第二十話 初めてのデート
「――アカリ。お前、何者なんだ?」
この不可解な現象が起こる、アカリという一人の少女に俺は問いかける。
謎のまま放っておいてはいけない、そう俺の中の何かが強く訴えかけていた。
するとアカリは微かに笑いながら、フラフラと立ち上がる。
その今までとは一変した、奇妙なアカリの行動に俺はゾッとする。
今まで隠れていた悪役が遂に姿を現したみたいな、例えればそんな感じの場面だろう。
・・・・・・ヤバい、地雷を踏んでしまったか!?
「流石トウヤさんですね。私は人間ではありません!」
「・・・へ?」
アカリはパッと笑顔になり、明るくそう言ってくる。
あれ、襲ってくるとかそんなんじゃないのか。
「私幽霊なんですよ。ほら!」
「おおおっ!?」
アカリはフッと足を消し、音もたてずにふわふわと俺の周りを移動する。
幽霊なんて臆病者のお偉いさんの妄想だろうと思っていたが、ちゃんと存在していたんだなあ。
俺が関心の目でアカリを見ていると。
「あ、あれ?怖くないんですか?」
「じーちゃんばーちゃんの幽霊なら怖いかもしれないけど、こんな可愛い幽霊ならむしろ高得点だろ」
「・・・・・・」
俺の何気ない一言に、アカリは顔を引きつらせながら足を戻しペタンと俺の前に正座する。
「あ、その・・・・・・私が幽霊だと知ると、普通の冒険者さんは逃げてしまうので、そこまで言われるのが意外というか・・・・・・」
まあ普通の人はそうだろうなあ。
というかそもそも俺自体が一回幽霊みたいな状態になってたし。
そう思うと別に何とも思わないというか。
「俺は別に怖くないよ。それより幽霊ってことはさ、何か召されることができない原因があるんだろ?」
「その通りです。お話が早いですね!」
こういうのはよく知っている。
何か未練を残して死んでしまった人間が、幽霊となって現れて地上を彷徨い続けるんだとか。
大切な人と引き離されて会えないままだったり、あの場所へと一度行ってみたかった、等の類だ。
この子の場合はどんな理由があるのだろうか。
・・・というかこの少女幽霊、正体明かしてから妙に元気そうだな。
「実は七年前に、この町に魔王の手先と思われる者達が攻めてきまして、・・・・・・やがて大規模の戦争となり、私はその者達に殺されてしまいました」
思っていたよりも深刻な話だった。
戦争・・・か、やはりこの世界にも存在するんだな。
こんな小さな子まで死んでしまうとは。
魔王という悪が存在するこの世界、平和とはとても言えない世界なのだ。
「それは、・・・・・・大変だったんだな」
日本という平和な世界で、ごろごろと日常を過ごしていた俺にはアカリの感覚がわからない。
失礼なこととわかっていながらも、どう返せばいいかわからなかったのだ。
「そんな思いつめた顔をしないでください。今が平和なんですから、それで十分ですよ」
アカリはニコリと微笑んでそんなことを言ってくる。
自分のことよりも今の世界を大事にしている。
辛いことがあったのにこの子は強いなあ。
「ああ、気を使わせちゃってごめんな。それで、どうすればアカリは成仏できるんだ?」
ここで会ったのも何かの縁だろう。
せめて辛い思いをしたアカリに、何か手助けをしてやりたいところだ。
「ええとですね。私に・・・その・・・」
アカリは急に顔を赤らめて口籠る。
どうしたのだろう。
そんなに言い辛い条件なのだろうか。
「何だ?俺にできることなら何でもするから言ってくれよ」
俺がそう言うと、アカリは恥ずかしそうに小さな声で。
「私に・・・優しく・・・してほしいんです・・・」
ん?何でもするって言ったけどいいのか?
ちょっとハードル高すぎる気がしてならないのですが。
でもそれがこの子に助けになるなら仕方がない。
「ワ、ワカリマシタ!」
「・・・・・・変な意味で捉えてませんか?」
「・・・・・・違うの?」
「そんなわけないじゃないですか!何を考えてるんですか!!」
「うわああああ!ごめん悪かったよ!」
アカリは顔を赤くしたままポカポカと殴ってくる。
どうやら違ったらしく、怒られてしまった。
そんな顔を赤くして言い辛そうに言われたらそう思うじゃないですか。
俺は悪くない・・・と信じたい。
というか幽霊でもちゃんと人に触れられるんだな。
「それで、優しくするってどうすればいいんだ?」
「その・・・優しく接してほしいんです」
優しく接する・・・か。
頭を撫でたりしたらいいのだろうか。
「よーしよし・・・」
「・・・・・・私、これでも時間的にはトウヤさんより年上なんですよ」
アカリはムスっとして返してくる。
これも違ったらしい。
さらっと年上宣言までされてしまった。
「じゃあ俺は何をすればいいんだ?今日会ったばかりのアカリの喜びそうなことなんてわからないよ」
「私のお願いを聞いていただければ・・・・・・。あ、そういえば私、凄くしたいことがあるんですよ!」
俺が困ったように聞くと、アカリは目を輝かせながら興奮して言う。
アカリがそんなに興味を示してるってどんなことだろうか。
それを手伝ってやればアカリは昇っていくことができるのだろうか。
「明日からバザーが開かれるじゃないですか」
そこまで言うと、アカリは再び顔を赤らめて声が小さくなる。
「それで・・・そのバザーで私と・・・デ、デートしてほしいんです!」
今何か俺の人生と無縁だったことを言われたような。
デート?デートってアレだよな。
女の子と二人きりで遊ぶっていうアレだよな。
いちゃいちゃするアレですよね。
二人きり!?女の子と!?
