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異世界行きはこちらです  作者: 神に選ばれし村人
第二ノ三章 恐怖と勇気
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第三十四話 勇気ある者

 俺はどこにでもいる普通の高校生。

 違う世界に来ただけの、そこらの人と何ら変わらない一般人だ。

 こんな俺に幹部を退治していくなんて、大層なことを成し遂げられるはずがない。

 そんな勇気も魔物と戦う欲も、もう何も残っていない。

 

「意味わかんねえよ。大体俺は俺であって、お前の父親じゃないんだ。父親と重なるからって勝手に押し付けないでくれよ」


 僅かながらも愛おしく思っていたシルクの手を取らず、自分で立ち上がって言った。

 こいつの父親は国が危険な状態になっても、その国に残って戦うほどの勇敢な人だ。

 加えて俺はこの件から逃げたがっている一方のヘタレなのだ。

 似ているから、なんて理屈で背負わされてしまっては、荷が重いなんてどころの話ではない。

 

「父と全く同じと言っているわけではないのです。ですがトウヤには、他の人には成し遂げられないことができる力がきっとあるんです」

「また適当なことを・・・・・・。大体サンデニスはお前とパロマが何とかって言ってるけどな、そのお前らのことも心配なんだよ。万が一のことがあっても、俺には責任が取れないんだよ」


 サンデニスの言う通り、こいつらが強いと言っても過信は禁物だ。

 何が起こるかわからない、厳しい現実が待ち受けている異世界。

 こいつらにも俺の様な恐怖を植え付けてしまうことになるかもしれない。

 最悪旅の途中で、パーティの要であるミナキが真っ先に死に、全滅なんてこともありえる。

 ゲームと違ってセーブ、ロード何て物が無いこの世界では、ゲームでは頻繁にあるそんな事態を、一度でも引き起こしてはならない。

 ミナキは別として、元々この世界にいるパロマとシルクの二人は、この世界に対しての考えが甘すぎる気がする。

 リスクの高すぎることに首を突っ込むのは得策ではない。


 シルクは俺の意思を聞いてか、差し伸べた手を戻し後ろで組みだす。

 そして真剣な表情で俺に言う。


「勝手に心配されていただいては困りますよ。トウヤはトウヤなら、そんな親の様な見方で私達のことを見ないでください。私達なら大丈夫ですから」


 俺の思い込みは激しかったかもしれない。

 こいつらが強いってことは、むしろ俺よりも安全というわけだ。

 しかし何もこいつらだけが心配、というだけではない。


「・・・そう言ってくれるのはありがたい。でもそれとは別で俺自身が嫌なんだよ。怖くて怖くて仕方がない。俺自身が逃げ出してしまいたいんだ」

 

 俺はシルクから目を逸らし、表情を曇らせて言う。

 面倒な奴だと思われそうなのだが、どうしても幹部討伐を勧めるシルクにはハッキリと言うしかない。

 俺が怖くて、恐れて、とても立ち向かうことはできないのだと。

 引き下がる様な俺の言葉を聞き、シルクは杖を振り上げ、今度はポンと優しく俺の頭上に当てる。

 そしてそのまま俺の方へと歩み寄り。


「トウヤが私達の心配をしてくれる様に、トウヤは一人じゃなくて私達もついているんですよ。トウヤよりも強い、私達がついているんですよ!」


 女の子の様な可愛らしい笑顔ではなく、微笑みながらも力強い眼差しでそう言いかけてくる。

 そのシルクの表情に、これまでにない頼もしさを感じさせられる。

 だがそんな漫画とかで聞き慣れた様な、臭い台詞じゃ俺の意思は動かない。

 俺がそう思っている中、シルクは俺の頭に当てた杖を戻して話を続ける。


「この町に来る時に、黒猿に襲われそうになったミナキを助けた人は誰ですか?アデルマンドの時も指示を出しながら、一番必死に戦っていた人は誰ですか?よく思い出してください」


 そんなの思い出す必要もない。

 たった一人しかいないのだから。


「・・・・・・俺の事か?」

「そうです。他の誰でもないトウヤですよ。そんなことをできる人が怖がるだなんて信じられません。私から見たトウヤは、恐れずに立ち向かう凄く勇敢な人です」

 

 そしてシルクは再び手を差し伸べ。


「だから・・・、私達を引き連れて、またアデルマンドの様な敵と戦いませんか?」


 幹部討伐のことを回りくどく言ったりせず、直球で俺へと聞いてきた。

 

 ・・・俺はそんなに勇気のある奴なのだろうか。

 こいうの言う、恐れないヒーロー像が俺に当てはまるのだろうか。

 くだらない・・・・・・、そう思っていたはずなのに。

 先程の言葉が俺の中に響いたのか、今度差し伸べられたシルクの手も頼もしさを感じられる。


「引き連れるだなんて、そんな言い方は感心しないな」


 シルクの変な言い方を訂正させ、俺は先程の反応とは真逆に自然とシルクの手を取っていた。

 先程とは違い、今度のシルクの手は何故か暖かい。


「トウヤ抜きで私達が立ち向かってもきっと負けてしまいます。トウヤの判断力や私達には無い発想力が力になります」

「なあ、お前はなんでそこまで幹部討伐を大事に思っているんだ?」


 俺への尊重を余所にそんなことを聞いてみる。

 自分の立場が危うかったりと色々あるサンデニスならわかるが、俺をここまで幹部討伐に向けさせるこいつだけ、あの二人と比べて酷く熱心な気がする。

 俺は激しく反対していたので気にはしなかったが、今ではその理由が知りたくなったのだ。

 ・・・やはりシルクの言葉に俺は動かされたのだろうか。

 案外俺もチョロい奴なのかもしれない。


「決まっていますよ。この町が荒らされた様な事態をまた起こさない為です」

 

