第三十話 説得
「それもお断りだな」
「「「「ええっ!?」」」」
全員の驚きの声と共に視線がこちらに向けられる。
そんなに俺があっさり引き受けるとでも思っていたのだろうか。
俺は椅子を蹴って勢いよく立ち上がり。
「大体俺らが必ずしも倒さなきゃいけないってわけじゃないだろ?この世界には俺らよりも強いのが大勢いるはずだ。こっちはまだやっと初心者を抜け出した程度なんだぜ?面倒だし怖いし勝率高そうな他の連中に頼んでくれよ」
「トウヤさん、本音出てますよ」
熱弁しながらも、アカリにボソッとツッコまれる。
しかし間違ったことは言っていないはずだ。
こんな危なっかしい俺達よりも、もっとベテランの高レベル冒険者様に頼んだ方が余程いいはずだ。
「だから討伐隊とか名乗っておいたけど俺は断る!」
俺は結論を告げるとそのまま席に着く。
そしてシルクが手を顎に当て、ミナキは首を傾けて悩むような動作をする。
するとパロマは机から身を乗り出し。
「えー!俺はその幹部って奴らと戦いたいけどな」
不満そうな顔で俺の発言を聞いてなかったかの様なことを言い出す。
「お前はあまり気にしないんだろうけど、俺はあんなのと戦って死にそうになったり死ぬのはもう嫌なんだ」
「おわっ!」
パロマの顔面を掴んで押し戻す。
異世界に来た時は戦うことを楽しみにしていた俺だが、もうあんな思いはしたくない。
アデルマンドを倒して称えられたのは嬉しいのは確かだが、死にそうになってまでああいう思いをしても割に合わない。
こんな戦いが続くのなら元の世界に戻りたい。
そうまで思えるほどに幹部との戦いを避けたがっていた。
するとサンデニスは立ち上がり。
「お前のパーティには他の冒険者よりも特別強い剣士と魔法使いがいる!この二人がいれば必ず倒せるはずだ!へたれてる場合じゃないのだ!!」
怒鳴り散らす様に暴論をぶつけてきた。
そのサンデニスの大声に食堂の冒険者達のざわめきが静まり、視線がこちらへと向けられる。
よくわからない押し付け方に、頭にきた俺も立ち上がって机をバンッと叩き。
「確かにそこらの冒険者と比べたら強いかもしれないけど、それだけじゃ今後も幹部共と渡り合えるって根拠にはならないだろ!それに何でこいつらをそんなに持ち上げられるんだよ!何か理由があるのか?こいつらは人の常識を凌駕する特別な存在だとでも言うのか!?」
「そ、それは・・・・・・」
サンデニスに負けない勢いで俺も怒鳴り返す。
大体パロマとシルクが何故か強いっていうのが気にくわない。
こいつに聞いても二人に聞いても理由は答えられないみたいだったし。
それにこの二人を過信しすぎて、俺と同じ様な思いをさせるのも嫌だ。
この二人はまだ幼い。
パロマだって強がってるだけかもしれないし、シルクも結構繊細なのだ。
トラウマになったりする前に危険な戦いを避けておくのが無難だと思う。
「・・・少し外の空気を吸ってくる」
この場への居辛さを感じてきた俺は、そう言い残して席を外した。
俺は宿屋の側面に腰をかけていた。
アカリも宿を通り抜けて俺の隣へと座る。
外はすっかり日が昇っており、雲一つ無い快晴だ。
氷山もどきや道中と比べると町の方は温度が大分高い。
昨日の昼過ぎに貰ったポーションの効果が残っているので、地べたに座っていても寒さは感じない。
だが昨日の朝から一睡もしていない所為で、そろそろ頭がボーっとし出してきた。
ポーションの温度の緩和もあって、丁度いい気温というのもあり、このまま目を閉じればすぐに寝れてしまいそうだ。
中からは再び冒険者達の話し声が聞こえる。
俺は厄介事を押し付けられそうになっているというのに、彼らはのんきなものだ。
