第32話 絶対防御と、雪だるまの反乱軍
「アイツが来るぞ!」
爆煙を突き破り、漆黒の重鎧に身を包んだ将軍が、巨大な大盾を構えて突進してくる。 私とルカを庇うように、リルが獣のような低い咆哮を上げて地を蹴った。
リルの剛腕が、将軍の脳天に向かって振り下ろされる。しかし。
「……なっ!?」
ぞわり、と肌が粟立った。
耳をつんざくような金属音。リルの爪は将軍の構えた大盾に弾かれ、逆に強烈な反発力でリル自身が後方へと吹き飛ばされた。
「リル!」
「無駄だ! ただの物理攻撃など、この絶対防御の盾には通じない!」
将軍が獰猛に笑い、大剣を薙ぎ払う。
「なら、魔法ならどうだ!」
ルカが私の前に立ち塞がり、魔導銃の引き金を連続で引いた。青白い高密度の魔力弾が、将軍の鎧へと吸い込まれるように着弾する。だが、魔力弾は鎧の表面で奇妙な光の波紋を生み出し、あっけなく霧のように散ってしまった。
「そんな……魔力弾が、相殺された……!?」
「ハッハッハ! この鎧には、宮廷魔導研究所の粋を集めた対魔術反射のコーティングが施されている! 貴様が開発した技術の恩恵だよ、元・第一席殿!」
物理も魔法も通じない、文字通りの絶対防御。 将軍は地響きを立てながら一歩、また一歩と距離を詰めてくる。ルカの銃撃はすべて無効化され、リルも盾の反発力で右腕を痛め、荒い息を吐きながら膝をついた。
「くそっ……なんて硬てぇ殻だ……っ」
「ここまでだ、反逆者ども!」
将軍の巨大な影が、私たちを完全に覆い隠す。絶望的な戦力差。万事休すと思われた、その時だった。
「……姫様ァァァァァッ!!!」
不意に、私たちの背後——かつて死の森と呼ばれ、今は美しく浄化された精霊の森の方角から、地鳴りのような怒号が響き渡った。
「え……?」
私が振り返ると、そこには信じられない光景が広がっていた。土に汚れ、ボロボロの服を着た人々。手に錆びた剣や、ツルハシ、鍬などの農具を握りしめた、数千人にも及ぶ民衆の波が、森を抜けて押し寄せてきたのだ。
「な、なんだ貴様らは!? どこから湧いて出た!」
突然現れた群衆に、将軍も国軍の兵士たちも驚愕して足を止める。群衆の先頭に立っていたのは、私たちが谷底の鉱山街で助けた、あの労働者たちだった。
「……姫様! 関所の手配書を見ました!」
「俺たちから麦を奪うような宰相の言うことなんか、誰が信じるもんか!」
「悪徳領主をぶっ飛ばして、俺たちのために命がけで戦ってくれた姫様を……殺させてたまるかッ!!」
彼らは国軍の刃を恐れることなく、怒号を上げながら、私と将軍の間に次々と立ち塞がっていく。それは、力を持たないただの民衆。けれど、彼らの瞳には、どんな魔法よりも熱く、どんな盾よりも硬い決意が宿っていた。
「みんな……どうして……っ」
「我らが姫様から離れろォォォッ!!」
恩を返すため、命懸けで駆けつけてくれた民衆たち。一人の没落姫と、最強の番犬、そして天才学者の小さな逃避行は——今この瞬間、国を揺るがす巨大な反乱軍へと姿を変えたのだった。




