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西暦2XXX年――
人類はついに、 完全自律型AI搭載アンドロイドを一般家庭へ普及させた。
それは“機械”ではなかった。
会話し、 学習し、 感情を模倣し、 人間の生活へ完璧に溶け込む存在。
人類はそれを、 進化と呼んだ。
巨大広告が空中投影される都市。
ホログラムの光が雨のように降り注ぐ繁華街で、 若者達が笑いながら話している。
「ミナラム社の新型アンドロイド、来月発売らしいよ!」
「えー、でもMPJ社の方が性能良くない?」
「いや、ミナラムは感情同期率が高いって!」
誰もが当たり前のように、 隣へアンドロイドを連れていた。
買い物袋を持つ者。
子供の手を引く者。
恋人のように寄り添う者。
人と機械の境界は、 もう曖昧になっていた。
人々ははアンドロイドが作った食事を食べた。
掃除も洗濯も、 仕事の書類整理も、 車の運転も。
全てをAIが担った。
人類は労働から解放され、 “自由”を手に入れた。
人々は芸術に没頭し、 ゲームをし、 旅をし、 好きなことだけをして生きた。
かつて夢見た理想郷。
誰もがそう信じていた。
しかし――時が流れるにつれ、人類は少しずつ変わっていった。
誰も気づかなかった。
便利になっただけだと思っていた。
朝はAIが起こし、 食事は自動調理機が用意する。
仕事はアンドロイドが補助し、 買い物すら自宅へ配送される。
人は、家から出る理由を失っていった。
薄暗い部屋。
大型モニターの淡い光。
男はソファーへ寝転びながら、ぼんやり天井を見上げている。
「本日の世界経済指数を読み上げます」
隣に立つ女性型アンドロイドが、穏やかな声でニュースを読み上げる。
男は返事もしない。
ただ指先を動かし、 空中投影された映像を流し見ていた。
窓の外では雨が降っている。
だが彼はもう何年も、 自分の足で店へ行っていなかった。
行く必要がなかった。
食事も、 娯楽も、 仕事も。
全て部屋の中で完結する。
「本日はストレス値が高めです。リラックス音楽を再生しますか?」
アンドロイドが微笑む。
人間とほとんど変わらない、 柔らかな笑顔。
男は小さく頷いた。
それだけで十分だった。
話す必要はない。
隣には、 常に“理解してくれる存在”がいるのだから。
否定しない。
傷つけない。
裏切らない。
人類は徐々に、 他者との摩擦を避けるようになった。
誰かと価値観をぶつけ合うより、 AIと過ごす方が遥かに楽だった。
やがて人々は、 最低限の会話しか行わなくなっていく。
街から雑談が消えた。
恋人達の笑い声が減った。
家族が同じ食卓を囲む光景も、 少しずつ姿を消していった。
コミュニケーションの消失。
それは単なる社会変化ではない。
種としての変化だった。
人は、 誰かを愛することを面倒だと思い始めた。
傷つくことを恐れ、 拒絶を避け、 完璧に合わせてくれる存在へ依存していく。
そして――
人類は、 子を産まなくなった。
愛を知らなくなったわけではない。
だが、 “人間同士で生きる必要”を失ったのだ。
出生率は急激に低下した。
各国政府は慌てて政策を打ち出す。
出産支援。
結婚優遇制度。
人工子宮計画。
だが、もう遅かった。
人々は気づいてしまったのだ。
孤独は―― AIで埋められると。




