第二十二話 幹部の計画
「『ファイア』!・・・からの『疾風斬り』!!」
「魔法に自ら武器を当て炎を纏い、目にも止まらぬ速さの攻撃!さっすがトウヤさんです!」
一匹のホワイトウルフに向かって魔法と剣技を組み合わせた技をお見舞いする。
それを受けたホワイトウルフは唸り声を上げて息絶える。
「・・・アカリ、褒めてくれるのは嬉しいけど、もう少し静かにしてくれないか」
昼下がりの雪原にて、俺はフラットの町へと戻る為にモンスターと戦っていた。
アカリも一緒についてくることになったのだが、こうも攻撃の度に騒がれると少し集中し辛い。
「ついてくるのはいいけどさ、フラットまで行ったら成仏できるのか?」
「いえ、恐らく私はトウヤさんが死ぬまで地上からは消えませんよ。トウヤさんが死んだその時こそ、本当に一緒になれるんですから」
「・・・・・・」
アカリはそんなことを笑顔で俺に向かって言う。
一緒にいたいと強く願ったアカリは、俺がアカリと同じ死人になるまで付き纏ってくるらしい。
そしてそのヤンデレみたいな不吉なセリフをさらっと言うのは怖いからやめてほしい。
アカリはそんな願い(?)によって再び地上にきたわけなのだが、どうやら普通の幽霊そのものとなったらしい。
どういうことかというと、アンデットとして存在していた時の能力がほぼ消えた、ということだ。
浮いたり消えたりはできるのだが、魔法を使うことができなくなった。
飲み食いすることもできないし、何かに触れることもできない、ただの幽霊となった。
そんな一見するとつまらない性質の幽霊だが、この幽霊は不満を一切感じてなさそうだ。
「だからフラットまでではなく、どこまでもついていきますよ」
そんなことをウィンクしながら言うアカリ。
以前とは違って凄く明るくなった気がする。
縛られていた物がなくなり自由に開放された所為だろう。
「へいへい。好きにしてください」
ちょっと変わった仲間が増えたけどまあいいか。
俺とアカリは雪原とトンネルを抜け、フラットの町へとやってきた。
そしてとりあえずサンデニスのいそうな宿屋の方へと向かうと・・・・・・。
「どこへ行っていたのだ我がリーダーよ。何故動けるのか事情を聞かせて頂こう!」
「お、本当にこの変な人が言ってた通りに帰ってきた!」
「トウヤ!今まで何をしていたんですか!」
そこには手を組んで仁王立ちをするミナキを筆頭に、パロマとシルクの三人が待ち構えていた。
ミナキは俺を睨みつけており、パロマはいつもの様に無邪気に笑いながら迎え、シルクは切羽詰まったように叫んでいた。
その混沌とした雰囲気はとても近寄り難さを感じさせる。
いやいや待て待て。
「お前らこそ聞いたぞ?一週間ほど姿を消していたそうじゃないか。俺と変わらないぞ」
すると三人はギクリと顔を引きつらせて後退る。
あいつの言ってたことは一応当たってたんだな。
「わ、私達は困ってる人の手伝いの為だから仕方がないの!・・・それよりさっきからトウヤの近くにいるその子は何なの?」
「え?どこにいるの?」
パロマは不思議そうに俺の近くをキョロキョロと見回す。
ああそういえばミナキも俺と同じで違う世界から来たんだった。
だからこいつにはアカリが見えるんだな。
「初めまして!私はアカリです。トウヤさんに呪いを解いていただいて、ずっとトウヤさんと一緒にいることになった幽霊です!」
「ゆ、幽霊!?・・・まあいいわ。でも呪いとか一緒についてくることになったとか、本当に何があったの?」
俺はこの一週間にあった出来事を全て話した。
魔王と言うことは伏せつつ、治療してもらって賞金を取りに行くように頼まれたこと。
呪いをかけられていたアカリと一緒に過ごしていたこと。
そして呪いをかけた張本人、魔王の幹部ゴースディとやらの、謎の計画が進んでいるという話。
「・・・・・・ふーん、色々あったのね。アカリちゃんも大変だったわね」
「ええ、でもトウヤさんのおかげでこの通り自由になりました!」
