第三十三話 夜空の下で
「思ってたよりもさみーなオイ・・・・・・」
俺はシルクの付き添いで夜に外出し、宿屋の横へと来ていた。
付き添いといっても当の本人はまだ来ていないのだが。
朝はせっせと働いていた町の人々も、夜になると皆姿を見せなくなっていた。
まだ復旧途中の建物は雨や雪の対策で、所々に青いシートが張られている。
ポーションの効果は昼過ぎまでなので、俺が起きた頃にはすっかり切れていた。
しばらくの間寒さが緩和されていたおかげで、一日越しに感じるこの地域での夜の冷え込みは半端じゃない。
おまけにパラパラと少し雪が降り始めてきた。
立っているのも何なので座ってみるが、朝とは違ってこれがまた冷たい。
そのうち慣れるだろうしこのまま座っておこう。
数分そのまま何も考えずに待っていると、やがてシルクが宿屋の方から走ってきた。
しかしシルクは俺を見るなり、何故か恐る恐るとゆっくり近づいてくる。
俺が起こっていたりしないかと思っているのだろうか。
大丈夫だ、成り行きはよくわからないしかなり年下だが、女の子と二人でお話しするチャンス。
少しくらいクソ寒い中に一人で待たされたくらいでは、俺は全く気にならない。
「あのー・・・・・・」
困った顔で申し訳なさそうに聞いてくるシルク。
ここだ。俺の男の見せ所だ。
恐らくすいません待たせてしまって、等の謝罪が飛んでくる。
そこで俺はむしろ寒い方が丁度いい、気にしてないよと安心させてあげるのだ。
「誰ですか?」
「冬也だ!お前のパーティの木村冬也だ!!その様なふざけた質問は流石の俺でも怒るぞ!」
シルクに謝られた後、俺の横に腰掛ける。
俺の女性への対応練習は採点不可という形にさせられた。
やはり座る瞬間は冷たいらしく、ぶるぶると少し身を震わせている。
話をするならむしろ部屋の中でいいと思うんだけどな。
「その帽子取りませんか?見た目がガラッと変わってトウヤだとわかり辛いです」
「ああこのニット帽でわからなかったのか。・・・・・・そんな目で見るなよ。外すからさ」
「それニット帽って言うんですね。初めて見ました」
ジト目でそう言ってくるシルク。
ニット帽なんかもこの世界では珍しい物なのかもしれない。
そういえばサンデニスの奴はどこからこんな物を用意したのだろうか。
この世界には無いはずの、午前の紅茶もさりげなく持っていたし。
寒いのは仕方ないが、仲間に他人扱いされる方が俺にとってはかなり痛いので、しぶしぶとニット帽を外して横へと置く。
「俺の国での防寒具でな、このてっぺんのモコモコが特徴なんだよ。それよりお前はローブ姿のままで寒くないのか?」
俺は追加で着込んでいるのに、シルクは帽子も被らず普段と同じのローブ姿だ。
この町に来る道中も何も着てこなかったし、何かと我慢する体質なのだろうか。
「ど、洞窟を除けば世界で寒いのはこの地域だけですから。邪魔になりますし、もも、持ち合わせていません。普段用のローブとパジャマがあれば十分ですよ・・・」
そんなことを震えながらも真顔で語るシルク。
寒いのなら寒いで我慢しなくていいのに。
変な計画性を持った奴だ。
「それに・・・・・・、こうすれば外でも多少は暖かくなりますよ」
そう言いながら前触れも何もなく、さりげなく腕を組んできた。
確かに暖か・・・・・・。
ってだからそういうのは本当にヤバいって!
こっちはむしろひんやりしてるし!
「だあああああ!!やめてくれって言ったばかりだろ!何なんだよその誘惑している様な行為は!」
俺は声を荒げながらシルクの腕を振りほどいて立ち上がる。
気が立ってしまったおかげで少しだけ体が熱くなる。
・・・・・・やはり気があるのか?こいつは。
「誘惑何かじゃないですよ!そういう意味でやってるんじゃありません。・・・話をするんでしたね。座ってください」
「はあ・・・・・・」
自分からやっておいて何故か怒り気味のシルクに、生返事を返しながら言われるがまま座り直す。
俺は何も悪くないのに。
シルクは夜空を見上げて、少し微笑みながら語りだした。
「トゥロリテの町には住んでいないのですが、私とパロマにはしっかりと父親がいるんですよ。その町の近くではよく魔物達の襲撃があり、父は国の人達と共に魔物と戦うという忙しい日々で、私やパロマとは中々顔を合わせることができませんでした」
何かと思えば、突然シルクの父親の話をされていた。
あの町には確かに母親の方しか姿を見せなかった。
あまり気にはしていなかったが、別の国に住んでいるのか。
それが腕を組むのとどう関係があるのかはわからないが、大事そうな話なので静かに聞いておく。
「やがて襲撃が激しくなり七年前に母に連れられ、急遽あの町へと引っ越してきたのです。そして結局父と関わることは少ないまま離れてしまったんです」
かなり幼い頃から片親の生活をしていたのか。
やむを得ない事情とはいえ、親元を離れるのは辛かっただろうな。
七年前・・・というと、アカリが戦争で亡くなってしまった時期に近い。
何か関係のありそうな話だな。
それよりも先程からアカリの姿が見当たらないのだが、どこへ行ったのだろうか。
「それで・・・、トウヤの雰囲気が何となく父に似てるなと思ったんです。父は好戦的で毎日の様に戦っており、かなりがっしりとした方でして。トウヤの腕も中々ですよ」
そんなことを笑みを浮かべながらこちらを向いて自然と言う。
好戦的っていうのはパロマも受け継いでいるんだろうな。
しかしこいつの父親がそんなに俺と被っているのか?
