2-2話
「ちょっと厳しくないですかー? サランダさんっ」
この声は、アクマも、よく知る人物。
「お前は…。ここを通らずとも入退街できるだろう。何故ここに」
サランダは、アクマと同様、親しげな話し方だが、アクマと対応は全く違う。顔パスで、入街を許したからだ。
「ここの門、中間にあるから、結局ここからの方が、出入り楽だったりするんですよ。SSランクだからって、わざわざ避けて通るのもめんどくさいし」
「お前らしいな。アクマは連れて行かないのか?」
「あー、うん。ちょっとね、アクマが居ると……ね?」
「まぁー、そうだな。…ダートン! 必ず、戻ってこいよ」
サランダは呼び止める様に声をかけた。
「サンキュー♪ その言葉を聞きたくて、ここを通ったのかもねー。って、嘘だよ。行ってくる」
ダートンは、目がくすみ、切なさを抱えるような目になったが、すぐに我を取り戻し、平常に戻る。サランダの顔も難しい顔をしていた。
ダートンが通るはずではないこの門は、SSランクには関係無いもの。SSランクになれば、許可などは要らず、どこから入街しても許される。前回、アクマがライト街に入街する際、許可を得ず、入ることが出来たのは、ダートンが居たからだ。
その頃アクマは…。
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当てもなく、途方に暮れ、歩いていた。
「ダートンいねぇし、サランダさんも通してくれねぇし、今日は帰るしか無いのかー? 退屈だ…」
そこで、周りにいたシャドー街の人々がざわつき始める。
「今、ライト街で、こっちの人間が暴れてるらしいよ」
「え?マジ?」
「マジ、マジ! これ見て」
「誰もヒーローに勝った事ないのに、なんで負け試合しにいくのかなぁ」
俺の耳は、ピクピク動き、気づいたら、女子高生のスマホを覗き込んでいた。
スマホの映像には、
「ただいま、エネミーが、窃盗の疑いにより、ヒーローに追われているようです。近くにあった防犯カメラでは、30代男性、身長は、170センチ程です。白いTシャツに、汚れのついたベージュのパンツを履いており、手には、窃盗した思われる、ウサギの人形を抱えている様です。ノットヒーローの皆さん、この方をお守りいただく様、ご協力お願い致します」
と、流れていた。
「窃盗だってー。こっちでやっても、普通に捕まるのに、なんであっちでやるんだろ。逃げ切れるわけないのに」
「それなー。でも、あっちでやった罰は、シャドー街では罰せられないから、ワンチャン、逃げ切れたら大丈夫なんじゃない?」
「捕まってまででも、やりたかったんだろ。良い年した男が、ウサギの人形持って走るってことは、絶対に理由があんだろ」
つい、割り込んでしまった。
後ろで同じ画面を見られていた事を気づいていなかった女子高生たちは、すぐさま通報準備をするが…
「わりぃわりぃ。俺、スマホ、持ってないからよう。借りたっ! もう十分だから、俺はここで捌けるわ!」
と言って、通報のボタンをすでに押してしまった女子高生から、全速力で逃げる俺だった。
逃げている俺は、通報によりノットヒーローに追われる恐怖と、晴れ舞台リベンジの高ぶりが相まって、鼻から息が漏れ、興奮状態。
再び、サランダさんの元に戻ると、本来確認される要項を、2秒以内に済まし、許可の判を押される前に、ライト街へ飛び出した。
ライト街に出ると、完全に俺は浮いてる存在だ。ヒーロー、ノットヒーローには、制服の着用を義務付けられており、各々の個性があるが、それでも、見分けがつく様に作られている。だから、ライト街の人間は、俺を見れば、ノットヒーローだと、すぐに認識できると言う訳だ。
ウサギの人形を持ったエネミーを保護したい所だが、それだけだと、面白くない。それなら、追っている、ヒーローを潰す方が、晴れ舞台に相応しいな。
俺の頭の中には、ヒーローより目立つ俺の姿を想像し、鼻の下が伸びて仕方がない。
エネミーを追っているヒーローは、『シン・リン』と『コン』だ。俺は、ヒーローを負かす為、ほとんどのヒーローを知り尽くしている。この二人のヒーローの事も、既に頭に入ってっから、余裕だろう。シン・リンは、THE・木だ。茶色いヒーロースーツ、スーツには木のみがいっぱい実っている。な? 木だろ? コンは、まぁー本人も自覚して名前をつけたんだろうが、狐だ。鋭い目に、とんがった口、さらに狐の耳もつけてやがる。ヒーローのくせにつけ耳するなんて、舐めてんのか?ってな。テーマパークじゃあるまいし。
俺は目を瞑り、シン・リンと、コンを探す。
ピクピクッ!
「よし、あっちだな」
二人の居場所の検討が付き、自慢の足で、最大限の力を込め、人が通った事も気づかれないほどの速さで向かった。ん? 超能力を使ったのかだって? そんなものねーよ。俺に使えるのは、勘!一択!
辿り着いたのは、ライト街の左端、ライトの森。
「おい! そこのヒーロー、先に俺の相手だ」
緑頭に、茶色いスーツ、枝なんかも持っている。コイツが、シン・リンに違いない。コンは一緒にいない様だが…
緑頭が風に揺られながら、ゆっくりと振り向く。まさに、葉と葉が重なり合う様だ。
「誰だ!!お前は!!」
目を見開き、後退りする俺と同時に、
「こっちのセリフだよ。呼び止めといて、君は誰?」
と、言い返される。
… どうやら、俺の勘は、凄く鈍いみたいだ。
シン・リンと思っていた人間は、眼鏡をかけた、ただの、緑頭だった。違うと分かれば、すぐに方向を変え、二人のヒーローを探すのみ!
