第二十三話 強襲
「私の命令無しに勝手に行動する愚か者は、少し痛い目を見てもらわねばならないな!」
「てめえこそ魔王のくせして生温いんだよおおおおおお!!!!」
二人は叫び声を上げ、互いに走り出し剣と斧で競り合いを始めた!
アデルマンドの巨体と大きな斧の振り下ろしを、サンデニスは左手だけを使い剣の刃で見事に受け止めている。
あんな大きい斧の一撃を並の剣で受け止めようとすれば、豆腐の様に容易く斬られてしまいそうだ。
魔王の持つ剣ともなれば、そこらの物とは出来が違うのだろう。
町の人々の目線が真ん中の二人へと注がれる。
突如として激しい競り合いが町中で行われているのだ。
やがてサンデニスは勝ち誇ったような表情を浮かべ。
「やはりお前は力だけで少々頭が弱い。今私の片手はがら空きだ。この意味がわかるか?」
「ッ!?」
サンデニスはフンと笑いながらそう言うと、空いてる右手をアデルマンドの腹部へと当てる。
「散れ!『ダークバースト』!!!」
サンデニスがそう叫ぶと右手から眩い紫色の光が放たれる。
そしてその光は段々と輝きを増していき、やがて辺りに紫色の閃光を放つ。
それと同時に、耳を裂くような爆音と共にアデルマンドの周辺に爆発を起こした!
「グワアアアアアッ!!」
アデルマンドは成す術もなく、その強烈な爆発を間近で受け吹き飛ばされた。
そして爆発の影響で腹部は真っ黒く焦げている。
サンデニスの前方には紫色の煙が立ち込めていた。
一瞬で禍々しさをピリピリと感じさせる闇魔法、そして息一つ上げず余裕の表情のサンデニス。
これが核の違いという物だろう。
奴はこれでも文字通り魔物の王たる、魔王という存在なのだ。
「やるなあ魔王さんよ。そうでなくちゃな」
「何!?」
しかしアデルマンドもあの爆発の直撃を受けたのにも拘らず、腹を擦りながら平然と立ち上がった。
それを見てサンデニスや周辺の人々は驚愕の表情を浮かべる。
それもそのはず、見るからに強烈な爆発を喰らい、かなりの勢いで吹き飛んだのにアデルマンドもピンピンしていた。
一体どうなっているのだろうか。
「おらあ!もう一回だああああああああ!!!!」
「フン、なら希望通りもう一度お見舞いしてやろう」
サンデニスとアデルマンドは再び武器を構えて競り合いを始めた。
「お前は頭が弱いと言っているんだ。まだわからないのか」
そうだ先程と全く同じ状況なら圧倒的にサンデニスの方に分がある。
アデルマンドの焦げた腹部を見るに多少はダメージを負っているはず。
しかしサンデニスの言っている通り、幾ら頭が悪くても同じことを繰り返すはずはない。
先程と同じくやられるだけなのに、何故不毛な競り合いをまた仕掛けたのだろう。
誰もが思うその疑問はアデルマンドの秘策により断ち切られた。
「・・・ああそうかもしれないな。でもこれならどうだ?」
アデルマンドが不利な状況ながらもニヤリと笑う。
するとネックレスの赤い瞳の光が輝きだす。
しかしそれを気に留めず、サンデニスは先程と同じように右手をアデルマンドの腹部に当てる。
「な、なんだこれは?」
どうしたことだろうか、サンデニスは何故か魔法を放たない。
いやあいつ自身もその不思議な現象に驚いている。
放てないのか?
そして競り合いもサンデニスが押され始め、アデルマンドがグイグイと攻めてきている。
咄嗟に剣を持つ手を片手から両手へと変えるが、それでも状況は悪化していく。
「おらよっとおお!!!」
アデルマンドが剣を弾き、そのまま軽々と斧を振るってサンデニスの腹部へと斧を直撃させた!
「サンデニス!!!」
そしてそのまま宿屋の方へと吹っ飛ばされ、かなりの勢いで壁に打ち付けられる。
「きゃあああああああ!!」
アデルマンドの斧にこびり付いた血を見て、町の人々は悲鳴を上げる。
それを見るにあいつはザックリとやられてしまった様だ。
先程まであれだけ優勢だったサンデニスがいきなり押し負けた。
あの瞬間に何が・・・・・・?