そんなことを思うと、この中のざわめきもただただやかましく感じる。
俺がやりたかったのは仲間を作り、戦い、各地を冒険して回る。
そんなごく普通の冒険者生活だ。
なのに何故急に、こんな危険なことを頼まれそうになっているのだろうか・・・・・・。
「トウヤさん・・・・・・」
「アカリの思っている程、俺は強い人間じゃないんだよ。向こうで死ぬ前はこういう世界に凄く興味を持っていたんだけど、今では帰れるなら帰りたい。サンデニスの言う通り俺は普通のヘタレなんだよ」
心配そうな目で話しかけるアカリに、俺は今の思いを隠すことなく伝える。
この子の中の俺のイメージが崩れるのだろうが、そんなことは関係ない。
むしろ今の内に崩しておきたいものだ。
変な期待をされていても困る。
しかしアカリは俺をしっかりと見つめて言う。
「そうですよね。私も死んでしまった身ですし、トウヤさんの気持ちはよくわかります。普通の魔物とは比べ物にならない敵との戦闘。恐れてしまうのが普通です。ヘタレだとか、そんなのではないと思いますよ」
説得するでもなく、呆れられるでもなく、アカリは俺の気持ちに同調する様なことを言ってきた。
アカリも辛い死に方をしてきたんだよな。
いきなり町での戦争に巻き込まれて、俺よりも幼い状態で・・・・・・。
「そういえば蘇生させてくれる人とかいなかったのか?俺も実はこの世界で一度死んでるんだけど、あの仲間の回復魔法使ってる奴に生き返らせてもらったぞ」
俺がふと話題を切り替える様に疑問に思ったことを聞いてみる。
いくら戦争があって人が死んだとはいえ、今はあの町では平和に人々が住んでいる。
つまり戦争の終わりも当然の様にあるわけで、その後にプリースト系統の人が生き返らせればいいはずだ。
この町の襲撃でもサンデニスが死者を全て蘇生させたと言っていた。
それなら何故この子は死んでしまったままなのだろうか。
「この世界の蘇生魔法にも制限があるんです。一つは下位の蘇生魔法だと完全には蘇生ができなく、死んだ時の後遺症が暫くの間残ってしまうこと。これは回復魔法ではなく治療魔法ではないと治せません」
恐らく俺がミナキに生き返らせてもらった時のことだろう。
体を突かれて死んでしまった俺は、蘇生させられた後も腹が裂けそうな程の痛みを、サンデニスに助けてもらうまで伴った。
もうあんな思いはしたくない。
・・・でもあの時あいつに助けてもらったんだよなあ。
いやいやあいつは金を目的に俺を利用しただけだ。
それに無理矢理だしあの件は含められないな。
「もう一つ制限があって、それは死後三十分以内にしか蘇生ができないということです。つまり蘇生魔法を使える人が真っ先に殺され、そのまま戦闘が続いて回復専門の増援が安全に来られる状況が作られないと、死者を蘇生させることができないのです。そうしてあの墓地がある様に、大量の戦死者が出てしまったのです」
致命的な制限もあるものだな・・・・・・。
ゲームでも「死んだならすぐ生き返らせればいいじゃないか!」みたいなシーンをよく見たりする。
そんな甘い考え方で俺はアカリに聞いていたのだろう。
制限時間があり駆けつける隙もなければ蘇生ができない。
やっぱりゲームと違ってこの世界は厳しい物だな。
するとアカリが雰囲気を暗ませながらも、口だけ笑う表情を作り出す。
「そ、その嫌な出来事を思い出させること聞いてごめんな」
「いいんです大丈夫です。もう大分前のことですし。フフフフフ・・・」
えっと、軽くホラーなのですが・・・・・・。
たまに病み要素が入ってくるのはアカリの元からの性格なのだろうか。
それとも幽霊になると性格まで変わってしまうのだろうか。
