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異世界行きはこちらです  作者: 神に選ばれし村人
第二ノ三章 恐怖と勇気
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第三十二話 刺激的な目覚め

 奇妙な夢が一段落したところで俺は目が覚める。

 まず自分の目の中に飛び込んできた景色は、ほとんど何も見えない程の暗い闇だ。

 ベッドのすぐ近くにあってそこから見える窓の外は、もうすっかり夜に差し掛かっていた。

 昼前に寝ればそんな時間にもなるか。

 

 ・・・・・・しかしもう一つ気になることがある。

 布団をかけて仰向けになって寝ている俺の右腕に、何か絡まっている物がある。 

 いや、この場合絡まれていると言った方が正しいのだろうか。

 俺の触れる機会なんて全くないであろう代物。

 それはとても冷たく、そして柔らかくて、本能的に気持ち良いと感じる物。

 できるのならずっとこのままでいたいな、なんて思ってしまう安らぎを与えてくれる物。

 おまけにくすぐったいくらいの、スースーという静かな音と共に、一定間隔でほんの僅かな風が腕に当たり続けている。

 これもまた気持ちが良くて癖になりそうだ。 



 さて、これが何なのかは大体想像ができるのだが、自分なりにそれについて大よそを表現したところで、早速その物の正体を見てみるとしよう。

 いざ左手で布団を摘み・・・・・・。

 三、二、一・・・・・・!



 バサッ!


「!?」


 その光景を見て、まず俺は頭が真っ白になる。

 この世界へとやって来て、俺のそういうことに対しての免疫の無さは、嫌という程に思い知らされた。

 しかしこれについては、何か色々と飛び過ぎている気がして平静を装うことが無理だった。

 

 飛び過ぎている・・・、例えれば、五歳の子供が海外の高級料理店に食事に行くようなものだろうか。

 まずそんなことが滅多にないということと、五歳の子供が作法を知っているということも中々に無い。

 俺にとってはそれ程何かを抜かしすぎて、おかしいと思ってしまう様なことになっていた。

 何があるかなんて想像できていたのに。

 この木村冬也、完敗である。


「・・・さむっ」


 数分硬直していた後に、やがて俺の右腕から声がする。

 中二病的なアレではなく、方向的な意味でだ。

 その声を聞いて俺はハッと意識を取り戻す。

 しかしその瞬間に、俺を締め付ける腕に少しばかり力が入る。

 その力の弱々しさが、またそれらしくて絶妙な感覚だ・・・・・・。

 ってこれはヤバい!

 これ以上続かれると本当におかしくなりそうだ。


「さむっ、じゃねえよ!締め付けてるんじゃねえよ離れろよシルク!」


 隣で俺の腕を掴んで寝ていたシルクの手を引き剥がし、俺はすぐさま起き上がる。

 ・・・・・・なんでこいつが俺の布団の中に潜りこんでいたんだ? 

 しかも腕掴んで握ってるってどういうことだよ!

 こういうのって恋人同士とかでするやつだろ!

 

「乱暴しないでください。私の手はトウヤさん程に丈夫にできていないんですよ」

「この状況でなんで普通にしていられるんだよ!こっちは自分が自分じゃなくなりそうだったんだぞ!」


 とんでもない事をしているにも関わらず、不満を言ってくる以外は平然としているシルクに俺は激しく言い返す。

 こいつ自身が疑問に思わないということは、させられた、なっていたとかではなく、意図的にやったことなのだろう。

 ・・・なんて事がわかったところで、意味がわからないという言葉しか俺の頭の中には出てこない。

 すると突然部屋のドアがノックされ、声がすると共に間を入れずにそのままドアが開けられた。

  

