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異世界行きはこちらです  作者: 神に選ばれし村人
第二ノ三章 恐怖と勇気
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第二十六話 兄妹の先手

「『フレアボール』!『フレアボール』!」


 氷の山の中でシルクの魔法を叫ぶ声が反響する。

 戦場は再びほとんどがシルクの魔法の独壇場となっていた。


「ここも終わりだね。相変わらずさっきの氷しか出てこないけど」


 パロマの言う通り、何故か十三階の龍の魔物二体を乗り越えてから氷の騎士しか出てこない。

 正直こちらの方がまだ楽で助かるのだが、あの魔物の言っていた作戦というのが気になる。

 ・・・・・・少しだけ嫌な予感がするな。

 

「にしてもシルク、お前ここまでよく魔力切れないな。初めてクエスト行った時なんて、魔力切れでピンチになっていたのに」

「本当よね。私はもう数回しか使うことができないわ」

「その時と比べたらレベルも大分上がって魔力が増えましたからね。まだまだいけますよ」



 もう十九階だってのにこいつの魔法の勢いは留まる気配がない。

 本当にどうなってるんだこいつらは。

 後でカードのステータスをでも見せてもらおう。


 この階の敵を全て処理し、階段の方へと向かうとまた看板らしきものが貼り付けてあった。

 そこには『次が最上階 お疲れ様でした』と書かれている。

 ということはこの上にアデルマンドがいるの違いない。

 

「お前ら、この次の階に恐らくアデルマンドの奴がいるはずだ。ただ道中に龍の魔物があの二体しかいなかった。あいつらは恐らく様子見の役で、この上に大量に待機している可能性がある。囲まれたらマズいから不意打ち様にパロマはあれの準備をしておいてくれ。俺達はパロマを先頭に後をついていく」


 指示を聞くと三人は頷き、パロマは準備を始める。

 ミナキも下準備に防御魔法をかけ、シルクも何か詠唱を始める。


「『スペルブースト』!」


 シルクが杖を持ったまま両手を上げると、赤い光がシルクの足元から包む様に放たれる。

 何かの補助魔法だろうか。


「シルク、それは何の魔法だ?」

「先程覚えた下位職マジシャン専用の、魔法の威力を上げる補助魔法です。持続的に魔力を消費するので控えてきましたが、どれ程まで威力が伸びるか楽しみです」


 シルクの底無しの魔力と相性のいい魔法だな。

 俺も専用の剣技やら魔法やらが欲しいところだ。


 パロマの準備が終わり、俺達は作戦通りパロマを先頭にし、後を続いて階段を上っていく。

 上の階は吹き抜けにでもなっているのだろうか、下の階とは違って階段から冷たい風が吹いてくる。

 

 手下の魔物は一体どれ程の数がいるのだろう。

 そしてあの力が取り柄のデカいドラゴンに、俺達四人で勝てるのだろうか。

 不安がこみ上げてくる中、階段を一段一段と上っていく。

 

「気を引き締めてくださいね」


 アカリに真面目な顔で促され、俺は静かに頷く。

 ああ緊張する。

 今回の敵は黒猿と違って、強いというのが最初からわかっている。

 それに前死んだ時みたく何が起こるかもわからない。

 慎重に戦わねばならないな。




「き、来ましたよアデルマンド様!」


 俺達の足音を聞きつけたのか、上からドタドタという足音と焦っている様な声が聞こえる。

 やはりあいつがいることは間違いない。

 そして奴への呼びかけで、手下もいることが確定した


「来やがったか!人間どもは臆病だからな。ここまで来るとは思わなかったが」


 町で聞き覚えのある奴の重圧感のある声も聞こえてくる。

 いきなり奇襲を仕掛けてきたゲス野郎。

 

 魔物と人間は対になる存在である。

 しかし戦う力を持たない、町の人々にまで無差別に襲わせる行動が、ゲームでもそうだったが一番気に食わない。

 それを思うとあいつの事が無性に腹立たしくなってきた。

 そう、まさにこの瞬間、俺の中の僅かな正義感が火を噴く時だ!

 雑魚が何匹いようが構わない!

 全てぶっ殺してやるだけだ!!

 

 俺は人差し指を突き出しながらパロマに続いて階段を上り。


「やいクズドラゴン!お前のせいでどれだけの人が苦しんでいるのかわかってんのか!今から俺達がお前をぶっ倒して・・・・・・や・・・る・・・?」


 

