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異世界行きはこちらです  作者: 神に選ばれし村人
第二ノ三章 恐怖と勇気
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第三十六話 冒険の訓練

 店の前を待ち合わせ場所にしていた俺達は剣を購入した後、すぐにシルクとミナキの二人と合流した。

 そのまま道具屋へと向かい、余りの二十五万で適当な生活用品を買い揃えた。

 結果剣と合わせて手元に残ったのは三万ノールだ。

 

 次の町までは、トゥロリテからフラットへとは比べ物にならない程に距離がある。

 早くて一週間で到着がいいところだろう。

 氷山もどきからそれが確認できた時は驚いた。

 町から町への間、食物等は自分達で調達しないといけないのだ。

 サバイバル経験なんて当然無い俺は不安しか無かった。

 三人は凄く楽しみにしているのだが、後で辛さを知ってから泣いてリタイアとかやめてくれよ・・・・・・。


 今日は町を出る前に、サバイバルの摸擬練習として昼前にクエストを受け、夜まで一日中外で過ごすという作業を行う。

 いきなり実践というのも危険なので俺が考案した。

 メインは前述の通り俺も含め、自給自足の辛さを味わう為である。

 素材入手から調理まで全ての事を四人で行うのだ。

 調理に関してはミナキが自信あると言い張るので任せることにしている。

 家庭的な事に関しては、女性の口から言われると自然と安心ができる。

 準備ができ、出発したいところなのだが、一つ問題点があり揉め合っていた。


「えええ!私は持ちたくないわよ。トウヤが二つとも持ちなさいよ!」

「アホかお前は!これもパーティーでの協力の一つだ!大体こんなバッグを二つも持てるわけないだろ」


 二つの大きく脹れたリュックサックがあり、それを誰が持つかで言い合っていた。

 一つは食事用の食器や調理器具が詰め込まれた物。

 もう一つはモンスターの本や、ミナキが選んできた料理用の調味料らしき物の数々。

 そしてミナキ専用の日用品セットが詰め込まれた物である。

 折角自作した二つのバッグが膨らんで、醜い姿になってしまっているのにはちょっと心に来るものがある。

 最初は俺が持つことにし、もう一つのバッグを誰に持たせるかという状況で、俺は迷わず一人を指名したのだが、そいつはかたくなに断っていた。

 

「俺が持って行ってもいいが、軽くする為に途中で中身をぶちまけるかもしれないな」

「あああああ!!それだけはやめて!私が持つから、持ちますから!!」


 俺のパーティーメンバーはとても仲間思いで、進んで請け負ってくれるから助かるな!

 ミナキにバッグを押し付け、クエストの受付所で今日の対象を選んだ。

 

 今回の討伐対象は、森林にて姿を目撃されたと言われるシルバーベアの討伐だ。

 普段は森林の奥にある山に住んでいる魔物なのだが、餌の確保の為か森林でうろついている姿を町の人が目撃したらしい。

 熊と言うからには強敵なのだろうかと思っていたのだが、動きは鈍く、割と戦いやすいという話を聞いて、今回の練習にはうってつけだろうと選んでみた。

 俺達は目的地の森林へ向かう為に、西の出口へと向かった。




「辛そうですね。私が持ちましょうか?」

「い、いやこれくらい・・・持てない様では・・・この先困る。・・・・・・大丈夫だ」


 バッグの重さで表情をしかめながら歩く俺に、シルクが気を使って声をかけてくれる。

 しかし年下の女の子に、こんなデカい物を背負わせるというのは俺のプライドが許さない。

 この町でそこそこレベルが上がって、力に自信は持てたと思ったのに凄く重たい。

 それよりもミナキが、バッグの大きさが多少小さいとはいえ、涼しい顔をして歩いているのが憎たらしい。

 あいつ俺よりも戦闘向きなんじゃないか・・・・・・。

 自分の貧弱さが露わになっていて悔しいなこれ。

 

 何とか森林の入口まで到着した俺達は、そろそろ昼を回る頃なので安全な場所にバッグを隠し、食材となる物を探すべく魔物を探し始める。

 できれば戦闘をせず自然の物で済ませたいところではあるが、運悪くここは半端な植物が生きるのには困難な雪の地域だ。

 森林にも特に果実が実っているということもない。

 そこらにいる魔物を狩ることが、今食材を手に入れる唯一の手段なのだ。

 肝心の食材となる魔物については、それについて書いてある本を持っているミナキが詳しいのだが・・・・・・。


「――いたわ!あいつが食べられるって本に載ってたわよ」


 ミナキが指差したのは森林の入口から離れた場所にいる、四足歩行でゆっくりと歩く白い狼だ。

 俺も一度は戦ったことのある、ホワイトウルフである。

 こちらにはまだ気が付いてはいない様子だ。

 