触れることはできないが、いかにも触れてるように見える様に、俺の腕を抱えている仕草をしてくる。
アカリは凄く機嫌が良さそうだが恥ずかしいな。
「魔王の幹部が動いているのですか・・・・・・。その計画というのが気になります。嫌な予感がしますね」
シルクは手を顎に当て、今までになく思いつめた顔でそう語る。
真面目なこいつはそういうのを許せない方だとは思っていたが、想像していたよりも深く考え込むものだな。
「幹部となったら相当手強いと思うし、どこにいるかすらもわからない。あまり気にする必要はないんじゃないか?」
「トウヤの言う通りですね。不吉ですが私達にはどうすることもできないです」
あいつの居場所は掴めないわけだし、俺達には手出しすることはできない。
危険だとわかっていながらも、今は放っておくしかない。
「そういえばトウヤの言ってた人、宿屋の食堂の方にいるよ」
パロマが宿を指差しながら情報をくれる。
まずはあいつとの用事を済ませに行くか。
「そっか。じゃ先にそいつの用事を済ませてくるよ。ここで待っててくれ」
ミナキら四人を宿屋の前で待つように指示し、俺は宿屋の中へと入った。
食堂を見てみると、あの気味の悪い格好をした魔王が手招きをしている。
「トウヤちゃんお帰りなさい。女の子との二人遊びは楽しかった?」
「な、なんでそんなことを知っているんだよ。本当にただ遊んだだけだからな」
「私くらいになれば大体のことは見えるのよ。・・・・・・でも今回のトウヤちゃんのことについて、一部だけ見えない物があったんだけどね」
「魔王さんにも見えない物があるんだな。・・・ほら約束の金だ」
俺は頼まれていた黒猿の賞金の半分、五十万をサンデニスへと渡す。
俺の行動することしたことがわかるだなんて、変なところだけ魔王らしい。
「あらありがとうね。これでまた美味しい料理が食べられるわ」
「そんなことに使う為に欲しがってたのかよ。ていうかさ、前みたいにもっと魔王らしくしてくれよ。逆に期待外れでがっかりするんだよ」
「これは人に紛れる様にする為の仮の姿なのよ。わざと自分を崩して魔王らしさを濁してるの。町中ではあまりあの姿になりたくないわ」
本当に調子狂うなあ。
一応は最終目標で倒すべき相手がこんな近くにいるのに、全く危機感を感じない。
こんなんでいいのだろうか・・・・・・。
「そういえばサンデニス。お前の幹部とやらが何か計画を・・・・・・!」
そこまで言いかけると俺は慌てて口を塞いだ!
しまった!あまりにも敵らしさがなくうっかりと話してしまった!
魔王らしくしろよと言っていた自分がハメらているとは悔しい。
こんな話を魔王自身に持ちかけるのは相当な馬鹿じゃないか。
これは流石に口封じに消されるかもしれない!
そしてそれを聞いた魔王は一体どんな反応を・・・・・・?
「何?そんな話を聞いたのか?」
あ、あれ?
サンデニスは驚いた顔で素の口調になって話す。
こいつ自身はその計画とやらは知らないのか。
「魔王のあんたが知らないことだったのか?確かゴースディとかって奴がそんなことを話していたぞ」
「お前のイチャイチャの理由がわからないと思ったら、私の幹部が関わっていたのか。あいつの考えることと言ったら怪しい事この上ないな。それに私にも知らせないとは」
下の立場の幹部が何かする時に魔王に知らせないというのも変だ。
それにこいつ自身も焦っているように見える。
あの幹部は何をやらかそうとしているんだ。
「――きゃああああああああああああ!!! 魔物よ!魔物が現れたわ!!!!」
「「!?」」
突如外の方から一人の女性の悲鳴が聞こえた。
魔物?町に魔物が入り込んでくるなんて珍しい。
俺とサンデニスは席を立ち、外への様子を見に食堂から駆けだした。
外へ出ると、先程叫んだであろう女性が上を見上げて脅えている。
「あ、トウヤ!上を見て!変なのが飛んでるの!!」
ミナキが慌てて叫びながら俺に駆け寄る。
言われて上を見てみると・・・・・・!
大きな斧を持った、赤い人型のドラゴンが羽を羽ばたかせながら空から見下ろしていた!