本人を見たことがないのでよくわからないが。
「なんだそりゃ。そんな真面目そうな父親と俺じゃ、比べ物にならないと思うけどな。俺だって元は引きこもりだったんだからそこまで良い体つきでは・・・・・・」
シルクに言われ、ふと自分の腕を見てみる。
がっしりとまでは言えないが、引きこもりで運動も全くしていなかった頃に比べて、目に見えて太くなっている気がした。
そういえばこの世界で冒険者を始めた当初は剣がかなり重く感じたり、ゲーム感覚で何とか魔物と戦う事自体はできたが、体を動かすこと自体はそれ以前まで全く行っていなかったので、毎日の様に筋肉痛に悩まされていた。
それが最近では剣を振るうことが特に難しく感じず、筋肉痛もいつの間にかすっかり無くなっていた。
俺もしっかり成長していたんだな・・・・・・。
パロマとミナキに負けているのは悔しいが!
「てか体格で人を見てるのか?そんなんだとお前の方こそ将来が不安になるぞ」
「ち、違いますよ!体格だけでなく、言葉の通り雰囲気が似ていて・・・・・・」
宿屋の中での反撃をするもシルクはそれを必死になって否定する。
しかし語ると同時にすぐ落ち着きを取り戻し、再び夜空を見上げ。
「何だか一緒にいると落ち着くんです」
物音のしない、静まり返った夜の闇の中。
そんな俺の聞き慣れない、感慨深いことをシルクはぽつりと言う。
ってなんだこれ。
何この今告白されてます、みたいな感じの台詞。
こいつ見た目はまだ全然子供なのに、妙に大人っぽいから普通の女性と勝手に意識してしまう。
雪の降る夜空って雰囲気もマッチしていて、凄くドキドキする。
いやそんなつもりで言ってるんじゃないんだよな。
落ち着け・・・落ち着け・・・。
何か気を紛らわせる様な事を言わないと・・・・・・。
「そうか。お前の父親も相当な変わり者だったんだな」
ゴンッ!!
俺の平静を取り戻そうと場違いなことを言ってみたのだが、どうやら場違いも通り越したらしく、俺の頭上にシルクの杖が振り下された。
氷山もどきの時から思っていたけど、杖は人を殴る物じゃないと思うんです。
「なんて事を言うんですか!信じられないですよ。・・・全く、何故この人といると落ち着くなんて言ってしまったんでしょう」
俺に聞かれても困る。
シルクに言ったことの方が悪かったとは俺自身も思うけど。
何とか俺の方は落ち着いたので、殴られてヒリヒリする頭を擦りながら、今度はシルクの話に乗っかってみる。
「・・・俺とシルクの父親ってそんなに似てるのか?雰囲気って言われてもわからないからさ、具体的に頼むよ」
するとシルクは顎に手を添えて。
「そうですね。時に勇敢だったり、誰も考えない様なことを思いついたり、私に訳のわからない変なこともしますが基本は仲間思いだったり」
シルクさんの中の俺の評価高くないですか。
どれもこれも特に意識してやっていることでも無いんだけど。
・・・言われていて悪い気はしないが。
「そんなところが父と似ているんです。でも本当に一緒にいると落ち着くという理由は・・・」
「り、理由は・・・・・・?」
「・・・わからないんですよね。何となく雰囲気が似ている?という感じでして」
そこは曖昧なのか!
わかったところでどうする、ということでも無いからいいんだけど!
雰囲気ねえ・・・・・・。
「そ、そうか。自分でもよくわからない事なんて、世の中には山ほどあるんだしいいんじゃないか?それよりも話を聞いていて、シルクの父親に一度会ってみたくなったよ」
俺は何故腕を組んでいたのか、という話から逸れて世間話の様な流れに沿って父親の話を振ってみる。
こいつの父親とは気が合いそうな気がしたのだ。
それこそこいつの言う、何となくといった感じなのだが。
「母から聞きましたが、父の住んでいる国にもいずれは行くのですよね。まだまだ距離はありますが、そのうち会うことができますよ」
「そうだったな。その時を楽しみにしているよ」
シルクが笑顔でそう言ってくる中、俺も期待を込めながら笑って返す。
母親のピスカは普通に旅をすれば三年って言ってたので、遠い先の話ではあるのだが。
そんなことを思っていると、突然シルクは立ち上がる。
笑顔はそのままに俺の方へ向くと。
「父に似ているトウヤだからこそ、どんなことがあっても乗り越えられる、なんて思っちゃうんです。・・・幹部討伐の件も、どうか前向きに考えてくれませんか?」
シルクは俺に手を差し伸べながらそう言ってきた。
・・・ああ、こいつにとっての本題、話したかったこととはこれのことだろう。
父親に似ているから幹部にも立ち向かえるだろうって?
俺のことをヒーローか何かと勘違いしているんじゃないか。