 差し出した手を戻して、まるでヒーローの様なことを言う。

 ここまで前向きだと、不思議と何とかなりそうな気持ちになる。

 きっと俺はシルクに勇気付けられたのだろう。

 こいつの言い方が上手いのかはわからないが、少しでも活躍していたことを言われると、僅かだが自信が出てくる。

 それにパーティの三人も、戦闘においては俺以上に良い動きをする。

 そのおかげで俺は今この町にいる。


 パロマがいたから強敵を仕留めることができた。

 俺が死んだり負傷しても、ミナキが治療してくれた。

 そしてシルクが俺を立ち直らせてくれていた。

 一見すると年もいかない危ないと思いがちな奴らだが、そんな奴らに支えられてきていた。

 ・・・・・・案外何とかなるのかもしれないな。

 俺は夜空を見上げながらそんなことを考える。

 ふと見上げた空は雪の影響で曇っており、この世界での星を見ることはできなかった。


「・・・曇っていて見えないんですよね。残念です」


 苦笑しながらシルクも空を見上げる。

 そういえば綺麗な夜空を見たいってことでわざわざ外に来たんだっけな。

 ここもがっかりしているシルクに、何か一言言ってやろうか。


「でも雪の降る中に男女二人っていい雰囲気じゃないか?ロマンティックで」

「・・・・・・? 何を言っているのかよくわからないのですが」


 俺はニット帽を拾いながら言ってみたのだが、その一言はシルクの中で思い切り滑る・・・・・・、というか的が外れたらしい。

 冷えるのはこの地域だけって言っていたし、そりゃそういう風習も中々ないですよね。

 ただ男女二人というところには引っかかったのか、冷たい目線を送ってくる。

 よくわからないけど凄く悔しい!


「このっ!さっきまではあれ程俺の腕に縋り付いていたのに!」

「や、やめてください!今のトウヤは全然別人ですよ!離してください!!」


 俺は宿屋からのお返しに、小柄なシルクを軽々と持ち上げる。

 抵抗して杖で叩いてきたりと暴れるが、それを無視したまま宿屋へと戻って行った。

 今の俺は朝からモヤモヤしていた物も吹き飛んだ気分だ。

 こいつは俺なんかよりも、ずっと大物になるのかもしれないな。



「あの人が仲間の女の子をいじめていた人?」

「食事の時も料理が席に来るまで、自分の膝の上に女の子を乗せてたらしいわよ」

「可哀想にね。・・・あ、こっち来たわよ」


 ヒソヒソと朝の食堂で囁かれる俺の噂話。

 翌日から、俺はしばらく危ない人扱いを受けていた。





 それからしばらくの間は、クエストを受け続ける日々が続いた。

 経験を積む・・・・・・、という意味でもあるのだが、もう一つ理由がある。

 それは新しい剣を買う為のお金が欲しかったからだ。

 アデルマンドに剣を折られた俺は言うまでもなく丸腰である。

 なので四人でしばらくはお金稼ぎをしていた。

 当然俺は攻撃になっているか怪しい程度の魔法しか攻撃手段がないので、経験を積んでいたのは三人だけだった。

 そんな三人に引け目を感じつつも、一か月間俺が見ているだけで敵をどんどん倒していく姿を見ていると、やはりこいつらは強いんだなと再認識させられた。


 お金・・・サンデニスに渡したもう半分の報酬はといえば、勿論三人に分けて渡してあった。

 それで剣を買おうと言い出してくれたのだが、アカリとの使った額が思っていたよりも多く、五十万から俺の分を差し引いても三人の分け前が少なくなっていたので、とてもじゃないが俺にはそんなことをさせられなかった。

 そうしたらシルクが俺の為にお金を稼ごうと提案し、二人もそれに乗ってくれたのである。



 ミナキが自分のカードを見て難しい顔をしている時があり、気になって聞いてみたことがあった。

 すると補助メインの私は中々魔法を覚えられない、といじけて言ってきた。

 ネトゲやってたのならその辺りは考慮していなかったのか、と言いたかったのだが都合がいいので放っておくことにした。

 

 そして休憩の日も挟みつつ一か月が過ぎた頃には、合計三十万ノールまでお金が溜まっていた。

 黒猿の賞金の時と違い、コツコツ稼いだお金には重みがある。

 この札束を見れば見るほど、自然とニヤけてしまう。

 日本の社会でお給料を貰った時もこんな反応になるのだろうか。

 

「トウヤさんはあまり動いてなかったのですけどね」


 俺の顔を見てアカリが小馬鹿にする様なことを言ってくる。

 これから武器を買って活躍するんだから、今は気にするところではないんですよ。

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