 宣戦布告をしながら階段を上がり切った俺は、その予想外の光景を見て驚き絶句する。 

 その部屋は天井はなく、もうすぐ夜が明けるのか薄っすらと明るくなり始めていた。

 下とは違い緩やかな冷たい風が吹いており、周囲には壁は無いが、転落防止の為か鉄格子が設置されている。

 開放感があり入口からでも遠くの景色が見え、情報通り中々の絶景スポットだ。

 ・・・・・・が、そこに驚いたわけではない。


「アア、アデルマンド様。本当に我々二人だけで大丈夫なのでしょうか」


 そこにいたのは側近の様な眼鏡を掛けた一匹の龍の魔物と、やはり他の龍と比べ一回りは大きい体格、大きい斧を持ったアデルマンド。

 そう、まさかの二匹しかいなかったのである・・・・・・。

 あまりの手下の数の手薄さに俺は驚きを隠せなかった。

 道中にいないと思ったら、残りはここにいるんじゃないかったのか。


「仕方ないだろ!町に送り過ぎたらあいつら以外いなくなってしまったんだ!」

「・・・・・・あいつバカね」

「・・・・・・バカみたいですね」


 アデルマンドの間抜けな発言を聞いて、シルクとミナキがボソッと呟く。

 そんな理由で道中がザルになっていたのか。

 あの言い方からするに、やはりサンデニスの言う通り頭が弱い方なのだろう。

 何にせよ頭が悪い故の計画性の無さで助かったわけか。


「おい聞こえてるぞ!俺達は耳がいいんだよ。・・・お前も脅えるな!こんなひょろい奴ら、俺らだけで十分だ」


 この世界の龍は耳がいいのか。

 いや日本での言い伝えとかが耳が聞こえないとされているだけで、実際はそういう物だったりするのかもしれない。

 向こうでは存在しなかった生物は興味深いな。


 ・・・・・・こいつの言う通り、頭は悪くても力だけは大した物だ。

 サンデニスでも重傷だったあの大きい斧の一撃は、俺らがまともに当たればサクッと逝きかねない。

 さあてどう攻めようか。

 するとアデルマンドは、斧を頭上でクルクルと何回転かさせ地面にズドンッと立てると。


 

「まずは自己紹介といこうじゃないか。俺は魔王の一番下位の元幹部であり、龍族のアデル」

「トウヤ!そろそろ抑えきれなくなってきた!」

「えっ?」


 律儀に自己紹介をしようとするアデルマンド。

 それを遮る様にパロマの叫び声が入った。

 何を抑えきれないのだろうか。


「こら!こういうのは最後までしっかりと聞く物だぞ!」

「ああ・・・もう限界・・・・・・!」

「「「パロマッ!」」」


 アデルマンドの言葉に聞く耳を持たず、パロマはいきなり剣を構えて走り始めた!

 俺達も止めようと叫ぶが止まる気配は全く見せない。

 まさかあの技を溜めていられる時間に制限があったのか!

 周りの呼びかけもお構いなしに、パロマは剣を構えたままどんどん加速していく。

 そしてその向かった先は・・・・・・。


「――え?ちょっ、私!?うわあああああああああああ!!!」


 アデルマンドではなく少し離れた位置にいた、もう一体の臆病な龍の魔物の方へと向かっていた。

 その魔物は逃げることはままならず、そのまま胸部に剣を刺され絶叫する。

 そしてパロマの勢いはそのままに、鉄格子の方まで突っ走ると魔物の体が鉄格子に引っかかり、パロマは壁に当たったように魔物の体に弾かれて倒れ、やっとのことで止まった。

 

「いっててて・・・・・・」


 パロマは頭を押さえながらゆっくりと立ち上がる。

 唐突の不意打ちで手下を処理した瞬間である。


「何だ今のは・・・・・・!」


 その光景を見てアデルマンドも顔を青くして驚いていた。

 奴から見ても、あいつの今の技の威力は相当な物だったらしい。

 下にいた龍の魔物も軽々と倒してきたのだからそれもそのはずだろう。

 

 慌ててパロマは戻って来るが、その姿は返り血を浴びて、服と顔が真っ赤になっていた。

 人並み以上に血が苦手な俺は、魔物から噴き出すくらいの物は飽きるほど見て慣れたが、こうも人の表面全体にべったりとなっているのは・・・・・・。


「パロマ!大丈夫ですか!」

「ごめん、抑えられなくてつい・・・・・・。トウヤどうしたの?」

「い、いや、ちょっとパロマの姿が見てられなくてな・・・・・・。あいつの方を向いててくれ」


 右手で顔を隠しながら人差し指と中指でチラ見する俺に、パロマは首を傾げながらアデルマンドの方へと向き直る。

 よくやったと言うべきなのだろうが、その代償にパロマの姿が非常にグロテスクになっていて、それどころじゃなかった。

 

「なあパロマ。お前血だらけになっているけど平気なのか?」

「んー、特に何とも思わないよ?」

 

 パロマは自分の体を見て平然とそんな返事を返す。

 シルクとミナキはともかく、こいつまで何も思わないのか。

 恐らくこれが日本とこの世界で生きてきた人間の差だろう。

 俺もまだまだ慣れないといけないな。


「トウヤさんの気持ちはわかります。私も苦手な方でして・・・・・・」

「仲間がいてよかったよ。ありがとう」


 アカリの同情に少しだけ心が安らぐ。


「フン思っていたよりは強いらしいな。まあいい、改めて紹介しよう。俺は魔王の一番下位の元幹部であり――」

「『フレアボール』!!」

「うおおおおおおっ!?」


 またしてもアデルマンドの自己紹介を遮り、今度はシルクの魔法が奴に襲い掛かった!