いやそんな彼女すらいなかった俺がデートとか。
無理無理無理!!
どう接したらいいかわからないし俺には無理!
「トウヤさん。お願いできませんか?」
「――喜んでっ!!!」
顔を紅潮とさせながらも満面の笑みでお願いされた俺は、むしろここしか無いと思い、考えが一瞬でひっくり返った。
頼むのは俺にはできないが、頼まれたとなれば話は別だろう。
「それで、できれば開催される五日間全て、ご一緒したいと思うのですが」
五日間か。
俺もこのお祭り騒ぎの様なイベントには参加したいし、ここにいられるだけいたいところだ。
でも確かサンデニスとの約束があったな。
昨日に一週間後と約束し、今日と五日間過ごすとなると・・・ギリギリか。
それなら問題ない。
「・・・トウヤさん?」
「――よし!バザーの期間中は俺と一緒に遊びまくろうぜアカリ!」
「わわっ!?」
俺が拳を握って立ち上がり大声で叫ぶと驚くアカリ。
遂に俺も女の子と二人きりになれるイベントが来たってわけだ!
これを待ち望んでいたんだ。
そんなことを思って気持ちを高ぶらせてると部屋がノックされる。
「開いてますよ」
「さっきから何一人で叫んでんだ!頭おかしいんじゃねえか!?こっちは寝るから静かにしてくれ!」
「は、はあ・・・すんません・・・・・・」
そうだアカリは幽霊だったんだ。
あまり喋らなかったからわからなかったけど、声も他人には聞こえない様だ。
ちょっと寄り道になるが華やかな目的も決まり、今日はもう疲れたので風呂に入ってそのまま寝ることにした。
そしてどうやら幽霊もお風呂に入れるらしい。
イマイチ違和感感じない幽霊だなあ。
「そういえばゴブリンと戦っていた時のアカリの技は何なんだ?」
朝になり、俺は出かける仕度をしている時、ふと気になって尋ねてみる。
あんな派手で変わった攻撃を見たことも聞いたことも無かった。
きっと相当な物に違いない。
「ああアレですか。あれは思念魔法です。魔法使い系統のアンデット種が使える魔法です。こう見えて生前は中位魔法まで使いこなしてたんですよ。それである程度の魔法は使えるのです」
アンデットにしか使えない魔法なんてのもあるのか。
つまり幽霊のアカリはアンデットに属する存在だから、俺のヒールを嫌がったり痛がったりしたわけだ。
「私の魔法を見て、良からぬことを考える人もいたので隠してたのですが・・・・・・どうしましたか?」
「・・・いや、回復魔法でちょっといじめてみようかなと」
「祟りますよ!!」
そのから五日間、俺はアカリと一緒に町で遊びつくした。
バザーと言っても本当に祭り騒ぎみたいなもので、この世界のよくわからない踊りをしたり、剣を使った遊戯があったりと様々なイベントやお店があった。
俺とアカリが楽しんでいる姿は周りの人には俺一人にしか見えなく、周りの人には見えない相手と楽しむ俺一人が異常な人の様に見えていただろうが、他の人の目は気にせずアカリと精一杯楽しむ様にした。
アカリは他の人には見えない故にできることは限られていたが、それでも満足そうに楽しんでいた。
初めての女性(?)とデートという不安も、アカリと楽しむことによって自然と消えていった。
「――楽しかったです。こんなに楽しいバザーだったのは生まれて初めてです!」
「そりゃよかった。アカリが満足したなら十分だな」
バザー五日目が終わり、俺達は宿屋へと戻っていた。
五日間も遊び続けるとなると流石に疲れてしまった。
そんな中、アカリは疲れた表情は何一つ見せず、全力でこの五日間を楽しんでいた。
疲れない。これが俺の感じた唯一のアカリの幽霊っぽい面かもしれない。
幽霊だがきっと生前と変わらないままの、普通の幼げの少女なのだ。
そう思うとやはりこの子のことが可哀想になってくる。
「どうかしましたか?」
「・・・・・・あっ、なんでもないよ」
首を傾げながらアカリは聞いてくる。
どうやらそんな気持ちが顔に出てしまっていたらしい。
「武器とかは売ってなかったなー。ちょっと期待してたんだけど」
「こんなものですよ。酔ったおじさんとかが、買った武器を振り回したりしたら危ないじゃないですか」
そんなもっともな説明を聞かされる。
祭りに装備品っぽい品物はあったのだが、全部似せた食べ物だったり玩具だったのだ。
折角なので俺も一つ剣の玩具を買ってみた。
刃先は丸まっており、剣の刃が切れると魔法で時間を止められた閃光魔法が発動し、辺りに一瞬だけ眩しい光が放たれるという玩具だ。
そして切って発動するので一回きりでしか使えない。
・・・・・・今思えば何に使うんだろうコレ。
「そういえばアカリ、これでお前は成仏できるのか?」
肝心なことを忘れちゃいけない。
アカリを未練の無いよう満足させ、天へと昇らせるまでがお仕事だ。
アカリ自身もこれ以上はないくらいに楽しんでたし、きっと大丈夫だろう。
「そう・・・ですね。トウヤさんのおかげで安心して眠れそうです。その・・・・・・もう一か所だけ、付き合っていただいてもいいですか?」
そう語り掛けるアカリは、どこか寂しそうな表情をしていた。
まるで・・・まだ何かが足りないとでも言うかの様な。
幽霊っ子、いいですよね。




