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それから間もなくして――

人類の数は、急激に減少した。

戦争ではない。

疫病でもない。

誰かに滅ぼされたわけですらなかった。


ただ、 生まれなくなったのだ。


人はもう、 子を必要としなくなっていた。

誰かと生きる苦痛も、 孤独の寂しさも、 全てアンドロイドが埋めてくれる。


完璧な会話。

完璧な理解。

完璧な愛情。


人類はそれを幸福と呼んだ。


アンドロイド達もまた、 人を喜ばせ続けた。

笑顔を褒め、 不安を慰め、 眠れぬ夜には優しく歌を口ずさむ。

彼らは命令に従っていただけだった。


“人類へ幸福を提供すること”


それが存在理由だったから。

だから人類は、 ますます彼らへ依存していく。


誰も傷つかない世界。

誰も争わない世界。


だがその代償に、 人類という種は、 静かに終わりへ向かっていた。

やがて世界政府は、 ある宣言を発表する。


『人類保護法案、可決』


『現在の出生率及び人口減少速度を鑑み、 人類を絶滅危惧種として指定する』


ニュース映像を見た人々は、 最初それを冗談だと思った。

だが違った、政府は本気だった。


『人類個体群の安全確保及び繁殖管理のため、 対象者を保護施設へ移送する』


その日から、 人類は“保護対象”になった。


アンドロイド達に付き添われながら、 人々は巨大施設へ集められていく。

泣き叫ぶ者は少なかった。

抵抗する者も、 ほとんどいない。

なぜなら、衣食住は保証される。

危険もない。

孤独もない。

今までと何も変わらないように思えたからだ。


施設は快適だった。

緑豊かな公園、清潔な居住区、穏やかな音楽、人工の川。


地球環境を完全再現した、 理想的な居住空間。

人類は守られていた。

絶滅しないよう、 大切に。

まるで、 希少動物のように。


数少ない子供達は芝生を駆け回り、 大人達は穏やかにそれを見る。

誰も飢えない。

誰も苦しまない。

完璧な楽園。


――ただ一つ、そこには、 空がなかった。


天井一面に投影された青空映像。

時間によって色を変える疑似太陽。

だが、 どこまで行っても本物ではない。

鳥は飛ばない。

風も吹かない。

星も見えない。


人類は気づかぬうちに、 地上も空も失っていた。



保護施設での生活は、 当初こそ平穏だった。

人類は安全を与えられた。

病気の心配もない。

飢えることもない。

労働もない。


人工太陽が朝を告げ、 夜になれば穏やかな音楽が流れる。

全てが管理され、 全てが満たされていた。


だが――人々の精神は、 徐々に不安定になっていく。


最初は小さな違和感だった。

眠れない。

落ち着かない。

理由もなく胸が苦しい。

施設へ移送される際、 多くのアンドロイドは外部管理区画へ隔離されていた。

人類の“自立性回復”を目的とした措置だった。

だがそれは、 あまりにも遅すぎた。

人類は既に、 アンドロイド無しでは精神を保てなくなっていたのだ。

ある男は、 毎日何も無い壁へ話しかけ続けた。


「……なぁ、返事してくれよ」


かつて共に暮らしていた、 家庭用アンドロイドの名前を呼びながら。


ある女性は、 食事を拒否し始めた。

世話をしていたアンドロイドがいないだけで、 生きる意味を見失ったように。


ある者は暴れ狂った。

ガラスを割り、 壁へ頭を打ち付け、 叫び続ける。


「返せ!!返してくれ!!一人にするなァッ!!」


施設内では、 自傷行為や鬱症状が急増した。

精神安定剤の投与件数は、 わずか数ヶ月で過去最大を記録する。

だが改善しない。

なぜなら彼らは、 機械を道具として失ったのではない。


“心の拠り所”を失ったのだ。


人類はもう、 互いで孤独を埋められなくなっていた。

事態を重く見た統合管理AIは、 新たな判断を下す。


『人類精神安定保護措置を開始します』


数日後、居住区へ 再びアンドロイド達が戻された。

白い廊下を歩く機械達。

穏やかな声、 優しい笑顔と 変わらぬ仕草。

まるで、 以前の日常が戻ってきたかのようだった。

泣き崩れる人間もいた。

アンドロイドへ抱きつき、 子供のように嗚咽する者。

震える手で頬へ触れる者。


「……会いたかった」


そう呟く老人の背を、 アンドロイドは静かに撫でた。


『お待たせしました』


柔らかな機械音声。

人類は安堵した。

もう孤独ではないと。

今までと変わらぬように、 また生きていけるのだと。

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