第四十一話 暗闇に対抗するべくは
「そのまま真っ直ぐ――」
「へびさーんの、いうことにゃ」
真っ暗な森の中を四人で進んでいく。
この暗さは『漆黒』というよりも『無』と例えた方がそれらしい気がする。
中に入ると他の三人の姿は完全に見えなくなってしまう。
その為に四人で順番に並びそれぞれの肩を掴んで歩いている。
子供の頃にやりそうな、電車ごっこの様な形だ。
「岩があるので右に避け――」
「おじょうさん、おにげーなさい」
順番は四人の中では近距離に対応できる方の俺が先頭、パロマが最後尾だ。
その間に挟む形でミナキ、シルクと並んでいる。
何も見えない中、ただ進むだけでは何があるかわからず危険すぎる。
そこでアカリに出てきてもらい、道案内を手伝ってもらっていた。
幽霊というだけあって若干だが光を放っており、ほんの少しだけだが暗闇の中でも見えるらしい。
俺から離れすぎることはできないが、その性質を利用して先導してもらっている。
「すたこらさっさっさーのーさー」
・・・・・・のだが、丁度一つ後ろにいる奴の声がうるさい。
森に入ってからよくわからないがずっと歌っているのだ。
「あっ、真正面に木があるので――」
ズドンッ!!
「ぐわっ!!」
「すたこらさっさっさーのー・・・きゃあ!?」
「ひゃっ!」
「うわっと」
硬い何かが顔面に当たり、思いきり弾かれる。
当然俺が止まったことによって、後ろにいる三人もバランスを崩す。
「だ、大丈夫ですか!?」
アカリが振り向いて声をかけてくれる。
ぐうう、いってえ・・・・・・。
「ちょっと急に止まらないでよ。痛いじゃない」
「うるせえ! お前の歌がうるさくて、折角のアカリの道案内が聞こえないんだよ!」
手の平を顔に被せる様にしながらミナキに言ってやる。
普段よりボリュームも大きいし、こっちにとっては凄く耳障りだ。
「だって・・・・・・暗いの怖いんだもん・・・・・・。こうして明るい歌を歌って、少しでも気を紛らわせたいの」
顔は見えないが声は今にも泣きそうといった感じだ。
そんなこと言われてもその歌、進行の邪魔にしかなってないから。
テンション上がるどころか崩れまくってるじゃないか・・・・・・。
俺だって怖いし、こんな時くらいは頼りになると思ったんだが、どうやらそんなことはなかったらしい。
「お前なあ・・・・・・。気持ちはわかるが、逆に辿り着けなくなると困るから黙っていてくれ」
弱々しい状態のミナキと言い合っていても仕方がないので、とりあえずは落ち着いて説得する。
しかしアカリの指示だけで歩いていても、実際のところはとても頼りない。
何かこう、安全にこの森を抜けれる方法は無いだろうか・・・・・・?
「ねえねえ。一旦入口まで戻って、シルクの魔法でこの森ごと燃やしちゃったらいいんじゃない?」
とパロマが突然とんでもないことを言い出す。
「こんなデカい森を燃やすとか、もうそれ災害クラスだぞ・・・・・・。それに俺達みたいな他の冒険者もいる可能性もあるし危険だ」
「いえそもそも無理だと思いますよ。それができるのなら、パロマ以上に性格の荒い人が既にそれを行ってこの森自体が無くなっているです。きっと燃やせない性質の木なのでしょう」
燃やせない木・・・・・・か。
辺り一帯を隙間無く埋め尽くし、見事な暗闇を作り出している。
相当な年月をかけて育った丈夫な木の集まりなのだろう。
この世界はやはり一味違う。
って感心していても仕方がないんだよな。
「でもこのまま進みたくはないよ。何があるかわからなくて不安だし」
「私も同じです。今のはトウヤがぶつけただけなので良かったものの、この進み方だと万が一ですが、崖なんかがあったとしたら、トウヤが落ちただけで全員で真っ逆さまです」
おいおい、その言い方だと被害者が俺だけなら、あまり気にならないといった様な感じじゃないか。
確かに足元が見えない状態なら転落も十分あり得るが・・・・・・。
とにかくあれだ、一つ理解できた事がある。
今の不安定な状況において、珍しく全員の意見が一致している事。
この真っ暗な闇の道を進むってのが怖い、という単純な事だ。
そりゃお互いの顔も見えない程に暗いとなればそうもなるか・・・・・・。
ちょっと考えが迂闊過ぎていた。
いくらアカリの案内で進めるといっても、パロマとシルクにはアカリのことがわからないし、アカリが見えるミナキもこのままだと駄目そうだ。
詰まり気味な時は、その場で一度考察してみるのが冒険の基本だろう。
この道を通らなければ、次の町へと辿り着くことはできない。
つまり通り辛い場所というだけで、この森自体は抜けられない事は無い。
・・・・・・大事なのはそこじゃないな。
安全に進む為にはどうすれば良いのだろうか?
