこの手のことを、俺はそう解釈している。
「男の子達がカードを持ってずっと追いかけてきたへびさんの行動を見て、僕たちと遊びたかっただけなんだなと受け取ったのよ」
「それなら繋がる・・・・・・。しかしその男の子達も、随分とリスキーな選択を取りましたね。へびさんがただの悪人・・・・・・悪蛇でしたら、カードを餌にカプッとやられちゃいますよ」
ミナキが人差し指を立てて、得意げに語る。
そう考えるのが一番無難だろう。
不自然と感じるのだろうが、これが童謡らしく平和に丸く収まる。
ただの童謡だという事を知らずに、その世界に熱心に深入りするシルクも聞いていて面白い。
別にミナキが嘘を言っているわけでもないし、三人で話させておけばいいだろう。
むしろ純粋に考えられる状態のが、この話を楽しめているのかもしれないな。
と思っていると、ミナキがシルクの意見を置いて全く違った事を言う。
「ちなみにこの歌は五十六番まであって長い長い――」
「くだらない事を教えるなよ!」
・・・・・・フッ
「「「「あっ!!」」」」
ミナキの意味のわからない嘘発言に対して、俺が颯爽と言ってやったと同時に四人で声を上げる。
俺の手の上に乗せられた光を放つ球を見ながら。
いや正確には三人の顔は見えないが、一つの同じ場所を全員で見ていることだろう。
周囲を照らしていた球の光が、前触れもなくいきなり消えてしまったのだ。
今の咄嗟の行動で、魔力を送る俺の集中力が乱れてしまったのだろうか?
そうだとするなら、光を放つ時とは逆にじわじわと消えていくはずだ。
一瞬で消えてしまうのはちょっとおかしい。
もう一度先程と同じ感覚でやってみよう。
・・・・・・・・・・・・
やり方は間違っていないはずなのだが、球は全く光を放つ気配がない。
どうなってんだ??
早くも故障してしまったのだろうか?
まだ数分しか経ってないのに?
これは可能性の塊とまで思っていた道具らの評価を、まとめてひっくり返さねばならないだろうか。
「ああ・・・・・・、やっぱりなると思ったわ。トウヤの魔力切れね」
「へ?」
その思いがけないミナキの言葉に、驚いた俺は声が裏返ってしまう。
「ミナキ氏、今なんて?」
「だーかーら、トウヤの魔力が枯渇したのよ」
・・・・・・どうやら聞き間違いでは無かったらしい。
俺の魔力が尽きてしまったと。
いや冗談じゃねえよ!
この道具燃費悪すぎだろ!
「カードを見せてもらったのを思い出して、この魔力じゃすぐ尽きるなって思ったけど当たったわね」
「そういうのは先に言え!」
礼を言った時に挙動不審な行動を取っていたのは、このことを意味していたのか!
まんまと罠にハメられた気分だ。
たまには良い事もする奴だなと思っていたのに、魔力が切れるのわかってて言わないとか二倍も質の悪い事をしやがって。
俺も使うことには異論は無かったがこれはないだろう。
「消えちゃったのはトウヤの魔力不足の所為なの?」
「みたいですね。トウヤの魔力が貧弱な為にこうなってしまった様です」
暗闇の中、そんなパロマとシルクの呆れた声が聞こえてくる
ああもう!また何にも見えなくなっちまったじゃないか!
ってかさりげなく俺を責めないでほしい!
んで、こっからどうすりゃいいんだ・・・・・・。
『トウヤさん、ここは魔力の量が多いシルクさんに任せてみてはどうでしょう。シルクさんなら長持ちさせられると思いますよ』
そうか原動力が魔力となるなら、ここはそれに長けたシルクの出番というわけか。
『そうだな。それでいこう』
アカリの提案に俺はすんなりと乗っかる。
こうする他に方法は無い。
よく考えてみると、この球が懐中電灯の様な物で、それを起動させるのが俺らの持つ魔力。
魔力が電池みたいな役割を果たしているんだよな。
こういった部分でも、俺らのいた世界とはかけ離れた場所なんだなと実感させられる。
なんて考えている場合じゃなかった。
この暗さじゃシルクの姿が見えねえ・・・・・・!