「いい叫び声ね!朝はあいつと言い合って怒ってた様だったから、どうなることかと思っていたのだけれ・・・ど・・・!?」


 その声の主はミナキだった。

 こちらの状況を見てミナキは顔が真っ赤になり、同時に口が止まってしまった。 

 ベッドの上で俺は上半身を起こし、シルクは俺の隣でこちらを向いて横たわっている。

 そして寝起きでシルクと会話をしていたので、明かりも付けておらず暗すぎない程の丁度良い明るさだ。

 見かけは良くても、性格上幸薄そうなミナキにとっては、この状況でも十分にアウトゾーンだったのだろう。

 ミナキの反応を見て、確実にいけない方向に捉えてしまったのだろうと、嫌でもわかってしまうのが残念である。

 そしてシルクがミナキの声を聞き、そちらを向くとミナキの顔を見て咄嗟に起き上がる。

 ミナキがサササと部屋の外に足をスライドさせて運ぶのを見ると。

 

「ご、誤解ですよ!違います!そういうのじゃないんですよ!!」


 シルクは尋常じゃない焦りを見せつつ、ミナキに向けて必死に反論する。

 俺の時は平然としていたくせに、他人に見られると抵抗するというのもよくわからない。


「あああああ・・・・・・。い、いいのよ!!シルクったら本当はトウヤのことが好きだったのね!それでこれから大事なとこだったのよね!?でもこんな時間からなんてまだ早いと思うけど。・・・あ!邪魔しちゃ悪いから私は下にいるわ! では諸君、二人の時間を大事にしなされ! さ、さいならー!」


 バタンッ


 何かを悟ったミナキは器用に口調を変えつつも、意味深な発言を残しドアを閉め、走る足音と共に部屋の前を去っていった。

 これはよくある、確実に誤解されているパターンだ。

 自分は何も悪くないのに状況だけで判断され、あらぬ誤解を受けてしまうという理不尽な奴だ。

 そう俺は何も悪くないんだ・・・・・・。

 全くよくわからない状況についていけない俺は、ミナキにノックの意味がないだろの一言すらも言えなかった。

 



 

 シルクが備え付けられた、ロウソクの様な炎の魔力が入った道具で部屋の明かりを付け、俺の頭の中も正常に動き出した頃。

 俺はベッドの上に腰掛け、シルクには部屋にある椅子に座らせている。

 そして俺とシルクは向き合うような形にしていた・・・・・・させていた。

 これから二人の未来をかけた、大切な対談が始まるのである。

 


「俺の事好きなの?」

「あまり自分を過大評価しない方がいいですよ。これからが心配です」


 あの場を見たミナキの意見に沿って単刀直入に聞いてみるが、凄く心に刺さる様な冷たいことを言い返された。

 そりゃ俺も自分に自信があるとか全く思っていないがあんまりだ。

 

「十三歳に心配されるとかその・・・、凄く複雑だ。とりあえずだな。俺にあんなことをするのはやめてくれ!そういうの慣れてなくてさ、反応に困るんだよ」

「その割には満更でも無さそうに、ジッとしていて対応するのが遅かったみたいですけどね」


 こ、こいつ・・・・・・!

 大人しい奴だと思っていれば結構言ってくるじゃないか。

 確かにあの冷たくて柔らかいシルクの手の感触はとても素晴らしい。

 触れる機会なんて全くと言ってもいい程無かった女の子の手は、後数か月は忘れられない程に印象的な物だった。

 むしろもう一度してほしいくらいに・・・・・・。

 

 ってそうじゃない!

 それより何で俺がこいつに押され気味なのだろうか。

 元々と言えば俺は何もしていない。

 こいつに何故あんなことをしたのか、という話をしようとしていたのだ。

 ん?てことは、結局最初の俺の一言目がいけなかったのだろうか。

 

「――話をしたかったんです」


 あほらしい間違いに少し遅れて気が付き、本題に持っていこうとした時にシルクがそんなことを言い出す。

 俺に話・・・・・・か。

 思い当たることといえば、朝の幹部討伐のことしか無いだろう。

 そう俺が考えながらも、シルクはそのまま話を続ける。

 

