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歪んだ因果の勇者譚 ~世界を救えと言われたが、勝手に選ばれた仲間が問題児だらけで、しかも一人でも追放すると俺が爆散する~  作者: たま8


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第18話 王との謁見

 王都へ戻ったあと、俺たちはそのまま牢へ放り込まれるようなことはなかった。


 小国の執政をはじめ、その中枢にいた者たちをまとめて引き渡した時点で、さすがに扱いは単純な罪人のそれではなくなっていたのだろう。もっとも、だからといって何もかもがはっきりしたわけでもない。ガルドの貴族殺しの件が完全にどう処理されたのかは、その時点ではまだ曖昧なままだった。ただ少なくとも、今すぐどうこうされる空気ではなかった。


 俺たちはいくつかの確認と聞き取りを受けたあと、ひとまずアジトへ戻ることを許された。


 久しぶりに戻ったそこは、少し前まで逃げ出すように飛び出した場所とは思えないくらい、妙に落ち着いて見えた。実際に落ち着いていられたわけではないが、それでも寝床と壁が変わらずそこにあるだけで、人心地つくものはあった。


 王との謁見を命じられたのは、それから数日後のことだった。


 その知らせを聞いた時、俺は少し嫌そうな顔をしていたらしい。


 リリアがすぐ横で笑う。


「何その顔」


「いや、王に会うのかと思って」


「嫌なの?」


「嫌というか、疲れてるんだよ」


「それはみんなそうだよ」


「お前は元気そうだけどな」


「元気だよ」


 言い切るあたりがこいつらしい。


 ガルドは壁にもたれて腕を組んでいた。


「王でも執政でも、偉いやつと会うたび揉めてねえか俺ら」


「お前が揉めさせてるんだよ」


「細けえな」


「細くねえよ」


 ミアは椅子に座ったまま、少しだけ足を組み直した。


「私は別に構いませんけど」


「お前はいつでもそうだな」


「今さら緊張しても仕方ないでしょう」


「それはそうなんだけど」


 ラッキィが手を挙げる。


「謁見の間って、入る時に名前とか大声で呼ばれる感じですか」


「お前はそういうとこだけ変な想像するな」


「気になるじゃないですか」


「俺だって気になることはあるけど、今はそこじゃない」


 爺は相変わらずだった。何か言っているのかもしれないが、今は聞き取る気力もない。


 案内された広間は、見慣れているはずなのにやっぱり落ち着かなかった。


 王の前へ進み出る。深く頭を下げる。


「久しいな、レイ」


 玉座の上から落ちてきたその声には、広間の空気を一息に張り詰めさせるだけの威があった。たった一言で、ここにいるのがこの国の王なのだと改めて思い知らされる。


「ご無沙汰しております」


「顔を上げよ」


 言われて顔を上げる。王は俺たち全員を見渡してから、ゆっくりと口を開いた。


「此度の働き、聞き及んでいる。まこと、大儀であった」


「恐れ入ります」


 俺はもう一度頭を下げた。


 横でガルドが黙っていることに、少しだけ感動しかける。たぶん今この瞬間だけだろうが。


 王は続けた。


「小国の執政以下、その中枢に連なる者どもを生け捕りにし、ここへ連れ帰ったと聞く。容易なことではあるまい」


「運が良かっただけです」


「その運を引き寄せたのも、そなたらの力であろう」


 そう言われると返しづらい。


 王はそこで一度言葉を切り、近侍たちの方へ目を向けた。


「少し、この者たちと直接話をしたい。席を外せ」


 周囲の者たちが一礼し、静かに下がっていく。扉が閉まり、広間に残る気配が減ったところで、王はようやく肩の力を抜いた。


「いやー、今回は色々と災難だったね、レイ君」


 砕けた。


 やっぱりこうなる。


 俺は心の中で、相変わらず軽いなこの王様、と思う。初めて会った時は面食らったが、何度か経験しているので今さら驚きはしない。


「災難、で済ませていい話だったんでしょうか」


「済ませてよくはないけど、済んだからねえ」


「済んだのはたまたまです」


「たまたまで済ませるには派手すぎる結果なんだよなあ」


 王はそこでガルドを見た。


「あの例の貴族をさ、君のところの戦士君……ガルド君だっけ、が殺したって報告を受けた時は、流石の俺もどう処理しようかなって思ったよ」


 ガルドは悪びれもせず鼻を鳴らした。


「そうかよ」


「お前、王の前だぞ!」


 慌てて小声で肘を入れると、ガルドは面倒そうに顔をしかめた。


「……そうですか」


「雑に直すな」


 王はむしろ少し面白そうに笑った。


「そうだよ。一応、王族縁者だからね。現場の兵としては、そりゃ捕らえに動くしかない」


 そこはそうだろう。実際、あの場でもそうなった。