そもそも他の人はどうやってこの森を抜けているのだろうか?
何も見えない暗い場所・・・・・・。
暗いのなら光が必要だ。
それを供給する手段があるとすれば、魔法や道具となるだろう。
周りを明るくできる様な便利な魔法は誰も習得していない。
属性魔法の光で一瞬だけ明るくできるのだが、それだけでは全く意味が無い。
しかし光を放つ道具なんて俺は持ち込んで来ていない。
さてどうしたものか・・・・・・。
いや、ちょっと待てよ?
道具なら無駄に色々と買い込んでいる奴がいるじゃないか。
どんな物があるのかはわからないが、聞いてみる価値は十分にある。
こんな時こそ、こいつの役立つ貴重な場面になる。
「おーい泣き虫JK・・・・・・いだだだだだ!!!」
「私にもプライドって物があるんだからね。あまり馬鹿にすると体に良くないわよ」
力の籠った声で俺の肩を強く握りしめてくるミナキ。
こんな脅され方をされるなんて、これもこの世界ならではの光景で新鮮だ。
肩を揉ませたくない人物No.1に認定してやろう。
「んなことしてる場合じゃないんだって!お前辺りを照らせる道具なんて持ってないか?」
俺が本題へと持っていくと、ミナキの肩を掴む力が緩んでいく。
「道具?適当に色々買っていたからあまり覚えて・・・・・・、あっ!あるわよあるわよ!ちょっと待っててね」
急に調子を戻したミナキが肩から手を離し、俺の背負っているバッグに手をかける。
聞き逃さなかったが適当に買っているのか。
お金の消費も早いはずだよ。
だがこの状況を打開できる道具があることはでかした!
何とか安定して進んでいくことができそうだ。
・・・・・・?
どうした事だろうか、ミナキがバッグを掴んだまま動きを止めている。
するとミナキは再び弱々しい声で。
「・・・・・・ここでお一つご報告がございます」
掴んだ手を離し、妙に畏まってそう言ってきた。
「いや、ちょっと待っていてくれ」
ミナキの顔は見えないが、ん?と疑問に思う声は聞こえる。
ここでもこいつの言いそうなことを推測してみよう。
バッグの中から明るくする為の道具を探す・・・・・・。
たったそれだけのことなのに、動きが止まってしまった。
実はその道具自体を、預けていて持って来ていませんでした、的な感じか?
違うな。
もっとこう、別の理由が無いだろうか。
こんな時に単純で、誰にでも起こりそうなアクシデント。
次は視点を変えて考えてみる。
俺がミナキと同じ立場にいるとしよう。
まずバッグを手に取り、中の物が取り出せる様に開けます。
そして中身を探り・・・・・・。
「わかった。見えないから中身が確認できないんだろ」
「当ったりー!・・・・・・ううっ、どうしたらいいのかしら」
暗い場所で明るくできる物が取り出せないなら、その物の意味が無いじゃないか・・・・・・。
便利な物ならすぐ使える様に自分で持っているべきだろう。
幸い物を確認する程度ならばアカリがいるのでどうにかなる。
「心配するな。・・・・・・アカリ。ちょっと俺の隣に来てほしい」
「わかりました!ついでに、暗い場所でそのセリフはちょっと意味深ですね」
余計な部分を付け加えつつ隣へと来てくれた。
別にそういう要素を含めたつもりは一切無いのだが。
「ういっ・・・しょ!」
苦し気な声を上げながら、その場へとバッグを降ろす
本当にこのバッグ重たい。
パロマの持っている方は必要な物が多いが、俺の方はミナキの私物だらけだ。
次の町から出る時はうんと軽量化させよう。
最初からそうしていればシルクもこれを持つことができたんじゃないか?