病み系女の子が嫌いってわけではないけど、実際に一緒にいると結構怖い。
しかしアカリはすぐに表情を変え少し微笑みながら。
「ですがこれからのことを放っておくと、あの時と同じ惨状がまた起こりそうな気がするんです。なので言い辛いのですが・・・、私も幹部達を倒して頂けませんかとお願いしたいです」
結局アカリも俺に動いて欲しい側なのか。
今の話を聞いてしまってから言われると、胸が痛んで少し断りづらい。
だが俺達のパーティで本当に倒せるものなのだろうか。
アデルマンドの時は偶然上手くいっただけかもしれないし、今後も安定して攻略ができるとは限らない。
そう思うとやはり乗り気にはなれないのだが。
「俺に期待してくれるのは嬉しいんだけどさ、やっぱり無理じゃ」
「――こんなところにいたんですね」
俺がアカリに断ろうとすると、女の子に声を掛けられた。
振り返ると、後ろで手を組んで見つめているシルクがいた。
「・・・どうかしたんですか?」
「な、なんでもない。ただの独り言だよ」
そっかシルクにはアカリの姿が見えないんだっけ。
というよりは大体の人にはアカリのことが見えてないはずなのだ。
その辺りも意識してアカリとは会話した方がいいのかな。
「私も隣に座っていいですか?」
「ああ構わないぞ」
シルクは俺の隣のアカリと反対側にペタンと、腕で膝を抱え込む様に座る。
先程話し合っていたことについて何か言いに来たのだろうか。
何を言われようが、俺は考えを改めようとは思わない。
「その、トウヤに言いたいことがあって来たのですが」
真面目なシルクなら俺に出向いて欲しいと言うのだろう。
しかし何があっても断わる。
俺は普通の冒険者生活を送りたいのだ。
「・・・幹部討伐について、考え直してはくれませんか?」
「いーや、俺はやらない!あんな危険な戦いを何度もする度胸は俺にはない!!」
俺は怒鳴るようにはせず、かつ声を大きくし意思を強調させる。
真面目なシルクらしく、真っ向から頼みに来たのだろうが、今の俺には何を言っても無駄だ。
しかしシルクはしばらく無言のまま俺に返事を返さない。
・・・・・・?
「ぐすっ、だめ・・・なのですか・・・・・・?」
あ、あれ!?
いつもとは変わった弱々しいシルクの声がし振り向いてみる。
するとシルクは鼻を啜らせ、涙を浮かべて上目遣いでこちらを見ていた。
な、なんだ?まさかの泣き落とし作戦ときたか?
シルクがこんな頼み方をするなんて予想外過ぎだ。
今回の件はそこまでして俺に動いて欲しいものなのだろうか・・・・・・?
しかも涙目になりながらの上目遣いはヤバいって。
間違いなく童貞キラーだろこれ!
ああこの子の頼みなら何でも聞きますよって気分になってくる・・・・・・!
いやいや惑わされてはいけない。
シルクとはただの冒険仲間だ。
まだ関わり合って、一か月とちょっとしか経っていない。
ましてや冒険なんてその内の約一週間程しかないのだ。
だからシルクのことをそういう風に意識してはいけない!
そんな目で見られても俺は・・・・・・負けない!
「な、なな、泣きついてきても無駄だぞ!おお、俺はやらないって決めたんだからな!!」
と思いつつも激しく動揺しながらシルクに言い返し、俺はその場を立つ。
「トウヤ、どこへ?」
「そろそろ眠気が限界だ。中で寝てくる」
そう言いシルクから逃げる様に俺は宿屋へと向かう。
眠気もそうなのだが、もう幹部討伐の話を聞くのにうんざりしてきたのだ。
俺は部屋へと向かい、ベッドへと飛び込んで眠りについた。
一部題名やあらすじを変えました。
過去に書いた内容も少し変わっているのですが、その辺りのお話は近々報告の方でさせていただきます。