 王は軽い調子のまま続けた。


「でもさ、本音を言えば、俺としても願ったり叶ったりではあったんだよね」


 そこは少しだけ意外で、俺は黙ったまま先を待つ。


「前から悪い噂は山ほどあったし、こっちとしても限りなく黒に近いグレーって感じで持て余してたんだよ。だから、あれが消えたと聞いた時点で、内心ではかなり助かった」


「……そうだったんですか」


「そう。ただ、表向きは別だ。王族縁者が殺された以上、何もしないわけにはいかないからね」


 王はそこで一度言葉を切った。


「でも実際には保護だよ。しばらく表に出さずに押さえて、その間にあいつの罪状を整理して公表する。周囲が落ち着いたところで、情状を考慮して赦免、みたいな形へ持っていこうとしてた」


「赦免、ですか」


「まあ、そこは言い方かな。とにかく、最後まで罪人として扱うつもりはなかったってことだよ。表向きに必要な手順だけ踏んで、どこかできちんと放すつもりだった」


「じゃあ、あの時点でもう……」


「そう。少なくとも、貴族殺しの話を聞いた時点で、君たちをそのまま罪人として処分する気はなかった」


 俺はしばらく何も言えなかった。


 つまり王は、そういう処理を考えていたわけだ。だが、その頃にはもう――


「そしたら次に上がってきた報告で、君たちもう国外に逃げてるっていうじゃない」


 王は少しだけ口元を緩め、喉の奥でくくっと笑った。


「仕事早すぎでしょ」


「笑い事じゃないですよ」


「いや、君たちの立場なら逃げたくなるのもわかるけどさ」


「そりゃ逃げますよ」


 思わず言い切ってしまった。


「こっちとしては、王族絡みの相手をガルドが殺したって聞かされてるんですよ。捕まったらただじゃ済まないと思うでしょうが」


「うん、そこはそう」


「王様もご存知かもしれませんが、墓の一件で俺とラッキィは腕まで落とされてるんですよ」


 そこでラッキィが横から、はい、と妙に素直に頷いた。


「そんな目に遭ったあとで、今度は王族殺しです、拘束します、なんて話が出たら、俺たちとしては本気で終わったと思います」


「だろうねえ」


「そこで、実は保護するつもりでしたって後から言われても困ります」


「それは本当にそう」


 王があっさり頷いたので、逆に怒鳴りづらい。


 それでも、腹の底にはまだ引っかかるものが残っていた。あの時の俺は本当に切羽詰まっていたのだ。そこへ後からそういう話をされても、素直に飲み込めるものではない。


 たぶんそれが顔に出ていたのだろう。王は少しだけ苦笑した。


「いや、ほんとにね。そこは俺もタイミングが悪かったと思ってるよ。こっちが方針を固めた頃には、もう君たち走り出してたんだから」


 リリアが横で吹き出した。


「レイ、ちゃんと全力で逃げてたもんね」


「ちゃんと、って何だよ」


「いや、すごい焦ってたじゃん」


「焦るだろ普通」


 ガルドがぼそっと言う。


「逃げ足だけはいいからな、こいつ」


「元凶が何言ってんだ」


「事実だろ」


「その事実が今いちばん腹立つんだよ」


 王はそんなやり取りを少し面白そうに見ていたが、やがてまた口を開いた。


「で、その後のことも聞いてる。亡命する時に、王国の情報を手土産にしたらしいね」


 そこはさすがに俺も少し黙った。


 言い訳はできる。だが、やっていないとは言えない。


「……はい」


「まあ、そこは責める気ないけどね」


 思っていたより軽く流されて、逆に拍子抜けした。


「責めないんですか」


「責めたところでねえ。あの時の君たちの立場なら、そうでもしなきゃ生き延びられないと思ったんでしょ?」


「それは……はい」


「だったら仕方ないよ。結果的には向こうの中枢ごととっ捕まえて戻ってきたわけだし、今さらその件でどうこう言う気はない」


 王はそこで少しだけ口元を緩めた。


「……もっとも、執政まで引っ張って帰ってきたって聞いた時は、流石の俺も目ん玉が飛び出るかと思ったけどね」


「こっちは目ん玉抉られるところだったんですが」


「ああ、そこは本当に災難だったねえ」


「災難で済ませていい話じゃないですよ」


「まあ、そうなんだけど、無事に戻ってきたから今こうして話せてるわけだし」


「無事かどうかはだいぶ怪しいです」


「それもそう」


 王はそこで少し真面目な顔になった。


「何はともあれ、君たちは王国の功労者だ」


 その声音だけは軽くなかった。


「結果として、小国とはいえ敵対国の一つを丸ごと押さえた。これは十分に賞賛に値する」


 国一つ。


 あらためて言葉にされると、やっぱり現実味が薄い。敵国へ逃げたと思ったら、そのまま向こうの中枢を潰して縛って戻ってきた。それをこう整理されると、まるで最初から計画的だったみたいに聞こえるが、実態はただひたすら場当たり的な連鎖だった。


