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【毎日更新】没落姫と厄災の番犬―すべてを失った夜、檻の底で恐ろしい手をとった―  作者: kamoojun
第2章 鉱山街の死闘と、天才学者

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第15話 黄金の指輪と、不本意な仲間入り

 夜明け前。私たちは領主の館にあった大量の麦と、宰相へ送られるはずだった莫大な金貨を荷車に積み込み、麓の労働者区画へと運び出した。


「こ、これは……俺たちの麦! それに、こんなにたくさんの金貨まで……!」

「宰相の不当な税は、もう払わなくていいわ。この金貨で、みんなで温かい冬を越してね」


 私が告げると、寒さと飢えで絶望に沈んでいた村の人々の顔に、次々とパッと希望の光が灯っていった。


「ありがとう、旅のお嬢さん! あなたは俺たちの恩人だ!」

「お姉ちゃん、ありがとう……!」


 昨日、広場で出会った小さな女の子。その小さな手から差し出されたのは、粗末な麻紐に通された、不格好だけれど温かい木彫りのお守りだった。


「ありがとう。これ、私がもらってもいいの?」


 私がしゃがみ込んで尋ねると、女の子は恥ずかしそうに、でも嬉しそうにコクリと頷いた。私はサファイアのネックレスを手放して以来、何も飾られていなかった自分の首元に、その麻紐をしっかりと結びつけた。服の上からでも伝わってくる、木の温もり。


(……王宮の宝物庫にあったどんな宝石よりも、ずっとずっと温かい宝物だわ)


 胸元に下がったお守りを両手でギュッと握りしめた、まさにその瞬間。

 私の右手の王家の指輪が、今度ははっきりと、確かな黄金の温もりを帯びて光り輝いた。


(やっぱり……私の見間違いじゃなかった。この指輪は、民の笑顔と感謝に呼応するんだ)


 私は胸の奥が熱くなるのを感じながら、村の人々に大きく手を振った。



 村外れの街道。朝日が昇り始める中、私たちは再び王都への道を歩き出そうとしていた。だが、村の喧騒が遠ざかるにつれ、私の足取りは徐々に重くなっていった。


「……私、本当に何も知らなかったのね」

「あン?」


 前を歩いていたリルが、不思議そうに振り返る。私は自分の両手をギュッと握りしめ、俯いた。


「王宮の美しい庭園しか知らなくて。国中のみんなが笑って暮らしていると、本気で信じていた。……こんなに近くで、泥水をすするような思いで苦しんでいる人たちがいることも知らずに、のうのうと笑っていた自分が……すごく、恥ずかしいわ」


 ポツリとこぼした言葉と共に、視界がじんわりと滲む。不甲斐なさと申し訳なさで、ボロボロと涙がこぼれ落ちそうになった、その時。

 ——バサッという音とともに、視界が突然、真っ暗になった。


「えっ……?」


 驚いて顔を上げると、リルが着ていた大きな黒いマントが、私の頭からすっぽりと被せられていたのだ。視界が遮られたマント越しに、リルの大きな手が、私の頭にポンと置かれる。


「……泣いてる顔なんて、俺以外のヤツに見せんな」

「リル……」

「過去に無知だったからなんだってんだ。お前は今、自分の足で歩いて、あいつらを救っただろ。……だったら、これから知っていけばいいだけじゃねぇか」


 ぶっきらぼうで、不器用な慰めの言葉。でも、頭を撫でるその手のひらは、どこまでも温かかった。マントの暗闇の中で、リルの匂いに包まれながら、私は熱くなった目元を袖でゴシゴシと拭う。


「……うん。そうね。これからはもう、絶対に目を背けない。私、自分の目でこの国をちゃんと見ていく」

「……ハッ、それでこそ俺の主だ」


 マントを少しだけ持ち上げて見上げると、リルが満足げに牙を見せて笑っていた。私もつられて、涙声のままふんわりと微笑み返す。



「やれやれ。朝っぱらから、ずいぶんと甘ったるい主従ですね。手配書に『不純異性交遊』の罪状も追加しておきましょうか」


 背後から、呆れたような声が降ってきた。振り返ると、そこには自分の背丈ほどもある巨大なリュックサックを背負い、さらにあの重い『魔導銃』を抱えたルカが、ゼェゼェと肩で息をしながら立っていた。リュックサックの中身は、取り返した研究機材と資金だ。


「ルカ! あなたも無事に荷物を取り返せたのね。よかったわ」

「ええ、まぁ。……ですが、この大荷物を抱えて一人で王都の研究所跡地まで戻るのは、少々骨が折れそうです。それに……」


 ルカはクイッと眼鏡を押し上げ、フンッと鼻を鳴らした。


「僕の最高傑作であるこの魔導銃には、さらなる実戦データが必要です。加えて、壁を物理でぶち破るような脳筋の主従を放っておけば、王都に辿り着く前に自滅するのは目に見えている」

「あ? テメェ、誰が脳筋だ。その細い首、噛みちぎるぞ」

「ストップ、リル。お座り」


 私は唸るリルを制し、クスッと笑ってルカを見つめ、次の言葉を待った。


「仕方ありません。天才であるこの僕が、君たちの無謀な旅を、その優秀な頭脳で特別にサポートしてあげましょう。感謝することですね、アニエス殿下」


 ルカはドヤ顔で言い放ち、それから重いリュックの紐を握り直して……グラッとバランスを崩し、リルの背中に寄りかかった。


「……おいヒョロガリ。やっぱりその荷物、俺が半分持ってやろうか?」

「だから余計なお世話だと言っているだろうが!! これは僕の計算された筋肉で……ぐぬぬ……!」


 文句を言い合いながらも、リルはルカのリュックの端をひょいっと持ち上げて軽くしてあげているし、ルカも満更でもない顔でそれに甘えている。


(ふふっ……本当に、賑やかな旅になりそう)


 朝焼けの空の下。没落した姫アニエスと、元・最強の番犬リル、そしてヘタレな天才学者ルカ。奇妙で騒がしい三人は、王都奪還への一歩を力強く踏み出したのだった。


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