第三十一話 不思議な夢
ここは・・・・・・どこだ?
見たことのない場所。
下は綺麗な緑色の芝生で、中央には噴水がある。
周囲は中々御目にかかれない様な、神々しさを感じさせる白い屋根や柱で囲まれている。
例えれば神殿、とでも言ったところだろう。
建物の中心である自然に溢れたこの場所は庭だろうか。
景色は見渡せるが、自分で動くことができない。
これは夢だろうか?
ふと後ろの方から老いた男性の声と、必死に語り掛ける女性の声がする。
「女神様。どうかご決断を・・・・・・」
「魔王の手にかかる前に避難させるべきですよ!」
「・・・・・・」
そこにはこれまた神秘的な白いローブを着て羽の付いた、話し合いをしている三人の姿があった。
雰囲気や容姿こそかなり違うが、似た様な姿ならどこかで見たことがあった気がする。
二人は後姿しか見えないが、一人は腰を低くして杖をついている老人だ。
もう一人は黄色のロングな髪の女性で、前の人物に向かって手の平を上にして大げさに動かしていた。
恐らく今語り掛けていた二人なのだろう。
一人はその二人に向かい合う形で立っており、こちらからでも顔がはっきりと見える。
黒くしっとりとした長い髪に、この世の物とは思えない美貌の女性だ。
その女性は赤ん坊を抱きかかえており、静かに目を閉じている。
この人が女神様と呼ばれていた人だろう。
魔王?避難?
一体何の話だろう。
焦っている様な女性と決断を迫る老人。
しかし女神と思わしき人物はあの様子だと、その決断とやらを出せないでいるのだろう。
「もう時間が無いのです!今後の世界の為にもこの方法しかありません!!」
黄色の髪の女性が又も女神に激しく言い寄る。
まるで映画でも見ているかの様な、普段聞き慣れないような言葉が次々と発せられる。
只事ではない話の様だ。
すると女神は決心したかの様に目を見開き。
「・・・そうですね。悩んでいる場合ではありません。トパーズ、準備をお願いします」
「すぐにお持ち致します!」
そう言うとトパーズと呼ばれた女性は、正反対まで庭の周りを全速力で駆け抜けて部屋へ入っていった。
走りづらそうな格好にも関わらず、風の様な信じられない程に速い凄いスピードだ。
そして女神と老人は中央の噴水へと歩いていく。
近づいてくるその女神の横顔は、とても美しい物であると同時に、少し下を向き寂し気な表情を浮かべていた。
何が行われるのだろうか。
二人が噴水へと辿り着くと、トパーズが今度は落ち着いた速度で、何か長い物を持ちながら庭の中を駆けて噴水の方までやってきた。
まああれだけの速度で走ったら、庭も大変なことになるだろうという配慮の下だろう。
そして持って来た物を噴水の目の前へと置く。
それは三本の足があり、上に何かを置けるような小さなスペースがあった。
小中学生でよく見た、音楽室の楽譜を載せる台みたいな物だ。
三人は女神を真ん中に、台を囲む様に立つ。
そしてトパーズはローブの下に手を突っ込み、モゾモゾとさせて何かを取り出す。
なんてとこに物を入れてるんだこの人は。
取り出した物をを両手で包む様に持ち、台の上へとそっと置く。
その包み込んだ両手を離すと、どこかで見覚えのある物が出てきた。
黒い長方形の物体だ。
少し前はアレでもよく遊んでいたなー、みたいなそんな物だった。
しかしその見た目だけだと、それがなんだったのか思い出せない・・・・・・。
やがて女神は右手でその黒い物体を手に取り、左手で下の部分を掴み、右手で上の部分を掴む。
右手の掴んだ部分を、カチッという音を立てながら、下の掴んだ部分よりもちょっと高いぐらいまで開く。
そしてそれを数秒眺めた後、ゆっくりと台の上へと戻す。
開かれた黒い物体の表面からは、上下共に大部分を占める割合でガラスが張られている。
特に下の部位は特徴的で、ガラスの左にボコッとした十字と、丸くて灰色の物体が。
右には上下左右に密着しそうでしない絶妙な位置と、その更に下側のギリギリな場所、合計五つの小さな円い出っ張りがあった。
黒い物体が開かれてそれを見た瞬間、その物体が何なのかを俺は悟った。
ツヤのある黒いボディにコンパクトなサイズ!
あの開始を合図するかの様な、カチッという開く時の癖になる音!
下の触り心地の良いスライドパッドと、ABYXと書かれた文字の意味がよくわからないボタン!
そして上画面の結構いらないって言われている、上げたり下げたりで切り替えする立体化機能!
あれはまさしく・・・・・・!
トゥリーイーエス!!!!!
ってなんでそんな物が出てくるんだ・・・・・・?
ただのゲーム機が先程の緊迫した会話と何か関係があるのか!?
場違い過ぎにも程があるだろ!
