第四十三話 分かれ道
「すまないが、シルクにこれ使ってもらうのを頼んでもいいか?」
「構わないですが。姿が見えなくて受け取れないです」
だよなあ。
何も見えない中、前方を手探りでシルクがいないかと探す。
ついさっきまで目の前にいただろと思うだろうが、夜とはまた違った光も全く無い真っ暗の状態となると感覚がおかしくなる。
瞼は開いたままだが、目隠しをしている時に似た様な感じだ。
やはりこの状態は精神的にも来るので早く何とかしたい。
ああそうだ、わざわざ自分で探さなくてもいい。
これを渡すだけなのなら、アカリにちょっとだけ出てきてもらえば解決だ。
『私の出番ですね!』
そう言いながらアカリは俺から外へと出て、ぼんやりと僅かながらも照らしてくれる。
やがて前方が薄っすらと見え始め、パロマとシルクの顔が見え始める・・・・・・。
とその時、全く見たことの無い物が見えてきた。
黒い長い髪で顔を全体覆った、誰なのかもわからない化け物の様な物が・・・・・・!
「うわあああああああああ!!??」
それを見た恐怖で、思わず俺は大声を上げ尻餅をついてしまう。
な、何なんだあれは・・・・・・?
ヤバいとしか言えない物が目に映っている。
怖い!怖すぎる!!
こいつは間違いなく人間じゃない!!
「お、おい! 二人ともそいつから離れろ!」
俺は慌ててパロマとシルクの二人に逃げる様に促す。
しかし二人は俺の言葉を聞き流すかの様に全く動こうとしない。
それどころかアカリと共に、何故か可哀想な人を見る目でこちらを見てくる。
そういえばミナキの奴はどこへ行った!?
二人とわけのわからない化け物がいてミナキの姿が見当たらない。
ま、まさかこいつが既に・・・・・・?
「ちょっと驚きすぎよ。私よわ・た・し」
目の前の髪で覆われた者がそう言うと、手で髪を横へとかき分ける。
笑いを堪えているのか、ぷるぷると震えながら。
髪の中から現れたのは・・・・・・ミナキの顔だった。
「あっはははは!トウヤったら大げさな反応しちゃって!ちょ、冗談よね? ・・・・・・謝るので、どうかその剣を収めてください!」
体を地に付けたまま剣を抜き、突き付けようとした俺を見て、ミナキは顔を青くしてそう言う。
こっちは真面目にやってるってのに、こんな状況で身が凍る様な思いをさせられた挙句、追い打ちで馬鹿にまでされるとは。
本当にぶった切ってやろうかと思った。
こんな状況・・・・・・、ミナキも怖がっていたはずなのに結局は楽しそうに接してくる。
命がけの冒険であるのに対して、修学旅行の様な軽いノリだ。
ミナキが一番無邪気にこの冒険を楽しんでいるのだろう。
迷惑もかけられはするが、こいつのおかげで緊迫感も抜け、常に敵からの恐怖に脅えるガチガチな雰囲気にはなっていない。
考え方次第では少し有難味を感じさせられる。
もし俺の様なリーダーではなく、もっと真面目で厳しい人の元にミナキがついていたらと思うと、即解雇なんてされかねないのでは無いのだろうか。
今は貴重な回復役としてウチのパーティーに所属しているが、今後別のパーティーへと場所を移すとなると心配である。
他のパーティーか。
パロマとシルクとは母のピスカが言っていた、父の住んでいる国でおさらばすることになるのだろう。
だがミナキは黒猿との戦いを切り抜けた後、回復役のいない俺のパーティーに自分が馴染めるだろうとここに存在している。
そんな単純な理由なのだが、他の目的などは特に明確にはしていない。
俺の世界を回り尽くすという目標が、どれほどで達成できるのかは見当がつかない。
となると、この鬱陶しい元JKとは、いつまで共に旅をすることになるのだろうか?
「どうしたの?急に阿修羅の像みたいな顔して」
いや今は進むべき道へと歩むのが優先だ。
こんな堅苦しいことを考えるはよそう。
そもそも黒猿と対峙する時にはミナキが必要だと思ったが、それ以降は俺からは一緒に組みたいと望んではいない。
第一こいつが抜けたところで、また別の代わりになる人と組めばいい。
ただそれだけのことだ。
「そこまで酷く真面目な顔はしていないぞ。・・・・・・ちょっと考え事をしていただけだ。それじゃこれ頼むよ」
「わかりました」
ミナキへ適当に反応をしておき、シルクの手の平へと球を手渡す。
これを使うのを任せるまでは良いのだが、シルクの魔力でどれ程まで光を放ち続けることができるのか。
俺で数分しか持たなかったのだ。
いくら何でも何時間などと、かなり長い時間で照らし続けることはできないだろう。
しかし森といっても常にこんな風景が続くとは限らない。
光の差す場所に出ることを祈ろう。
「ではいきますよ。・・・・・・うわっ!」
「おお!俺の時よりもかなり眩しい!」
あまりの激しさに、つい眩しいと表現してしまう。
シルクが球へと魔力を込めた瞬間、より強い光で周囲を照らす。
俺と比べ格段に明るく、距離も二倍、いや三倍ぐらい先まで見える様になる。
本当にシルクとはどこでここまで差がついてしまったのだろうか。
使者様、自分の就いている職業、名前だけなら聞こえはいいけど、コレただのハードモードじゃないですか・・・・・・?