「うう・・・・・・」
サンデニスは腹部を抑えながら、よろよろと立ち上がる。
腹部からは大量の血液が流れ出ており、見てはいられない程の酷い有様となっていた。
魔王という存在をいとも容易くここまで負わせるとは。
アデルマンドは言われていた通り力は相当な物なのだろう。
「き、貴様・・・ゴフッ!?何を・・・した・・・・・・?」
吐血しながらも問いかけるサンデニス。
それを見てアデルマンドは高笑いをしながら。
「ハッハッハ!良い様じゃないか。このネックレスのおかげだよ。こいつは魔王の力を抑えることのできる役割があるんだ。ゴースディが魔王がきっと反対してくるだろうと渡してくれたんだけどよ、ここまで効き目があるとは思わなかったぜ」
そういえばあの競り合いの時に確かにネックレスが強く光っていた。
あれが魔王を弱体させた原因だったのか!
「お前を吹っ飛ばして思っていた以上にスカッとしたし、後はこいつらに任せるとするか」
アデルマンドが上空を見上げると、先程氷山から来ていた龍の大群がフラットの町の空を覆っていた。
この二人がやり合っている間にもこいつらは迫ってきていたのか。
これは数が多すぎる。
冒険序盤にして絶望的過ぎるだろ!
「それじゃサンデニスの言う通り、俺は氷山の方で待っているとするぜ。町が全滅するまで手下共を送り付けてやるよ。止めたきゃ来ればいい。そこのボロボロ魔王さんじゃ勝つことはできないがな!!」
アデルマンドはそう言うと上空へ飛び立ち、龍の大群へ町を指差し指示を出すと、氷山の方へと飛んで行った。
「キッキー!」
龍はそれぞれ町の人々へと襲い掛かる!
「誰か助けてえええええええ!!」
「このっ、来るんじゃねえ!」
「うわああああああああああ!!」
辺りに人々の悲鳴や叫び声が鳴り響く。
魔物から逃げる人、対抗して立ち向かう人、囲まれて成す術もなくやられてしまう人。
「『ソードカッター』!」
「『フレアボール』!」
「ひれ伏せ!『パラライズサンダー』! 暗黒の癒しよ!『ハイヒール』!」
パロマやシルク、ミナキもそれに応戦している。
町の中でたくさんの人と魔物が争っている。
何だこれ・・・・・・。
まるで戦争じゃないか・・・・・・!
剣・魔法・敵が存在する異世界という物を、俺は甘く見過ぎていたのだろうか。
その酷い光景があまりにも恐ろしく、動くことができなかった。
「キーッ!!」
すると一匹の龍がサンデニスに向かって襲い掛かった。
しかしサンデニスは、立っているのが精一杯でとても動けそうにない。
「ト、トウヤさん!!」
「あ、ああ!」
俺はアカリに呼ばれ、ハッと我に返る。
ああくそ!立ち尽くしている場合じゃねえ!
「くらえ!『疾風斬り』!」
もう迷うことなく、サンデニスに襲い掛かる魔物を俺は排除する。
「・・・魔王を守る・・・人間がいるか?」
「変な話なのはわかるけど俺も守られたんだし当然だろ。ほら早く傷を治しちまえよ」
先程の俺と似たようなことを言うサンデニスに頬を掻きながら返し、剣を拾って差し出す。
その剣はとても禍々しい力を感じ、思わず引き込まれそうになる。
かなりの業物だろうしちょっと興味があったのだが、俺には扱えそうにないな・・・・・・。
「『ダークヒール』! ・・・・・・人間に守ってもらうのは少し気に障るが、まあいい」
一瞬で裂かれた腹の傷を治し、そう言ってサンデニスは剣を受け取ると魔物へと襲い掛かり始めた!
