28 おまけ
「つむちゃ! つむちゃ!!」
私が頭を抱えていると、元気いっぱいのみーちゃんがすたたたっと足早に近付いてきた。
泥だらけのみーちゃんは、正直抱き上げたくないくらい汚れている。しかしこちらの気持ちなどお構いなしのお子様は、汚れた手で私のスカートを握りしめて小さな手の平を突き出してきた。
「おじゃんごぴっぴか! まおちゃんおじょうず! みてぇ! ぴっぴか!」
ちゅう?
なんとなく頭の中で黄色い電気ネズミが鳴いた。
遊んだ記憶はないけど、あれの鳴き声は知っている。むしろそれしか知らない。
「みてぇ! ねぇみてぇ!」
「見てる見てる。すごいね綺麗だねお上手だね」
「ね! ね!」
多分綺麗に作れないみーちゃんを見かねて、自作の泥団子をあげたのだろう。まおちゃんはみーちゃんの後ろでふんぞり返っている。これがどや顔ってくらいお手本のどや顔をしていた。
仲良しだ。
…この二人が殺し合えばスムーズに世界が浄化される?
この世界クソでない?
これが夢ならいずれ醒める。みーちゃんはともかくまおちゃんはこれが夢だとわかっていて乗り込んでいるようだが、現実世界でどう対応するつもりだろうか。
過去の魔王は、夢でしか接触せず、勇者が辿り着くのを待っていたようなことを言っていた。まおちゃんも現実世界ではノータッチのつもりだろうか。
癇癪で雷を召喚するようなクソガキだが、何故かみーちゃんとは仲良くしたい様子。遊ばせていた間、むしろしょぼくれるみーちゃんを気遣っていた。本当にみーちゃんと遊びたくて、仲良くなりたくて仕方がないように見える。
それなのに最終的に殺し合いになると…?
私が言葉に詰まっていると、ラスボスが取っ手が二つ付いた容器を出して、まおちゃんに渡した。まおちゃんはそれを両手で持ってがぶがぶ飲み始める。
なるほど取っ手が二つ付いているのは両手で持つためか。気を利かせたのか、ラスボスはもう一つ出してみーちゃんに渡した。みーちゃんはじっとラスボスを見上げて、首を振る。
「知らない人からもらったものはたべちゃだめ」
「あんなにたくさん遊んだのに知らない人のままなのですか!?」
ラスボスがあまりの衝撃に涙目になった。
みーちゃん本当にしっかり躾けられてる子だな。
泥だらけの手でベタベタ触ってくるけど。
泥遊びに飽きたのか、みーちゃんは私の膝によじ登ってきた。汚れているから抱えたくないが、もうスカートも泥だらけだしどうでもいいやと抱える。洗濯はメイドさんの仕事だから、メイドさんに後は任せた。
私の膝に収まって満足げなみーちゃんは、どや顔で私の胸に頭を埋めている。
まおちゃんは面白くなさそうにふくれっ面になっていた。ふくれっ面で私を見た。
「お前、なまいきだぞ!」
「突然なんだこいつ」
ぎゃんっと吠えるように悪態を吐くガキ。
相変わらず低くて渋い声してるな。言動がガキだからガキだとわかるが、脳が処理落ちしそうな程違和感がある。
この幼児が魔王だと思えば更に違和感が増して、正直先程聞いた話もこの二人に当てはめるのが難しい。
「お前はみーちゃんのおまけなのに、ずーずーしい」
「んだとこら」
「んぎぎぎぎぎっ」
「魔王様の頬が! よくお伸びになる!」
私からすればこのガキのほうが生意気なので、容赦なく頬を引っ掴んで伸ばした。引っ張られながら私の手をバシバシ叩く魔王。ラスボスは変なことに感心していた。お前部下としてその反応であってる?
抵抗して私の手を叩く力は意外と強いが、みーちゃんもこれくらいの威力だ。遠慮知らずの幼児の攻撃は意外と痛い。
手を放せば、私の手が届かない位置までまおちゃんは下がった。私の膝にみーちゃんがいるので、それを追っていくことはできない。
つーかこいつ意外と口が達者だな。ギャン泣きしていたときと知能違う?
ちなみにみーちゃんは何故か自分の頬を両手で包んで保護していた。抓られると思ったのか。
「…ほんとうに、ずーずーしいぞ。勇者召喚に、おまけで付いてくるなんてずーずーしい」
「来たくて来たわけじゃねーわ」
私もだが、みーちゃんだって来たくて来たわけじゃない。
正当な主張をしているつもりなのに、まおちゃんはムッと唇を突き出した。下唇がにゅっと突き出され、顔全体で不満を表している。
「おまけのくせに自覚がないのか。だからみーちゃんを泣かせてばかりなんだな!」
「私の所為じゃねーんだわ」
みーちゃんが泣いているのはほぼこっちの世界の奴らの所為だ。そう、親元から引き離したこの世界の人間達が悪い。
「…? みーちゃんが泣いたのは、お前がふぎゃいなかったからだろ」
ガキのくせに難しい言葉を知っていやがる。
言えてないけど。多分不甲斐ないって言いたかったんだろ。多分。
「おまけがふぎゃいないから、みーちゃんがお前ばっかり構うんだ。本当は全部俺様のなのに!」
「お前の一人称俺様なのかよ。早めに矯正したほうがいいぞ」
「きょ…? むずかしいこと言うな」
魔王キャラで一人称が俺様とか痛い。大人になる前に矯正すべき。
なんて引いた目を向ければ、まおちゃんはきいきい怒り出す。私に向かって地団駄を踏むのは癇癪を起こした子供そのものだった。
おい雷は出すなよ。夢の中だろうと死ぬからな。
「…まおちゃん…」
そのとき、ぽつっと。
とっても小さい声で、みーちゃんがまおちゃんを呼んだ。
「まおちゃんも、つむちゃんいじめるの…?」
みーちゃんが真顔でまおちゃんを見ていた。
…え、幼女の真顔こわ…。
みーちゃん、まっくろいビー玉みたいな目でまおちゃんを凝視。
次回、もしかしたら喧嘩? 喧嘩??
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