俺が困惑していると女神はふぅ・・・と深呼吸をする。
「成長するまで一緒にいられないのが残念ですが・・・・・・。ハイト、トパーズ。お願いします」
「・・・とても辛いこととは存じますが、時が経てばきっと再開できるはずです」
今度はハイトという女神と共に歩いてきた老人がそう言い、杖を女神の抱きかかえている赤ん坊に向ける。
そして目を閉じて何かを唱え始めた。
一方トパーズの方はイーエスを手に取り、ボタンを押したりパッドを動かしたりして操作している。
イーエスからは聴き慣れない音楽や、女性の声が聞こえてくる。
・・・凄くシュールな光景だ。
しばらくするとイライラした様にAボタンを連打し始める。
ロード中なのだろうか。
俺もロード中は暇でよくカチカチやってたなあ。
・・・だから何なんだこの構図は!
「異世界ノ、行キ先ヲ、設定シテクダサイ」
やがてイーエスからは気になるようなワードが漏れてきた。
異世界の行き先ってなんだ?
あんなに焦っていたのにこの場でゲームのワールド選択か?
それとも女神や老人の重大そうな言動からするに、あのイーエスも何か特別な物なのだろうか。
トパーズはバッドやボタンを素早く押して操作を続ける。
ピピピピ・・・という効果音がしばらく聞こえると。
「チキュウ・・・、ニホン・・・。ニホントイウ、異世界行キハ、コチラデス。宜シイデスカ?」
突如として『ニホン』というワードまで出てきた。
ニホン・・・?
ニホンといったら、漢字に変換すれば大体が二本か日本の二択だ。
この場合地球という言葉も出ていたのだ。
数量の二本ではなく確実に国の日本だ。
ってだから何でゲームなんだ?
そもそも異世界とか言ってたけど一体どういうゲームなのだろう。
俺のいる場所が元々異世界って言っていたのなら、今の俺側からなら日本が異世界と言えるんだろうけど。
存在する様々な世界を題材としたゲームなのだろうか。
ゲーム機一つにここまで疑問を持てたのは初めてだ。
「カシコマリマシタ、デハ、ドウゾ」
イーエスから声がすると、トパーズは台へとイーエスを戻す。
「女神様、準備が整いました」
そう女神に言うと、赤ん坊を真っすぐと見つめる。
女神も再び深いため息をつき、自分の腕の中の赤ん坊を見つめる。
やがて老人の方を向き、コクリと頷く。
杖を向けて何かを唱えていたハイトも、それを見て合わせる様に頷く。
突然ゲームをし出すのには驚いたが、相変わらずの緊迫した状況だ。
気になるワードがいくつも出てきたあのイーエスも、この状況と無関係ではないのだろう。
何が始まるのだろうか。
「世界と生命の理を越え、この者と異世界の者の魂を、今、交わさん!!『ソウルトレード』!!」
ハイトが呪文らしき物を唱えると赤ん坊の体がら、緑色の丸い光の玉が浮き出してきた。
そしてハイトは杖をイーエスの方へ向けると・・・・・・。
何とその光の玉がイーエスへと吸い込まれていった!
ええっと、何が起こっているのか全く理解ができないのですが・・・・・・。
ゲ、ゲームの中に物が吸い込まれていくなんて。
しばらくすると、今度は青い光の玉がイーエスから飛び出してきた。
ハイトは杖をイーエスから赤ん坊の方へと振ると、赤ん坊にその青い光の玉が吸い込まれていった。
それを見届けると、トパーズがイーエスを手に取り、急いで閉じてローブの中へと突っ込んだ。
「これで大丈夫です。日本の生まれたばかりの赤子には申し訳ないですが、あの様な平和な国であれば、女神様のお子様の方は安全に成長をしていけるはずです」
トパーズが女神に向かって微笑しながら言う。
数十秒の間に色々とつっこみたい箇所があるのだが、動けない俺はこのよくわからないやり取りを見ていることしかできない。
今のトパーズやハイト言動から察するに、何かの入れ替えを行ったのだろう。
あの緑や青の光の玉が恐らく魂と呼んでいた物。
生まれたばかりの赤子。
女神の抱きかかえたあの赤ん坊と、日本の生まれた直後の赤ん坊の魂を入れ替えをした・・・・・・?
・・・ということは場違い感が半端ないあのイエースは、ここと日本の二つの魂を交換する際に、ゲートの様な役割を果たしていたというわけか。
信じられない、というより異様すぎてあまり信じたくないのだが、ゲームに吸い込まれていくという現象を見てしまった以上、そう取るしかないだろう。
なんて高性能な・・・、じゃなくて常識を凌駕した代物と魔法だろうか。
後俺もイーエスになってあの中に突っ込まれたいです!
「異世界の幼き子よ、他に方法が無かったのです。貴方の未来が失われる、不甲斐無き女神をどうか許してください。・・・我が子アーチェも、平和な世界で立派に成長できますように」
俺がそんな如何わしいことを思っている中、女神は日本というこの世界から見た異世界の魂を吹き込まれた赤ん坊を撫でながら、沈んだ表情で語る。
トパーズは女神の子が安全に暮らせることに重点を置いているのだろう。
だが女神自身にとっては、まだ話すことはできない赤ん坊とはいえ、本来の自分の子供は別の世界へと送られてしまった。
そして赤の他人である日本の赤ん坊の方も、一方的に巻き込む形でこちらへと来てしまった。
女神側からすれば、浮かばれないのも当然の事だ。
すると突然目の前が真っ白になり始める。
完全に前の光景が見えなくなると、俺は現実へと引き戻された。