自分達の王が襲い掛かってくるとは思わなかったのか、魔物は一瞬怯むが次第にサンデニスにも魔物が攻め始める。
えーっとこういう時は・・・こういう時は俺は・・・・・・。
「――おーーーーい!」
俺が何をするべきか悩んでると、一人の男の叫び声がする。
振り返ると一人の老人と杖を持った男がこちらへと向かってきていた。
「ロウルさん!」
ミナキがそう叫び俺の元へとやってくる。
パロマとシルクもそれに気が付いたのか、目の前の魔物を退けると同じくこちらへと駆けてきた。
「おお先程の娘さん方じゃないか。・・・ということはこの人がトウヤさんか?」
「そうです!この人が私達の偉大なるリーダー、トウヤです!」
ミナキは俺を称える様に、膝をついて手をひらひらとしながら紹介をする。
「・・・・・・こいつの言う通り俺がトウヤですけど。この非常事に何か用ですか?」
「そうだな私個人の話は後だ。先程の魔物の話を聞いていたのだが、娘さん方を率いるトウヤさんに氷山へ行ってもらえないかお願いにきたんだ」
え、俺らが向かうのか?
あんな強そうなのに立ち向かったところで、俺達じゃどうにもならないと思うんだけど。
「そ、そんな急に困りますよ。俺達四人じゃあんなのに勝てっこないですよ」
「――いや貴様らならあの馬鹿に太刀打ちできるはずだ。私が行ったところで力を抑えられて対抗できない。しかしそこの小僧と小娘は他の奴らとは段違いに強い。そして中二娘とゲーム頭脳のお前がいれば何とかなる。私が保障しよう。私はこの虫けら共の相手をする」
「中二娘とは失礼ね!あんたの魔法の方がよっぽど中二っぽいわよ!」
俺が突然のロウルの要求に反対していると、サンデニスが空中から自信を持ってそう言う。
確かにバランスは取れていると思うが、これってあれじゃないか。
ゲームとかでよくある、『俺はこいつの相手をするから、お前はこのでかいのを頼む!』的な何か理由をこじ付けて、ボスを押し付けられてるやつじゃないか?
いやいや冗談じゃない。
「トウヤさん!魔王がああ言っているんです!ここは行くしかないでしょう!」
アカリが俺を真っすぐと見上げながら期待に満ちた目で言ってくる。
いやそもそもパロマとシルクが段違いに強いってなんだよ。
確かに俺より成長は早いけど、そんなのハッキリとした根拠にならないんじゃないか。
「トウヤ行こうよ!俺あいつと戦いたいよ!」
パロマがそんなことを軽々しく言う。
こいつアデルマンドの体格と大きな斧を見ていたのか?
魔王ですらあの重傷だったのに、俺達じゃ紙切れの様にスパッと裂かれて終わっちゃうぞ。
「このままここにいても仕方がありません。氷山まで行ってあの龍を止めましょう!」
シルクも尤もなことを言ってくる。
俺だってそんなことはわかってるけど勝てる気がしないんだよ。
死んだらって思うと怖いんだよ!
「元凶を止めなきゃ収まらないのもわからないお馬鹿さんですか?さあ早く氷山へ!?痛い痛いいいいい!!!」
「・・・ああもうわかったよ!!行けばいいんだろ行けば!!!」
俺を煽り立てるミナキの髪を引っ張りながら俺は叫ぶ。
こいつらの言う通りここにいても埒が明かない。
もし死んでもミナキが蘇生できることだし、行ってやるしかないか。
「ありがとうトウヤさん。あの者の言う通り、この二人の子は他の冒険者とは少し違う気がするんだよ。きっと今あいつを倒せるのはトウヤさん達しかいない」
魔王もロウルって人も、パロマとシルクにそんな特別な何かを感じるのか?
見たところはただの子供なのに何があるっていうんだ。
「氷山に行くならこれを持って行くがいい」
今まで喋らなかったロウルの隣の杖を持った男が、四つの薬を差し出してくる。
これはこの町の店でも見た、二十四時間だけ体を暖かくするポーションだ。
「これ凄く効果なやつじゃ・・・・・・」
「ロウル様が見込んでお前達に頼んだのだ。寒いままでは戦い辛いだろう。受け取ってくれ」
この人が言っている通り今は値段なんかを気にしている暇はない。
ここは有難く受け取っておこうか。
「わかった、使わせてもらうよ。よしお前ら行くぞ!」
「「「「おおー!!!」」」」
俺はポーションを受け取って三人に渡すと、ヤケクソになった俺は氷山へ向かうべく、アカリも含めた五人で町の北へと駆けだした!