 それを受けて奴は叫び声を上げる。

 そしてすかさずシルクは次の魔法の準備を始める。


「トウヤ、私のスペルブーストは持続的に魔力を消費します。短期決戦といきましょう!」

「・・・・・・お、おう!」


 シルクは目を閉じて杖を掲げながら威勢よく俺に提案をする。

 なるほどそういうことか。

 ご丁寧に挨拶してくるあいつには悪いがそうさせてもらおう。

 

 間髪を入れずに次々とシルクの魔法が相手に飛んでいく。

 補助魔法のおかげで、着弾時の燃焼範囲が明らかに広まっている。

 それだけでなく、ここでの敵をシルクがほとんど倒して成長してきたせいか、目に見えて詠唱速度も上がっていた。

 アデルマンドは身を守る様に腕をクロスして構え、シルクが一方的に魔法を撃ちこんでいる。

 果たしてこの猛攻が、奴にどれだけの痛手を負わせることができるのだろうか。


「これでラストですよ!『フレアボール』!!!」


 するとシルクは、今までの物とは比にならない程の、何倍も大きな火の塊を作り出す。

 そして叫ぶと同時に、それをアデルマンドへ向かって放った!

 火球は動く気配の無いアデルマンドに着弾し、突風を起こしながら、俺の倍はあるはずの奴の体を丸ごと包み込む。

 俺達は今までとはその違う風の勢いに、思わず身を守る様に腕を前に掲げる。

 シルクの渾身の一撃は、サンデニスの闇魔法にも勝るとも劣らない、凄まじく派手ながらも美しい魔法だった。

 

 普段は支援で、俺達に当たらない様に繊細に魔法を撃たせていた為に、シルクの本気を見たことは無かったが、俺はこいつのことを甘く見過ぎていた様だ。

 まだまだ俺より年下の小さな女の子から、ここまでの強力な魔法が放たれるとは。

 するとシルクは突然カランッと杖を落として音を立て、地面に膝と手をついて荒い息を上げる。


「大丈夫か!?」

「大丈夫、ただの魔力切れなので安心してください」


 俺が心配して聞いてみるが、シルクは呼吸を荒くしながらも微笑みながらそう返事する。

 きっとこいつ自身も、思いっきり魔法を使うことができて気持ちが良かったのだろう。

 これから戦闘の方針を変えてみてもいいかもしれないな。


 そんなことを考えていると、ようやくシルクの炎魔法の効果が衰え、中からアデルマンドが現れる。

 奴は先程と同じく身を守る姿勢を取っていた。

 ・・・・・・しかし奴のその体は、腕が少し黒くなっている程度で他は変化が見られない。


「さっすがシルク!私の出番は無かったわね!」


 ・・・・・・いや違う。

 このお調子者のフラグ的な一言で、既に嫌な予感しかしないが、あいつは恐らく・・・・・・。




「残念だったな。その程度の魔法は大して痛くないんだよ!」

「ウ、ウソッ!」


 アデルマンドは腕をバッと広げると、邪悪な笑みを浮かべて堂々叫ぶ。

 やはりあいつにはそこまでダメージが入っていなかったか。

 そういえばゲームでも、ドラゴンは鱗が頑丈で属性攻撃に強いって設定があったりする。

 あいつも例外ではなく、そんな感じの特性でもあったのだろう。

 ピンピンしたアデルマンドを見てシルクは頭を下げる。


「そんなに落ち込むなよ。今のお前の魔法は凄ーく強かった。ただ今回は相性が悪かっただけだから、な?」

「は、はい・・・・・・」


 俺は宥める様にシルクに言ってやる。

 ここまで効かなかったのはこいつにとっても予想外だったらしく、相当ショックを受けている様だ。

 少し可哀想だが魔法が効果ないことはわかった。

 今回は下がっていてもらおう。


「仕方ない。パロマ、俺達だけでなんとかするぞ!」

「オッケー!」

「ミナキはシルクを庇いながら計画的に回復してくれ!」

「わかったわ!」


 俺は指示を出し終えると、パロマと共に数歩前に出る。

 そして斧の柄をズンと地面に打ち付けるアデルマンド。

 

「相手の体はかなり硬いはずです。それとあの大きな斧に気を付けてください!」

「ああ、わかった」


 アカリのアドバイスを聞きつつ身構える。

 締めはやはりパロマの一撃に任せるしかないだろう。

 そしてアカリの言う通り奴の斧に当たるわけにはいかない。

 こっからが本番だ!


「やっとまともに勝負できそうだな。それじゃ、お前らをズタズタに切り裂いてやるぜええええええええ!!!!」



 アデルマンドはそう叫び、大きな斧を片手で持ちながら襲い掛かってきた!

ザ・茶番

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