第三十八話 求める物は、成長
「もう見終わっただろ。返してもらうぞ」
「あっ!」
ふてくされた俺はミナキの手から強引にカードを奪いポケットへとしまう。
弱くたっていいじゃないか!
レベルが低いということは逆に裏へと返せば、まだまだ成長の予知があるということなのだ。
それに本当に重要なのは数字の強さだけでなく、実践での立ち回りの方だと思う。
上手く戦うことができれば、最弱にだって活躍できるチャンスはいくらでもある。
いわゆるプレイヤースキルという奴だ。
って自分自身が動くのならプレイヤーとは言わないか。
とりあえず俺はこいつらに劣っているからと気にはしない。
悔しくなんかない!
「・・・・・・他に何か話すことはあるか?無いならそろそろ」
「はいはい!ありますあります!!」
寝ようかと言おうとした時、ミナキが勢いよく手を上げて言ってきた。
今日は疲れたし必要なことが話し終わったのなら明日の為にもう休みたい。
・・・どうせくだらないことだとは思うが、期待はせずに一応聞いておこうか。
「何だ?」
「リーダーをパロマに変更するべきだと思います!一番強い人が適任ではないのでしょうか!」
「俺の予想百パーセント的中でくだらないことを・・・・・・。お前は年下にパーティーの主導を任せる気かよっ」
「あいたっ!」
そう言いながらミナキの頭を軽く叩く。
常にリーダーが最強の存在とは限らない。
むしろそうでないことによって不意をつける可能性だってある。
それがわからないこいつは、同じネトゲをやっていた者としてはまだまだだ。
「リーダーか。やってみたいかも」
「いやトウヤの言う通りパロマはやめた方がいいですよ。パロマのペースにトウヤがついていけなくなります」
パロマが興味を持ち、シルクが一瞬擁護かと見せかけて、俺を裏から突く様なことを言ってくる。
ああ頭が痛くなってきた・・・・・・。
これ以上話していても毒にしかならなさそうだ。
もう寝た方がいいのかもしれない。
「お前らな・・・・・・。俺はもう寝るからな」
呆れた様に席を立ち、そのまま部屋へと向かった。
寝る前に歯を磨こうと、歯ブラシと歯磨き粉を持ちながら部屋を出ようとすると、一足先に戻っていたらしい同じ装備のパロマと目が合った。
「一緒に行かない?」
「ああ、構わないぞ」
パロマの要求を受け入れると、そのまま浴場前に備え付けられた洗面所へと向かった。
二人とも洗面所の前に立つ。
するとパロマがこちらの方を向いて不安そうな顔で。
「トウヤはこの町で結構のんびりしている様に見えるけどさ、前みたいな幹部が他の町を襲ったりとかは気にしたりしないの?」
俺が少しは気にしていたことを突然持ちかけてきた。
いくら町に冒険者が存在するとはいえ、幹部の実力がどれ程の物なのかはわからない。
場合によっては制圧されている可能性も十分ある・・・・・・ということだ。
しかしアデルマンドという幹部の一人に過ぎない奴が、あいつの性格通りに強引に町へと押しかけてきたわけであって、他の幹部が全てそうとは限らない。
むしろ感情を採取する為なら殺してそれきりにするよりは、生かしたまま感情を揺らがせた方が効率良いに決まっている。
たとえどうなっていたとしても、元凶さえ倒せば解決というわけだ。
「のんびりとはしていないさ。今日色々と買い物したろ?あれの為のお金を集めていたんだから仕方ない事だったんだよ。幹部の方は多分大丈夫だ。町にだって戦える奴はいるんだからそこまで心配はいらない」
「そっか。トウヤがそう言うなら安心だね」
乱す為に攻める者がいれば、平和の為に守る者も必ずいる。
俺が全て担わなきゃいけない程に、この世界の人というのは軟弱ではないはず。
シルクとは前向きに考えるということにはしておいたが、逆に俺の出番も全く無いということもある。
気楽に冒険がしたいし、その方が嬉しいんだけどな。
パロマは洗面所の鏡へと向き直り、歯ブラシに粉を塗り始める。
俺も同じ作業をし、二人で歯を磨き始めた。
嗽をし終わると、隣で俺を見つめるパロマと目が合う。
「一回しか口ゆすがないの?もっとした方が良くない?」
「いやいや、こうすることによってこの粉の成分が口の中に残るんだ。その成分が中を綺麗にしてくれるんだぜ」
ネトゲ仲間から教えられた知識だ。
その人は毎日の歯磨きをサボり、虫歯だらけになったところで歯磨きのことについて調べ、その情報へと至ったらしい。
というよりかは、その段階でもう手遅れである。
流石に歯を磨く時間が惜しいほどまでには、俺はゲームに依存していないので歯の方は心配ない。