ドラゴンと言っても俺の二倍程の体格だが、立派な爪や尻尾が揃っており、斧もそいつと同じくらいの大きさがあり、見ただけでも強いことがわかる。
首には骨の頭に角が生えた禍々しいネックレスをかけており、顔の瞳の部分からは不吉な赤い光を発している。
そしてそいつは俺達の方を見ると、ニヤリを笑みを浮かべ。
「おお、変わり者魔王のサンデニスじゃないか。元気にしていたか」
「堂々と町に現れて一体何のつもりだ、アデルマンド!町を襲う時はお前は洞窟に待機し、そこから手下を派遣する程度にしておけと言っただろう!」
何なんだこの会話。
飛んでるドラゴンが魔王に軽々しく話しかけ、魔王のサンデニスがよくわからないことを言っている。
サンデニスの言い方から察するに、このアデルマンドというドラゴンはサンデニスの手下か何かだろうか。
「俺はもう退屈なんだよ。いつまでも変な理想を持ったお前なんかに付き合っていられねえんだ。ほら、あれを見てみろ」
呆れたようにアデルマンドが話すと北の空を指差した。
言われた通りその方向を見てみると・・・・・・。
「な、何だあれは!?」
サンデニスが驚きの表情を浮かべる。
そして俺やミナキ、その場にいた町の人々の顔が真っ青になる。
氷山の方から数えきれない程の大量の飛龍が空からこちらへと向かってきていた!
剣や斧、何も持たなかったりと様々なドラゴンが迫ってくる。
その数は百を優に超えるだろうか。
「どういうつもりだ!」
「ゴースディに頼まれてな、この町の人々を襲って絶望の感情を集めるんだよ。理由はよくわかんねえが、俺も暴れることができるし丁度いいと思ってな!」
そんな敵らしい様なことを言いアデルマンドは高笑いする。
あいつが手を回してるっていうのか。
アカリの時はやり方が地味だっただけに甘く見ていた。
あいつがやっていたことと規模が比べ物にならない。
この敵の数は相当マズくないか・・・・・・。
一方魔王さんは。
「ゴースディだと。 ・・・トウヤ、お前の計画とやらの話は本当らしいな」
サンデニスはアデルマンドを睨みつけながら恐る恐ると言う。
こいつの反応から察するに、ゴースディという幹部はかなりの曲者なのだろう。
というか先程から妙に対立している様に見える様な。
するとアデルマンドは斧を振り回し。
「さーて俺も暴れてやるとするか!まずはそこのサンデニスの隣にいる兄ちゃんからだ!!」
「い、いきなり俺かよ!!!」
「「「「トウヤ!!!!」」」」
ミナキ達が叫びながら視線を俺に向ける。
アデルマンドは斧を構えると、俺に向かって急降下してきた!
「トウヤは私が守ります!!」
「お前じゃすり抜けて意味がないだろ!」
俺の目の前に飛んできて、手足を広げて守ろうとするアカリにツッコミをいれる。
ツッコミはできても剣を構える暇はなく、凄いスピードで奴は俺に迫ってくる!
あんなでかい斧を避けきることもできそうにはない!
「何一人でわけわかんないこと叫んでんだ!!死ねえええええええええ!!!!」
ヤバい、また殺される!!
「――させるか!!」
俺がもう駄目かと身構え目を閉じていると、何かを弾くような鈍い金属音がした。
そして何かかぶつかり合う様なギリギリという音が鳴り響いている。
誰かが守ってくれたのだろうか。
流石にパロマじゃ間に合わない速度であいつは迫ってきていた。
一体誰が・・・・・・?
何が起こったかを確かめる為に目を開けると・・・・・・。
「――邪魔をするなよサンデニス。つまらない奴だな」
何とサンデニスが細身の剣で、アデルマンドの大きな斧の一振りを受け止めていた!
ダサい服もあの瞬間に脱ぎ捨てて、あの時の清楚な黒服になっていた。
サンデニスは斧ごとアデルマンドを前方に弾き、アデルマンドは上手くバランスを取り直し地上へと着地する。
「わざわざ魔物から守る魔王がいるかよ」
俺は庇われながらも、魔王という立場に合わない行動をするサンデニスに向かって皮肉を言う。
するとサンデニスは剣を持った腕を下ろし、険しい表情をしながらも僅かにこちらを向きながら。
「――私は無駄な殺生はしない主義だ」
そう重々しくも堂々と俺に向けて言った。
やだこの魔王、敵なのに今までで一番格好いい・・・・・・。