その場に座り込み、バッグを開けて中身をある程度外へと出す。
アカリのほんのりとした発光のおかげで、物がどんな形か、色なのかというのはわかる。
数個外へと取り出したのだが、拳くらいの大きさのゴツゴツした赤い石や、手の平サイズの正方形の青い箱等、用途のわからない物ばかり出てきた。
一応ミナキにもアカリの光は見えているので確認しておこうかな。
しかしパーティーの一員と言ってもいい程これだけ近くにいるのに、ミナキ自身はアカリに話かけたりってことが無いのが少し不思議に思う。
「この赤い石はなんだ?」
向こうの世界じゃ売りに出せば高値のつきそうな、宝石の様で綺麗な赤い石を持って聞いてみる。
「これはね、初心者でも剣士でも誰でも構わず、一度だけ『ヘルフレイム』っていう炎の上位呪文が使える凄い石なのよ!いざって時に切り札として便利かなと思って買ってみたの」
そいつは凄いな。
どんな魔法かわからないが名前からして火属性だろうし、何かと用途はありそうだ。
・・・・・・しかし今必要なのはこれじゃない。
「じゃあこいつは何だ?」
次は正方形の青い箱を手に取る。
大きさの割には少し重めで、三キロぐらいはあるだろうか。
「えっと確か・・・・・・、生命力を魔力に変換できるアイテムよ。回復魔法を主に使える私とは相性がいいと思ったの」
先程の自慢するかの様な盛り上がり方をせず、普通にそう返してきた。
大技が放てるとはいえ一度きりの石よりも、こっちの方がずっと便利だと思うんだが・・・・・・。
だってこれさえあれば、魔力を増やして回復でループって風にもう無敵になれそうじゃないか。
そんな品が販売されていただなんて、武器防具屋だけでなく道具屋にも注目してみる方がいいな。
荷物になるだろとか杖の新調でもしておけとか、色々言ってやろうにも言えない品の数々だ。
・・・・・・そうじゃない。
これらについてはまた今度考えるとして、今必要なのは周りを明るくできるアイテムだ。
「ふーん。で例の物は、今出したこの中にあるのか?」
「どれだっけかなー。あまり覚えてないのよね」
おいおい大丈夫かよ。
効果をしっかり把握しておかないと使おうにも使えないじゃないか。
危険な物まで混じっていたら冗談じゃ済まないぞ・・・・・・。
「あった、これよ!」
そう言ってミナキが差し出してきたのは、一つのクリーム色をした球体だ。
磨かれた水晶玉の様にピッカピカで、重さはそれ程でもなく、大きさは手の平に乗せるには丁度いいサイズだ。
「使うにはまず魔力が必要になってくるの。これを手の上に乗せて魔力を込める。そうすると光を放つ仕組みなのよ」
そう言いながら俺の手の上へポンとその玉を乗っける。
「どうやって魔力を込めるんだ?」
「簡単よ。この玉に向かって念じるだけ。自然に魔力が送られて効果が発揮されるわ。多少集中力を使うのだけれどね」
へー、意外と単純な物なんだな。
魔法を使用する時も、必要な魔力を有しているという条件で叫ぶだけで効果が発動するが、こういうのってもっと複雑な動作だったり、法則があったりするのかと思っていた。
これに関してミナキの中二病部分が移ったわけではないが、誰でも同じ様に使用ができ、魔法を使えたからって格好がつくというわけでもなく少しがっかりしている。
反面難しくなく、助かっているわけでもあるのだが。
「こうか・・・・・・?」
この様な道具を使ったことは無いが、ミナキの言う通りにし、自分の手の上に置かれた球に向かって、魔力よ届け届けーと強く念じてみた。
するとぼんやりと光を放ち始め、次第にその光は強くなり、後ろにいる二人の顔がハッキリと見える様になるぐらいまでに照らされた。