 王はさらに言う。


「さっきレイ君も言ってたけど、王家の墓の件でも君たちには迷惑をかけたし、今回のこともある。君たちには、俺の考えられる限りのお礼をするから期待しててね」


「その言い方、嫌なんですが」


「え、なんで」


「雑だからです」


「雑かなあ」


「雑です」


 ミアが静かに口を開いた。


「私は内容次第ですね」


「お前は少し黙れ」


「正直な感想です」


 ラッキィは妙に感心した顔で頷いている。


「でもすごいですね。国一つですよ」


「お前はそこで素直に感心できるのか」


「だって、なかなかないですよ」


「ない方が普通なんだよ」


 リリアは少し嬉しそうだった。


「じゃあ、もうしばらくは追い出されたりしないってことだよね?」


「たぶんな」


「そこ“たぶん”なんだ」


「この流れで断言できるほど俺は強くない」


 ガルドは王を見たまま言う。


「で、俺は悪くなかったってことか」


「お前はそこだけ綺麗に抜き出すな」


「大事だろ」


「大事じゃねえよ」


 王は笑った。


「悪くなかったとまでは言わないけど、結果としては非常に助かったね」


「ほらな」


「調子に乗るな」


 たぶん今の一言で、こいつはしばらく面倒になる。確定だ。


 俺はため息をつきたくなったが、流石に謁見の場なので飲み込んだ。


 怒りとも呆れとも安堵ともつかない感情が、胸の中でまだ整理しきれていない。必死で逃げて、亡命までして、戦って、戻ってきた。その全部の果てに、「いや、身柄を押さえる形で保護するつもりだったんだよね」と言われるのだから、綺麗に納得できるはずもなかった。


 それでも、最後に王が言ったことだけは、たぶん本気だった。


「君たちはよくやったよ、レイ」


 その声だけ、少しだけ真面目だった。


 俺はそこでようやく、小さく息を吐いた。


「……そういうのは、もう少し早く聞きたかったですね」


「それは本当にそう」


 王が素直に頷いたので、逆にそれ以上怒れなくなる。ずるい人だと思う。


 こうして話は一応まとまった。


 王の話を聞いて、それで全部すっきりしたかと言えば、そんなはずもない。むしろ、表向きの話が綺麗に片づけば片づくほど、別のことが気になってくる。


 “祝福”だ。忘れていたわけではない。ただ今回ばかりは、気が休まらなすぎて考えないようにしていた。だがそうもいかない。


 今回の件で、あれはいったい何回使われた?


 ガルドが悪徳貴族を殺したところから、ここまでの流れを思い返す。この大きな流れの中で、一回の発動だけで終わった、と考えるのはさすがに楽観的すぎる気がした。現場で兵に囲まれ、そこから逃げ、亡命し、亡命先では執政に招かれ、薬を盛られ、挙句の果てにはその国の中枢をひっくり返して、こうして王都へ戻ってきている。そんなものが、たった一回の因果の調整で済むとはとても思えない。


 亡命先に着いてからの流れだけでも、いくつか思い当たる。


 ガルドがいつもの調子で因縁をつけた相手が、結局は何らかの処罰を受けていてもおかしくない類の人間だったこと。


 ミアが善良な市民に対して非人道的ともいえるような金額で治療を施したことが、結果としては金の流れまで含めて周囲に都合よく回ったこと。

 

 亡命先でも、そういうことは一度や二度ではなかった。だからこそ、俺たちはあの国で異様な速さで名を上げていったのだと思う。


 爺やリリアの行動だって、今思えばあれで何かしら働いていたのかもしれない。そう考え始めると、今回の件で“祝福”が何回使われたのかなんて、もう見当もつかない。


 十か。二十か。いや、そんなものでは済まないかもしれない。


 そこまで考えて、嫌になる。


 執政たちへの治療のような、ミアが悪人から金をむしったとか、そういう、場の流れでのやり取りは問題ないだろう。だが、どこまでを一回と数え、どこから先を別口と見るべきなのか、俺にはもうわからなかった。


 色々な考えを巡らせていたせいか、途中で何もないところでつまずいたりもした。リリアがさすがに心配そうな顔をしていた。アジトに着くと、俺はそのまますぐ眠りに落ちた。


 その時の俺は、王が言っていた「考えられる限りのお礼」によって、まさか小国とはいえ国一つを丸ごと押しつけられることになるとは、考えもしていなかった。

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