仕切り直して、再び四人で縦へと並び直し森を進んで行く。
前に人がいては球の光が遮られてしまうので、シルクが先頭となっている。
いざという時は強力な魔法が放てることだし、むしろこの方が安全なのだろう。
度々感じる自分の役不足感が嘆かわしい。
「もうあんなことしないでくれよ。それと道具を使う時も最初に何らかの注意をしてくれ。わかったな?」
「暗黒に光を注いで道が示される♪ 我らの未来に光が灯る♪ 清き聖の道を重んじる今の私には、暗黒よりも光の方がイメージが合うのかしら。・・・・・・何か言った?」
「なんでもねえ」
外見や職業は白くても中身は十分黒だよアンタは。
シルクの魔力から放たれる光のおかげで、ミナキは随分と上機嫌の様だ。
今注意したところで面倒なことになりそうだと悟ったので、何も言わなかったことにしておこう。
「何か見えてきたな」
しばらく進んで行くと、少し変わった地形が目に移りこんできた。
一旦広い空間が広がっており、今まで通り道が続いている。
それに加えて、右斜めと左斜めのそれぞれにも道が出てきた。
今まで一本道だった森の道が、いきなり三つへと分岐されている。
これはれっきとした、定番の分かれ道って奴だ。
厄介なのが現れたなあ・・・・・・。
広間の隅に、丸みのある台形の座り心地の良さそうな岩を見つけたので、少し疲れを取ろうと腰かけてみる。
三人はそれぞれ怪しい物が無いかと周囲を隈なく探っていた。
道はただ分かれているだけではなく、こんなところでは見慣れない物がそれぞれ道の入口の横に設置されている。
地面に刺さった棒に、平べったい木の板がくっ付いた木製の看板だ。
何故こんな場所に?と思うことはまず無かった。
三つの看板にはそれぞれ絵が描かれている。
左斜めへと続く道の看板には銅の色をした剣が、真ん中の看板には可愛らしい猫のマークが、最後の右斜めの看板には鼠色の鎧が描かれていた。
これは間違いなく正解のルートを示すであろう、この分かれ道のヒントと見て良さそうだ。
「わあ!この絵、凄く可愛いですね」
シルクが猫の絵に興味を持ったらしく、看板の傍に寄って見つめ始める。
・・・・・・猫か。
剣と鎧ならある程度関連性があるのでわかるのだが、猫だけがこの中では浮きすぎてて違和感しか感じない。
どういった意味が隠されているのだろうか。
というよりこの看板の絵だけでは答えへと辿り着けない。
無意味に絵付きの看板が立てられているとも考え難い。
何かこの絵と結びつくような物が周囲には無いだろうか。
「トウヤ、そこ立ってもらってもいい?」
「パロマも座るのか?歩きっぱなしだと疲れるもんな」
パロマに場所を譲ろうと石の上から立ち上がる。
こういう時はあまり難しく考えず、シンプルに考えてみると割と答えが導き出せたりする。
とりあえず看板は正解を導き出す必須の物だ。
他には周りの木と、俺の座っていた石ぐらいしか目ぼしい物は無いのでそうと見て間違いはない。
そして看板に描かれた剣、猫、鎧の絵だ。
さっきも感じたのだが、猫だけがこの中では仲間外れだ。
だから猫の描かれた真ん中の道は・・・・・・。
いや、ちょっと待てよ?
剣と鎧を残したところで、そこから先はどうするって話だ。
仲間外れと見せかけて、その場違いと絞られる一つの猫が正解の可能性がある。
確証は無いが、この絵から読み取れる事なんてこれぐらいではなかろうか。
よし猫だ。
「ああやっぱり。これ見てよ」
「ん?どうした」
服をクイクイとパロマが引っ張り、俺の座っていた岩の側面を指差している。
言われた通りその場所を見てみると・・・・・・。
何か短い文章が書かれていた。
『三つの中で冒険をするに当たり、最重要な物を一つだけ選べ』
三つと指定されているとなれば、これは看板と関係する物で間違いないはずだ。
こんなところに問題が隠されていたのか。
「これは・・・・・・!よく見つけたなパロマ!」
「だってここで怪しいのって、どう考えてもこの岩ぐらいしか無いじゃん?」
パロマの発見に関心するも、普通だよと言わんばかりの指摘をされる。
ああ、パロマの方が余程シンプルな考え方をしていたってわけだ。
ヒントも無しにあの絵だけで答えを導き出すだなんて、それこそハイレベルな考え方でしかない。
・・・・・・こういう時は一つ勉強になったと前向きに思えばいいか。
最重要、冒険で最重要な物か・・・・・・。
剣、猫、鎧。
猫・・・・・・?
猫なんて連れて行ったところで何ができる?
魔物に出くわします、自分は武器も防具も持っていないので何もできません。
連れてきた猫は即パックリと食われて終わりですよね?
・・・・・・これ一番いらないじゃないか!
はあ、やっぱり猫が間違いだったのか。
俺も座るより先に周囲を探索するべきでしたと。
シンプルに、だなんて考えていたのも全部ムダになったか。
それはそれで仕方ないとして、今は目の前の問題に集中しよう。
んで、剣と鎧、どっちが冒険で最重要なんだ?
一見すると二つとも必要にしか見えないのだが・・・・・・。




