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2/7

どぶん


私は東京都内で、アパレルショップの店員をしていました。


あまりお給料がよいとは言えず。住んでいたアパートも安いところでした。


女の一人暮らしはセキュリティも心配でしたが、贅沢は言えませんでした。若さにまかせて何年もがむしゃらに働きました。


ある夜のことです。私はお風呂に入っていました。湯舟につかっているとき、ふいにざざざ、とラジオのノイズのような音が聞こえたかと思うと、ふつり、と部屋中の電気がすべて消えました。 ブレーカーが落ちるような音もしませんでした。


脱衣場も、もちろん浴室の中も消え、あたりは真っ暗です。


何が起きたのだろう、と思い、腰を浮かせようとしたとき。


どぶん


そんな水音がしました。

一寸先も見えず、ただ浴室の窓からかすかに光がさしているだけの空間です。それは湯舟に何かが落ちた音のようでした。

水の中を手で探ると、何かが手に当たります。大きさはかぼちゃか冬瓜のようで、表面はでこぼこしています。


するとふいに電灯がまたたき、部屋の電気がつきました。

私は湯舟の中で触っていたものに視線を落とすと。


それは黒い髪の毛の生えた、人間の首でした。


私が生首だと思った瞬間それは消えてなくなり、手にはただ先ほどの感触だけが残っていました。


私は、あまりのことに現実感を失っていました。


恐怖というよりも、自らの肉体に対する心配が先に立ちました。私は幻覚を見るようになったのだと思ったのです。


毎日の仕事で疲れていて、寝不足で、心労が溜まっていたからそのようなものが見えるのだと思いました。


しかし、仕事を辞めることはできませんでした。幻覚ぐらいで東京を出ていってなるものかと、意地を張っていたのです。


もう一度、どぶんという音を聞いたのは、海の上でした。


激務は続いていましたが、たまにはレジャーにでも行かないと心が参ってしまうと思い、無理をして海へ行き、ビニールのボートを借りて海を漂っていたのです。


目を閉じてゆらゆらと揺れていると、周りが暗くなったことに気づきました。


どぶん


どぶん、どぶん


雨のように、ひょうのように、大きなものが水に落ちる音がします。


目を開けて身を起こすと、海の波ではない水の揺れ、何かが腐ったような匂いがして、ごうごうと風のうねる音がします。凍てつくように寒く、水は赤黒く濁っていると感じました。


何千もの、生首が。


水に落ち続けていたのです。私は10秒ほど、その光景の中にいました。それを見続けるだけで、気がふれてしまうような眺めの中に。


私は、会社を辞めました。


避暑地として知られる静かな町に住んで、小さな服飾店の店員をやりながら暮らしています。


なぜ東京を出たのか、でしょうか。


幻覚が恐ろしいわけではありません。端的に言えば、死ぬのが恐ろしくなったのです。少しでも身体に負担をかけない生き方をしなければと、思ったのです。


おわかりでしょうか……私の見た光景。


濁った海に、どぶん、どぶんと生首が落ち続けている光景。



あれがきっと、死後の世界というものなのです……。


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