第三十五話 新たな剣を求めて
「それを言ったら、アカリなんてふわふわ浮いてるだけじゃないか。俺は仕方なく観戦しているだけだ。アカリにも戦いに参加してもらえれば助かるんだけどなー」
死人だということを知っておきながらそんな皮肉を言う。
言っておいて何だが、我ながら非情な奴である。
しかしアカリはそれを聞き、フフンと鼻で笑う。
「実は今の私にもできる技が一つだけあるんです。お見せしましょうか?」
自信満々に言うのだが本当なのだろうか。
物に触れることができず、見ることすら少数の人に限られるアカリにできることとは・・・・・・。
折角だからこいつの遊びに乗ってやるとするか。
「ほう、なら見せてみろよ。宙に浮いて、これが私にしかできないことです!なんて言うのはナシな」
「い、言ってくれましたね!そんなつまらない芸なんてやらないですよ!本当ですからね!」
俺が嘲笑いながらそう言うと、アカリは興奮しながら腰に手を当てて返してくる。
もう俺の中では死人云々という意識が薄れているのかもしれない。
いや、その方が自然と関わりやすいので悪くはないと思うが。
こいつもこいつでなんか楽しそうだし。
「見ててください。いきますよー!」
そう言うとその場でふわふわと浮き始める。
腕を足を自分の方へと寄せて一旦縮こまる。
今度は体を傾けて俺の方へと向き、足を大きく蹴ると・・・・・・。
寄せていた腕を伸ばして、俺の方へと突っ込んで来た!
「うおっ!!」
触れられるはずのないアカリの俺に飛んでくる姿を見て、思わず声を上げながら右腕を突き出して防ぐ構えをする。
大げさなリアクションを取ってしまったが、アカリの体質通り触れることはできないので、特に痛み等とかは感じられない。
すり抜けて後ろへいったのかと思って振り返って見るが、そこにアカリの姿は無かった。
すると突然、頭の中に声が響いてくる。
『ここですよー。トウヤさーん』
それを紛れもないアカリの声。
姿は見当たらないのに一体どこから・・・・・・?
これがアカリの技という奴なのだろうか。
「どこへ消えたんだ?」
聞き返すも、アカリの勝ち誇った様な派手な笑い声だけが頭に響く。
馬鹿にされている様でちょっとだけうっとうしい。
早く種明かしをしていただけないだろうか。
やがてアカリの笑い声が静まると、再びアカリが語り掛けてきた。
『・・・実は私、今トウヤさんの中にいるんですよ!どうですか!凄いでしょう!?』
興奮したアカリの声が響く。
確かに凄いが、そんな大音量で話されると頭が痛い!
「おー。そりゃ凄いじゃないか。それで、俺の中に入って何ができるんだ?」
『こうなって私ができることは、トウヤさんの視点で物が見れることと、こうして頭の中で会話ができるんです。トウヤさんの考えていることも丸わかりなんですよ!』
おお!それは凄・・・・・・いのか?
こう言うのも何なんだがかなり微妙な気がする。
俺と同じものが見えたところで、特にどうということもないと思う。
というか頭で会話とか負担かかって疲れそうじゃないか?
『ちょっと!マイナス評価が多いじゃないですか!十分凄い事だと思うのですが!!』
「だあああああああ!!頭痛いから大声で話しかけるのはやめてくれ!頼むから!」
考えていることが全て伝わってしまうのは、全く良い事ではない気がするのですが。
しかも俺の頭の中が、一方的にアカリに伝わるだけというのがズルい・・・・・・。
早く出て行ってくれないだろうか。
「まあでもあれだろ、その技はいわゆる合体みたいな物なんだろ?アカリが俺の中に入ることによって、俺のステータスが大幅アップしたりする。それがその技の本質なんだよな」
ふと漫画とかでよくありそうな設定を口に出してみる。
まさかこんな他では見れないような変わったことをしておいて、俺に損しかない技だなんて言うことはないだろう。
しかしわざわざ期待を込めて言ったことは、どうやら間違いだったらしい。
『戦う力の無い私が憑依したって何も変わりませんよ。ステータスは一ミリたりとも上がりません!』
意味無いじゃないか・・・・・・。
結局はこういうことができるってだけで戦力にはならないってことだ。
『でもこうすることによって、今私とトウヤさんは一つになっているのです。ああ心地良い・・・・・・』
「お前それだと成仏しちゃうんじゃないのか?俺の体ごと持って行かれると困るから早く出てくれよ」
『それも悪くは無いかもしれませんね。二人で一緒に昇っていくのです・・・って嘘ですよ!そんなに怒りの感情をぶつけないでください!!今出ますから!!』
イライラを膨らませていると、アカリがひょこっと俺の中から出てくる。
病んだ子に殺されました、みたいな死に方は嬉しくも何とも思わないので御免だ。
そして逆にアカリに攻撃することもできるらしい。
だから何だって話なのだが。
一か月前にシルクと話していた時や、お金の為にクエストでモンスターの討伐に出かけていた時に、いつも近くにいるはずのアカリの姿が見えないことがあった。
気が付かないうちにいつもこうやって姿を消していたのか。
・・・・・・それよりも今のアカリの技のおかげで、気にしないといけないことが色々と増えてしまった。
「ふう・・・。どうかしましたか?」
「いや、アカリが語り掛けて来ない分には、俺の中にいるかどうかが俺自身ではわからないからさ、風呂だとか色々やり辛くなったなあと」
するとアカリは頬を赤らめて、無言のまま両手で顔を隠しだした。
どうやらその時にはやらないし、やる度胸もないらしい。
その極度に恥ずかしがる姿を見て、一本取ってやったと勝ち誇った気分になっていた。
