第四十話 立ちはだかる漆黒
「さあ観念することね。あんたが持ち掛けた勝負で、正々堂々と競ってそっちが負けたんだから文句は無いはずよ」
数分のやり取りの末、俺の背中にシルクの背負うはずだった荷物が見事に装備された。
シルクがバッグを持てないとわかった以上、この分を持つことになるのは必然的に俺かミナキとなる。
そこでミナキに荷物持ちを頼んでみたのだが、言うまでもなく自然の流れの様に断られた。
俺だってこいつに最初から期待はしていない。
伊達に一か月間同じパーティーで過ごしていたわけではないのだ。
そこでこの町の冒険者から聞いたこの世界ならではの、平等に物事を決められる勝負を持ち掛けた。
人によってかなり差が付いたり付かなかったりする、ステータスという物が反映されない俺にも勝てる見込みのある勝負だ。
その勝負というのは・・・・・・。
ズバリ、『かけっこ』である。
文字だけ見ると幼稚っぽく見えるかもしれないが、何かをキリ良く決めることに至っては、この世界ではとてもメジャーな勝負の決め方らしい。
同じ位置に立ち、五十メートルぐらいのある程度先のゴールとなる建物等を決めて、そこまで全力で走るだけというシンプルな物だ。
動きを素早くしたり鈍くしたりといった魔法や特技は存在するのだが、ステータス自体に素早さなんてのは表記されていない。
これに限っては、いくら力や魔力が強かろうが弱かろうがその人次第ということになる。
そして平等とは言ったが、勿論足の速さにも個人差がある。
それは運動神経や日頃の魔物との戦闘の動きで左右される。
つまり基本後衛で援護しているミナキよりも、前衛に出て動くことの多い俺が有利だと見たわけだ。
「はぁ・・・はぁ・・・。こんなはずでは・・・・・・」
結果はどうだろうか?
・・・・・・惨敗である。
いい考えだと思ったのだが、実際に走ってみて色々と落とし穴があることに気が付いた。
ミナキは元々学校の体育なんかも普通に参加していた高校生。
対して俺はミナキと同じ高三でありながらも、ずっと家で引きこもってきた男だ。
多少この世界で体を動かせたとはいえ、ここ一か月間は武器がないおかげで、三人に任せっぱなしでまともな戦闘もできていない。
そんな怠慢な生活を送ってきた俺が、一般人に勝てるはずがなかったというわけだ。
・・・・・・今度別の人にもいい競い方が無いか聞いてみよう。
「すみません、私が不甲斐ないばかりに・・・。その荷物を持てるよう、鍛えてみます」
「いや、シルクはそれぐらいが女の子らしくて丁度いいと思うぞ。非力な女子というのは男子にとっては高評価というものだ」
俺達はフラットの町を南東から出て、次の町へと繋がる雪道を歩いている。
トゥロリテからフラットの道中もそうだった様に、フラットから次の町へも暫くは雪道が続く。
その流れる様に発した俺の言葉に、パロマとシルクは何を言っているんだとばかりに首を傾げ、ミナキは冷たい視線を送ってきていた。
まだ寒いってのに思いっきり滑っているじゃないですか。
『そういう物なのですか?ちょっと私には理解ができないのですが』
『そりゃ重い物をポンポン持つパワフルな女の子よりも、私持てないからお願いします、みたいな非力な女の子の方が可愛くていいじゃないか?』
『は、はあ・・・・・・。さっぱりわからないです』
アカリにもそっけない反応を返される。
誰にも俺の考えがわからないのが普通といったところか。
・・・・・・残念だ。
よく考えればこいつらでは、何かこう、雰囲気的な物が俺と合うって感じではない。
同じ男のパロマだって戦闘に関しては俺より強いといっても、たったそれだけで心の方はまだまだ幼いただの子供だ。
先程も俺の話が理解できなかった様に、そういう類の話合いができるタイプではない。
何が言いたいかっていうと、ネット仲間の様にふざけた話ができる仲間が欲しくなってくる、ということだ・・・・・・!
折角盛り上がりそうな話題になると思ったのに、こう冷めた反応をされてしまっては俺も立場が無い。
そういう女子最高だよな的な感じの、こういう話に食いついてくれる人が欲しい。
「・・・・・・今自分と話の合う人が欲しいって思いました?」
「えっ?」
シルクに俺の考えていたことを見事に当てられる。
それを聞いた俺は驚いて思わず立ち止まる。
なんだこいつエスパーか?
魔法使いってだけにそんな能力に目覚めたのか?