「あいつ家で飼ってみたいかも」

「狼かよ。俺、犬系あんまり得意じゃないんだよな」

「いつでもポンって目の前に調理済みの食べ物が出てくるわけじゃないのよ。今日は自分達で食材を取るの!」


 俺が言い出したのだからそれくらいはわかっている。

 結局戦うのはこいつではなくて、俺達になるんだよなあ。

 久しぶりに剣を振るうことができるし、ここはサクっとやっちゃいますか。

 

 できるだけ気が付かれない様に、間合いを詰めようとゆっくりと近づく。

 しかし動物というのは視野が広いおかげでその辺りは鋭く、後百メートルといったくらいでこちらの存在に気が付かれた。

 ホワイトウルフは猛ダッシュで俺へと近づいてくる!

 しかし一度は戦ったことのある相手、俺の敵ではない。

 

 まずはその一方的に走ってくる狼を華麗に横へと避ける。

 そして奴が方向転換を行い、こちらへ戻って来ようとするところにすかさず炎属性魔法を・・・・・・。

 放とうとしたのだが、狼は全く向きを変えず走り続ける。

 その予定外の状況を見て、俺は右手の上に作り出した炎を収め、狼の方向へと全力で走り出す。

 ・・・・・・奴が向かったのは言うまでもなく森林の入口、三人の待機している場所である。


「きゃああああああああああ!狼が来てる!来てる!!私殺されるううううううううう!!!」


 真っ先に声が裏返るほどに、悲鳴を上げて逃げ出したのはミナキ。

 年下二人を置いて自分だけ颯爽と走り出したのである。

 無様だ・・・・・・。

 むしろあのまま食われてしまってもいいんじゃないのか。

 パロマとシルクはというと、逃げも隠れもせずにその場でジッとしていた。


「おい!二人とも危ないぞ!噛まれたら痛いじゃ済まないから逃げとけ!」


 俺が二人にそう叫ぶも、全く動じる様子はない。 

 あのまま正面から迎え撃つつもりだろうか。

 動かない二人に近寄った狼は、そのままジャンプして跳びかかる!

 

「いきますよパロマ!『スノーウィンド』!」


 しかし直前まで来た狼に向かってシルクが魔法を唱えると、目の前に白い魔法陣が現れ、そこから猛吹雪が放たれ狼へと襲い掛かる!

 それを浴びた狼はドサッとその場へ落下し、凍った様にピクリとも動かなくなる。

 ってそのまま後ろにいる俺にも吹雪がかかってきた!

 通常の寒さなら慣れたつもりだったが、氷魔法まで吹っ掛けられるのは流石に寒い!


「オッケー!『フリーズブレイク』!」


 続けてパロマが動かなくなった狼に向かって剣を構える。

 技を叫ぶと同時に狼の首の辺りを鮮やかに斬りつけた。

 今パロマが使用したのは前覚えたと言っていた剣技で、氷属性を持つことが多いこの地域にはうってつけの技だ。

 それにシルクが狼を氷漬けにさせ、威力を上昇させたのか。

 炎系統の魔法以外はこの地域では効果が薄いと思っていたのだが、こういう組み合わせ方もあるんだな。

 ううむ勉強になる。



「・・・・・・お、終わった?」


 涙目で戻って来るミナキ。

 不覚にも少し可愛いと思ってしまいがちだが、ここは自分だけ逃げたこいつに言ってやらねば。


「お前が真っ先に逃げたところでパロマとシルクが倒してくれたんだぞ。礼を言ってやれよ」

「うう、だって・・・・・・。元はといえば格好つけて避けたトウヤが悪いんでしょ!」

「なんだと!人が率先して戦いにいってやったのに・・・・・・!」


 開き直って言い返してくるミナキ俺も対抗する。

 自信があっただけに避け方に力を入れてたのが恥ずかしかった、という理由で。

 いがみ合う俺達にシルクが手を上げて止めようとする。

 一方パロマは動かなくなった狼の方へ近づき、剣で狼を突っつきながら。


「ねえ、腐っちゃうといけないから早く何とかしようよ」


 今回の本題であることを俺達に言ってくる。

 そうだ忘れてはいけない。

 こいつをしっかりと腹に入れて昼を終えるのだ。

 