自然とガッツポーズをしていると、ドアがノックされる。
「トウヤ起きてた?・・・・・・何してるの?」
「え?ああいや何でもないよ!ちょっと体を動かしていたんだ!」
部屋へとやってきたのは剣を装備し、いつでも外にいける準備の整っていたパロマだった。
アカリの事が見えないパロマには、俺が部屋で一人でガッツポーズしている図となる。
パロマに指摘されて恥ずかしくなった俺は、そう言いながら体操の様なよくわからない動きで誤魔化そうとしていた。
それを見てクスクスとアカリの笑い声が聞こえてくるのが、これまた恥ずかしく感じる。
他人には見えないのが見えるって人の立場は、想像していたより結構難しいことなんだな。
「ふーん。今日も戦うし大事だね。こっちは準備できたからそろそろ行こうよ」
「そうだな。じゃ頼むよ」
三十万まで溜まった次の日の朝、パロマと一緒に店へ剣を選びに行く約束をしていた。
しかし剣だけ・・・・・・と言われたらそういうわけでもない。
今回溜めた三十万というのは剣一本の為のお金ではなく、旅の為の資金も含めての三十万だ。
この町では十分過ごしたので、そろそろ次の町へと向かおうと思っている次第だ。
冒険の前も思っていた様に、この冒険は自分の中で例えれば、世界旅行に匹敵する物なのだ。
各地各地である程度過ごし、異世界の町というものを味わっていく。
お金持ちのジェントルマンの気分である。
移動は飛行機ではなく自分の足となるのだが。
幹部討伐の件で町を出る様に急かされる、といったことは意外にも無かった。
シルクも俺の冒険の方針に従うといった感じだった。
まあ噂や姿で存在が明らかになった場合は、必ず仕留めましょうと念を押されてはいた。
要はついでみたいなものと考えている。
他の町にも冒険者はいるはずなので、少しくらい時間をかけても大丈夫だろう。
宿屋を出て裏手を進んだ先に、二本の剣がクロスした絵の看板が置かれた建物がある。
少しでもRPG等のゲームに触れたことのある人なら誰でもわかる、というよりわかり易すぎる程定番の武器屋の印である。
手始めに目標である剣を確保する為に、パロマと二人で武器屋へと足を運んでいた。
シルクとミナキは少し用事があると言っていたので、俺達が剣を購入するまでは別行動としている。
さあ俺のパートナーとなる剣、この町では一体どんな物が置かれているのか。
ワクワクが止まらないぜ!
「おっちゃん、この地域なら氷の剣とか無い物なの?ほらこう・・・、いい感じに角張った奴とか、つららみたいなのが付いてる奴」
「そんな物、溶けちゃうから作れるわけが無いじゃないか。一体どこの国の話をしているのだね」
ですよねー・・・・・・。
この調子だと炎の剣だとかってのもこの世界には無さそうだな。
所々で現実を突き付けられるのが少し悲しい。
「やっぱりこれにしようよ。ビッグチェーンソード!今まで持っていたのよりも何倍も強いと思うよ」
「さっきも言ったがそれは重すぎて俺には扱えない。もっと別のを探してくれないか」
パロマが押してくるのは刃がギザギザしている、ノコギリを巨大化させたような大きな剣だ。
しかし片手は勿論の事、両手で持ったとしても自由に歩くことができない。
とにかく強いのが好きらしい幼げな感性のパロマはこれを勧めてくるのだが、持ち歩く事すら難しい物を買うわけにはいかないので断っている。
「トウヤさん、これなんてどうですか!王子様の持つような剣でとても似合いそうです」
「俺のイメージにそぐわない。すまないがそれも却下だ」
アカリの勧めてくる物は先程の物とは真逆で、貴族なんかが持っていそうな典型的な細身のレイピアだ。
性能面は申し分ないし、俺にとっても不自由のない代物だろう。
しかし一般の冒険者である俺が持つ物としてはちょっと違う気がする。
それともう一つ問題点があり、値段がなんと四十万ノールだ。
これを購入したら最後、計画が全て破綻である・・・・・・。
女の子というのは綺麗で高い物に目を引かれるのだろうか。
「トウヤって時々誰もいないところで喋ってるよね。凄く気になるんだけど」
「ああごめん。何でもないから探すのを続けていてくれ」
しまった、またやっていたか。
ただアカリが折角言ってきてくれるのに、無視するってのも違う気がして返しちゃうんだよな。
するとアカリが突然、先程と同じ様に俺へと飛び込んで来た。
『こういう時にこうすれば便利なんですよ!しっかりと使い道あるでしょう?』
『そうだな。でも邪魔だけはしないでくれよ』
喜々として俺に語り掛けてくるアカリ。
中で会話すればパロマへ気にさせなくて済むし、二人で話す分には便利かもしれない。
『トウヤさん、これなんてどうでしょうか!?ゴールドプロテ」
『高い!』
『・・・で、ではこれなんてどうでしょう!! レイジングレッドスフィア・アルティメッ』
『高い高い高い!見た目だけじゃなくて値段をしっかりと見ろ!!』
よくわからない物ばかり勧めてくるアカリに反対するのが忙しい。
どれもこれも買ったら即終了、というか借金レベルの品物ばかりだ。
それよりそんな強そうな名前の剣が、何故普通に置いてあるのかとまず店主につっこみたい!
パロマもやけにごつい物ばかり持ってきて、お前が扱えても俺は扱えないと全て元の場所へと返させた。
パロマとアカリの二人と一緒に買い物に来たのは間違いだったのかもしれない。
ここまでセンスが崩壊していたとは・・・・・・。
結局武器屋へとやってきた俺達は、五万ノールで普通の鉄の剣を買って店を出ることにした。