「トウヤが起きるまで、ずっとこの部屋で待っていようと思ったのです。しかしお昼を食べた後、部屋に戻ると私も眠気に耐えることができなくなって・・・・・・」

 

 そこまで言うとシルクは頬を赤らめ、下を向いてもじもじとし始める。

 それで布団の中に潜ってました、なんて自分からは恥ずかしくて言えないのだろう。


「寝ていた理由はわかった。だが問題はそこじゃない!重要なのは何故わざわざ俺の隣で、しかも腕を組んで寝ていたかだ!」


 ベッドなら隣の部屋にもあるので、それを使えばいいだけの話だ。

 あまりにも眠すぎて、やむをえず俺の布団に入っていた、という話なのならまだわかる。

 だが腕を組んでいた、というのが謎という一言、いや一文字に尽きる。

 寝相が悪くてこうなっちゃいました、なんてオチだったりするのだろうか。

 そんな特殊な能力を持っていたのなら、日本ならこいつの家庭に監視カメラを設置して、こんな珍しい人もいるんです、みたいな感じでバラエティ番組に紹介されるレベルだ。

 俺が問いかけるもすぐには答えられず、少し間が空いた後に今度はこちらを真っすぐと見て口を開き。


「少し懐かしく感じたんです」


 そんなことを少し微笑みながら言った。

 普段はこいつの方が背が小さくて、高さ的な目線が中々合うことの無い俺とシルク。 

 今こうして同じ目線から見せられるシルクの顔は、出会った当初から思っていたのだが、とても整っていて可愛らしく、美しくもある。

 学校とかにいても間違いなく男子から人気の出るタイプだろう。

 それと同時に、シルクの懐かしいという言葉に似た様なことを俺も感じた。

 

 こいつ、どこかで見た人に似ている様な・・・・・・。

 不思議な感覚が俺の頭を過った。

 似ているといってもシルクの親、ピスカの事ではない。 

 何というか言い表し辛いのだが、凄く遠い場所で似た様な人を見たことがある、そんなぼんやりした曖昧な感じ。

 今まではそんなことを感じなかったのに、この場でしっかりと目線が会った瞬間にそう思ったのだ。

 ・・・・・・?

 

「・・・どうかしましたか?」


 考え事をして答えないままでいる俺に、シルクは首を傾げて聞いてくる。 


「ん?ああゴメンな。それで懐かしいってなんだよ。俺とお前はあの町で出会ったのが初めてなんだぜ?懐かしいとかそういう間柄じゃないだろ」


 それが正しいはず。

 なのにまだ知り合って日の浅い相手に、何故誰かに似ていると思ったんだ?

 シルクの懐かしいってことと関係があったりするのだろうか。

 するとシルクは椅子から立ち上がり。


「そう・・・ですね。その話については外でしませんか?久しぶりにじっくりと夜空を見てみたいんです」

「構わないが・・・、夜だし結構冷えないか?」

「この地域では空がとても綺麗に見えるらしいんですよ。私なら大丈夫です。ではトウヤは先に朝の場所で待っていてください」


 そう言うとシルクは壁にかけておいた自分の杖を持ち、椅子を元の場所に戻すと部屋の外へと出て行った。

 

 この世界では夜行性の魔物も当然の様に存在しており、稀に町の警備を通り抜けて侵入してしまう魔物がいる。

 夜行性の魔物達は、昼活動する普通の魔物と比べて一回り凶暴なので、対抗できず侵入を許してしまうことがあるのだそうだ。

 いくら警備兵でも万能ではないということだろうか。


 夜は少しでも危険な状態となるので、夜に外を出歩いている人は昼と比べると極端に少なくなる。

 当然外から直接夜空を眺めることも無くなる。

 子供のシルクなら親に止められ、尚更夜空を見ることが無くて、外に行きたがっているのだろう。

 ・・・・・・流され気味な気はするが付き合ってやるか。




 俺はベッドから立ち上がりその場で体を伸ばすと、防寒用に上着を一枚とニット帽を被り、外へと向かった。

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