「まあいい。んでミナキ、こいつはどの部位が食べられるんだ?」

「ちょっと待っててね。・・・あった。これに書いてあるから、このナイフを使って上手く剥ぎ取ってね」


 バッグの中を漁り、一つの分厚い本と小さなナイフ、そして銀製のトレイを俺に手渡す。

 ・・・俺にやれってか。


「お前さ、何か一つくらい仕事したらどうよ。俺じゃなくてもできるだろ」

「動物の体をバラバラにするなんて私は嫌よ。トウヤは男なんだから大丈夫でしょ。私の仕事は料理なの」


 出たよ男だから~系女子。

 そうやってすぐ厄介事を俺に回してきやがる。

 何故俺はこんな奴と一緒にパーティーを組んでいるのか、度々疑問に思ってしまうことがある。

 しかし最後の一言、これに関しては何も言い返すことができない。

 シルクにこういうのを任せるのも違う気がするし、パロマが細かい作業を上手くやれるかと言われたら微妙なところだ。

 ・・・・・・結局俺か。

 俺だって生き物の内部を抉るのには抵抗あるんだけどな。



 ―――三十分後―――




「はあ・・・はあ・・・ほら取って来たぞ・・・うっ!!」

「ちょ、大丈夫!?」


 俺は咽ながらミナキに狼の食べられる部分だけを集めた、肉の塊が乗ったトレイを手渡す。

 やはり動物の体の内面というのはグロテスクな物だ。

 物凄い異臭や多量の血も合わさって、三十分の間に軽く十回ほどは戻してしまった。

 これではこの作業を食べる為に行っていたのか、戻すために行っていたのかの区別がつかない。

 こんなことにも慣れろってか。

 嘘だろ・・・・・・。


「じゃまず火が欲しいから、私達で集めてきた木の山に炎の魔法をお願い」

「任せてください。『フレアボール』!! ・・・・・・あっ」

「・・・・・・集め直しね」


 シルクの火力が強すぎて、火起こし用に積まれた木が文字通り消し炭となった。

 こいつの魔法の威力は本当にどうなっているんだ・・・・・・。

 そんなことがありながらもみんなで木を集め、今度は魔力を弱めて丁寧に火をつける。

 洗うことはできないが、ミナキの覚えたての浄化魔法で除菌をする。

 これは果物等の痛みや腐りも、味の質は無理がある様だが、食べられる程には清めることができる便利な魔法だ。

 できるだけ綺麗にした肉をフライパンへと乗せ、調理し始めるミナキ。

 俺達三人はそれを魔物から守る為に囲んで陣取っていた。


 やがて空腹で食事が恋しくなってくる頃に、ミナキの声が掛かると俺達は三人は颯爽とミナキの元へと駆け寄る。 

 それぞれいい感じに茶色く焼けた肉に、青いタレのかかった物が乗った使い捨ての紙皿を受け取った。

 

「はいどうぞ。熱いから少し冷ましてから食べてね」

「・・・・・・何でこのタレ青いんだ?青い食べ物は食欲がそがれるって言うけど、まさに今そんな気分だよ」

「文句言わずに食べなさい!私達にとっては違和感あるかもしれないけれど、お店で味見させてもらった時は美味しかったわよ」


 ・・・・・・そういう物なのかね。

 美味しいと言われてもどうにも食べる気が起きない見た目だ。

 例えれば・・・・・・、青い絵の具をべっとりと塗られたような、そんな感じである。

 

『このタレは私もかかった料理を食べたことがあるのですが美味しかったですよ。色と食事に関しての考えがさっぱり無くなる程です』


 アカリもそう勧めてくる。

 そう言われてもこれを食べるのには相当な勇気が・・・・・・!

 悩んでいる内にも俺の腹が何か入れてくれと呻いている。

 クソッ、どうしたらいい!


「これはいいですね。焼き具合、噛み応え、そして絶妙にマッチしたこのタレが決め手となっていて・・・・・・。凄いです!私もこんな風に料理できるようになりたいです」

「? シルクが何言っているかわからないけど美味しいよミナキ!」

「でしょでしょ!料理に関してだけは、小さい頃からお母さんに教えてもらっていて自信あるのよ!」


 一人で見えない相手と戦っている俺を余所に、三人は楽しそうに会話を交わす。

 ああもう仕方ない!食べればいいんだろ!

 ヤケクソ気味になった俺は肉を掴んで口の中へと入れ、丁度いい大きさのところで口の中に納まる様に引きちぎる。

 その瞬間、俺の思いもしなかった濃厚な味が口の中に広がる。

 えっとこれは例えるなら・・・・・・。


『頭の中がごちゃごちゃになっていますよ。食レポとか向いていなさそうですね』


 アカリにも指摘されたが、とりあえずは旨いってことだ!

 タレも色こそ違う物の、焼肉とかで出てくるのと何ら変わらない味だ。

 これだけ美味しければいくらでも食べられる。

 欲を言えば追加でご飯が欲しい!

 

 残りの肉もせっせと口の中へと運んでいく。 

 そんな手渡された料理を懸命に食べる俺を見て、ミナキが嬉しそうに微笑んでいた。


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