「皆が黙ってしまった流れで、そこまで渋い顔をされたらわかってしまいますよ。結構表情に出るタイプみたいですから」
ありゃ、顔に出ていたのか。
しかしそれだけでわかってしまうなんて凄いな。
日頃も色々と考えが見抜かれていそうだ。
するとミナキが右手と左手の人差し指を交わせて。
「そうなの? でもねトウヤ、今の四人でも十分なくらいにクエストとか熟せるのよ。これ以上増やす必要は無いと思うわ!」
そう俺の考えに反対してきた。
顔に出ている・・・・・・というわけではないし、エスパーでも無いのだが、俺にでもこいつの考えはわかる。
「お前はどうせ金の意味で言っているんだろ。折角みんなで溜めたのをすぐに使い果たしやがって」
「そ、それは・・・・・・」
人数が増えるとクエストのお金の分け前が減って、私物を買い辛くなるからだ。
こいつの金使いは結構荒い。
前に俺が渡した十万あるかないかのお金をすぐに使い切っていた。
何を買っているのかは個人の自由だし、そこまで気にしているわけでもないのだが・・・・・・。
だが一か月で溜めた三十万、剣の値段を引いた二十五万を三万だけ残してほぼ消滅させたのはこいつだ。
調理器具を揃えるところまではまだわかる。
しかし追加で買った調味料が、材料が希少である影響なのか単価が物凄く高い。
それを数十本も買っていたものだから、一瞬で金が溶けていった。
本当に困った奴だ・・・・・・。
「私だってちゃんと役立つ物を選んで買っているのよ!きっとこの冒険で何度も私に感謝することになるわ・・・・・・ってちょっと!無視しないでよ!」
ミナキの言葉を聞き流しながら歩き出す。
仮に感謝することがあっても、こいつにはその気持ちを打ち消す才能がある。
結論として感謝をする機会は無いと言っても良い。
「よくあれだけのお金使っちゃったよね。俺はどんな物に使えばいいか全然わからないや」
パロマはというと、逆に欲というのが欠けているのか本当にお金を使わない。
どれぐらいかと言うとシルクに管理を任せているくらいである。
戦うことが好きなのだから、剣の強化とかに使ったらどうなんだろう。
そんなことが不要なくらいに今は強いと言ったらそれまでではあるが。
シルクもどちらかといえば、あまり金は使わない方だ。
いや使いたくても使えないというべきだろうか。
何十万もする魔力を向上させるというポーションを店で見つけ、それを難しい顔で手に取って眺めていたのを何度も見た。
どうやら理想がお高いらしく、欲しい物はあるが使えないといった感じの様だ。
まあこういうところは人それぞれで特徴が異なって面白くはある。
ミナキの様な使ってばかりな人は問題な気がするが・・・・・・。
そんなことを考えながらしばらく歩き続けると、気温が上昇していくと共に地面の雪が無くなっていく。
やがて目の前には、かなりの数の木々が生い茂る森が現れた。
森・・・・・・なのだが、とても目を疑いそうになる光景だ。
外が明るいにも関わらず、中は真逆の様に暗く何も見えない。
横を見ても、その大量の木が連なった森が永遠と続いている。
こんな物騒な場所を通らないといけないのか・・・・・・。
「なあ、ひょっとして次の町ってこの森の中にあるんじゃないのか?」
「そんなことはないはずよ。ちょっと待っててね」
情報には詳しいミナキに聞いてみると、俺の後ろへと回り込み、背負っているバッグの中身を漁り始める。
中から一つのファイルの様な物を取り出した。
そしてその中にある紙をペラペラとめくると。
「・・・・・・あった!次の町、ルテークは見通しの良い平原にあると書かれているわ。だから森を抜けた場所にあるはず」
と俺の予測の通りではないということを説明してくれた。
上から見たわけではないが、横幅だけでもこの森の規模は相当なことがわかってしまう。
この森の中に町がある可能性も十分にありそうだと思って聞いてみた。
逆にそんな一風変わった町ってのも見てみたい気がしてみたり。
それはさておき、これだけ幅も広いと回り道とかはできそうにない。
正直にこの森を抜ける他は、町へと辿り着く方法は無いだろう。
「ありゃー。マジで何も見えねえな」
「これぞ漆黒、って感じでテンション上がるわ!」
「強そうな魔物が潜んでそうだね。これは期待できるよ」
「・・・・・・ちょっと怖いです」
入口から覗き込んでみるが、やはり足元がほんのり見えるくらいで周りは何も見えない。
人々が寝静まった深夜よりも暗い、こんなに不安にさせられるような光景は、この世界でしか見ることができないだろう。
この環境に適した魔物も存在していそうだし、いきなり襲われるということも考えられて結構怖い。
だが不安になるような場所であろうとも、それを乗り越えなければ何も進まない。
今こそ恐れずに、前進する時だ!
「んじゃ行ってみよっかー!私についてきなさい!」
「「おー」」
「って何お前が仕切ってんだ!俺を置いてくな!!」
ミナキを先頭に森へと入って行った三人を追いかけながら、俺達は大自然の暗い闇の中へと入っていった。