「そうなんだ!明日からそうしてみるよ」
俺の受け継いだ知識を更に受け継ぐパロマ。
明日・・・・・・か。
食後に綺麗な川でも近くにあればいいんだけどな。
『良い事を知りました。参考にさせて頂きますね』
『・・・・・・残念だけどお前は歯を磨く必要無いんだからな?』
『あう!その通りでした』
そんなアカリとの会話を中で交わす。
最近のアカリはこうして俺の中にいる方が、自分も冒険をしているという気分になるらしく外にいる時間の方が少ない。
俺としてはプライバシーに関わってこなければ何でもいいのだが。
そういえばパロマは今後の旅についてどう思っているのだろうか。
サバイバル染みた死と隣り合わせの生活をしながら次の町へと進み、その町では幹部が待ち構えている可能性がある。
そう考えると不安という物は無くならないのだが、こいつはこれからの慣れない行動をどう思うのか。
「・・・・・・お前はさ、この先の旅のこと、どんな風に思っているんだ?」
部屋へと戻る道を歩きながら聞いてみる。
右手を顎に当てて数秒間を空けた後にこう答えた。
「きっと楽しい旅になると思う。いや全力で楽しみたいと思っているよ。今までトゥロリテの町から出たくてうずうずしてたんだからさ!」
パロマらしく単純な思考だった。
これから何があるかもわからないのに。
町を出ていきなり巨大なドラゴンと絶望的な遭遇するかもしれない。
あるいは虎の様なすばしっこい奴に、背後から不意を突かれて狩られるなんてこともあり得る。
恐らく四人の中でこんなことを言えるのはパロマぐらいだろうな。
でもこんなに俺より強い奴が不安にならないということだけで、俺の方も自然と安心できる。
「ふーん。なら俺の分もしっかり活躍してくれよ」
「うん頑張るよ。・・・・・・って次の大物はトウヤがとどめ刺すんだよ?」
そんなことをさりげなく言って・・・・・・。
「お、俺が倒すのか?」
「そうだよ。やっぱり最後に倒した人がレベル上がりやすくなるみたいだから、そろそろトウヤも頑張らないと」
むう、こればかりは何も言い返せない。
先程はあんな考え方をしていたのだが、勿論数字上でも強いに越したことはない。
パーティーの平均レベルのバランスを取るのも大事だとは思うし・・・・・・。
「覚えてたらそうするよ。主戦は変わらずパロマで頼むぞ」
「しっかり覚えてるから安心してね。それじゃお休み」
「おう、また明日な」
部屋まで着くと挨拶を交わし、それぞれの部屋へと入って行った。
とどめと言われてもどうすればいいんだろう。
ミナキの麻痺魔法中に攻撃を・・・・・・って強い相手なら効果が薄い可能性が高いか。
アレだ、武器は手に入ったし町に着いたらまずは、その町のクエストで自分を成長させた方がいいのかもしれないな。
いくら立ち回りで相手からの攻撃がどうにかなっても、こちらからの攻撃が通らなければ意味は無い。
となるとやっぱりレベル上げか。
お金稼ぎと併用って形にもなるだろうし頑張ってみるしかない。
そんなことを軽く決心しながら、俺はベッドへと寝っ転がった。
この町ではいきなりな出来事が沢山あった。
魔王が現れたり、町が襲われたり、難題を背負わされたり、シルクが添い寝してたり・・・・・・。
これ以上の刺激的なことがこの先も続くのだろうか。
それもそれで、パロマの言う通り楽しみだと感じる部分もある。
刺激的なことが続く方が、案外自分の求める冒険だったりするのかもしれないな。
そういえばサンデニスの奴はどこへ行ったのだろうか。
あの件以来からこの町でそれらしき人物は見当たらなかった。
ひょっとして既にこの世界中を見回っているのだろうか。
宛も無く、自分への裏切り者のゴースディを探しに・・・・・・。
あいつの立ち位置は魔王、即ちこの世界での悪側の主人公というわけだ。
普通の人間と違い、圧倒的な力を持っている魔の頂点となる存在だ。
その立場上としては今の状況に必死になるのも当然か。
・・・・・・・・・・・・
比べて俺は多少のゲームの知識があるだけで、他は特に突出した物はない。
パロマに戦いのセンスや力で劣り、魔法もシルクとは比べ物にならない程ちっぽけな物しか使えなく、更にはミナキに器用さで勝てない。
良いところなんて全然無く、普通のパーティーなら俺なんてのはお荷物のレベルだ。
・・・・・・けど、折角願って来れたこの世界なんだし、少しは頑張ってみようかな。
活動報告の方も書かせて頂きましたので、お時間がありましたらそちらもお付き合いをして頂けると嬉しいです。