急いで走っていると、
「はぁっ、はぁっ… 」
「って、いや、なんで着いてくるんだよ!」
緑頭が頭をフサフサと揺らしながら、並走してきている。たまに、フサフサが頬にあたるのがうぜぇ。
「貴方こそ、なんで僕を着けていたんですか!? それが怖くて怖くて!」
「怖かったら、すぐ逃げて通報すんだろ! なんで追いかけてんだよ!」
「あ、そうか。通報っと…」
「ちょーーーい! 待て待て待て。早まるな」
「いや、貴方が言ったんでしょ?」
「そ、そうだけどよう! 今通報されんのは、めんどくさいんだよ。通報するなら後でにしてくれ」
「あ、そうですか。わかりました。では」
…ん?
「おい、早く行けよ」
「いやー、なんで後を着けてきたか聞かないと、行けませんよ。怖いし」
「あぁ〝ー、わかった。俺は急いでんだ、走りながら伝える。それでいいか」
「はい、わかりました」
いいのかよ。俺から言っといてあれだけどよう。
「『シン・リン』と間違えたんだよ。訳あって、探しててよう」
「なるほど。よく間違われるので、確かに納得です」
「だよなぁ! なんで、そんな枝もって、そんな頭なんだよ! 紛らわしんだよ!」
「こわ。いきなり怒る感じの人ですか。こわ。」
くーーーー。コイツとは絶対気があわねぇ。ダートンもムカつく時あるけど、上手くやってくれてたのが、今なら分かるわ。
「怒らないから、教えてくれ。な?」
「ほんとですかねぇ」
「ほんとだ!っつって…」
「ほら。また」
「わかった。もう、怒らねぇ」
「ほんとに、ほんとですね?」
「そうだよ」
(焦ったくて頭の血管が切れそうだ…)
「単なる趣味です」
「はぁーー!? ん? えぇーそうなのか」
俺からすれば、そんな事かよって思ったが、緑頭からすれば、その回答でもおかしくは無いか。あー、もう、どうでもいい。早くホンモノを探そう。
「怒ると思いましたが、案外怒らないのですね。なんか、拍子抜けです」
「うっぜ! 怒るなって言ったり怒れって言ったり! 早く散れ!」
「いや、怒れとは言ってませんよ」
「わかったから。じゃあな!」
俺は、筋肉に力を込め、スピードを上げて、緑頭を撒く。
シュッ、シュッ!
(後ろから聞こえる謎の風音)
はずだった…。
撒いたはずの緑頭が、今、俺の頭上にいる。よく見ると、ずっと持っていた枝が、さらに伸び、自由自在に動き、猿のように、木から木へ飛び移っている。
「なんでまだ着いてきてんだよ! しかも、お前、絶対、趣味じゃねーだろそれ!」
「頭の色と、服は、趣味ですよ。言いたくない事だって、誰にでもあるでしょ」
自分の能力に関わる事なら言いたく無いのは分かるが、コイツ着いてきといて、何故こんな態度ができるんだ? ほんとなんなんだコイツ。
「おい! ちょっと待て!」
俺は、スローモーションに見えるほど早く、屈伸し、全力で飛び上がって緑頭を下へ引っ張り出し、茂みに隠れる。
「何ですか、貴方。僕のフサフサがもっとフサフサに…って、これ本物の葉っぱか…」
「しっ!!」
緑頭の口を塞ぎ、静かにさせた俺が、何故隠れているのか。それは、ターゲットが見つかったからだ。しかも、『シン・リン』と『コン』を、同時にな。もう一人男が見えるから、きっとあれが逃亡しているエネミーだろう。同時に見つかるなんて、ラッキーだぜ。
「んんん、っぶはぁっ! そうゆうプレイ、僕、嫌いじゃないですけど、今じゃないです」
緑頭は、何言ってるのか分からないが、放っておこう。
「緑頭、お前がいるのがバレると、話がややこしくなりそうだ。俺の用事が終わるまで、ここにいろ」
俺は茂みから堂々と登場しようとしたが、後ろから、緑頭の持つ枝で、連れ戻される。
「何なんだよ、さっきから。お前は何がしたいんだ!?」
全力の小声で、緑頭の頭に、俺の額を練り込ませる。
「こっちのセリフですよ。何がしたいんですか? 今、ヒーローがエネミーを捕まえようとしているんですよ。邪魔しちゃまずいでしょ」
「だから! それが俺の仕事なの!」
「え? 貴方、ノットヒーローなんですか? え? まず、そんな話、聞いてなかったんですけど」
「あー、そういや、お前が、変な奴だとは分かったけど、俺の事は話してなかったな」
「変な奴とは失礼ですね。貴方もよっぽど変人です」
「悪かったな。こっちの人間からすりゃあ、そうだろうよ」
それから、俺がヒーローより目立ち、勝つためには、エネミーを逃し、ヒーローを倒す事だと説明し、やっと俺を解放してくれた、緑頭。
「じゃあな」
「…」
別れの言葉を告げた俺に、緑頭は返事をしなかった。
さぁ! ヒーローさんよう。俺様のご登場だ。
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